セリーヌ・ソンが信じる愛の形。映画『マテリアリスト 結婚の条件』で描いた現代の結婚への疑問

映画『パスト ライブス/再会』のセリーヌ・ソン監督が、A24と製作した最新作『マテリアリスト 結婚の条件』の題材は“婚活”。理想や条件をマッチングさせ、ベストパートナーを見つけ出す結婚相談所がブームのニューヨークで、敏腕のマッチメーカーとして働くルーシー(ダコタ・ジョンソン)が二人の男性と出会い、愛と条件の狭間で揺れ動く様を描く。

実は、ソン監督自身もマッチメーカー(結婚紹介所の仲介人)として働いた過去があり、自身の実体験をもとに制作された本作。恋愛と結婚における矛盾が、多様な視点で考察される本作に込めた思い、そして主人公の洗練されたファッションについても話を伺った。

interview & text : Yoko Hasada


セリーヌ・ソン CELINE SONG

1988年生まれ、韓国・ソウル出身。12歳でカナダに移住。劇作家としてキャリアをスタートし、2019年にアメリカン・レパートリー・シアターでプレミア上演、さらに’20年にニューヨーク・シアター・ワークショップでニューヨーク初演を果たした「Endling」で高く評価される。その後、TVシリーズ「ホイール・オブ・タイム」シーズン1(’21年)の脚本を手掛ける。長編映画監督デビュー作『パスト ライブス/再会』(’23年)が絶賛され、米国アカデミー賞(R)で作品賞と脚本賞、ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ部門)、脚本賞、監督賞を含む5部門、英国アカデミー賞で作品賞とオリジナル脚本賞を含む3部門にノミネート。さらにインディペンデント・スピリット賞作品賞、監督賞を受賞する。世界が注目する新鋭監督。Photo by Atsushi Nishijima

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 たくさんの選択肢がある現代の女性が 
 なぜ結婚を選ぶのか? 

セリーヌ・ソン(以下、ソン):愛というものは古代からある神聖なもので、物質的な要素がまったくないものだと私は考えています。一方で、現代は、収入や年齢などの数字やルックス、職業などの条件に適った中から好きな相手を見つけていく、という非常に物質的な“恋愛市場”が流行している。私もクライアントから、年収や身長に限らずあらゆる物質的な要求を提示されてきました。

本来ならば、数値化/価値化できない“愛”ですが、マッチメイキングというシステムを通して人間はデータ化されて、条件で奇跡を探していく。デート(交際)は愛を追い求めるはずなのに、結婚となると多くの矛盾がはらんでいると当時から感じていました。

ソン:昔は、女性の幸せといえばいい人と結婚することしかありませんでした。ですが、現代では女性が幸せになるための選択肢はいくつもあります。しかも、自分の運命をコントロールすることができて、幸せになる権利を主張することができるようになりました。

「そのような状況でも、なぜ人は結婚するのか」という疑問が、私のなかで消えませんでした。マッチメーカーとして働いていたとき、クライアントはまるで買いたい車や家の話をするように、パートナーの条件を語るのです。しかし、結婚するということは死ぬまで連れ添える関係を築けるかどうかで、互いのオムツを交換したり一緒にお墓に入ったりできる“真実の愛”がなければ長続きしません。

ソン:結婚において大切なのは愛であって、愛があるから永遠に続くことを信じられる、という部分は昔から変わらないと思います。しかし、今の時代は条件を求めて結婚する方が多く、愛が介在しているのかわからない部分もあり、恋愛と結婚について率直な映画を作ろうと思いました。

ソン:人間は誰しも孤独に生まれてくる存在です。そんな孤独感や寂しさを癒してくれるものは“愛”しかないと、私は思っています。それは、恋愛感情だけではなく、兄弟間や親子間、友人同士の愛もあるはずです。

ただ、現代では恋愛そのものに対してシニカルであり、信用できない気持ちを多くの人が持っている時代に変化しています。恋愛で傷ついてきた人たちの声や、恋愛至上主義を苦しく思う価値観が恋愛を推奨しない文化につながって、人々はより孤独を感じやすくなっているのかもしれません。なので、時代に逆行するようですが、孤独というトラウマを癒すためには愛が必要だ、という自分の信念を本作で伝えようと思いました。なので、“孤独死”や“Grave buddy(一緒にお墓に入る)”といった直接的なセリフを入れるように意識したんです。

 クローゼットの中から発想した、
 魅力的な衣装

ソン:コスチュームはとても大事にしたポイントなので、質問してもらえて嬉しいです。現代で働く女性のコスチュームを決めるには、シーンごとに衣裳を決めるのではなく、ルーシーのクローゼットにはどんな服が入っているのか、そこから彼女は何を選んでいつ着るのか、という順序で決めていきました。

ルーシーの性格から考えると、TPOをわきまえていて、とてもスマートに服を選ぶはずです。また、結婚相談所で働いている彼女にとって、結婚式というイベントは何度もあるけど、特別な日。そういう日に着る想定で高級なドレスをいくつも用意しましたし、靴にもお金をかけました。一方で、彼女は富裕層ではないので手頃な値段の服も持っていて、たとえば白いTシャツと黒いパンツといった着回しがきくアイテムは、ワードローブに欠かせないだろうと思いました。

ソン:そうですね。実際に生きているキャラクターが何を選ぶのか、というルーシーの視点が一番大事だと思いました。結婚式やパーティーといったイベントは仕事柄多いでしょうし、きっと彼女の気持ち的にもお金をかけたい場面のはず。なので、カティナに加えて、ルーシーの一番の理解者であるダコタ(・ジョンソン)も交えて相談しながら、スタイリングを決めていきました。

ソン:長い付き合いであるジョンと会うときは、花柄を着るように意識しました。それは、ルーシーのロマンチックな一面を見せたい、という思いからです。彼女がサンドレスにグレーのスウェットを羽織り、スニーカーを履いているシーンがあるのですが、花柄のサンドレスで愛を伝えつつ、グレーのスウェットを足すことでカジュアルな、つまり相手が心を許している存在である、という表現にもなっています。

彼女の視点は、生い立ちも大きく関わってきます。ルーシーはブルーカラーの家で育ったので、華やかな場面で何を着ていくべきなのか、相当努力をして学んだと思います。雑誌をくまなく研究して、そこから着るものを選択している。そういう、律儀で真面目なキャラクターであることを、ファッションを通じて伝えることも意識しました。カティナは、コスチュームがストーリーテリングにも関わってくることを存分に理解してくれていて、ストーリーテラーとしての衣裳を意識して手掛けてくれました。

ソン:私も、いくらでも話せます!ぜひ皆様には、それぞれのキャラクターの装いも楽しみながら観ていただきたいです。

監督・脚本:セリーヌ・ソン
出演:ダコタ・ジョンソン クリス・エヴァンス ペドロ・パスカル
2026 年 5 月 29 日(金)より、東京の「TOHOシネマズ 日比谷」ほかにて全国公開。
ハピネットファントム・スタジオ配給

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