アーティスト、俳優、表現者として多彩な活躍を見せるアイナ・ジ・エンドさん。彼女の3rdアルバム『RUBY POP』が、11月27日(水)にリリースされる。2023年6月のBiSH解散を経て、ソロアーティストとして新たなフェーズへと歩み始めた彼女の3年間の軌跡が綴られた本作には、時に荒々しく、時に繊細にきらめく、まるで宝石のような17曲が集められた。自身もまた唯一無二の輝きを放ち続けるアイナ・ジ・エンドさんに、今作についてお話を伺いました。
photographs: Josui(B.P.B.) / styling: Ai Suganuma(TRON) / hair & makeup: KATO(TRON) / interview & text: Mizuki Kanno
「大切」たちを集めてみたら「宝石箱」のようなアルバムになった
——2ndアルバム『THE ZOMBIE』から約3年経ちましたが、前作のリリースから今日に至るまで、ご自身の考え方に変化はありましたか?
昨年は特に、6月にBiSHが解散したり、10月には映画『キリエのうた』が公開されたり。自分にとってターニングポイントの多い一年で、その分、壁にぶつかることも多く、もう辞めてしまおうと思ったことも何度もありました。その度に自分のチームの方々や友達が支えて、引っ張ってくれて。そのお陰でいまがあるし、成長できた3年間でした。
——今作は、そんなアイナさんの3年分の想いが表現されているような、「愛」に溢れた優しい楽曲が多い印象を受けました。
一番最後の「はじめての友達」は、周りの人への「ありがとう」の気持ちを丁寧に伝えたくて急遽追加した曲。今の私にしか書けないと思います。自分の人生という旅は、いつまで続くかわからないから、自分の大切な人たちを愛でて、「愛しているよ、大切だよ」ってちゃんと言葉でも、行動でも、伝えたいなと思ったんです。それができないまま、毎日を忙しなく過ごして、突然、旅の終わりを迎えてしまったら、とても虚しいですよね。いろんな経験を経たこのタイミングで、『RUBY POP』のリリースの機会をいただけたことは、とても大きかったです。
——「はじめての友達」はアイナさんの心の中を覗かせてもらったような、手紙のような曲だなと思いました。本楽曲を含め、全17曲が収録された本作は、アーティストとしてのアイナ・ジ・エンドの魅力が凝縮された作品ですよね。今作の制作にあたって、何か構想はありましたか?
「こんなアルバムにしたいから、こういう曲を作ろう」みたいなことはあまり考えていませんでした。BiSHの活動が終わった頃の自分は、もう本当に何もやりたくなくて。この先のことを全く考えられずにいたんです。なので、ソロアーティストとしての方向性を考える余裕もないままに、タイアップのお話しを立て続けにいただいて、自分のやりたいことといただいたものとを調和していく作業を続けた結果、出来上がった曲たちが今作に収録されています。
——だからこそ、幅の広い作品に仕上がっているんですね。
改めて振り返ると、どの曲にも大切な思い出があって。タイアップのために書いたはずなのに、自分の感情が吐露できているなとか、この曲はこういう人に届いたらいいなと思って書いたなとか、どの曲もめちゃくちゃきらめいているんですよね。そんな「大切」たちを集めてみたら、「宝石箱」のようなアルバムになったので、赤い宝石が弾けるイメージから『RUBY POP』というタイトルにしました。いや〜この3年間で、たくさんの曲をリリースしたんだなと改めて思います(笑)。途中で、Kyrieのアルバム『DEBUT』もリリースしていますから。
——Kyrieもこのアルバムには存在しているということですよね。
