アンリアレイジ・森永邦彦インタビュー。
展覧会『A=Z』と見据える未来

2023.06.20

森永邦彦によって2003年に設立されたANREALAGE(アンリアレイジ)の20周年を記念した展覧会『A=Z』が、7月2日(日)までスパイラルガーデンにて開催中。装苑ONLINEユーザーの皆さんには、アンリアレイジの数々の革新的なコレクションが頭に浮かぶかもしれない。 特にこの展覧会では、未曾有のパンデミック禍で世界が大きく変容した2020年〜2022年開催のデジタルショーのシーズンから、パリ・ファッションウィークで発表した原点回帰的な2シーズンのコレクションまでが一堂に並ぶ。装苑ONLINEでは、会場の見どころとデザイナー森永さんのインタビューという二部構成で、アンリアレイジの過去と未来に迫ります。

photographs : Josui (B.P.B.)  / interview & text : SO-EN

この記事の内容
p1  アンリアレイジデザイナー森永邦彦インタビュー
p2 展覧会の見どころ&展覧会に行くなら知っておきたいコレクションの基礎知識

森永邦彦インタビュー
AとZをつなぐように、異なる世界を結ぶ。コロナ禍を経て見えた次の20年の射程

非日常の中で、自分たちなりの日常を表現しなくてはならない、という覚悟が早い段階であった。

――過去の全コレクションの写真が貼られた展覧会場の壁を見て、あらためて20年の重みを感じています。森永さんにとってこの20年間は長かったですか?それともあっという間でしたか?

森永邦彦 たくさん作ってきましたよね。20年というのは、年月としては長いはずなのですが、振り返ればやっぱり早いですね。どのシーズンも鮮明に覚えていますから。

HOME(2021年春夏)

GROUND(2021-22年秋冬)

――この展覧会で展示されているのが、パンデミック禍で発表されていた2021年春夏から2022-23年秋冬コレクションまでと、フィジカルショーが復活してからの2023年春夏、そして2023-24年秋冬コレクションです。
パンデミックの頃を思い返すと、どのブランドも発表方法を模索して試行錯誤していましたよね。その中でも、アンリアレイジは生き生きとデジタルショーを行っていたような印象を持っていました。どのショーも練り上げられていて、面白くて。「HOME」「GROUND」「DIMENSION」「PLANET」というデジタルショーをやっていた頃、森永さんはどんな可能性と未来を感じられていたのかを教えていただけますか?

森永邦彦 パンデミックが起こって、突然、今まで当たり前だと思っていたことができなくなってしまいましたよね。僕はまさかパリに行けなくなる日が来るなんて思いもしませんでしたし、人と集まって服作りをする場が失われるとも思っていなかった。そうして急に訪れた非日常に対して、デジタルコレクションという概念が生まれました。あの頃は全く先が見えなくて、また日常が戻るかどうかもわからなかった。
それなら非日常の中で、自分たちなりの日常を表現しなくてはならない、という覚悟が早い段階であったんです。そうして考えていくと、デジタルだからこそできることはたくさんあったんですよね。デジタルの世界には、まず重力の概念がありません。それからスケールの概念もないですし、時間の概念もないような世界です。であれば、それを自分たちの表現として――奇しくもそれは時代が与えたものなのですが――、全てファッションや服の形にしていくことでしか、アンリアレイジというブランドを続けられないだろうなと思っていました。

すると、自分たちが今まで考えもしなかったような表現がどんどん出てきたんです。画面の中で天地をひっくり返すこともできましたし、2050年のような世界を描くこともできました。重力が1/6くらいしかない世界も、アニメーションと一緒にファッションを作ることもできた。これらは、環境や時代性がなければ絶対に生まれなかったものでした。今、作ろうと思っても作れないものです。

DIMENSION(2022年春夏)

PLANET(2022-23年秋冬)

――発表方法こそデジタルでしたが、例えば「PLANET」(2022-23年秋冬)であれば、キルティングの細かさや凝ったパターンワークを画面から感じて、「実際に見てみたい、触りたい」という、現実とつながった感情が起こりました。そこで伺いたいことが二つあります。まずは、パンデミック禍で発表されたデジタルショーで「異なる二つの世界をつなぐ」というテーマが深化された背景には、どんな思いがありましたか?

森永邦彦 パンデミック禍で行ったコレクションには、すべて「対立する二つの世界をどうつなげるか」というテーマがありました。その根っこには、日常と非日常に切れ目が入ってしまった状況で、その二つの世界をつなぎたいという思いがあったんです。今回の展覧会のタイトルを『A=Z』としていますが、デジタルコレクションでまさにその対極の二つとして取り上げたのが、天と地、地球と月、二次元と三次元、そして衣と住。でも最も大きかったのは、「デジタルとリアルをつなぐ」ということだったんです。

それがちょうど、今回展示もしているデジタルのマネキンとリアルなマネキンが共存するような世界や、デジタルショー以降のコレクションで発表した、画面の中では表現できないものを作りたいという欲求につながっています。

――続くもう一つの質問ですが、デジタルショーだからこそ、つまりパンデミック禍を経たからこそ洋服の作り方が変わった部分はありますか?

