
現在、公開中の映画『沖晴くんの涙を殺して』で、3.11の津波で家族を失い、喜びの感情しか持てなくなった青年・沖晴を演じた木戸大聖さん。喜びだけをまとった笑顔の内側にどんな感情を宿し、どのようにして感情を取り戻す旅を体現したのか。準備段階から緻密に行う役作りの方法論から、生きることへの向き合い方まで、丁寧に語ってもらった。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Ayato Tomida (White Co.) / hair & make up : Akihito Hayami / interview & text : SO-EN
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映画『沖晴くんの涙を殺して』より
「なくなったのではなく、蓋をされた」――沖晴という人物への入り方
―― 今回、沖晴くんには喜びの感情しか残っていないという設定があり、それは演じられる上で困難さもあったのではないかと想像します。ですが、木戸さんの沖晴にはとても現実感がありました。沖晴という人物像をどのようにご自身のものにされたのでしょうか?
木戸大聖(以下、木戸):まずは準備として、額賀澪さんによる原作小説をしっかり読ませていただきました。沖晴はフィクションのなかの登場人物なので、ゼロから作らなければならない部分が少なからずあったんです。
そこで意識したのは、津波で家族を失う前の、普通の男の子だった頃の沖晴を想像することでした。比較的、家族が仲良しで、明るく誰とでもつるめていた子だったんじゃないかなと。描かれていない過去を自分なりに想像して、沖晴の人物像を作っていきました。
―― 人物像を深められたとのことですが、「感情が奪われた」状態はどのように解釈されていたのでしょうか。
木戸:完全に抜け落ちたというよりは「元々持っていたものに蓋をされた」という感覚を持つことにしました。
蓋という感覚があると、ずっと中に溜まっているものがあって、それが膨らんでいった結果ぽーんと蓋が飛び、中のものが外に出ていくイメージになります。例えば、怒りの感情を取り戻すシーンでは、じわじわ怒るのではなく、怒りきってしまって、自分でも「なんだこの感情は!?」と戸惑うような状態にしたかった。中の圧が高まって蓋が飛んでいくようなイメージです。
一方、違うシーンではじわじわ蓋がずれていくこともある。決して感情がなくなったわけではない、という意識は物語の最初から最後まで持っていました。

映画『沖晴くんの涙を殺して』より
―― 一言で「笑顔」といっても、沖晴くんの笑い顔からは様々なニュアンスを感じられました。
木戸:喜びの感情だけがある時は、見てくださる方に「沖晴がつらい」と思わせるような笑顔にならないように気をつけました。勝手にそう見てくれたらラッキーだな、くらいの気持ちで、最初は、むしろ溌剌とした笑顔でいることを意識していました。
ただ、感情を取り戻すにつれてネガティブな感情が一つずつ色として足されていくので、その部分のニュアンスの変化を意識して、表出の具合をちょっとずつ抑えていきました。
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見た目から役を作る。
ヘア&メイクと衣装への思い
―― 役作りにおいて、ビジュアル面でも積極的に関わられたと聞きました。
木戸:ヘア&メイクと衣装は、役を作る上でとても重要だと思っています。いつもお世話になっている美容師さんに髪を切ってもらったあと、鏡を見た瞬間に一気に役が降りてくるような感覚があるんです。
今回、普通だった頃の沖晴はサラサラのストレートな髪型だったけど、死神と出会ったことで天然パーマのようにふわっとした髪質に変わっている……というイメージを持ちました。パーマというより、あくまで天然パーマの感じで動きをつけたい、と。
それから、沖晴は島で育ってきた子なので、前髪を眉上の長さにしたいなというのもあって。それも監督に伝えたら「いいですね」と言ってくださり、沖晴の髪型ができました。

映画『沖晴くんの涙を殺して』より
―― 事務所の先輩から「髪に顔が合ってくる」という話を聞いたとおっしゃっていましたね。
木戸:はい!金髪などの慣れない髪色にしたとき、見慣れず、落ち着かない感覚になりますが、それも役への意識が高まるにつれて、顔のほうが髪に合うように変わっていく……と教えていただいたことがあって。それを最近、すごく実感しています。自分自身が髪に合った顔つきになり、見た目から役に近づいていっているのが分かるんです。だからこそヘア&メイクが大事だと思っています。

—— 衣装に関しては、いかがでしょうか。
木戸:衣装合わせは、特にここ数年、とても大事にしていて、自分のイメージを伝えさせていただくことがあります。
最初の衣装合わせの際に僕の沖晴像を監督に正直に伝えました。そうしたら、木戸さんのイメージする服のデータをいただけたら、と言っていただいて。そこで古着店に行って服の写真を撮り、洋画のワンシーンも切り取って、ファッションのイメージ資料としてスタイリストさんにお渡ししました。2回目の衣装合わせで、その資料を元にした衣装を用意していただきました。
―― 高校生の役を演じられることについて、意識されていたことはありますか。
木戸:大人特有の落ち着きみたいなものは出さないように、と思っていました。
また、思春期ならではの興味の強さというのも、とても大事にしていた部分です。沖晴は一つのきっかけから夢中になる力、その瞬発力みたいなものが、若さゆえに大きいと思います。
京香の存在も、「なぜこの人は自分にこんなに優しくしてくれるんだろう」という最初の出会いから、「もうこの人だ!」という感覚が生まれていたと思います。その感覚を体に持たせることを意識しました。歩き方やリュックの背負い方なども、結構意識していましたね。

