「コーニュコピア」を共に奏でた衣装のこと、そして「コーニュコピア」に託したメッセージ。
──いえいえ、長くても全然大丈夫です(笑)。『コーニュコピア』では、アルバムで言えば『Vulnicura』から始まり『Utopia』、そして『Fossora』の世界観まで表現されています。個人の傷を癒すところから始まり、現代の世界に向けてすごくリアルでポジティブな“ユートピア”という希望が提示されています。
その中であなたが、ジェームス・メアリーが手がけたヘッドピースや、noir kei ninomiya の衣装などの力を借りて、“新しい生き物”に変貌しているように見えるのが印象的ですが、『コーニュコピア』における衣装について教えてもらえますか?
ジェームズは親友のひとりで、もう16年も一緒に仕事してる。だから、ビジュアルのことに関しても、すごく自然に、短い言葉で通じ合える感じなのよ。たとえば『Utopia』をやったときは、“今回は空に浮かぶ島”がテーマ。まさにユートピアって感じって、そんな風に話してたの。
そこはね、女性たちが子どもたちを連れて暴力から逃れてくる場所というイメージ。みんなでフルートを吹いていて、空気のエレメントみたいな感じでもあって、ピーチ色とかミント色のイメージもあって……でも、“ポスト・アポカリプス(終末後)”というよりも、“ポスト・オプティミズム(楽観主義のその先)”って感じなのよね。で、どこもかしこもDNAのせいで突然変異してるの(笑)。
人間が花になって、植物が人間になったりして。そんな話をジェームズにしてたら、めっちゃくちゃDIYな人だから、それまでシリコンなんて使ったことなかったのに、ふらっとお店に行ってシリコンを買ってきて、YouTubeの教育系動画を見ながらバスタブでシリコンを混ぜてて、それで顔につけるパーツを作ってた。
それがアルバムのジャケットで私がつけてるものね。あれは、私が植物に変化していく感覚を表現してるの。

2017年にリリースされたアルバム『Utopia』
それは、私にとっては感情的な意味でもすごく大事だったし、同時に、ちょっと“ぶっ飛んでる”くらいじゃなくちゃダメだとも思ったの。だって、日本のアニメとかにもあるけど、SFの世界観って、ファンタジーとして突き抜けてるものほど、実はものすごくラジカルなメッセージを持っていたりするでしょう?ある意味では、政治的な批評になっていたりとか、未来への警告だったり、あるいは逆に希望を描いてたりとか。
私は、「たとえ戦争や暴力でたくさんの命が奪われて、環境がめちゃくちゃになったとしても、私たちは生きていける、大丈夫」って、そういうメッセージを伝えたかったの。例えば、私たちが植物に変わってしまうかもしれないけど、それでも大丈夫。フルートを吹いて、子どもたちと一緒に走り回って、ちょっとぶっ飛んでるかもしれないけど(笑)、それでもちゃんと生きていける。だから、その“ぶっ飛び感”も含めて、SFってやっぱり、現実世界の暴力に対するラジカルなコメントなんだと思う。ある意味で、暴力に対するプロテスト(抗議)であり、だからこそ『Utopia』は、“反暴力”の象徴でもあるのよ。
でも、『Fossora』をやったときは、まったく違うモードだった。ノワール ケイ ニノミヤのニノ(二宮啓)とは、ジェームズとはまた別の、まったく違う関係だった。「コーニュコピア」のツアーでは、全部で43公演をやって、その中で私は約80着の衣装を着たのね。それは本にもまとめられているから(『Cornucopia Book』)、もし機会があればぜひ見てみて。
その中でもノワール(ケイ ニノミヤ)を着るときは、毎回すべてが完璧に見えるの。彫刻的な構造とファンタジー的な要素が共存していて、特にステージでは驚くほど映える。カーテンのレイヤーが何重にもなって、開いたり閉じたりを繰り返すなかで、私があの巨大なスカルプチャーのような衣装を着ていると、その動きに命が吹き込まれるというか。まるでアニメーションみたいにも見える。ニノって、本当に天才だと思う。ステージのアニメーションやコンセプトの哲学とも、驚くほど自然に調和してるのよね。




