羊文学
【CHATTING MUSIC おしゃべりしたい音楽のことvol.25】

今年、初のUSツアーを成功させたかと思えば、10月には日本武道館2DAYS、そして初のヨーロッパツアーを完走。その活動の規模を拡張し続ける羊文学。
その最中、10月8日にリリースされた5thアルバム『D o n’ t   L a u g h  I t  O f f』には、悩みもがきながらも必死に生きる主人公たちの姿が綴られている。それは、戸惑いながらも進み続ける彼女たち自身の姿なのかもしれない。これから始まる新たな挑戦を目前に控えた羊文学の二人に話を聞いた。

本記事は『装苑』12月号掲載「今の時代を作る人」に収録しきれなかった内容を加えた、ロングインタビューです。

photographs:Kentaro Oshino / interview & text: Mizuki Kanno

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USツアーを経て、広がった音像

──今年の4月には「Hitsujibungaku US West Coast Tour 2025」と題した初のUSツアーを開催されていましたね。何か印象的な出来事やエピソードはありましたか?

塩塚モエカ(Vo/Gt)(以下、塩塚): USツアーは、初めてのアメリカということで、スケジュールをあまり詰め込まず、ゆっくり景色を見て回れました。特にポートランドがとても素敵で。ライブハウスの隣にできたばかりの可愛い雑貨屋さんがあって、みんなで遊びに行ったりしました。

河西ゆりか(Ba)(以下、河西): 買い物もたくさんできて、楽しかったです。

──海外でのライブを経たことで、バンドとしての在り方や考え方に何か変化はありましたか?

塩塚: USツアーをはじめ、ここ数年は本当に頑張って走り続けてきたなという感じはあって。色々な国や場所でライブをしているので、自分の本当の胸の内を全て楽曲に入れられないことも多いのですが、本来の自分の居場所を見失わないように、今はあっち側とこっち側を行ったり来たりしている感じです。

──10月に行われたツアー「いま、ここ (Right now, right here.)」というタイトルにも通じる部分があるのでしょうか?

塩塚: そうですね。そろそろ20代も終わるんですけど、「このままでいいんだろうか」みたいなことを考えちゃうときもあって。でも、“いま、ここ”にいることに集中して、その時々を楽しむ。その積み重ねで、バンドや私自身も良くなっていくのかなって。なかなか難しいんですけどね(笑)。

河西: 結局、「いま、目の前のことをどうやっていくのか」ということばかり考えているのかもしれません。

必死に生きる主人公たちの物語

──10月8日に5thアルバム『D o n’ t  L a u g h  I t  O f f』がリリースされましたね。本作にはお二人のどのような心境が綴られているのでしょうか。

塩塚: アルバムのアートワークを手掛けてくれたHUGのポッドキャストで、彼女たちが6周年を迎えたことに感謝を伝えていて、「笑ってごまかさずに『ありがとう』って言えて私たち偉いね」と話していたんです。それを聞いて、私って、自分のことを話すときに「分かんないけどね」と誤魔化す癖があるなと気づいて。自分の素直な気持ちをはぐらかして、人にきちんと伝えることから逃げていたんですよね。

今作は、今までの作品よりも人間らしく、必死に生きている主人公を描いた楽曲が多いんです。彼らの複雑な胸の内を表現した曲が多い。意識的にそうしたというよりかは、アルバムに入れる曲を並べていた時に気づいたんですけど、だから今回は、つらいことや痛いことでも、笑ってごまかさずにちゃんと抱えて、伝えようと思ったんです。それで、『D o n’ t  L a u g h  I t  O f f』というタイトルにしました。

──様々な主人公がこの作品の中で懸命に生きているんですね。「そのとき」が1曲目というのも意外でした。

塩塚: 曲順を考え始めた時くらいから決めていました。この曲が今作の結論でもあるし、それぞれの主人公の物語をまとめる役割を担っているし、ここからアルバムの世界が広がっていく始まりのような曲でもある。「全部が良くなる瞬間がみんなに訪れますように」という願いを込めて歌っています。おまじないのようなこの曲を歌うことで、まるで、モーゼの海割りのように、パッと景色が開ける瞬間が来て、辛いことから抜け出せる。そんなイメージをHUGに伝えたら、今回のアートワークをデザインしてくれました。アルバムにとてもあっていると思います。

──今作で新たにチャレンジしてみたことはありますか?

河西: 今回は、3人のドラマーが収録に参加してくれていて、曲ごとに変わるんです。なので、今までの経験値は一旦無視して、新しいドラマーの方が来たら、一からアプローチ方法を探ってみたりしました。

塩塚: フクダが叩いている曲もあるし、ユナさんが叩いてくださっていたり、11曲目は大井一彌さんがプログラミングで作ってくれたりしています。そういった試みも、サウンドの広がりにつながっていると思います。

──9月にはアジアツアーを開催し、10月には日本武道館、そしてヨーロッパツアーとまた新たな挑戦を経て、何か新しい力を身につけた感覚はありますか?

塩塚: 一言では言えないけど、ステージ度胸はついていくなと思います。場数は踏んでいるので、海外にいるときはあまり分からないんですけど、日本に帰ってきてライブをすると、前よりも少し余裕があってできるぞ、みたいな感覚が味わえます。

河西: 日本でやったときに気づくんですよね。

塩塚: 日本のお客さんの方が厳しいから(笑)。私たちのことを近くで見てくれている分、自分のこととして捉えてくれている方が多いので、もっと良くなってほしいと思ってくれるんですよね。だから、日本が一番緊張するし、ホームでもあります。

Hitsujibungaku
2020年にメジャーデビュー。’23年、メジャー2ndアルバム『our hope』が第15回CDショップ大賞2023年大賞〈青〉を受賞。同年、テレビアニメ「呪術廻戦」「渋谷事変」のエンディングテーマに採用された「more than words」が大ヒット。今年5月。日本最大規模の国際音楽賞MUSIC AWARDS JAPANにて最優秀国内オルタナティブアーティスト賞受賞を受賞。9月からの、過去最大規模のアジアツアー「Hitsujibungaku Asia Tour 2025 “いま、ここ(Right now, right here.)”」を完走、そして10月には「Hitsujibungaku Europe Tour 2025」を大盛況に収めた。


羊文学
5th ALBUM『D o n’ t  L a u g h  I t  O f f』
通常盤 ¥3,850 Sony Music Labels

約2年ぶり、5作目となるアルバム。日本を代表するオルタナティブロックの実力と、彼女たちの最新のムードが体感できる作品に。多くの人の耳なじみとなった「声」(月9ドラマ「119エマージェンシーコール」主題歌)、「Burning」(テレビアニメ「【推しの子】」第2期ED主題歌)など多彩な音色のシングル曲のほかに、未発表の新曲を含めた全13曲を収録。

TVアニメ『呪術廻戦』EDテーマ「more than words」の新たなリミックス音源を収録した最新アルバムのデラックスエディション『D o n’ t  L a u g h  I t  O f f(S l i g h t l y D e l u x e)』も配信中
Streming:https://fcls.lnk.to/DLIO_SD


Vo/Gt.塩塚モエカさん
 2022年4月に登場いただきました /

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