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ニットは本当にサステイナブルなの?

それぞれの視点で取り組む
サステイナブルなものづくり

グローバルなデザイナーズブランド、老舗のニットメーカー、海外と日本の若手デザイナー。

それぞれのフィールドにおける、それぞれの思考とアプローチに着目する。

Global designer’s brand

STELLA  McCARTNEY

ステラ マッカートニー

サステイナブル ラグジュアリーの象徴的存在が、ステラ マッカートニーであることにきっと異論はないはずだ。テーラリングを重視したコレクションは、マニッシュな装いによってエレガンスを際立たせ、同時に発表されるドレスは成熟した色気と品格を漂わせる。コレクションを支えるのが、徹底されたサステイナブル素材である。

ステラ マッカートニーの信念は2001年のブランド設立時から明確だった。動物性レザーやファーを一切用いない姿勢も含め、「正しいこと」と「美しいこと」を両立させるデザインで、ファッション業界に持続可能性の新しいスタンダードを提示してきた。

オーガニックコットンなどを早くから採用してきたが、ステラ マッカートニーはニット分野でも再生素材の使用を拡大してきた。その代表と言える素材が、2016年以降に導入したリ ヴェルソ(Re-Verso™)である。

ヴァージンカシミアは、4頭の山羊からセーター1枚分しか取れず、過剰な放牧によってモンゴルの草原の約7割が砂漠化の影響下にあるほど環境負荷が高い。この状況を受けてステラ マッカートニーは2016年にヴァージンカシミアの使用を全面的に廃止。オルタナティブな素材として、イタリアのニット工場で廃材となったカシミアから再生されるリ ヴェルソへと切り替えた。

再生カシミアであるリ ヴェルソは、ヴァージンカシミアと同等の柔らかさと保温性を持ちながら、その環境負荷はヴァージンカシミアのおよそ7分の1に抑えられている。ラグジュアリーな質感を保ちながら、破壊的な影響を伴わない。廃棄物を資源へと編み直すその仕組みこそ、サステイナビリティの王道を示すものだと言えよう。

ニットは1本の糸から服が完成するきわめてシンプルな仕組みを持つ。そこにリ ヴェルソのような再生素材が用いられることで、サステイナビリティの理念が二重に編み込まれたアイテムが生まれる。服は「消費されるもの」だ。しかし、今求められるのは「消費だけで終わらないもの」。ステラ マッカートニーは、パリ モードというファッションの中心で正しさと美しさを両立させる。彼女の信念は、ニットという日常的な衣服においても揺るがない。

Long-established manufacturer

ジョンストンズ オブ エルガン

Johnstons of Elgin

1797年創業のジョンストンズ オブ エルガンは、スコットランドを代表する老舗ニットブランドである。糸の紡績から素材の仕上げまでを自社で担う垂直統合型の工場を持ち、プロダクトの品質は2世紀以上にわたり世界で評価され続けてきた。生産の全工程を一貫して管理する仕組みは、効率性ではなく「妥協なき品質」を守るために存在している。

2024年に発表した、ディオールの2025年クルーズコレクションでコラボレーションを実現。 アーカイブのアーガイル柄や地図モチーフが新たに解釈され、パリのメゾンを舞台に世界へ送り出せたことは、クラフツマンシップが今なお最高水準であることを示す。伝統的な意匠が、国境を越えて現代のランウェイに蘇った背景には、産地と歴史を継承するという使命感があった。

そのことを証明する取り組みが、SFA(サステイナブル・ファイバー・アライアンス)と連携して進める教育プログラムである。2019年に始動した牧草地管理コースは、モンゴルの遊牧民の子どもたちに持続可能な放牧や環境管理を教えるものだ。

過酷な自然環境の中で育まれてきた牧畜の知恵に、現代のサステイナビリティ理論を重ね合わせることで、文化と環境の双方を守ろうとしている。持続可能性を「素材」や「生産」だけでなく「知識」として次世代に伝える姿勢は、同社の創造性がものづくりだけに留まらないことを物語る。

教育を資源とみなし、子どもたちの学びに投資すること。世界最高峰のメゾンに選ばれる技術を持ちながらも、足元では未来の担い手を育てること。クラフツマンシップの基盤は「人」にある。200年以上続くブランドは知っている。持続可能性の新しいかたちは、伝統を受け継ぐ地域や職人たちが創っていくことを。

ジョンストンズ オブ エルガンは、これまで教育と技術継承を「システム」として組み込むことで、サステイナビリティを日常的な営みに変えてきた。歴史に支えられた技術と、次世代を育む教育。その二つはループのようにつながり、未来のニットを編む確かな礎となる。