森永邦彦 パンデミックの間は、服作りが全てデジタルに変わりました。デジタル上でパターンを作ってデジタル上でフィッティングを行い、デジタルで発表して、さらにデジタルなものをNFTで売るという・・・。全て形がないんですよね。形がない中でデータとしての形を作り、それが最終的にリアルな形にもなるというやり方でした。コロナ禍という状況がなければ、服の作り方を変えようと思ったこともなかったので、これまでの様々な制約から解放されて、自由な造形ができた期間だったとも思います。

――そうしてパンデミック禍で確立された服作りの方法論は、今も継続されていますか?

森永邦彦 そうですね。人の手で作れるものとデジタル上で作れるものはイコールではなくて、それぞれに違う良さがあります。コロナ前は手作業のみで、コロナ禍ではデジタルだけでした。今、その二つを融合することができているので、異なる両方の良さを取り入れた服作りが始まっています。

A&Z(2023年春夏)

――2023-24年秋冬の最新コレクション「=」だと、その融合はどのルックに見られますか?

森永邦彦 このシーズンは、前後がすべて同じ形でできています。これまでであれば、何パターンもトワルを組んでフォルムを検証したと思うのですが、それを今回はデータ上で行いました。そして、服の色や柄を変えるための紫外線を出すロボットアームの演出や、その光の強度、それによってどれくらいの発色になるかもすべてデータ上で先にシミュレーションしています。

――デジタルを使うことで、よりクリエイションの精度を上げていくことができているんですね。

森永邦彦 今回の展覧会『A=Z』でフォトクロミック素材の服が展示されているエリアでも、ちょうど服が紫外線を出すロボットアームの前まで一周する頃には、色や柄が消えるような設計にしています。それもまずはデジタル上で、光を当てる速度などをシミュレーションしていました。
ブランドを始めた頃は、デジタルで服を作ることは違和感でしかなくて、しっくりこないところが多かったんです。それが今はもうデジタルがあることがベースになっていて、当たり前のようにシミュレーションしたり検証したりしています。最近手がけたビヨンセの衣装も、デジタルでデザインした服を、デジタル上でプレゼンテーションしていました。日本と海外のように距離がある仕事は、実際の物を送ってやりとりすることはなかなか現実的ではないので、クイックに、1日の中で何度も修正と確認を繰り返して完成イメージを作れるデジタルを使った制作方法が相応しいと思っています。それでも現場で修正はあったのですが……(笑)。

螺旋形ができているイメージなんです。

――森永さんはコロナ禍からメタバースのファッションションウィークにも参加され、アイテムをNFTで販売されています。そうした経験を通じて、ファッションデザイナーの仕事への意識が変わったことや、気づきなどがあれば教えていただけますか?

森永邦彦 もう、確実に世界は二つあって、画面の中の世界も、画面の外の世界も「日常」です。そして「ある日常」に対して、「非日常」は必ずどこの場面でも作れると思っています。現実世界であれば、洋服の形やマテリアルで非日常性を作っていく。そしてメタバース空間のような、もう一つの日常のコミュニティやコミュニケーションの中では、ファッションの要素が重要視されはじめています。人々が何か違う形に、つまりアバターになりたいのであれば、装いへの欲求も生まれてくるんですよね。それは必ずしも服の形をしていないかもしれませんが、メタバース空間の中でファッションデザイナーができることはたくさんあると思っています。

ただ、メタバースのファッションは現実と接続されているわけではないことも感じています。今はまだ、リアルな世界のファッションを好きな人がデジタルウエアを買うという状況ではないかなと思っています。

=(2023-24年秋冬)

――本展のお知らせをいただいた時、森永さんから「やればやるほど課題が見えてくる」というメッセージが添えられていたことが忘れられません。今、最も課題だと思っていらっしゃることは何でしょうか。

森永邦彦 フォトクロミック素材の服は、最初、10年前に発表していて、パッチワークは20年前。ファッションの世界は同じであるということに否定的で、それがネガティブな要素になりやすいのですが、一つのことを行うと、そしてそれを続ければ続けるほど、「もっとこうできたのに」といった課題が見えてきます。一見、同じことを繰り返しているように見える中にも新しさがあると思っていて、それがやればやるほど見えてくるといいますか。

フォトクロミックであれば色変化の速度や色彩そのもの、自然との関係性など、やるべきことがどんどん生まれてくるんです。パッチワークでは素材の幅や形のバリエーションが広がっていて、こちらも終わりがありません。
そうした意味も込めて、展覧会の什器に円環を使っているんですよね。本当は直線的に、スタートとゴールがあればいいのですが・・・こう、くるくると回って2周、3周目に入るような螺旋形ができているイメージなんです。それでも見える景色は変わっていく。

――テーマや技術を深めた先に新しさを作り出す。それが、今後、挑戦したいことにもなりますか。

森永邦彦 それこそを挑戦したいです。10年前の自分が、2023-24年秋冬コレクションを見たら、「フォトクロミックがここまで進化したか」と驚くでしょうね。全然違うところに作ったものを投げるのではなくて、今まで置いてきた石の間を埋めていくようなことも、これからの20年間にあるんじゃないかな、と思っています。

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