Engineering an Era:
The Team Behind the Edo “Time-Slip”
江戸博の大改修を成功させた、
史上最強のチーム
今回の大改修の大きなポイントは、建築史に残る、建築家・菊竹清訓の設計した20世紀末の建築のレガシーを生かしながら、デジタル技術と空間演出で、21世紀の新しい博物館へと変容させたことだ。この成果は、江戸博の創設前から継続的に関わり、現在は館長を務める建築史家で建築家でもある藤森照信氏が率いる江戸博チームと東京都に抜擢されたニューヨーク在住の国際的建築家・重松象平氏(空間デザインの演出を担当)がタグを組み、議論を重ねながら、協働し、最適解を導き出したことだろう。お二人にお話しを伺った。
Interview: Shohei Shigematsu
建築家 重松象平さんインタビュー

改修プロジェクトに関わった経緯と仕事の内容について
江戸博のプロジェクトに関わることになったのは、2024年東京都現代美術館で開催されたディオール展がきっかけでした。展示構成でのテクノロジーと素材をうまくミックスしたことを評価していただけたのかなと思います。今回は空間演出というご依頼でしたので、既にある建築をどのように活かすか、そして何か新しい空間体験を作れないかを提案するのが僕の役割でした。建築の歴史家であり建築家でもある館長の藤森さんや江戸博の学芸員の方々とは何度も議論を重ね、魅力向上を図りました。
注2 「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展
メゾン ディオールの75年以上に及ぶオートクチュールの世界を、1100点以上のオートクチュールコレクションおよびアーカイブ資料を通して伝えた展覧会で、2023年、東京都現代美術館で開催された。
江戸博をアップグレードした点を教えてください。
赤い鳥居のゲートを抜けるとそこは江戸
アーカイブの写真には、もともと菊竹さんが作っていた小さな赤いL字のエントランスがありました。それが鳥居風だったので、僕は、来場者に東京から江戸にタイムスリップするような感覚でここに来てほしいと思い、赤い鳥居が並ぶタイムトンネルのようなゲートを作りました。非日常へと誘う感じにしたかったのです。赤いゲートの柱には、現代や江戸の道ゆく人々の映像が映し出されて、一緒に歩みを進めてだんだん江戸時代に入っていくといった演出になっています。
都市の公共空間としての「江戸東京ひろば」
3 階の「江戸東京ひろば」は、公共スペースの延長のような空間なので、皆に居心地よく使ってもらえるヒューマンスケールな空間を創りたいと思いました。もともと菊竹さんは、広場に人が集まってそこでいろんな催しがあったり、都市の一部の広場として使われることを思い描いていらしたのではないかと考え、天井に映像を投影することを思いつきました。天井面をバーチャルウィンドウと捉えて、博物館の中の収蔵品が滲み出てきて、それらをデジタル映像でダイナミックに見せる仕掛けを作ったんです。博物館のアクティビティを都市空間に発信するような。そうすると、広場がより活性化されると思ったのです。日没後は、「江戸東京ひろば」のピロティー空間の柱の側面と天井に映像をプロジェクションするのですが、その投影装置とベンチを一体化しました。壮大でありながらも、来場者が各々ベンチに座って映像を眺めたり、休憩したりできる、ヒューマンスケールの要素も持ち合わせる空間が実現できたのです。

約4000㎡に及ぶ3階の江戸東京ひろば 夜間開館時の日没後は映像が投影され賑わいが創出される。22台のベンチが投影装置。
※詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。

投影装置を仕込んだベンチでヒューマンスケールの空間を創出。
photograph : Sachiko Tamashige
窓のない展示空間に空の映像を投影
美術館や博物館というのは、光をコントロールするため閉じた建物になるので、江戸博にはほとんど窓がありません。そうすると、中で何が起きているかわからないし、ちょっと権威主義的になりがちで、近寄りがたいイメージができてしまう。そこで、外から見てもオープンさが伝わり、中に入ってからも、もちろん外は見えないんですけれど、何か外にできるだけ近づけるような、実際の光の環境や都市体験に近づけるような仕掛けを考え、常設展示内に空の映像を投影しました。
今回のプロジェクトで難しかったことは?
実はデジタルコンテンツをいいものにするのはとても難しいんです。入り口も、3 階の広場の天井も、6 階の空も、各空間とうまく連動させていいコンテンツを作るのはすごく時間もかかるし、アイデアも必要でした。今回のデジタルコンテンツの制作を担当されている株式会社トータルメディア開発研究所の事務所の方々、藤森館長、江戸博の方々と何度も議論を重ねて形にできたことが肝になりました。
「東京のアイコン」となる江戸博を目標にされていますが?
東京都が江戸文化をもっと世界に発信したいという大きな目標の中に、この江戸博のプロジェクトはあります。海外からの観光客を考えると、東京には、他にも見どころがたくさんあるので、インパクトのあるものを作らないといけないという使命もありました。「江戸東京ひろば」の天井面は、両国の駅のプラットフォームや周辺の街並みからも見えるんです。浮世絵の風景や人々の映像が動いていたり、鮮明な色が光っていたりすると、近所の方々から、海外からの旅行者まで、皆さんに興味を持ってもらえるきっかけをつくれるのではないかと思っています。
Shohei Shigematsu
国際的建築設計集団OMAのパートナーおよびニューヨーク事務所代表。
1973年福岡県生まれ。九州大学工学部建築学科卒業後オランダに渡り、’98年よりOMAに所属。2006年ニューヨーク事務所代表、’08年よりパートナーとなる。主な作品はコーネル大学建築芸術学部新校舎、ケベック国立美術館新館、マイアミビーチの多目的アート施設ファエナ・フォーラム、メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートの展覧会デザイン、オークションハウスのサザビーズ本社屋、ロサンゼルスのウィルシャー・シナゴーグ多目的イベント施設、福岡の天神ビジネスセンター、東京都現代美術館のクリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展空間デザイン、虎ノ門ヒルズステーションタワー、バッファローのオルブライト・ノックス美術館の新館など。現在、世界各地で多岐にわたるプロジェクトが進行中。
Perspective: Terunobu Fujimori
Architectural Historian & Museum Director
館長、建築史家・藤森照信さんからのコメント
重松象平さんはファッション系の展覧会の仕事もされているし、面と線の使い方がとても上手な方です。一番いい方が関わって下さったと思っています。壁や天井の平面にデジタルのコンテンツを持ってきて投影する。館内の展示においても江戸から東京への連続性や変化した部分が何かっていうのを体感できるようになったんでよかったです。
今回の改修で最も大きな変化といえば、常設展示室の真っ暗な天井の大空間に空を作ったことです。天井が異様に高くて真っ暗だったんですよ。窓がない博物館で、高い天井で鉄骨をむき出しにして暗くする。ブルータリズムという思想があって、そういう荒々しい感じが当時は流行っていたんです。菊竹さんとか磯崎新さんとかみんなそうでしたよ。世界の潮流でしたからね。
でも今回重松さんの感性が入ってね。天井の空、「江戸東京ひろば」の天井画の映像投影があり、ベンチでヒューマンスケールの空間を作ったり、上手だなと思いました。

