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上白石萌歌の
ぐるぐるまわる、ときめきめぐり
Vol.16  歌人 伊藤 紺

上白石萌歌さんがジャンルを問わず、今気になる人を訪ねて循環問題やサスティナブルをキーワードにお話を伺う連載。今回は今年1月に上白石さんの初写真展「かぜとわたしはうつろう」で、写真に短歌を寄せた歌人の伊藤 紺さんを迎えてのトークです。かねてから一緒にものづくりをしたいと望んでいた上白石さんの夢がかなった展示は、好評のうちに終了。あれから2カ月。2人の表現者のさまざまなエピソードをここでお伝えします。

初写真展で初コラボレーション

上白石萌歌(以下 上白石) 2か月ぶりですね。写真展の時のあの時間は本当に楽しかったです。あの時間があったから今年はどんなことも超えていけるなって思っています。

伊藤 紺(以下 伊藤) とても素敵な展示でしたね。初めての写真展だったんですよね。

上白石 はい。ずっとお会いしたかった紺さんと、展示制作でご一緒できて光栄でした。

今年1月に開催された上白石萌歌さんの初の写真展

伊藤 わたしも声をかけていただけて嬉しかったです。写真に言葉を添えるのはたまにあるのですが、展示している写真に言葉を添えたのは初めて。とても新鮮で、言葉とじっくり向き合えた幸せな時間でした。

上白石 歌人の方とのかかわりがあまりなくて。

伊藤 いないですしね。そんなに(笑)。

上白石 この連載で木下龍也さんにお会いしたことはあるのですが、ここまでじっくり歌人の方とご一緒したことはありませんでした。普段お芝居する時などは何かしらベースのあるところから作り上げるんですが、今回のように何もないところからものを作るのは初めてで。それがあんなに最高なものに仕上がったのは自信にも繋がったし、これからもアンテナを張って好きなものを深めていきたいと思いました。

伊藤 次になにかやるとしたら、もう一度写真を?

上白石 建築も好きなのでそういうことか、今回の写真展の巡回展もやりたいです。写真展での紺さんとのトークショー、とても良かったですよね。すごく盛り上がりました。

伊藤 30分間だから概要を話して終わっちゃうかなって心配だったけれど、創作の話などの内側の話をきちんと伝えられたのが良かった。

上白石 そう、あの場がとてもいい空気に包まれていましたね。あのトークショーで紺さんのパーソナルな部分を初めて知ることができました。そもそも私が紺さんの歌に出会ったのは2022年11月。とあるブックホテルに宿泊した時。12月から仕事がハードになるからその前にそこに泊まって、いったん自分を安らげようって。そこで紺さんの「肌に流れる透明な気持ち」を見つけて、恋に落ちたような感覚になったのを今でも覚えています。

伊藤 短歌って一行で短いから、忙しい人にもやさしいよね。小説だったら最初から最後まで読まないといけないけど、1首だけでも楽しめるのが短歌のいいところですね。

紺さんの生み出す言葉はまるで天然水

上白石 短歌は敷居が高くて古典の授業で習う高貴なものだから、自分が踏み入れていいフィールドじゃないと思っていたけれど、紺さんのこんなに柔らかい短歌に出会って考えが少し変わりました。

伊藤 わたしはそもそも文学少女とかではなかったので……。単純に平易な言葉しか語彙にないというのはあります(笑)。日常で使っている言葉で短歌を書いていることが、結果的に短歌の間口を広げることに繋がっているならうれしいです。

上白石 紺さんの言葉は、天然水みたいに自然と体に浸透する言葉なんです。柔らかくて自由な言葉たちにずっと身をゆだねたいと思うくらい。本の装丁も好きです。文字がぐるぐるレイアウトされていたり、ちょっとした色使いも素敵。あと短歌に“バファリンルナ”の文字を入れたのは紺さんぐらいしかいないですよ(笑)。

味方になってくれる神様はいるはず

伊藤 「肌に流れる透明な気持ち」はいちばん最初の作品で、特にものすごく考えたわけじゃなく、とても自由に作れました。最初だから何にも縛られずに自由に好きなことができたんですね。萌歌さんは写真展でそういうのはありましたか?

上白石 写真に関してはそうではなかったんですが、お芝居は最初の方が簡単に思えました。人生初のお芝居が、母親の遺影を見て泣くシーンだったのですが、意外とすんなりできてしまって。“あれ、お芝居って難しくない”って。10歳だったんですけど、あの時の自分がいちばん最強。初めて物事に取り組む時って、怖さもあるけどまっさらだし、自分に期待していない分可能性もあるし。そういう感じでしたか?

伊藤 そうですね。『肌に流れる透明な気持ち』は短歌を始めて4年目のときの本で、もちろんその時なりの葛藤はあったけれど、今思えば無敵でしたね。わからないからこそできたというか。今見ても勢いは感じます。当時はやればやるほど進んでいけるような感覚があって。向いているというか、小さいながらに才能があるみたいなことなのかな。萌歌さんは例えば、才能を感じないことにも夢中になれますか?

上白石 やっぱり無理だなって思うことは、最初から上手くできないです。それぞれ短歌とかお芝居とかに神様がいて、それが向いている仕事だったとしたら、神様はちょっと優しく味方になってくれるのかな。

伊藤 そう、神様っていますよね。

上白石 才能を感じることでも、最初できたことがだんだん難しくなっていくこともあって。でも、それもそのことを深めていく一歩。わからなくなるって、自分にとっては大事な事だと思います。

伊藤 わからなくなるっていうのは、自分にちゃんと理想があるっていうことですよね。「こうなりたい」「これじゃないとだめ」とか。そう思えるからそこから伸びていけるわけで。もう一歩上に行きたいというときに必要なフェーズですよね。

上白石 嫌いになるほど好きっていうこともあるし。ものづくりをしている人には通ずるところがありますね。

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