不良が街を守るヒーローになるという新機軸を打ち出し、世界累計発行部数1,000万部を突破した大ヒット漫画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』。その熱狂が、ついに実写映画となる。
孤独な高校生だった主人公の桜遥が、初めてできた仲間との絆を通じて強さの意味を知っていく姿を、圧倒的な熱量と作り込みで紡ぐ本作。主人公の桜を演じるのは、水上恒司さん。そして、桜が憧れ、仲間となっていく「防風鈴」の総代・梅宮 一(はじめ)を演じるのが、上杉柊平さんだ。
この時代に暴力と闘争を描く意味や、濃度の高い漫画の世界観を実写映画に落とし込む過程について、役者として共鳴し合うお二人に深く語っていただきました。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Takumi Noshiro (TRON, Koshi Mizukami) , Kaz Nagai (Shuhei Uesugi) / hair & make up : Kohey (HAKU, Koshi Mizukami) , Mayumi Shiroishi (Shuhei Uesugi) / interview & text : SO-EN


映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』より
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誰かを守りたくなる作品を
――映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』を拝見し、まさしく新世代の不良の物語だと感じました。お二人がこの物語に感じた魅力と、それを実写映画で最大化するために、どのようなアプローチをされたのか教えてください。
水上恒司(以下、水上):僕や上杉さんはもっと血生臭いヤンキー映画を見て育ってきた世代なのでギャップを感じつつ、時代に合わせて不良たちの物語を作るということが、今作においてとても大事だったと思っています。
主人公の桜遥はそれこそ昔ながらのヤンキーに憧れ、てっぺんを獲るために風鈴高校へやってきますが、そこにいる不良たちは、攻撃性ではなく「街を守る」という、人として極めて正しいものを持っている集団だった。桜が違和感や拒否感を抱きながらも、徐々に馴染んでいく物語に、僕は「令和ならではのヤンキー映画だな」と感じました。
また、今作では敵対する獅子頭連の背景も描かれていて、単純な対立構造にはなっていません。分かりやすい悪を描かなかったことが原作にも通じる実写版の魅力だと思います。そして桜は、物語の中で少しずつ気持ちが変化していきます。その生々しさをいかに鮮やかに表現できるかということを考えながら、役にアプローチしていきました。
上杉柊平(以下、上杉):僕がこのお話をいただいたとき、最初に監督と話したのは「映画を見終わって誰かと喧嘩したくなるものじゃなくて、誰かを守りたくなる作品を作ろうよ」ということでした。暴力を扱いながらも、周囲に目を向けられるようになる映画は、僕が知る限りこれまでほとんどなかった気がします。
原作を読んでも、みんなが誰かのために動いていたり、自分の手の届く範囲を守りたいというまっすぐな気持ちを持っているんですよね。不良漫画なのに温かい気持ちになる、新鮮な感覚を覚えました。僕が演じた梅宮は、物語の中で大きく変化していく桜と、敵役である獅子頭連の頭取、兎耳山丁子(山下幸輝)の両方に深く関わる役だったので、この二人をどう見守るか―「導く」ではなく―を意識して現場に臨んでいました。