Terunobu Fujimori
建築家、建築史家。東京大学名誉教授。工学院大学特任教授。東京都江戸東京博物館館長。
近代建築史・都市史研究を経て1991年、45歳の時に「神長官守矢史料館」で建築家としてデビュー。土地固有の自然素材を多用し、自然と人工物が一体となった姿の建築物を多く手掛けている。
注1 建築家・菊竹清訓(1928-2011年)
1960年代後期から70年代にかけ、『代謝建築論 か・かた・かたち』を掲げ、黒川紀章らとともに建築と都市のメタボリズムを提唱する。1970年の日本万国博覧会(大阪万博)では『エキスポタワー』を設計するほか、愛知万博マスタープランなど、国際博覧会にも深く関わった。主な建築作品として、スカイハウス、出雲大社庁の舎、福岡市庁舎、東京都江戸博物館、島根県立美術館、九州国立博物館、北九州メディアドーム、愛知万博マスタープランなど、海上都市(プロジェクト)。ユーゴスラヴィア・ビエンナーレで「今世紀を創った世界建築家100人」の一人に選出された。
注2 「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展
メゾン ディオールの75年以上に及ぶオートクチュールの世界を、1100点以上のオートクチュールコレクションおよびアーカイブ資料を通して伝えた展覧会で、2023年、東京都現代美術館で開催された。
注3 「目」のロゴマーク
江戸博の「目」のロゴマークは、東洲斎写楽が描いた、有名な役者絵「市川鰕蔵の竹村定之進」の左目をもとにデザインされた。見得をきった瞬間の力のこもった目の表情は、博物館を訪れる人びとの驚きや好奇心を表現している。
注4 東京マイスター・久住有生
兵庫県淡路島出身。祖父の代から続く左官の家に生まれる。江戸時代には、三大花形職業とも言われた伝統的な左官の技術により、歴史的建造物の修復から民家、商業空間、個人邸まで幅広く手掛ける。
- 場所
- 東京都墨田区横網1-4-1
- 電話番号
- 03-3626-9974(代表)
- 開館時間
- 9:30〜17:30(土曜は19:30まで)
※入館は閉館の30分前まで - 休館日
- 月曜日(祝日または振替休日の場合は翌平日)、年末年始
- 常設展料金
- 一般 800円 / 大学生 480円 / 高校生 300円 / 65歳以上 400円
※中学生以下は無料

江戸東京博物館リニューアル記念特別展「洋館 明治の夢と挑戦」
人々が胸を躍らせた文明開化の息吹を体験!
明治の東京を彩った洋風建築の魅力に迫る
江戸から明治への転換は、260年もの長い間閉ざされていた西洋文化の入り口が開き、洋風建築の流入が一気に始まることに。この展覧会では、急速に展開し普及した明治期の東京の洋風建築について、また本格的に西洋建築が設立するまでを紹介する。人々が建築に夢を描いた「明治の洋館」の世界、その驚きと胸躍る風景が展開される。


(上)江戸の風情が残る日本橋と遠くに望むコンドル設計の洋館
「武蔵百景之内 江戸橋より日本橋の景」 小林清親/画 1882年(明治15) 東京都江戸東京博物館蔵
【展示期間:6/23-7/26】
(下) 赤煉瓦、長大なファサード…現代に残る東京駅の誕生
「中央停車場建物展覧図」 1911年(明治44)頃 鉄道博物館蔵
- 展覧会名
- 江戸東京博物館リニューアル記念特別展「洋館 明治の夢と挑戦」
- 場所
- 東京都江戸東京博物館 1階特別展示室
- 会期
- 6月23日(火)-8月23日(日)まで
※ 展示替えあり - 開館時間
- 9:30-17:30(土曜日は19:30まで。8月7日(金)・14日(金)・21日(金)は21:00まで)
※入館は閉館の30分前まで - 休館日
- 毎週月曜日 (ただし7月20日、8月10日は開館)、7月21日(火)
以降の特別展ご案内
江戸東京博物館リニューアル記念特別展「円山応挙 リアルの先へ 空間革命」
会期:11月28日(土)-2027年1月24日(日)





