ファッションデザイナーとして世界的に活躍するコシノジュンコさんが、海外では初となる絵画個展『対極 TAIKYOKU』をパリで開催しています。
会場は、パリ8区のフォブール・サントノーレ通りにある日動画廊。数々の名作を展示してきた壁には、コシノさんが手がけた力強いタッチの抽象画が並び、長年追求する「対極」という創作哲学が、ファッションとは異なる形で表現されています。
オープニングに合わせて来仏したコシノさんに、絵画制作を始めたきっかけや作品に込めた思い、ファッションとの関係について伺いました。

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「50年かかりました」長年の夢だった海外での初個展
― 今回、初めて海外で絵画の個展を開催されました。どのような思いで、この日を迎えられたのでしょうか。
私にとっては、本当に長い長い夢の実現です。50年かかりました。
もともと絵に親しんでいましたが、文化服装学院に入って、装苑賞をとってからは、ずっとファッションの世界で生きてきたので、絵からは少し離れていたんです。でも、5〜6年前に「そろそろ絵を描こうか」と思って始めたら、もう面白くなっちゃって。ものすごい数を描きました。
私はしょっちゅうパリに来ているので、日動画廊さんとのご縁もあって、今回の展覧会が実現したんです。
なんかね、“時”が来るんですよね。やりたいことが永遠に実現しないわけではなく、いつかその時が来るんだなという感じです。
絵画はファッションと直接関係があるわけではないけれど、今になって目覚めたというか。後に続く人たちにも、服だけにとらわれず、「もっとファッションって広いんだよ」ということを伝えたいですね。
絵心やアートというものは、建築家になるにしても、ほかのどんな分野に進むにしても、その根底にあるものだと思います。

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髙田賢三さんとの思い出、若き日のパリへの憧れ
― 絵ではなく、ファッションの道に進まれたのはなぜですか。
姉が家業を継ぐことになっていたので、私まで同じ道に進むのは嫌だと思っていたんです。3姉妹で、姉が先に文化(文化服装学院)に入っていましたから。
憧れがなかったわけではないけれど、同じことをするのは嫌だなと思いながら、結局、私も文化に行っちゃった(笑)。そしたら、私が先に装苑賞をとってしまったんです。そこから、髙田賢三さんのような素晴らしい友人にも巡り合えました。
当時はやっぱり、パリが憧れの場所でしたね。私が初めてパリに来たのは24歳の時です。賢三がパリに来たのも、私が先に行っていたことに影響されたんですよ。「先を越された!」みたいな(笑)。彼はそのままパリにどっぷり浸かって、ずっとパリで暮らしましたけれどね。本当に仲が良くて、兄弟みたいな存在でした。
私は友だちに恵まれているんです。ファッション界では賢三さん、ほかには安井かずみさんもいました。みんな自慢の友人でしたね。私が最初にパリに来たのも安井かずみさんの影響なんです。彼女はフランス語も英語もできて頼もしかった。でも、みんな亡くなっちゃった。私は生き残りだから、みんなの分までがんばらないとね。

「対極」とは、異なるものが共存すること
― 今回の展覧会のタイトルにもなっている「対極」は、先生が長年大切にされているコンセプトですね。
世の中には常に、相反する2つのものがあると思うんです。西洋と東洋、男と女、白と黒、昼と夜。形でいえば丸と四角、形のあるものとないもの。全く性格の違うもの同士が、仲よく共存する。それが私の考える「対極」なんです。だから、4色も5色も使わない。基本は白と黒ですね。金色を効かせていますが、私にとって金は単なる色ではなくて、光なんです。
― その考え方は、ファッションのデザインにも共通していますか。
もちろん。例えば、優しいものとハードなもの。優しいものだけでは、全体がぼんやりしてしまうから。そこにキュッとハードなものを入れることで、バランスが取れるんです。

「一発勝負」下絵は描かず、感情のままに
― 作品からは、水や風の流れを思わせるような、ダイナミックな動きを感じます。何か具体的なものをイメージして描かれているのでしょうか。
“勢い”ですね。人間の勢いというか、気持ちですね。だから、絵は一発勝負。「えいっ!」という感じ(笑)。
まずキャンバスに白や黒の下地を塗って、その上から感情のままに描いていきます。計算して、下絵を描いて、それに沿って進めるわけではないんです。だから、同じものは二度とできない。ひとつしかないんです。
― 縦長の独特なキャンバスも印象的です。
あれは日本の掛け軸からヒントを得ているんです。あの細長い比率が面白いと思って。普通のキャンバスにはない形なので、特注で作ってもらっています。
画材には、ペンキも使っています。黒く光っている部分はペンキなんですよ。それからパステル、立体感を出すためのメディウムも。
「やりたいことを今やらなきゃ」コロナ禍で向き合った絵画
― 今回の個展では60点の作品が紹介されていますが、絵画制作を本格的に再開されたきっかけは何だったのでしょうか。
コロナの時に描き始めたんです。それまでは、1日だって自由になる時間がないくらい忙しかったのに、突然、ものすごく時間ができてしまって。それで、「本当にやりたいことを、今やらなきゃ」と思ったんです。あのときは誰にも会わず、ひとりで黙々と絵に向き合っていました。とても充実していましたね。
― 制作に没頭されていたのですね。
やりたいという気持ちが湧き上がってきた時にやらないと、もったいないじゃないですか。何かのついでにやるのではなくて、そのことに集中する。私にとっては、まさに「時が来た」という感じでしたね。

激しさと静けさが共存する絵画。空間を引き締めるアートの力
― 先生の絵画は、非常に力強く、感情がほとばしるようなタッチなのに、不思議と見ていると心が落ち着きます。
そうですか、嬉しいですね。家の中でじっと見ていても飽きないと思いますよ。空気がキリッと引き締まるような感覚があるんじゃないでしょうか。
― ご自身の作品を、どのような空間に飾ってほしいと思われますか。
すっきりとした空間がいいですね。壁紙に柄があるような家庭的な部屋よりも、無機質なオフィスやモダンなホテルのロビーなどが合うと思います。
実は「ハイアット リージェンシー 東京ベイ」のロビーにも、大きな絵が飾られているんですよ。最初は500号の絵を頼まれたんですが、そんなに大きいと脚立に乗って描かなきゃいけないでしょ。それはちょっと無理だから、手が届く高さで横に長くして、300号を2枚並べることにしたんです。
次なる夢はニューヨークでの絵画展
― 今回、長年の夢だったパリでの個展が実現しました。今後も絵画制作を続けていかれるのでしょうか。
もちろん。もう永遠に続けたいですね。次はニューヨークで個展をやりたいなって思っています。まだ何も決まっていませんけどね。
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ファッションの世界へ飛び込み、長年にわたり独自の表現を追求してきたコシノさん。ジャンルを超えた挑戦はこれからも続きます。

コシノジュンコ絵画展
『対極 TAIKYOKU(Contraste)』
2026年11月7日(土)まで。
Galerie Nichido Paris(日動画廊パリ)
61, Faubourg Saint-Honoré, 75008 Paris
10:30〜13:00、14:00〜19:00
日曜・月曜・祝日休み
Photographs:Chieko Hama(濱 千恵子)
Text:B.P.B. Paris