映画『沖晴くんの涙を殺して』より
―― 京香役を演じられた広瀬アリスさんとは、現場でどのように過ごされたのでしょうか?
木戸:ここまでの話と矛盾するようなのですが、広瀬さんとは現場でまったく芝居の話をしなかったんです。本当にプライベートな話、なんでもない会話ばかりで、ゲラゲラ笑っていた感じです(笑)。
そんな風に本番ギリギリまで話していたのに、始まるとスイッチがパーンと入る瞬発力は、広瀬さんはさすがだなと思いました。それと、温かみがあって、なんでも受け入れますという懐の大きさを感じられたのは、広瀬さんが演じる京香だったからだと思います。まっすぐ見てくれるまなざしの温かさがありました。
広瀬さんとはなんでも話せるということが、沖晴を演じる上でとても助かったんです。沖晴が京香に居心地の良さを感じていたように、自分が広瀬さんに対して同じことを感じていたというのが、演じる上でそのまま生きていったように思います。改めて、京香が広瀬さんで本当に良かったです。
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「誰かのために」が
明日を生きる原動力になる

映画『沖晴くんの涙を殺して』より
―― 喜怒哀楽の感情や生きることについて、この作品を通じてどのようなことを考えられましたか?
木戸:ネガティブな感情含め、すべての感情があってこそ喜びがある。また、悲しみがあるから人の気持ちが分かるのだなと感じました。
怒りや恐れも同じで、自分のためというよりは、利他的に考えるためには必要なものなんじゃないかなと感じます。人間には、感情のすべてが不可欠なんだということを、この作品から学びました。
特に、誰かのために悲しむという状態は、自分が相手の立場に立てているということで、気持ちを分かちあっているということだと思うんです。ネガティブな感情も思いやりの一つであることを、この作品を通じて改めて実感しました。
あとは、人は一人では生きていけないな、というのがシンプルな答えです。沖晴にとって京香の存在が明日を生きる原動力になっていたように、より、誰かのためにという気持ちになった時、人は前を向いて生きていくことができると思うんです。
僕自身、応援してくださる方々の存在が原動力になっています。この仕事は、見てくださる方に夢や日々の小さな楽しみを届けることができる。そう信じているからこそ、僕も「明日の現場を頑張ろう」「明日をしっかり生きていこう」と思えるんです。
「誰かのために」と思える時ほど人は前を向いて生きていけるのだと、この作品から改めて学ばせてもらいました。それに、利己的な考えだけでは、誰しもいずれ苦しくなってしまうはず。この作品から学んだ大切なことです。
―― 12月で30歳のお誕生日を迎えられます。20代を役者として走り抜けてきた木戸さんから、同じく表現を志す人たちへのメッセージをお願いします。
木戸:役者として無我夢中に突っ走った20代でした。何より、自分が好きなこの役者業で20代を過ごすことができて良かった、というのがまず思うことです。
同じ役を演じたとしても、その時々の環境や精神状態によって、出てくるものは変わります。それは決してマイナスなことではなく、その時の自分だからこそできたもの、出たものなんですよね。
もやもやしていることでも、楽しかったことでも、内に秘めたものを何かしらの形で出せるのが表現者のいいところだと思うので、表現を志す方は、今の自分を素直に出すことをぜひ楽しんでほしいです。その都度違うものができあがることも、むしろ歓迎してほしい。それは今の自分自身を表現できているという証拠ですから。

Taisei Kido
1996年生まれ、福岡県出身。2017年より俳優として活動。’22年に公開されたNetflixオリジナルシリーズ「First Love 初恋」で高い注目を浴びた。近年の主な出演作に、ドラマ「忍びの家 House of Ninjas」、「万博の太陽」、「9ボーダー」、「海のはじまり」(すべて’24年)、「バニラな毎日」(’25年)、WOWOW連続ドラマW-30「ドラフトキング ーBORDER LINEー」、「一次元の挿し木」、「救命病棟24時」(すべて’26年)、映画『ゆきてかへらぬ』、『パリピ孔明 THE MOVIE』、W主演作『モブ子の恋』、『WIND BREAKER』(すべて’25年)。映画『きみの色』(’24年)では声優も務めた。
『沖晴くんの涙を殺して』
末期の乳がんを患い余命1年を宣告され、治療しないことを選択し故郷の瀬戸内海の島に戻ってきた音楽教師の踊場京香(広瀬アリス)。祖母の営むカフェを手伝いながら、母校の合唱部の指導をすることになり、そこでいつも笑顔を絶やさない不思議な高校生・志津川沖晴(木戸大聖)と出会う。ある時、京香は彼が津波で家族を亡くしたことを知るが、笑いながらそのことを話す沖晴に京香はなぜ笑うのか聞くと、彼は津波に流されたときに喜び以外の感情「嫌悪・怒り・哀しみ・恐れ」を失い、何も感じないのだと答える。ところが、ある事件をきっかけに失われた感情の1つがうっすらと顔を出し始め、余命わずかな京香と、感情を失った沖晴の、感情を取り戻す不思議な日常が始まる。
監督:矢崎仁司、出演:広瀬アリス、木戸大聖、満島真之介、北乃きい、戸田菜穂、根岸季衣ほか出演。全国公開中。
彩プロ配給。
©︎額賀澪/双葉社「沖晴くんの涙を殺して」製作委員会





