“ビューティフルピープル”デザイナー、熊切秀典さんスペシャルインタビュー Vol.1

2021.08.17

Vol.1 技術を身に着けてパターンナーに。そしてデザイナーとして

2007年に”ビューティフルピープル”を立ち上げたデザイナーの熊切秀典さん。デビュー10周年を迎えたタイミングで念願のパリコレクションデビューを果たしました。今年の10月にパリコレ10回目の節目を迎える熊切さんに、ファッションのこと、ブランドのこと、パリのことなどをお聞きしました。

★文化服装学院卒業ですね。いつ頃からファッションに興味が?

自分から率先して文化に入ったわけじゃないんです。実は大学を目指して浪人をしていたのですが、一浪したあとの受験があまり芳しくなく、それを知った親が文化の願書を取り寄せていて。あと数日で二次募集の願書締め切りというタイミングでした。ファッションを勉強したいと言った覚えはなかったのですが、親に導かれるままに。このままいくと二浪になっちゃうし、受けてみようかなと。ファッションに興味があったように見えていたんですねきっと。親もニットの編地を開発したりする仕事で、それをニットの本などに提供していたりしていました。”ハイファッション”や”装苑”の雑誌も常にあって、親が見ていたものを僕も読んでいました。知らないうちに影響を受けていたんですね。


★デザイン科ではなく技術を身につけるアパレル技術科を選んだ理由は?

技術的なことに惹かれるものがあったんです。自分自身が職人気質というか。文化の1年生のときに山本耀司さんの特別講義があって、そこで「パターンナーが一番大事なんだよ」と。そんなこともあって、技術を身に着けたいという気持ちが強くなり、2年次の科の選択のときに決めました。文化の授業は職業訓練校的なことがあるから、学生時代にはそこで個性を見つけることは難しかったけど、卒業してブランドに入った時にはすぐに仕事が出来たのでそれは良かったと思っています。


★卒業して”コム デ ギャルソン”のメンズを担当したのですね

本当はレディスで面白いことやりたかったのですが、ずっとメンズでした。でも今考えると、仕立てのいいメンズの工場とのつながりも出来、きちんとテーラードを学べたことが良かったと思っています。それが今の”ビューティフルピープル”に生かされています。テーラード的な考えでレディスを仕立てると、今までにない違ったレディスの服が表現されるんです。ずっとメンズをやり続けたことが、今思うと必然だったのかもしれません。
川久保 玲さんはメンズに関しては普遍的なものを目指していました。 “コム デ ギャルソン”では普遍的なことをキープすること。そしてそれをリスペクトすることを学びました。

★パターンナーからスタートしたデザイナーの強みは?

例えばシンプルな服を作った時に、どこをどう修正をすれば良くなるかはすぐわかります。補正に関してはなんの不安もありません。プロフェッショナルとして基本的なことはできているので、それ以上を今進めている段階です。


★パターンで、いままでに影響を受けたクリエーターは?

1920年代に活躍したマドレーヌ・ヴィオネに対してのリスペクトはあります。クチュールテクニックを駆使したバイヤス仕立てのドレスを発案した人ですが、僕はそれを発展させたり、今の仕立てなどを取り入れています。そういうことって見た目の派手さはないから、なかなか表面には見えてこないのですが。コンセプトや組み立て方などは、よそには負けてないっていう気持ちの上で、一流を目指しそれを発表しています。


★”ビューティフルピープル”のブランドコンセプトは?

“ビューティフルピープル”は、美しくありたいという気持ちを込めた全人類に向けての言葉。そして僕らもそうなりたいと。不思議な言葉なんですけどね。自分の名前をブランド名にはしたくなかったんです。個を示すものではなく、それとは対極にある言葉が良かったので。ビートルズの歌詞ではネガティブにも使われていて、相反する要素を同時に含むところが気に入っています。


★デビューコレクションで5歳の子供服を大人の女性に着せた理由は?

