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本好きの本棚
文筆家、映画監督 戸田真琴さんが選ぶ3冊

読書家のあの人に、影響を受けた3冊を尋ねるインタビュー「本好きの本棚」。今回のゲストは、被写体としてのみならず、執筆業や監督、プロデュースなど多くの才能を輝かせている戸田真琴さん。『永遠が通り過ぎていく』で映画監督としても活動する戸田さんの、表現やものづくりの源泉を3冊の本から探ります。

photographs : Jun Tsuchiya(B.P.B.) / text : Izumi Kubo
『装苑』2022年5月号掲載

Makoto Toda ● 文筆家・映画監督・元セクシー女優。「いちばん寂しい人の味方をする」を理念に言葉と映像で活動中。監督作に『永遠が通り過ぎていく』(U-NEXTで配信中)、既刊に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(角川書店)、『そっちにいかないで』(太田出版)がある。9月7日に発売のworld’s end girlfriend新作アルバムにて詩の提供も行っている。また、新作映画制作のためのクラウドファンディング「戸田真琴、カンヌに挑む。『さじを投げる』制作プロジェクト」をMotion Galleryにて10月19日まで開催中。詳しくは https://motion-gallery.net/projects/todamakoto-shortfilm
Instagram @toda_makoto

眩しい孤独に出会った  友人のように愛する3冊

短編小説を上梓しエッセイも多く執筆している戸田真琴さん。戸田さんが「孤独な人、自分が優しいことに気がついていない優しい人に観てほしい」と言うのが初めて映画の監督を務めた、『永遠が通り過ぎていく』(U-NEXTで配信中)。その心の内にあったのは壊れそうなたったひとつの深い愛。だから映画に込めたのは、戸田さんが見てきた美しい景色だという。その景色は本の中にも広がっていたそう。

「教科書に載っていた宮沢賢治の『やまなし』がとても好きでした。文字から景色を想像して構築しなくても、文字からそのまま景色が見える感じがしましたね。それで高校生の頃に『銀河鉄道の夜』を読んだら、たまらない気持ちになりました。友人に、戸田さんの文章は『銀河鉄道の夜』のアニメを思い出すと言われてアニメも見ましたが、小説で読んで頭の中に見えたもののほうが、比べようがないくらい綺麗で、しくって、悲しかったんです。そう思ったときに孤独だなと感じましたが、その感覚はものを作る人として正しいことだとも思う。だから私はこれからも映画や小説を創作するのだろうなと思いました。そういう意味で、自分に立ち返りたいなというときに持って出かける本です」

『銀河鉄道の夜』宮沢賢治 著 ¥484 KADOKAWA
ある銀河のお祭りの夜に、不思議な光に包まれ銀河鉄道に乗ったジョバンニとカムパネルラ。二人の幻想の世界が美しく、そしてまばゆく描かれている。創作にあたって戸田さんが大事にしている、「孤独」を感じられる作品だそう。宮沢賢治の作品は、初めての小説を書く前に『よだかの星』も読んでいたという。

 本当に寂しい気持ちになれるという宮沢賢治の作品。対して、次に挙げたサン=テグジュペリの『夜間飛行』では、寂しさではなく、分かり合える友人に出会ったような嬉しさが込み上げたそうだ。

『夜間飛行』サン=テグジュペリ 著、堀口大學 訳 ¥605 新潮文庫
南米大陸で夜間郵便飛行という事業に命をかけた男たちの物語。パタゴニアからブエノスアイレスに帰還する飛行機を操縦するファビアンと、支配人で冷徹なリヴィエール。その冷徹さは命のためであり未来のためであった。著者本人がパイロットだった経験を書いた作品で、リアリズムがありながらリリカルでもある描写によって、風景が読み手の前に現れる。

「町や光の見え方、暗闇、空を飛ぶ孤独なんかの表現が分かるなあと思いながら読みました。見えている景色の解像度が近いような質感があって、まさに分かり合える友達のようでした。私は、知性と冷静さ、時に冷酷であることは、実は大事な優しさであり正しさだと思います。この本には、そうあるために思考を停止しないことや、本当の意味で正しく命を使うことが描かれている気がしてすごく好きな作品です」

 本当に悲しいことを本当に悲しく書くために、孤独を思い出すために本を読むという戸田さん。創作物においても孤独な人に惹かれるそうで、木崎みつ子さんの『コンジュジ』はそんな主人公の女の子から目が離せなかった小説だ。

『コンジュジ』木崎みつ子 著¥1,540 集英社
手首を二度も切った父と、娘の誕生日に出ていった母。小学生ながらも過酷な現実を生きている主人公・せれなは、ある日テレビで見た、もうこの世界にいない伝説のロックスターのリアンに一目で恋に落ちる。美しいリアンを、辛いことがあるたびに空想の中で抱きしめるせれなだったが……。その果てに描かれるラストに胸を打たれる。

「最後まで読んだ後、すごく静かな感覚を受け、種類の分からない涙が出ました。死についてメタファーで描かれている作品で、ラストは夢を見続けた自分を埋葬する行動なんだろうなと思います。人生の要素は、生まれること、死ぬこと、その途中の全てのこと、この3つに分けられます。その中で、死というのは何か強烈に傾いてしまったバランスをゼロに戻すことなのかなとこの小説から感じましたね。私にとって文章は一人でできる愛で、誰にも会わないままできる愛。一人で一人の人に出会うことができます。正攻法では人に愛を伝えることも、見たものの美しさを伝えることもできません。それでも愛のために生きなくてはいけないので、私は書き手で居続けたいと思っています」

writer : Izumi Kubo 久保泉 
文筆家・編集者・キュレーター。文化学園大学で服装社会学を専攻したのち、アートやカルチャーにまつわる仕事をしながら2016年より詩を書き始める。2020年にグラフィックデザイナーの大坪メイとブックレーベル「bundle」を、2022年に演劇プロジェクト「aizu」を立ち上げる。2023年10月と2024年1月に詩の個展を開催予定。
WEB:https://izumikubo.com
Instagram:@izkoh123

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