
2024年にNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」で原案・主演を兼ねた賀来賢人さん。同作で出会ったデイヴ・ボイル監督と同年に映像製作会社「SIGNAL181」を設立し、わずか2年で第1作となる劇場映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』(2026年6月5日公開)を創り上げた。
洋館のオーナー、禎子(木村多江)から「昼夜12時台に屋敷に現れる男の亡霊を祓ってほしい」との依頼を受け、調査に訪れた霊媒師の愛里(穂志もえか)。やがて恐るべき秘密に気づき……というオリジナルホラー。ワールドプレミアとなる第33回サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)2026のミッドナイター部門で観客賞を受賞し、以降も各国の映画祭で受賞が続いている注目作だ。
プロデューサーを務めた賀来さんとボイル監督が主演に抜てきしたのは、「SHOGUN 将軍」での活躍が記憶に新しい穂志もえかさん。本作の現場で感じたという理想的なものづくりについて教えていただきました。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Eri Takayama / hair & make up : Aiko Tokashiki / interview & text : SYO
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映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』より
―― 作品を拝見して、なかなか日本になさそうなロケーションと感じました。森の雰囲気も抜群ですし、洋館の階段なども非常に効いていましたね。実際にその場に身を置いて、いかがでしたか?

映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』より
穂志もえか(以下、穂志):デイヴ(・ボイル監督)がロケーションに合わせて当て書きしている設定もたくさんあったため、違和感なく入り込めました。ちゃんと階段を上がった先に時計があり、洋館を出てすぐに教会があって――といったように、台本を読んで感じたイメージとそんなに違わないセットを用意してくれていたんです。毎日あの中で撮影していましたが、“慣らし”の期間が必要ないくらい最初から世界観が出来上がっていました。
―― 愛里が儀式で使う一式など、撮影で使用された小道具の実物も細部まで凝ったつくりでした。

映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』より
穂志:各部署の皆さんが本当に献身的でした。ちょっと大変なことでもデイヴの言うことならやろうと、その人柄についていく人も多かったように思います。世界観の構築において「光」は重要な要素ですが、照明部の皆さんが(霊たちが存在する)ベールの向こう側に行った際の幻想的な世界観を光で作って下さいました。撮影期間中には雨の日もありましたが、照明部の方々が外で雨に打たれながら光を作って下さったり、小道具の一つひとつ含めてそれぞれが力を結集させて一つの世界を作っていく“手作り感”がとても印象的でした。



―― 賀来賢人さんから本作の衣装は一から手作りされたと伺いました。愛里の前髪もミリ単位で調整されたそうですが、穂志さんがお芝居をされるうえでメイクや衣装はどんな存在でしょう。
穂志:正直、ものすごく大きなものです。例えば、普段から身に着けているはずのものなのに綺麗すぎたり新品すぎたら説得力に欠ける気がしてしまうんです。今回はスタイリストの小林新さんが一から作って下さり「気になることがあったら何でも言って下さい」と声をかけて下さいました。そのスタンスがこの組には全体的に流れていて、とても素敵でした。お陰でこちらも萎縮せずに意見を伝えられるようになりますから。小林さんがオープンでいて下さったおかげで、「愛里が部屋着にしているスウェットがちょっと綺麗すぎる気がします」と相談できました。
彼女は全然服を持っておらず、一つの服を着倒しているはずだからもっと生地がクタクタになっているのではと思い、持って帰っていいですか?と衣装合わせの際にお伝えしたものの、私がうっかり持ち帰るのを忘れてしまったんです。そうしたら小林さんの方でクランクインの日に味のある状態に仕上げて下さっていました。「アシスタントに毎日はいてもらったんです」と仰っていましたが、身に着けると身体への馴染み方が全く違っていて嬉しかったです。今回の衣装は、一から作ったことで衣装部さんのクリエイティビティを存分に乗せられたのではないかと思います。私のサイズにぴったり合わせて下さっていることもそうですし、ディティールのあちこちに想いを感じられて「この役のことを考えているのは私だけじゃない」と存分に実感できました。



―― 作品の性質上、デイシフト(日中の撮影)とナイターシフト(夜から朝にかけての撮影)が交互にやってくるスケジュールだったと伺いました。コンディションの維持は大変ではありませんでしたか。
穂志:その苦労を感じることはなかったです。皆で一緒に取り組めていたこと、そして賀来さん含めてできる限り労働時間を守ろうとして下さったことが大きかったなと思います。共演者にも本当に恵まれました。吉岡睦雄さんがナイターシフトのときに「体力的にしんどいですが、良い考え方があるんです。いま僕たちは海外ロケでヨーロッパに来ていて時差ボケ状態だと思って下さい。ワクワクしませんか?」と素敵な方法を教えて下さって「じゃあどこの設定にします? スペインかな、それともフランスがいいかな」と盛り上がりました(笑)。
また、制作部さんがまめにコーヒーやお菓子を配りに来て下さるなど、その場にいるスタッフ・キャスト全員に目を行き届かせようという心意気にあふれた現場だったため、とても助けられました。