Johnstons of Elgin
WEB: https://johnstonsofelgin.com/ja-jp

Newcomer from Finland

ロルフ エクロス

ROLF EKROTH

オンラインポーカーでプロとして生計を立て、世界有数のデザイン教育機関であるヘルシンキのアールト大学に入学したロルフ・エクロス。先の読めない歩みは、まるでポーカーの一局のようだ。彼は、次々に新星が現れる北欧ファッションの中で独自の存在感を放つ。

創作の源泉は、故郷フィンランドの文化と記憶にある。2024-’25年秋冬はソファに腰掛けて冬季オリンピックを観戦する習慣を、2025年春夏では伝統のダンス文化「ラヴァタンシット」をテーマに据えた。雪を想起させる球体モチーフをあしらったニットなど、ワークウエアにノスタルジーを重ね、現実と幻想の狭間を突く。だがその幻想は燦々と明るいものではなく、夜明け前の薄闇をまとう。

このダークでファンタスティックなストリートウエアは、素材の約80%をリサイクルやデッドストックで構成する。環境配慮と文化的記憶を同時に実践する姿勢が、ブランドの核をなしている。

さらに2024-’25年秋冬と2025年春夏には、フィンランド最大の毛糸メーカー、ノヴィタと組み、編みキットを展開した。布帛の服作りが裁断や縫製、ミシンを必要とするのに対し、ニットは糸と編み棒さえあれば始められる。制作工程のシンプルさは、誰もが参加できる敷居の低さをもたらし、服作りの主体をプロから生活者へと開放する。

ロルフは完成品ではなく、「編む体験」そのものを消費者に手渡した。自ら編んだ服には愛着が宿り、その寿命は自然と延びていく。この試みは、ニット文化を生活の中に浸透させると同時に、編むという行為を通じて消費者自身を循環の一部に組み込むものだ。

サステイナビリティといえば「素材の再利用」に焦点が当てられることが多い。しかし、ロルフは「デザイン資源の共有」という発想で、消費者体験型のサステイナビリティという新しい形を示した。母親の手編みをコレクションに取り入れる彼にとって、資源とは素材や技術だけを指すものではなかった。体験、そこから生まれる人間の記憶も資源であり、巡り巡るもの。ニットはそのジョーカーになりえる。次の手札を、ロルフはどんなカードで見せるのだろうか。

ROLF EKROTH
WEB: https://rolfekroth.com/

Newcomer from Japan

オープン セサミ クラブ

OPEN SESAME CLUB

2022年春夏シーズンに誕生したオープン セサミ クラブは、東京を拠点に活動する新鋭ニットブランドである。デザイナーは文化服装学院アパレルデザイン科出身の緒方美穂。「遊び心があって、日常の特別な一幕を思わせるような服」をコンセプトに掲げ、日常着の中にユーモラスな仕掛けを忍ばせている。ブランドを象徴するのは、果物のドリアンを彷彿とさせる〈durian〉シリーズ。表面を覆うトゲのような編み地は奇妙さと愛嬌を併せ持ち、見る者を惹きつける。

スタイルの軸にあるのはカーディガンやロングスカートといったコンサバティブなアイテムだが、そこにクールな色調と鮮やかな差し色を掛け合わせることで、洗練と遊び心が同居する軽妙なバランスを実現する。大人の落ち着きと子どもの無邪気さが共存する服。それがオープン セサミ クラブの魅力であり、ニットという素材を通じて日常に小さな物語を生み出している。

同ブランドのサステイナビリティは、ウールという動物性素材に対する姿勢に最も表れている。羊の飼育場での動物福祉や環境管理を保証するRWS(レスポンシブル・ウール・スタンダード)認証ウールや、子羊に麻酔なしで皮膚を切除するミュールジングをせずに生産される、ノンミュールジングウールを積極的に採用している。重要なのは、動物由来素材を一切排除するのではなく、尊厳を守りながら共存する方法を選択している点だ。

動物との関係性を見直しつつ、素材の魅力は活かし続ける。そこには「より良い形へと改良していく」という、日本的な改善志向が透けて見える。理念を声高に掲げるのではなく、現実の産業や文化の中で無理なく適合する方法を探る。その姿勢は、ファッションを実用性とデザイン性の両立として捉える、現実的なサステイナビリティの在り方を提示している。

その名がアラビアンナイトの呪文「開けゴマ」に由来するオープン セサミ クラブは、好奇心が躍るようなデザインと、動物との共存を前提とした素材選びを大切にする。日々の改善を重ねることで明日を編む。未来へつなぐオープン セサミ クラブの物語は、これからも続く。

OPEN SESAME CLUB
WEB: https://www.open-sesame-club.com/



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