

Prime Video にて配信されたドラマ『1122 いいふうふ』の今泉力哉監督×脚本家・今泉かおりさんが、『逃げるは恥だが役に立つ』で知られる漫画家・海野つなみさんの『クロエマ』を実写ドラマ化。仕事も家も失ったエマが、謎めいた資産家で占い師のクロエと同居することになる物語。ルッキズムや承認欲求、家庭内格差などそれぞれに悩みを抱えて屋敷を訪れる客と向き合う優しくもシビアな現代性を内包したエピソードが、全5話にわたって展開していく(6月12日よりPrime Videoで配信開始)。
大人しそうに見えて行動的なエマ(杉咲花)と、つっけんどんだが人間味も併せ持つクロエ(多部未華子)を演じるのは、本作が初共演となる杉咲花さんと多部未華子さん。今泉監督の演出の特徴やリアリティとフィクションのあわい、役柄を創り上げた衣装について語る。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Saki Nakazawa (Hana Sugisaki), Okamura Haruki (FJYM inc. , Mikako Tabe) / hair & make up : Nakano Akemi (Hana Sugisaki), Eri Akamatsu (ESPER, Mikako Tabe) / interview & text : SYO

―― 杉咲さんは配信作品へのご出演は初めてかと思います。何か違いはありましたか?
杉咲花(以下、杉咲):どうなんでしょうかね。まだ配信前なので実感が薄いのもあるかもしれませんが、撮影の現場はこれまでとあまり変わりはないように感じていました。個人的にプラットフォームにこだわりがあったというよりも、今泉力哉監督や撮影監督の岩永洋さん、ヘアメイクの寺沢ルミさんといったずっとご一緒したかった作り手の方々と作品づくりができることが楽しみでした。
―― 個人的な感覚ですが、連続ドラマは視聴者それぞれの生活に入り込むぶん、劇場映画に比べて「寄り添う」意識が強いように感じます。『クロエマ』もまさに、そうした優しさを感じられる作品でした。
杉咲:本作で描かれているテーマは個々人の問題と言い切れないような、現代社会自体が抱えるものも多いのではないかと思います。それらが作中で解決することはほとんどないのですが、それでもいまの自分たちなりの答えを出そうとしていくこと、当事者ではない誰かが、他者の悩みや苦しみについて考えようとする姿勢に人と人の緩やかなつながりを感じられて、自分自身は励まされました。
多部未華子(以下、多部):観て下さる方に強くテーマを掲げていなくても、その人なりの納得の仕方を提示する作品になっているかなと思います。
きっとそれを象徴するのがクロエで、問題を解決するわけではないけれど各エピソードの最後でぽつぽつとパフェを食べながら自分の過去を振り返りつつ、自分の中で納得したり腑に落としたりしていきますよね。「そういうこともあるか」くらいのヒントで締めくくる役割を担っていたのかな、と感じます。

「クロエマ」より

―― 第 1 話では「役割を降りる」というセリフが登場しますが、各エピソードのテーマ性などについて今泉監督とお話はされたのでしょうか。
多部:各々のエピソードで「こういうことを言いたいんだ」という話はしなかったように思います。
杉咲:そうですね。物語として提示いただいた形でした。
多部:ただ、本読み(撮影前に行われる台本の読み合わせ)の際に今泉監督はセリフのスピード感やリズム、空気感についてこだわられていました。「もうちょっとゆっくりでもいいかもしれません」「セリフの一つひとつにもう少し間(ま)をもたせてみてほしい」といったご指示をいただいたことが印象に残っています。
杉咲:あまり受けたことのない指示でした。例えば、人の話を聞くシーンで自分が無意識のうちに相づちを打っていたときがあって。それをなくしてほしいと今泉監督に言われたことも印象的でした。
リアリティがあるかどうかだけでは成り立たないような作品かと思いますが、どこまでフィクション性をもたらせていくかの塩梅が最初は難しかったです。自分が演じたエマはちょっとエキセントリックな思考の飛躍がある人物ですが、視聴者の方々が置いていかれずに一緒にジャンプできるようなバランスを今泉監督は探ってくださっていたのかもしれません。

―― 本作は全 5 話ですが、読み合わせは全編通して行われたのでしょうか。
多部:クロエとエマが 2 人で話すシーンは全部やって、その他のシーンは抜粋したものでした。ボリュームこそありましたが、楽しい時間でした。
―― 杉咲さんは「杉咲花の撮休」(’23年)、多部さんは『アイネクライネナハトムジーク』(’19年)で今泉組を経験されていますね。
多部:ただ、前回はオールロケで今回はロケもありつつセット撮影が中心で、かつ漫画の世界観があったのでテイストはだいぶ違っているように思います。とはいえその中でどちらにも共通する今泉監督ならではの空気感は確かにありました。台本からも“らしさ”が感じられてすごく好きでしたし、その世界観を大事に演じたいと決めていました。小さな刺激をたくさんもらえるような現場でした。


「クロエマ」より
杉咲:長期間ご一緒するのは今回が初めてでしたが、そこにいる人や起こった出来事、画に映る全てに神経を注がれていらっしゃる印象でした。
クロエさんのおうちや喫茶店など原作を読んでイメージした世界観が現場に広がっていて、どこを見ても楽しくエレガントな空気が漂っていましたが、今泉監督がそれらをどう切り取るか 1ミリ単位で微調整を繰り返しながら撮影していく姿はとても新鮮でしたね。ある意味、常軌を逸したこだわりを持たれている方だと思うので、そういった要求に応えるのには根気が必要なときもありましたが、OKをいただけるまでの長い道のりにこそ価値を感じられる素敵な現場でした。