パターンの技術を伝えたかったんです。これは僕たちの強みであることで、見た目はふつうだけど、他とは違うもの。これがスタートとなってブランドのシグネチャーになっていきます。僕らの技術が凝縮されたもので、どこにでもありどこにもないもの。矛盾した言葉ですけど、そういうのを作りたかったので。

★ふつうに売っている5歳児の服との違いはどこに?

胸とお腹周りのアプローチの仕方。ダーツのとりかたなどの変化です。子供はお腹まわりに、大人の女性は胸まわりに取り入れます。それとピポットスリーブ。腕を上げた状態でアームホールの裁断をしています。見た目はアームホールが小さく見えるけれど、マチがあるので実際は動きやすく大人が着られるものに仕上がります。当時周りに子供のいる人が多かったので、自然に日常からこのテーマが生まれました。


★女性の服に求めるもの。女性の服をデザインするときに考えていることは?

僕は、女性の服に関してはプロダクトっぽい見方をするんです。自分が着るわけじゃないから。その服に価値があるとか、喜んでもらえるとか。

★クリエーションをする上で女性像は?

ガーメントを見てほしいので、プロダクトとしてリアルなものを作るうえであえて定めなかったこともありました。そして、常にイメージを固定化しないようにしていました。ライダースジャケットを着ているけど、ボトムは黒いスリムパンツではなくフリルのドレスを合わせたり。

★黒が多いようですが、熊切さんにとって黒い色とは?

黒は僕の日常のテーマカラー。落ち着くんです。”ビューティフルピープル”の黒は本当にふかい黒、漆黒に近いかもしれません。今日着ているこのTシャツも今シーズンのもの。コットンなんですが少し光沢感があって、こだわりの黒がうまく表現できました。大き目の品質表示のラベルが胸ポケットの内側についていて、少し上に引き上げるとポケットチーフのようになるんです。


★デビューから10年たってパリコレ参加ですね?

もう少し早い段階で行けたのかもしれませんが、日本で成功したのでパリに行くことが少し大変になってきていました。プレコレクションもやり始めたし、スタッフも多くなっていたので。パリはそんなに簡単に行けるものではないですね。

★パリはデビューの時から目指していたこと?

いや、たぶん僕一人が思っていたこと。文化の同級生と一緒にチームでブランドスタートしたんですけどね。どうなんだろう。デビューして8年目ぐらいの時に、そろそろパリ行こうよって提案しました。生産背景、デザインスキル、すべてにおいて機が熟したタイミングだったので。


★パリからクリエーションを発信するということにどういう思いが?

ファッションに携わるようになってから、パリへの憧れがずっとありました。世界からパリを目指してくる人たちと同じステージで発表したいと。パリコレってデザインを進化させてくれるんです。新しいメッセージとともに新陳代謝していて。そして、甲子園みたいですよ。高校野球やっているひとはみんな甲子園目指しますよね。そんなふうな価値観であってほしいなって。高校球児が甲子園を目指さなくなったら、高校野球もつまらないでしょ。きっとファッションもそうなんじゃないかな。


★パリデビューの反応は?

日本人のジャーナリストからみたら、だいぶ変わって見えたと思います。東京で発表していたものとはかなり違っていたので。賛否両論かな。パリの人からは可能性を感じてもらえたと思います。新しいものを受け止めてくれるところがありますよね、パリは。


★世界の女性を視野に入れた時の服作りの変化は?

まず体形の違いがありますよね。サイズに関しては調整しました。カルチャー的な壁は考えなかったですね。ブランドのシグネチャーでもあった子供服を大人が着るという発想は、ヨーロッパの人には考えられないことのようでした。


★パリに出たことで学んだことは

毎回学んだり、うち砕かれたり。服の文化がきちんとあるところでの刺激は、不思議と心地いいです。

Photographs:Josui Yasuda(B.P.B)

熊切 秀典(くまきり ひでのり)
1974年神奈川県生れ。1997年文化服装学院アパレル技術科卒業後、コム デ ギャルソンのパタンナーを経て、2004年に独立。2006年”ビューティフルピープル”を立ち上げる。 2017-18年秋冬でパリコレデビュー。2020年、第38回毎日ファッション大賞の大賞を受賞。

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