―― 本作のオファーが届いた当時、穂志さんはフリーランスだったそうですね。その立場を経験されて、考え方に変化は起こりましたか?
穂志: 仕事をお受けする前にお話を聞きに行き、ギャラの交渉をして、台本を受け取りに局に行き、請求書を作って――といったことを一通りやるのはとても大変で、日々自分がたくさんのサポートに支えられていることを身をもって感じました。同時に全部自分でできることは何よりも風通しが良いなとも思いました。私にこの役をやってほしい理由がその人の言葉で直接届くのはとてもシンプルで、伝わるものの量も違う。私も自分の言葉で直接返すことになるぶん、コミュニケーションの大切さを痛感しました。それこそ今回、役作りにおいて気になることはデイヴと直接メールでやり取りしていましたしね。
―― 穂志さんの中で役に向き合う際の必須条件があるとしたら、違和感をなくしていくことなのでしょうか。
穂志:キャラクターがその世界に疑問や違和感を持っている設定であれば良いのですが、その世界観の中にちゃんと生きて、最初から最後まで繋いでいく役を演じるならそうだと思います。世界観を理解していくなかで「こういう設定でこういうキャラクターだったらこの発言をするだろうか?」と急に異物感をもってセリフが立ち上がるときもどうしてもあって。脚本家が書いたセリフを直そうとしたり聞くのは違うんじゃないかという意見もあるかと思いますが、デイヴはそういった相談も大歓迎というタイプでした。お陰で忌憚なく色々と話せて、不安を現場に持ち込まないことはできたかなと思います。
―― まさに穂志さんが先ほど仰っていた「風通しの良さ」ですね。
穂志:そういえば最近、「SHOGUN 将軍」のシーズン2に参加しているメンバーと電話してシーズン1の経験が蘇ってきたのですが、現場で頻繁に「Are you happy?」と聞かれていました。例えば「このヘアメイクであなたはハッピーですか?」「今の僕の演出を受けてあなたはハッピーな状態で芝居に臨めますか?」ということを常に確認してくれたんです。自分が120%のパフォーマンスができる状態に整うまで粘ってくれる環境でした。そうしたとことん付き合ってくれる空気感がデイヴにもあったように思います。


―― 本日は素敵なお話をありがとうございました。最後に、装苑読者に向けてクリエイターの先輩としてアドバイスをいただけますか?
穂志:遠回りしてもいいから、自分の感性を大事にしてほしいです。何が好きで嫌いかの尺度を持っていると、どんどん研ぎ澄まされてオリジナリティがでてきますから。もちろん流行も大事ですが、それは一過性のものなので消費の渦に自分のクリエイティビティを投げ込まないでほしいんです。なかなか評価されなかったり辛いこともあるかもしれませんし、時には流されたりするかもしれません。でも、流されているなかで拾えているものって絶対あると思うから、自分の感性を信じるためにもできるだけ色々なものに触れてもらえたらと思います。映画を観るのでもいいし、お散歩みたいにお金がかからないことでもいいし、何かしら動いていくなかで自分の世界の見え方を信じられるようになっていくのではないかな、と。自分がこれまで感じてきたことをそのままお伝えしているだけですが、私はそう信じています。

Moeka Hoshi
千葉県出身。講談社主催「ミスiD2016」でグランプリを獲得。2018年公開の『少女邂逅』で映画初主演を果たす。「SHOGUN将軍」(‘24年)では宇佐見藤を演じ、第30回クリティクス・チョイス・アワードドラマシリーズ助演女優賞を受賞。ドラマ「京都人の密かな楽しみRouge継承」(NHKBS)ではドラマ初主演を務めた。近年の主な映画出演作に、『街の上で』(‘21年)、『窓辺にて』(‘22年)、『生きててごめんなさい』(‘23年)、『誰よりもつよく抱きしめて』(’25年)などがある。’26年の待機作に映画『メモリィズ』(6月12日公開)がある。
穂志さん着用:ドレス、パンツ 各 ¥30,800 コトハヨコザワ(オン・トーキョー ショールーム TEL 03-6427-1640)/ 左手につけたヴィンテージのリング ¥11,000、右手 ¥8,690(フィズ TEL 03-5306-6552)
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『Never After Dark/ネバーアフターダーク』
霊媒師一族に生まれた愛里(穂志もえか)と、ある事件によって霊となった姉・美玖(稲垣来泉)。霊と交信できる力で全国の怪事件を解決して回る姉妹のもとに「屋敷に出る男の亡霊を祓ってほしい」という依頼が舞い込む。目撃した張本人の禎子(木村多江)は愛里の仕事に興味津々だが、息子・群治(賀来賢人)は霊の存在に懐疑的。しかし屋敷では怪現象が相次ぎ、
除霊の儀式を始めた愛里はさっそく亡霊に遭遇する。おぞましい見た目をし、部屋の壁に隠された“何か”を必死に探す亡霊の願いとは。その謎が明かされるとき、惨劇の幕が上がる。
脚本・監督:デイヴ・ボイル
出演:穂志もえか、稲垣来泉、賀来賢人、吉岡睦雄、正名僕蔵/木村多江
2026年6月5日(金)公開。TOHO NEXT配給。©️ 2025 Signal181, Inc. All rights reserved.





