黒川想矢インタビュー|「演じることと撮ることは似ている」映画『3ミリの恋』と16歳の現在地

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Masaaki Ida /
hair & makeup : Moeka Kanehara / interview & text : SYO

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時の人、という響きがすとんと腑に落ちる活躍ぶりを見せている俳優・黒川想矢。カンヌ国際映画祭の脚本賞とクィア・パルム賞に輝いた『怪物』をはじめ、日本映画史上実写No.1ヒットの新記録を打ち立てた『国宝』、口コミで話題を集めた『この夏の星を見る』、社会現象化した漫画の実写化『【推しの子】-The Final Act-』ほか人気作に立て続けに出演し、重要な役どころを任されてきた。

弱冠16歳の彼が、新たな挑戦に打って出る。韓国で好成績を上げた『破墓/パミョ』のキム・ジアンと共演する映画『3ミリの恋』だ。日本と韓国に横たわる歴史を背景に、男子高校生・タツヒコ(黒川)と女子留学生・ユンスル(キム)の心の交流を瑞々しく描いてゆく本作。爽やかなラブストーリーの側面もあれば、いまを生きる若者が異文化をどう理解して他者に歩み寄るかの等身大なメッセージも内包し、様々な角度から私たちに感慨を与えてくれる。

「お話をいただいたときに最も惹かれたのは、韓国で撮影できることでした。撮影文化の違いを体感できるのは、とても面白そうだと感じたんです。物語としても、こんなに近いのに遠くて、でも通じ合える日本と韓国の関係性が素敵だなと思い、参加したいですとお返事しました」と語り始めた。

「過去に映画祭の参加やプロモーションで4回ほど訪韓させていただきましたが、観光できる機会はあまりありませんでした。今回は初めてゆっくり滞在できて、撮休の日に釜山市内を見て回る時間も取れて楽しかったです」と声を弾ませるその気質は、やはりチャレンジャーだ。新しさを怖がることなく、貪欲に吸収する強さと好奇心がにじみ出ている。

「日本だと撮影時の本番開始前にカチンコを打ちますよね。韓国ではデジタル表示のあるスレートを使っていて、仕組みが全然違うんです。カメラが回ると同時にピピピ……と数字が動き出すので、思わずカッコいい!と興奮してしまいました(笑)。

あとは、現場にお弁当文化がありませんでした。お昼休憩の時間になると皆で近くのご飯屋さんに移動して同じ食卓を囲むのですが、温かいご飯を一緒に食べることで現場の皆さんとの仲も深まっていく感覚がありました。日本だと(休憩後のシーンの準備で)同じ時間に食べられない方もいらっしゃいますし、お昼休憩の過ごし方は各自で結構バラバラな印象があるので、新鮮でした」

『3ミリの恋』は在日韓国人3世の新鋭・全辰隆監督の商業長編映画デビュー作となり、撮影・照明・録音チームには韓国のスタッフが集った。現場の流れも、黒川が慣れ親しんだスタイルとは異なったようだ。

「国内だと段取り(簡単な動きの確認。撮影現場ではまず段取りを行ったのち、カット割りを決めていくことが多い)→テスト(芝居の方向性やカメラワークの練習とすり合わせ)→本番という段階を踏みますが、今回はテストを挟まずに、段取りをしたらすぐ本番に移る形式でした。自分がお芝居をするとき、最初に出たものが最も本当のリアクションに近いので、そういった意味ではやりやすかったです。

ただ、テイクごとにきちんとリフレッシュしてお芝居をしないといけないのは自分の課題ですし、テイクを重ねていくことでわかることも当然あります。サクサク進む早撮りの現場で逆に〝もうちょっとこのシーンをやりたかったな、悔しいな〟と感じるときもあるので、その時々に合わせて対応できるようになりたいです」

意外に思えるが、黒川は自身を「演技ができない」と評する。「僕はパッと切り替えたり、出力を抑えたり増やしたりといった技術的に〝演じる〟ことがなかなか難しく、自分自身で感じたことしか出せないタイプです。

今回は撮影方式だけでなく、明確に感情を表に出す韓国の俳優さんたちとのお芝居の違いに戸惑うこともありました。日本だと感情を抑えたり、あえて表に出さない演技も多いですから。そうした僕自身の感覚がそのままタツヒコに重なった気がします」