──まるで彼が、あなたのために衣装を“彫刻”してるみたいですね。
それって、最高の褒め言葉だと思う。嬉しいわ(笑)。衣装があれだけステージの映像やマスクとも調和していて、彼はファンタジーの世界を作り上げてくれたの。私の曲の感情の中に入り込むための、感覚的なファンタジーの世界をね。
アルバムごとにある “音のタロットカード”音楽も衣装もすべてカラーパレットとテクスチャーで繋がっていく。
──ちなみに、『Utopia』から『Fossora』のビジュアルの世界観もそれぞれ大きく異なっていますよね。どのように作られていったのでしょうか?
私の中では、最終的にすべてが“歌”と“感情”に戻ってくるの。だから、アルバムごとに、とても厳密に色のパレットとテクスチャーを決めて、私はそれを“音のタロットカード”って呼んでいて……その話は、私のポッドキャスト『Sonic Symbolism』でも語っているんだけど。複雑に聞こえるかもしれないけど、むしろ、それは表現をシンプルにするための方法で、例えば、『Utopia』の時は、カラーパレットはピーチとミントグリーンで、テクスチャーは“空気”だった。フルートを使っていたし、空気の中をフルートが漂っているような感じ。
だからファッションも映像も、すべてその“空気感”に合わせた、ふわふわしたもの、毛羽立った質感のあるもの。すべて“音”に寄り添うように作っていったの。つまり、私たちが作ったビジュアルはすべて“音”が出発点なのよ。

2022年にリリースされたアルバム『Fossora』
そして、『Fossora』は、それとはまったく違う世界観だった。もっと地下で、地に足がついていて、“大地”の要素が強くて、夜行性で。だから、色もターグリーンとかターレッドみたいな、深くて重い色を使っているし、ファンガス(菌類)みたいな世界ね。
あのアルバムでは、すごくぶっ飛んだ、ありえないようなサウンドも使っているんだけど、実は、そういう言葉を使ってスタジオでも説明していたの(笑)。
ミキシングとマスタリングは、友達のHeba Kadryと一緒にやったんだけど、彼女はとっても優しい人で、コロナ禍の中でわざわざアイスランドまで飛んできてくれて、私の家の地下室でミックス作業をしてね。そのとき私、彼女にこう言ったの。「これは“ファンガスのアルバム”なんだよ」「地下のクラリネットアルバムで、湿ってて、泥っぽくて、ファンガスみたいで、“ファンキー”と呼べるようなアルバム。ダークで、土の匂いがする感じ」って。そういう言葉で、ミックスの方針を伝えてたの(笑)。
それは、衣装についても同じことが言えるの。私は、ステージで着る服のほとんどを自分で、オンラインとかで探しているんだけど。そこで見ているのはカラーパレットと素材。音に合う色、音に合う質感の服を探しているの。つまり、色とテクスチャーを音に合わせて選んでいる。それに、私は曲をパフォーマンスするとき、ある種の“キャラクター”になっていると思っている。つまり、“音楽の中に存在するキャラクター”として服選びをしているということ。
だから、見た目をシックに、お洒落に見せようとしているわけじゃなく、あくまで『この曲の中にある世界をまとう』っていう感覚なの。ちょっと矛盾して聞こえるかもしれないけど、でも、音楽が大好き人なら、きっとわかってくれると思う。たとえば私も子供の頃、音楽が大好きで、いつも聴いていたんだけど、目を閉じて聴いていると、その音楽の世界が全部、頭の中に見えてくる感じがあった。それと同じで、私は曲の中にある音楽的な視点、感情的な視点を、ステージやビジュアルで再現しようとしているから、ファッションも演出も、すべては“音”から出発していて、それが創作の根っこにあるの。


──これまでのキャリアを振り返っても、衣装あるいはファッションは、あなたの音楽と密接にリンクしてますよね。いつも革新的で、挑発的だったと思います。これまでで特に印象深い衣装やコラボレーションはありますか?
うーん……。それは本当に難しい質問ね(笑)。ひとつだけ選ぶなんて、正直できない。どの衣装にも大切な思い出があるし、何よりどのデザイナーも友人になっていったから。でも個人的なファッションという意味では、私は、コム デ ギャルソンはよく着ているし、ジュンヤ ワタナベ・コム デ ギャルソンは日常で最もよく着ていると思う。本当に、圧倒されるほど美しい服を作る人でしょ。でもやっぱり、衣装で何か一着、誰か一人を選ぶのは無理かな(笑)。
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