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』より
――お二人は映画『八犬伝』(’24年)でも共演されていますが、お互いの第一印象と、今現在のイメージはどのようなものですか?
上杉:「バカ」です!(笑)
水上:(笑)。
上杉:『八犬伝』と今回は結構違ったよね。今回、水上くんは、桜という役もあってか自分の時間を作って、特有の空気をまとっていました。僕も僕で、一つ学年の違う役としてもそうだし、毎回現場にいるわけでもないという意味でも、若干、距離をとっていて。バカって文字にするとすごい棘があるけど、『八犬伝』は、みんなそうだったんですよ。
水上:その通りでしたよ。
上杉:「陽気」としておこうか(笑)。遊び心のある人たちばかりで、僕らもその中でわちゃわちゃしていて。しかもファンタジーだったから、なんでもありみたいな空間だった。
水上くんに対する印象は変わらなくて、本当にストイックだし、頭がいいなと思っています。役への向き合い方や、役の心情を言葉にするのがすごく上手。微妙な心情を言語化できるのは、自分が理解する上でも、周りに伝える上でも大切なことなんですけど、それがとても得意なんだなと。僕は言語化が苦手なので、水上くんの他の作品のコメントも「素晴らしいな」と思っていつも見ています。だから「バカを装っている頭いい野球部」って感じですかね(笑)。どう?
水上:その通りかもしれないです(笑)。僕は、隙を見せつつ、締めるところは締めるっていうのが上の立場の人間がやるべきことだと思っているのですが、上杉さんはその両方の要素をしっかり持っている方だなと。上杉さんをいじろうっていう人はあんまりいないかもしれないですが、僕は生意気な後輩として上杉さんをいじることがあるんです。その時に、そういう度量を感じます。
それから、自分が思う役者像を共有できる存在でもありますね。だからといって日々仲良くするということではなく、現場で同じ言語を持つ人が一人でもいるのはすごく救いになるし、精神的に楽になる。だから上杉さんがいる現場は純粋に楽しみですし、どんな梅宮を作るんだろうってワクワクもしていました。桜として梅宮にぶつかっていく役柄でもあったので、本当にお兄さんという感じです。
上杉:撮影が始まる前、水上くんと八木(莉可子)さんと僕の3人で本読みをさせてもらったんです。その時に監督の意見を聞いた上で、「この作品どうする?」という話ができたのが大きかった気がします。あわせて現場での振る舞い方や空気をどうするか、みたいなことも話せて。
『八犬伝』でご一緒していたから話せたというのもあるし、彼が言うように、使う言葉そのものは違っても、意思疎通ができる共通項がある。作品について話し合ったら、しっかり噛み合いましたから。それは僕にとってもすごくありがたかったです。

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映画を構築するアクションと衣装のディテール
――アクションシーンも大きな見どころですが、撮影で苦労されたことや、意識されたことはありますか?
上杉:僕は1回しかパンチを打っていなくて、あとは頭突きとセリフ。受け芝居がほとんどだったので、相手役の兎耳山が弱くは見えないけど、攻撃が効いていないことが伝わる受け方や目線の置き方、顔や体の戻し方を徹底していました。ちょっとスキルを入れないとできないことが多くて、ただ食らって倒れるほうがよっぽど楽だなって思いながらやっていました。
水上:アクションは上半身を運んでいくフットワークこそ大事で、それがものを言うんです。なのに『八犬伝』で一緒に殺陣の練習をした時、上杉さんは「右足のあとに出す足ってどっちだっけ!?」ってずーっと言ってて。「あ、この人アホだな」って思いましたね(笑)。
上杉:違うよ、あれでいい空気に変わったんだよ。「ここで間違えてもいいんだ!」っていう空気ができたことに気づけたか、気づけてなかったかの差だな。
――(笑)。
水上:それでいうと僕は気づけてなかったですね。あの時から上杉さんの梅宮の役作りが始まってたのかもしれない(笑)。
僕が演じた桜はアクションシーンが多かったので、拳を振る理由が変わっていく部分を大事にしていました。人間ってそんなに都合よく変わらないと思うし、それが人間の生々しさ。だから、心情や芝居を積み上げていくことで、自然とアクションも変わって見えるだろうと思っていました。

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』より
あと、梅宮と兎耳山の攻防で印象的なところがあって。梅宮が一方的に兎耳山の攻撃を受けている中、ワンカットだけ、上杉さんがダメージを受けた芝居を入れたじゃないですか。あれがすごく新鮮でした。「あ、そこで入れるんだ」って。自分の役をかっこよく、強く見せたいという自我を出すのは、それこそ今までの血生臭い暴力映画でやればいいこと。上杉さん演じる梅宮が少し弱さを見せる芝居に、『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』らしさを感じました。
上杉:あれはプランを立てていたわけではなく、現場で生まれたものだったと思います。怪我をしちゃいけないという意味でアクションはどうしても約束事が多いのですが、出てきたものを大事に作っていったらできたことですね。