そうですね。『キリエのうた』の撮影中は、特に周りの人の優しさに助けられました。お昼にアイナ・ジ・エンドとしてバラエティに出演して、その同じ日の夜には新宿でKyrieとして歌わないといけない日があって。Kyrieは自身の死生観をしっかり歌う人なので、そのメンタルに持っていくためのスイッチの入れ方はとても複雑で、勇敢な心が必要なんです。でも、それがうまくできないまま、Kyrieとしてステージに立った時に、ワンワン泣いちゃって。そんな私を、広瀬すずちゃんがずっと抱きしめてくれて。本当に迷惑かけちゃったな。そういうこともひっくるめて、皆さんに「ありがとう」を伝えたかったんです。
自分の実力を認めてあげられたことは、大きな成長
——1曲目となる「風とくちづけと」もとても優しい「愛」に包まれた曲ですよね。
ニベアブランドのCMソングなので、柔らかく包み込むような音色というのが大前提にあって、そこに自分がいま持っている「愛情」や「柔らかさ」を掛け合わせたら、この曲ができました。バンドメンバーも、めちゃくちゃ優しいギターの音色を作ってくれたり、ピアノにもいっぱい布をかぶせて、心が落ち着く音質を表現してくれたり。みんなで一丸となって“柔らかさ”を追求した作品です。
——「Poppin’ Run」、「Frail」、「Love Sick」などジャンルの幅が広い楽曲が並ぶことで、アイナさんの歌い方、表現方法の違いも楽しめますよね。
それを最近、自分でも認めるようになったんです。BiSHがまだ地下アイドルだった頃、私の声は「アイドルらしくない」と言われることも多くて、悩んでいた時期もあって。だけど、少しずつフィーチャリングで呼んでもらえる機会も増えて、いろんな曲に合わせて歌う訓練も重ねたことで、自分の実力をもっと認めてあげようと思えるようになったんです。自分はダメだ、って思っちゃうと歌も固いし、一辺倒になっちゃう。自分を過信する訳じゃないけど、認めてあげることで、本来の力を発揮できるし、そこは今回のアルバムで見せることができた大きな成長だと思います。
——バンドメンバーのなかむらしょーこさんと一緒に作られている「Entropy」と「煽り癖と泣き虫」、「ハートにハート」なども、さまざまな経験を経たアイナさんの気持ちが素直に綴られているのかなと思いました。
誰が聴いても、耳障りが良いなと感じる曲を作りたかったんです。アイナ・ジ・エンドの曲は「Love Sick」など情念に駆られた激しい曲が目立つので(笑)、聴きやすい曲もあるんだよって、しょーこちゃんとひたむきに作りました。「Entropy」は、めっちゃでっかい服を着た犬が歩いていて、ブカブカで似合ってないから、私はクスッと笑うんですけど、「待てよ、自分も見合ってない動きをしていないか、背伸びしているんじゃないか」みたいな自問自答から曲が始まるんです。そんな時は少し休もうよ、って。忙しない日々を送る自分のテーマソングのような楽曲です。
——俳優に、アーティストにと本当に多忙な日々を過ごされていると思いますが、制作活動はどのように進めているんですか?
歌詞を書くことは自分の日課なんです。最近だと(メモ帳を見せてくれて)「自分が強気に出て相手は謝る。この光景で自分はへこむ。では弱気に出て相手を探る」。こんな感じで、自分の生き方の哲学みたいなことを書いてから、ポエムっぽく仕上げています。基本的には自責が多いです。もっとこうしておけば良かった。ああしておけば良かったって。自分がその時に感じたことを、2年後の自分が振り返ってもわかるように残して、そこから誰が読んでもわからない歌詞へと創作していく。そうすると自然に面白い言葉が思い浮かぶし、書けるようになるんですよね。
丁寧に歌を紡いで、届けたいと思った
——今作の収録楽曲の中で、アイナさん的に、特に印象的な楽曲を教えてください。
「宝者」は自分にとってターニングポイントになった曲です。真面目に、丁寧に、言葉とメロディーを伝えたくて、ボイトレにも通いましたし、そう思えたのは、この曲がはじめてだったんですよね。
——そう思うきっかけがあったんですか?
