「Björkという現象」における
ビョークへのインタビュー全文をここに。

テクノロジーとともに探求し続けた360度の表現。

その間に、私は『Vulnicura』を書いたんだけど、あれは本当にハートブロークンな、まさに“傷心のアルバム”だった。自分でも本当にびっくりして(笑)。あれ、こんな変なアルバムができてしまってどうしよう?どうすればいいか分からない……って思ったんだけど。当時の私は、ひどく孤立していて、深い孤独の中にいた。すごく悲しいアルバムだった。

そんなときに、ちょうどVR(バーチャル・リアリティ)が出てきたの。でも当時は、多くの人がそれを奇妙すぎると思っていたわけ。孤立を助長するとか、部屋に引きこもる人が増えるとか、ネガティブに見られてた。でも私は逆に、最高のタイミングじゃない!と思ったわけ。だって私は、すごく孤立した、孤独なアルバムを作ったばかりだったから(笑)。この孤独なアルバムには、むしろVRってぴったりかもしれないって思ったの(笑)。

それで『Björk Digital』っていうショーを始めたんだけど、オーストラリアや東京を含めて、最終的には世界21都市を回ったわ。このプロジェクトで素晴らしかったのは、観客の反応が見えたこと。1曲だけ観客に見せると、観客のリアクションから、ちゃんと伝わっているかどうかが分かるの。

例えば、「Family」っていう曲をやった時、観客は全員VRヘッドセットをつけていて、オーストラリアでの公演では、ものすごく反応が良かったのを覚えてる。ワオ!これは本当にうまくいってる!って実感した瞬間だった。

それから、東京の未来館では素晴らしいチームと一緒に、360度のライブパフォーマンスで「Quicksand」を披露したの。たぶん、あれは世界でも初の試みだったと思う。360度アニメーションでの生配信、しかも私自身がリアルタイムで歌って、その映像を360度で配信した。全部で7曲くらいやったと思う。

そんなふうにして、私はこの10年間ずっと、テクノロジーとともに360度の表現を追求してきた。そして今に至るわけだけど(笑)ふと気づいたの。「あれ、私ってここ10年、ずっと360度サウンドとビジュアルに全力で取り組んできたんだ」って。しかも、最先端のソフトウェアを使って、すべてが統合された環境で。それって、ゲーマー向けのソフトウェアで構築された世界だったりするんだけど、私にとっては本当にエキサイティングなことだったの。

だけど……普通の人たちには、私が何をやってるのか、まったく伝わっていなかったみたい(笑)。テクノロジー好きとかゲーマーの人たちにはちゃんと通じるんだけど、私の家族や友達にとっては、完全にチンプンカンプンだったみたいで。普段の私なら、そういう誰にも理解されない感じって、むしろ「最高!」って思うタイプなんだけど、今回はちょっと違ってて。誰にも理解してもらえないのは、もしかして良くないのかも……?と思ったりもした(笑)。それでちょうどその頃、次のアルバム『Utopia』を東京で書いたの。今回はすごくハッピーな内容で、セレブレーションのような感情が詰まっていた。

だから、今度は、あの孤独で閉じたVR空間じゃなくて、もっと開かれた場所——つまりステージで表現するのが合ってるって思ったの。

21世紀のVRヘッドセットの中で作った作品を19世紀の劇場に持ち込んだ「コーニュコピア」という世界。

この感覚を説明するのってすごく難しいんだけど、私はよく、「21世紀のVRヘッドセットの中で作った作品を、19世紀の劇場に持ち込んだ」って説明してる。そう言うと、みんなすごくよく理解してくれるみたい。

つまり、あの昔ながらの劇場──観客が座っていて、カーテンがあって、いわゆる“舞台”がある空間。でも私はその空間で、VRの中にいるような360度の世界──自分を取り囲むように広がっている感覚をどうステージ上で再現できるか、ということに挑戦したかった。

私にとって特にエキサイティングだったのは、ステージにカーテンを使いたいと思ったこと。そのカーテンに感情を表現してもらおうと思ったわけ。それが、VRの中にいるような──すべてが自分の周囲に存在しているような感覚、つまり360度の感覚を作り出してくれると思ったの。

たとえば…タイムズ・スクエアとか、トラファルガー・スクエアとか…ごめんなさい、東京のスクエアの名前を思い出せないんだけど……。

そうそう!四方八方から光があふれてきて、圧倒的な没入感がある場所。自分の周囲がすべて光に包まれているような、あの“トゥ!トゥ!トゥ!トゥ!”っていう感じ。あの感覚を、劇場の中で再現したかった。

だからこそ、このショーを『コーニュコピア』(Cornucopia: 【ギリシャ神話】豊穣の角。豊かさやあふれ出るものの象徴)と名付けたの。まさに、私がステージ上で表現したかったあふれ出す感覚にぴったりだった。

だからステージには、いろんな種類のカーテンを使って、絶えず開閉を繰り返したの。それがVR的な360度の空間の感覚を、物理的に再現する鍵だったのね。観客にとっては、「あ、これはVR的な没入空間を“目の前”に持ち込んでるんだ」っていう体験になるように、って。

スクリーンも、高解像度のもの、透けるスクリーン、スパゲティみたいなスクリーン、そして普通のプロジェクション用のもの……あらゆるタイプを用意して、種類ごとに使い分けて、視覚的にも多層的な世界を作り上げた。そして、これは偶然の進化だったんだけど最終的に一番大きな進歩になったのが、「カーテンの振り付け」だったの(笑)。1曲につき10回くらいカーテンが開いたり閉じたりするんだけど、カーテンって本当にすごく動くから。まるで映像編集のような感覚で、どのタイミングでどう動かすかを緻密に決めていった。

それで当然、このショーを映像として残そうって話にもなったんだけど、そこで大きな矛盾が生まれちゃう(笑)、だって、それってすごく“二次元的”な行為でしょ? だから最終的に、ポストプロダクション(編集作業)に1年半もかかってしまった。

具体的には、アニメーションをさらに重ねて“もう一度3Dっぽく”見せたり、色の補正をしたり。でもそれがまた本当に複雑で。アニメーターが7人もいて、それぞれにチームがあって、しかもみんなスタイルが違うの。でも私は、それぞれのアニメーターとすごく密に話し合った。それが、私にとってはとても大事なことだったから。

90年代にミュージックビデオを作っていたときと、ちょうど同じような感覚ね。当時は、それぞれの曲のエモーションに合うように映像を作っていて、すべての映像が、その曲ごとの“感情”とちゃんとシンクロしてるかがとても大切だった。「この一文にはこの感情」「次の一文にはあの感情」っていうふうに、一つひとつの感情をベースに話し合っていったの。

アニメーションの流れも“時間軸”に沿ってではなくて、“感情の流れ”、“感情的な言語”に合わせて構成していった。つまり、共感覚的なシーンを作るというか、単に音と映像のタイミングを合わせるんじゃなくて、“音楽の感情とアニメーションが感情レベルで同期する”ことが大事だったの。ごめんね、すごく長くなっちゃった(笑)。でも、それだけ大きなテーマだったから。

NEXT:「コーニュコピア」を共に奏でた衣装のこと、そして「コーニュコピア」に託したメッセージ。

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