自身のすべてを役に捧げる献身性もさることながら、苦手意識を隠さずに伝えるしなやかさも持ち合わせた黒川。

「唐津での撮影は真夏ということもあってめちゃくちゃ日差しがまぶしくて、目を全然開けられませんでした」や「本作は日本→韓国の順番で撮影していて、タツヒコがフェリーに乗って釜山に向かうシーンは、ちょうど移動のタイミングで撮りました。一石二鳥ですね」と、からから笑う姿には、頼もしさすら漂う。本人の気っ風の良い性格もあるだろうが、これまでに積み上げた経験がしっかりと生きているがゆえだろう。

「“その場の空気を鋭敏に感じて、役としてそこにいること” は『怪物』の現場で是枝裕和監督に教わったことです。また『国宝』では李相日監督に『俳優なら方言も完璧に覚えてきなさい』と言われたことがずっと残っていて、佐賀弁の習得はアドリブも方言で出るくらいに自然にする!という覚悟で臨みました」

純真なまなざしで「新しい経験には大変なこともあるけど、知らない感情に出会えるのは面白くて嬉しい。新たな作品に出演するたびに壁にぶち当たりますし、自分の信じていた演技が間違っていたかもという気にもなります。でもそうした変化も違いも楽しむことで、僕は自分を保てている気がします」と言い切る。

最近では写真を撮ることにハマっており「撮ることと演じることは似ている気がします。どちらもちょっとだけ人を好きになれるから」と続ける。写真の師匠として名前を挙げたのは、『怪物』や自身初の写真集『コバルト』でも組んだ末長真だ。

「末長さんの撮り方と自分の感覚は、どこか近いように思います。よく冗談で『俺のやり方をパクるなよ』と言われるくらい(笑)。ソール・ライターも好きで、彼の言葉『私が写真を撮るのは、自宅の周辺だ。神秘的なことは馴染み深い場所で起こる。なにも世界の裏側まで行く必要はないのだ』にも影響を受けています」

いつか写真連載を持つのが夢だという。実現の日は、きっとそう遠くないはずだ。

ジャケット ¥52,800、パンツ ¥42,900 ヨーク(エンケル)/シャツ ¥56,100 オリミ(サカス ピーアール)/シューズ ¥101,200 アデュー(バウ インク)/その他 スタイリスト私物


映画『3ミリの恋』

佐賀県唐津市で高校生活を送るタツヒコ。夏休み目前のある日、クラスに韓国・釜山からの転校生、ユンスルがやってくる。タツヒコとユンスルは共に時間を過ごすようになり、次第に距離を縮めていくが、タツヒコの何気ない一言がユンスルを傷つけてしまう。そしてそのままユンスルは帰国。ユンスルが留学先に唐津を選んだのには、実は日本と韓国の歴史にまつわる、ある一枚の写真が関係していた。失意の底でタツヒコが歴史の教科書に載っていた地図で唐津と釜山の距離を定規で測ってみると、たった3ミリ。そこでタツヒコは、ある決断をするのだった。

全辰隆(チョン・ジニュン)監督・脚本、黒川想矢、キム・ジアンほか出演。11月6日(金)より全国公開予定。東映・東映ビデオ配給。©︎2026「3ミリの恋」製作委員会

Soya Kurokawa

2009年生まれ、埼玉県出身。5歳から芸能活動を開始。’21年のNHK BS時代劇「剣樹抄~光圀公と俺~」などへの出演を経て、’23年、是枝裕和監督の映画『怪物』で映画初出演を果たし注目を浴び、第66回ブルーリボン賞新人賞、第47回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞する。映画『国宝』(’25年、李相日監督)、『この夏の星を見る』(’25年、山元環監督)で第17回TAMA 映画賞最優秀新進男優賞、第38回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎新人賞を受賞。その他の主な出演作にドラマ「からかい上手の高木さん」(’24年)、映画『【推しの子】-The Final Act-』(’24年、スミス監督)、『アフター・ザ・クエイク』(’25年、井上剛監督)、『免許返納!?』(’26年、河合勇人監督)など。

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