―― 杉咲さんは本作ならではのリアリティラインの調整をどのように行われたのでしょう。
杉咲:私は、多部さんの佇まいにすごく引率していただいたと思っています。一人で脚本を読んでいたときは、どういったアプローチがよいのかまだ輪郭がぼやけている感覚があったのですが、自分のペースで周りを巻き込んでいくクロエさんに緩やかに巻き込まれていけばいいのかもしれないと感じ、演じながら少しずつ道筋が見えていきました。
多部:ちなみに、私は特に調整はしていません(笑)。
―― まさに劇中さながらの関係性ですね。なお、おふたりは本作が初共演と伺いました。
多部:私は女性 2 人でメインのキャラクターを演じる機会がこれまであまりなく、そのお相手が杉咲さんと聞いたときに「絶対にいい刺激をたくさんもらえるはず」と思えました。それくらい、杉咲さんはご自身の存在感が印象的な作品に出ていらっしゃる方だと感じています。
杉咲:私は小さい頃からドラマっ子で「デカワンコ」や「山田太郎ものがたり」をはじめ多部さんの出演作をたくさん拝見していたので、ご一緒できることがすごく嬉しかったです。
画の中に多部さんがいらっしゃると温度が上がって、観ているこちらも明るい気持ちをいただける印象を持っていました。今回実際にご一緒してどっしりと現場に立たれている姿や、現場から離れるとメイクさんたちと談笑されている姿など、カラッと快活なご自身のリズムがあるところもカッコよかったです。
―― ちなみに、おふたりはエマとクロエの名前の付けられない距離感をどう捉えられましたか?
多部:お互いのことを否定するわけでもなく「私はこう思っています」「私はこうだと思うけど」と言い分をちゃんと言い合える居心地の良い関係だと感じます。
杉咲:自分の心に余裕ができたときに相手のことを想像してみたり、力になろうとしてみたり。精神的にフェアで健やかな関係性だと思います。


「クロエマ」より
―― クロエが占いをする際に着るのはLOKITHOのレースワンピース、エマと出会うシーンではMame Kurogouchiのスカート、さらにボッテガ・ヴェネタのニット(第2話)とコート(第5話)なども登場します。対してエマは「他人を不快にさせない」をテーマにした服選びをしつつ、シルエットやライン、素材感にこだわりを感じました。衣装合わせで話されたことや、衣装から受けたインスピレーションについて教えて下さい。
多部:占いのシーンは黒で締めるというコンセプトがあり、手元もゴージャスにしていただきました。お嬢様感があったり、どの衣装もクロエらしい個性があふれていて楽しかったです。撮影が夏場だったので暑くはありましたが、全部が可愛かったです。
杉咲:エマは突然家を出ることになってしまったこともあり荷物は最小限ですが、TPOを意識した服を着る人なのではないかと感じました。例えばエマは、劇中でずっと同じブーツを履いていますが、シンプルで可愛らしいだけではなく登山にも使えるような実用性のあるものが選ばれています。そういったディテールについても、スタイリストの渡辺彩乃さんと話し合いながら、エマという人物が立体的に立ち上がっていった感覚がありました。
エマは基本的には無地で落ち着いたトーンのTシャツをスラックスにタックインしているスタイルが多く、「他人を不快にさせない」と言いつつも自分でちゃんと意図を持って選んだものを着ているようにも感じます。個人的にはとても好きなスタイリングでした。



Hana Sugisaki
1997年生まれ、東京都出身。2016年に公開した映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞や第41回報知映画賞、第59回ブルーリボン賞の助演女優賞をそれぞれ受賞。また、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(’24年)で主役の川内ミヤビを熱演し、記憶障害を抱える医師という難役を見事に表現。NHK連続テレビ小説「おちょやん」(’20年)や映画『市子』(’23年)など数々の賞を受賞する確かな演技力で高い評価を得ている。本作の今泉力哉が監督・脚本を務めた’26年1月期のNTV系ドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね。」に主演し、話題となった。
杉咲さん着用:シャツ ¥22,000 リノ(エンライトニング https://lenoandco.com/contact/ )/ ジャンプスーツ ¥25,300 シティショップ(TEL 03-6696-2332)/ その他 私物
Mikako Tabe
1989年生まれ、東京都出身。2005年、映画『HINOKIO』『青空のゆくえ』での演技が高く評価され、第48回ブルーリボン賞新人賞を受賞し、一躍注目の的となる。NHK連続テレビ小説「つばさ」(’09年)でヒロインを好演。その後も第25回日本映画評論家大賞、第25回映画プロフェッショナル大賞、第8回コンフィデンスアワード・ドラマ賞で主演女優賞を受賞。以降、映画『アイネクライネナハトムジーク』(’19年)、『流浪の月』(’22年)、ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(’20年)、「いちばんすきな花」(’23年)、「対岸の火事〜これが私の生きる道!〜」、「シャドウワーク」(ともに’25年)など数々の話題作に出演。 現在、NHK連続テレビ小説「風、薫る」に出演中。
多部さん着用:ドレス ¥94,000 トーガ プルラ、ベルト ¥43,000トーガ トゥ(ともにTOGA 青山店 TEL 03-5962-7875)/ イヤリング ¥10,780 HUI、リング ¥27,500 KEIR.(ロードス TEL 03-6416-1995)/ ブレスレット ¥890,000 2A Diamonds(TEL 03-4500-9965)
「クロエマ」
監督:今泉力哉 脚本:今泉かおり
原作:海野つなみ
出演:杉咲花、多部未華子、岩瀬洋志 / 井之脇海、河井青葉、野添義弘、諏訪太朗 / 光石研
6月12日(金)より、毎週金曜日に3週にわたりPrime Videoにて配信。
製作著作:WOWOW
Ⓒ海野つなみ/講談社 Ⓒ2026 WOWOW
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