――衣装や美術が形作っていた世界観も大きかったと思います。
水上:ヘアメイクさんや衣装さん、美術さんといった方々のおかげで、この作品の大半が成り立っていると言ってもいいくらいです。衣装でいうと、防風鈴の制服の素材はコットン(綿)なんです。通常、こうした衣装に使用するのは、扱いが楽な化学繊維ですが、制服衣装に化学繊維を使うと、どうしてもコスプレっぽくなってしまう。そこで「衣装は綿がいいんじゃないか」と提案させてもらいました。そうすることで、シワがつきやすくなったり汚れを落とすのが大変になったりして、衣装部に負荷がかかってしまうのですが、それでも、作品のクオリティのために綿にしてくださって。
そして画面が切り替わり、同じシーンの中でシワのある部分がつながらなくなってしまっても、今作においてはよいのではないかと。これだけ血が出てこないのだから、綿の衣装でアクションをして、汚れがついたりシワが出てきたりというのを見せてもいいととらえていました。そのぶん、衣装の番手を増やさなければいけなくなったという意味で、衣装部の方々の苦労はとても大きかったと思います。今の話はごく一例なので、そういった各部門の仕事にも考えを巡らせて見ていただけたら嬉しいです。
上杉:街を丸々使ったセットもすごかったよね。それを受け入れてくれた、沖縄県金武町(きんちょう)の方々の懐も(すごい)。その世界観にいたからこそ生まれた気持ちが役を作ってくれました。

映画『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』より
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まずは自分の心が動くことが大事