この曲は、TBS系日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』の主題歌で、家族愛がテーマのとても素敵な作品なんです。私が丁寧に歌を紡ぐことで、視聴者の方がより深く作品に入り込めるんじゃないかなって、おこがましいかもしれないですが、思ったんです。BiSHで8年間もロックをやってきたこと、ファルセットは逃げだと教わってきたこととかが頭を支配してしまい、それを取っ払う作業を「宝者」で初めてできました。ライブでも、ただ感情的に届けるだけじゃなく、丁寧に歌い紡ぐことを、アーティスト活動9年目にしてようやく学びました(笑)。歌の力だけでライブが成立するアーティストになるために、いまは鍛錬しています。
——「関係ない」からの「宝者」への流れがとても好きで、対照的な曲調だからこそ、よりアイナさんの歌声の魅力を幅広く味わえるなと思いました。
「関係ない」は私も大好きな曲で、一緒に作ったしょーこちゃんと2人で、何十回も聴いています。この曲は『キリエのうた』の撮影時期に書き下ろしていたんですけど、少しKyrieの世界観とは違うかなと思い、ずっと温めていたんです。なので歌詞とかはちょっとKyrieっぽい雰囲気もありつつ、「愛のカート200ccで走る人生」は、もう完全に当時の私がマリオカートにハマっていた影響ですね(笑)。まさに、アルバムの箸休め的な曲。なんだけど、みんなに勇敢な心も配れたらいいなと思って、ちょっと強い言葉も入れています。エレキも私が弾いているんです。
——今作のアートワークを手がけているのは、吉田ユニさんですよね。ユニさんの装苑での連載「PLAY A SENSATION」の最終回での息のあった共演も記憶に新しいので、またお二人の作品が見られて個人的にとても嬉しかったです。作品もとても素敵。
ユニさんとは『キリエのうた』のアートワークと装苑の連載でご一緒させてもらって、その2回ともすっごく楽しくて。毎回、ユニさんの脳内が覗きたくて仕方がないまま、お別れしていたんです。なので、シンプルにまたユニさんに会いたくて、オファーさせてもらいました。アートワークはもちろん素敵ですし、女性としても憧れの方なので。「宝石」という大きなテーマはお伝えさせていただきましたが、あとはユニさんに完全お任せ。素敵なアートワークを作ってくださって、とても嬉しいです。
——最後に、いまアイナさんが一番やってみたいことを教えてください。
私はアナログが好きで、レコードに針を落とす感じとか、毎日のその時間がとても大切なんです。だからアナログレコードに合う、優しくてチルっぽい曲をたくさん作って、もう一回アナログレコードで音源をリリースしたいな。それに合わせて、スタジオ配信とかもやりたいです。いまのアイナ・ジ・エンドの曲は歌いあげ系が多いですからね。落ち着いたムードで聴いてもらえるような曲を作って、これからももっといろんな表情を楽しんでもらいたいなと思います。
AiNA THE END
2015年に楽器を持たないパンクバンド「BiSH」のメンバーとして始動し、翌年にメジャーデビュー。’21年に全曲作詞作曲の1stアルバム『THE END』をリリースし、ソロ活動を本格的にスタート。’23年6月に東京ドーム公演を最後にBiSHを解散し、現在はソロで活動中。’24年1月にはTBS系日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』主題歌「宝者」を書き下ろし、同年3月公開の映画『変な家』では「Frail」が主題歌となる。さらに7月公開映画『劇場版モノノ怪 唐傘』にて自身初のアニメーション映画の主題歌に新曲「Love Sick」が起用される。今年3月に開催したワンマンツアー「Grow The Sunset」に続き、自身初の日本武道館公演「ENDROLL」も完売。11月27日に自身3年ぶりのアルバム『RUBY POP』を発売し、‘25年1月から全国8都市を巡る「ハリネズミスマイル」ツアーも開催される。
また、アーティスト活動の一方で、‘22年に日本初上演となったブロードウェイミュージカル「ジャニス」では主演のジャニス・ジョブリン役を演じた。’23年に岩井俊二監督の映画『キリエのうた』で映画初主演を務め、第47回日本アカデミー賞新人俳優賞、第48回報知映画賞新人賞などを受賞。アーティストとして俳優としても、その表現者としての才能を遺憾なく発揮している。
公式サイト https://www.ainatheend.jp/
X @aina_BiSH
Instagram @ainatheend_official
Youtube @aina_THEEND
AiNA THE END
3rd ALBUM『RUBY POP』
<初回生産限定盤> Album+Blu-ray2枚組 BOX仕様 ¥16,500
<通常盤> Album+DVD2枚組 ¥9,020
<通常盤> CD only ¥3,630
配信リンク:https://aina.lnk.to/1127_CD
MV「Love Sick」(『劇場版モノノ怪 唐傘』主題歌)
MV「Frail」(映画『変な家』主題歌)
MV「宝者」(TBS系 日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアッパシオナート~」主題歌)