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ニットは本当にサステイナブルなの?

ニット。
その歴史は古く、エジプトの遺跡からもかぎ針で編んだ靴下などが見つかっているという。

古来から人々の暮らしに寄り添うニット。現代において、ニットは最もサステイナブルな素材といわれることが多いが、果たしてそうなのか。あらためてここで考えてみたい。

text: Shigeaki Arai(AFFECTUS)


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ニットは、究極のサステイナビリティ。そう断言してしまうのは少し大胆に聞こえるかもしれない。だが、布帛と根本的に異なるニットの構造を知ると、その感覚は決して誇張ではないと思えてくる。

布帛は、織られた生地を裁断し、縫い合わせて服に仕立てる。一方でニットは、1本の糸から直接、服の形を立ち上げていく。カーディガンも、プルオーバーも、リブもケーブルも、アーガイルやノルディックといった柄も、編み方次第で同じ糸から無数の表情が生み出せる。この「1本の糸から服ができる」という極限までシンプルな構造こそ、ニット最大の特徴であり、サステイナビリティの本質に最も近いのではないだろうか。

「サステイナビリティ」という言葉は耳慣れて久しい。けれど、その意味は思ったよりも広く、そして深い。1987年、国連の報告書で「今の世代の必要を満たしながら、未来の世代の可能性を奪わないこと」と定義されて以来、サステイナビリティは世界中に広まった。

その根本には二つの視点がある。ひとつは、限られた資源を使い切らずに未来へ手渡すこと。もうひとつは、環境・社会・経済という三つを、片寄らずに保つことだ。

ファッションに置き換えれば、「環境=廃棄やCO2を減らすこと」「社会=作り手の労働や文化を守ること」「経済=ブランドや産地が続いていく仕組みを作ること」に例えられるだろう。サステイナビリティとは、この三つを同時に満たそうとする、大きな営みの名とも言える。

ファッションにおけるサステイナビリティ 環境 廃棄やCO2を減らすこと 社会 作り手の労働や 文化を守ること 経済 ブランドや産地が続いていく 仕組みを作ること KNIT “1本の糸から服ができる”という構造 ➡︎サステイナビリティの本質に 最も近いのではないだろうか SUSTAINABILITY
ファッションにおけるサステイナビリティ 環境 廃棄やCO2を減らすこと 経済 産地・ブランドが続く 仕組みを作る 社会 作り手の労働や 文化を守る KNIT 1本の糸から服ができる”構造 ➡︎サステイナビリティの本質に 最も近いのではないだろうか
ニットの構造が、環境・社会・経済の三要素を同時に成立させる。

では、その枠組みの中でニットは何を満たすのだろうか。

まず環境。ニットは裁断を前提としないため、生産時の廃棄ロスが圧倒的に少ない。さらに、理論上は、ほどけば1本の糸に戻り、再び編み直すことができる。量産品のニットでは、長期間の使用によって耐久性が低下し、ほどく過程で糸が切れてしまうなどの制約はあるものの、「ほどけば資源へ還る」という構造は、未来へ資源を残す象徴的イメージとして力強い。それはイメージだけに終わらず、補修・再利用・アップサイクルなど、既存資源を活かす循環型デザインに紐づき、持続可能な取り組みにつながっている。

次に社会。1本の糸から服が形を成すという構造は、同じものを二度と作れない偶然性や、作り手の「意思」の痕跡を呼び起こす。だからこそ、その服は「他にない一着」として受け止められる。その唯一性は、持ち主に強い愛着を生み、結果として廃棄という行為を遠ざける。それが、太番手の紡毛糸を使った手編みであれば、1目ごとに編み手の時間と思いが刻まれる。その服は、より強い愛着を呼び起こすだろう。

さらに「ほどく=過去」「編む=未来」という比喩性が含まれるニットは、服作りの背景や時間の物語を感じさせる。近年、消費者は作り手や産地のストーリーに共感し、購買を決めるようになった。ニットはその物語性を最も自然に体現する素材だ。

最後に経済。同じ糸でも編み方を変えれば無限のデザインが生まれる。少ない資源から多様な価値を引き出せる効率性は、持続可能な生産の仕組みに直結する。さらにニットは受注生産や小ロット展開と相性が良く、在庫リスクを抑えながらブランドを継続する仕組みを支えてくれる。

こうしたニットの循環的特性は、モードの文脈でも独特の価値を持つ。1980年代の終わりに登場したマルタン・マルジェラは、古着や生地の端切れを新しい服へと仕立て直した。その行為は、単なる素材の再利用ではなく、そこに宿る時間や記憶を解き直し、別の物語を与えるようなものだった。

布帛にもリメイクの文化はあるが、ニットの場合は「編むこと」「ほどくこと」が構造に組み込まれているぶん、循環のイメージをより強く喚起する。当時、マルジェラの再構築には「サステイナビリティ」という言葉は使われていなかったが、今日のニットが担うサステナの実践は、マルジェラの再構築を最新に更新した「デザイン」とも言えよう。

サステイナビリティ議論は、廃棄削減や過剰生産の抑制といった「正しさ」に重点が置かれることがある。しかし、デザイン性や魅力が伴わなければ商品は手に取られず、売れ残りは新たな廃棄を生む。大量の衣服を廃棄処分したことが、問題になったケースもある。つまり、正しさだけでは持続しないのではないか。

サステイナビリティとは、環境・社会・経済の三つを未来へつなぐ営みである。無駄の少ない構造(環境)、愛着と物語性(社会)、少ない資源から多様な価値を生み出す自由度(経済)。ニットは、この三つすべてに触れている。

1本の糸から服が立ち上がる。その極限までシンプルな仕組みが、サステイナビリティの複雑な要求を自然に満たしている。だからこそ、ニットは究極のサステイナビリティなのだ。購買の動機は「正しいことだから」ではなく、「欲しいから」へ。ファッションの根源は刺激にある。欲望と循環を同時に編み込み、私たちの未来をデザインする素材。それがニットだと言える。

ニットのサステイナビリティ KNIT の構造 無駄の少ない構造/愛着と物語性/価値を生む自由度 = 環境・社会・経済が同時に成立しやすい ※裁断しない/ほどける/編み方で表情が変わる 環境 裁断ロスが少ない(廃棄を減らす) ほどけば糸へ戻せる(再利用しやすい) 社会 作り手の技術や背景が“見える” =愛着と物語が生まれ、 長く着る動機になる 経済 少ない資源から多様な価値を設計できる 小ロット/受注とも相性が良い (在庫リスクを下げる) 3つを「同時に」満たす = サステイナビリティが成立する 正しさだけでなく「欲しい(魅力)」があるから、循環も続く ニットのサステイナビリティ KNIT の構造 無駄の少ない構造(環境) 愛着と物語性(社会) 価値を生む自由度(経済) ※裁断しない/ほどける/編み方で表情が変わる 環境 ・裁断ロスが少ない(廃棄を減らす) ・ほどけば糸へ戻せる(再利用しやすい) 社会 ・作り手の技術や背景が“見える” ・愛着と物語が生まれ、  長く着る動機になる 経済 ・少ない資源から多様な価値を設計できる ・小ロット/受注とも相性が良い  (在庫リスクを下げる) 3つを「同時に」満たす = サステイナビリティが成立する 正しさだけでなく「欲しい(魅力)」があるから、 循環が続く
ニットの「構造」が、環境・社会・経済を同時に支える(正しさ+欲しさで循環が続く)。

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