――この作品は「力を何のために使うのか」という問いも含んでいるように感じました。お二人は、ご自身の「力」をどのように使っていきたいですか?
上杉:日常で拳を振ることはないので、「拳」や「力」を「自分ができること」に置き換えた時に、本音を言うと、僕は「人のために何かやろう」と思うことはないんです。ただ、自分のためにしたことが、結果的に人のためになったらいいな、と。そういうことって、意外とたくさんあると思うんです。家族の病気を治したいから研究したものが薬になった、などもそういうことじゃないかな。
だから、僕はまず自分が何にワクワクするかを常に探していて、それをどう形にしていくかを考えています。それが僕の「拳」かも。あんまり人のために、みたいに考えるとモチベーションが続かなくなるので、まず自分がどうしたら心が満たされるのかを考えて、それが意外と世の中に広がるねとか、周りの友達が幸せになったねということになれば、アレンジを加えていくような考え方です。何かを始める時の一歩目に、他者の目を気にして生きてはいないですね。
――それは作品に対しても同じスタンスですか?
上杉:そうですね。作品も割と同じで、こう言ったらあまり良くないかもしれないですが……見る人を意識して現場に行くことはありません。作品自体と、その場にいる人たちだけを見ています。
水上:だから僕は上杉さんと話が合うのかなと思いながら、今のお話を聞いていました。上杉さんが言う「あくまでも自分のため」というのは、周りを蹴落としてでも利益を得たい、ということではないですよね。「あの人のためにやりたいことを、俺がやりたいんだ」ということでもあるなと。僕もどちらかというと、そういう考え方です。この映画でいえば、攻撃性や暴力性といったものをフックに、桜遥の照れや愛といったものを表現して今しか作れないものを提示したいという自分の気持ちがありました。いわゆる“流行りもの”とは違うことをしたい性分もあったと思う。
(自分の)ファンの方々には申し訳ないのですが、「誰かのために僕は芝居をしていません」という感覚です。極論、自分がやりたいからこの世界に入ってきて、それに対して皆さんが応援してくれているだけ、という。
上杉:わかるけどさ、ちょっとキツくない?(笑)
水上:ファンミーティングでも言ってることなんですよ(笑)。確かにこう伝えることで離れてしまう方はいると思いますが、それは仕方がないことだとも考えています。
上杉:確かにそうだね。
水上:役者は人気商売の側面がありますが、だからといって見てくれる方に寄りすぎてしまうと、バランスがおかしくなってしまう気がして。今は見る人を意識することがスタンダードになっている時代なので、この発言に棘があるように捉えられるかもしれませんが、自分がしたいことをした上で、どこまで役者としてやれるかだと僕は思っています。
Koshi Mizukami
1999年生まれ、福岡県出身。テレビドラマ「中学聖日記」で俳優デビュー。2019年、福岡放送開局50周年記念スペシャルドラマ「博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?」でテレビドラマ初主演。2020年は『弥生、三月-君を愛した30年-』『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』『望み』に出演し、第44回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞する。2022年、『死刑にいたる病』で映画初主演(W主演)を務め、2023年公開の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2025年は、吉岡里帆とダブル主演を務めた『九龍ジェネリックロマンス』、第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作の映画化で主演作『火喰鳥を、喰う』が公開された。
水上さん着用:ジャケット ¥151,800、パンツ ¥82,500 Ground Y(ヨウジヤマモト プレスルーム TEL 03-5463-1500)
Shuhei Uesugi
1992年生まれ、東京都出身。2015年にドラマ「ホテルコンシェルジュ」で俳優デビュー。2016年、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」に出演。同年に『シマウマ』で映画初出演を果たすほか、『にがくてあまい』や『A.I.love you』に出演。以降、大ヒットテレビドラマ「ドクターX 外科医・大門未知子」(2017年)や、映画『一週間フレンズ。』(2017年)、『リバーズ・エッジ』(2018年)、『サヨナラまでの30分』(2021年)、『モエカレはオレンジ色』(2022年)、『シン・仮面ライダー』、Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」(ともに2023年)、『ディア・ファミリー』、『八犬伝』(ともに2024年)など話題作への出演を重ねる。2025年は、ドラマ「プライベートバンカー」で唐沢寿明演じる主人公の右腕として奮闘する男を好演した。
上杉さん着用:Tシャツ ルシアン ペラフィネ(ルシアン ペラフィネ 東京ミッドタウン店 TEL:03-5647-8333)、カーディガン モンクレール(モンクレール ジャパン TEL:0120-938-795) / その他 私物
『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』
ケンカだけが取り柄の孤独な高校生・桜遥(水上恒司)は、不良の巣窟と恐れられる風鈴高校のてっぺんをとるため、街の外からやってきた。そこで桜は、風鈴高校の生徒たちが「防風鈴=ウィンドブレイカー」と呼ばれ、街を守る存在へと変貌を遂げていたことを知る。桜は戸惑いながらも防風鈴のメンバーとして、楡井秋彦(木戸大聖)、蘇枋隼飛(綱啓永) 、杉下京太郎(JUNON)ら仲間と共に街を守るための闘いに身を投じていく。
そんな中、越えてはいけない一線を越えたことをきっかけに、力の絶対信仰を掲げる最凶集団「獅子頭連」が、防風鈴を新たな標的として動き出す。「俺は1人でてっぺんをとる」と言い放ち、周囲と衝突してばかりの桜だったが、ある時街に乗り込んできた獅子頭連に楡井が傷つけられてしまい……。
原作:にいさとる『WIND BREAKER』(講談社「マガジンポケット」連載)
監督:萩原健太郎、脚本:政池洋佑
出演:水上恒司、木戸大聖、八木莉可子、綱啓永、JUNON(BE:FIRST)、中沢元紀、曽田陵介、萩原護、髙橋里恩、山下幸輝、濱尾ノリタカ、上杉柊平
音楽:Yaffle、桜木力丸 主題歌:BE:FIRST「Stay Strong」(B-ME)
2025年12月5日(金)より全国公開。ワーナー・ブラザース映画配給。©にいさとる/講談社 ©2025「WIND BREAKER」製作委員会
『装苑』9月号掲載「今の時代を作る人」に登場
装苑ONLINEで公開中!





