
2022年から改修のため休館していた東京・両国の東京都江戸東京博物館(愛称:えどはく)(以下、江戸博)が、遂に 3 月31日リニューアルオープンした。新しく生まれ変わった江戸博が目指すのは、「東京のアイコン」。常設展示の見どころや、江戸博の改修プロジェクトで空間デザインを監修された、建築家 重松象平さんのインタビューをお届けする。
text : Sachiko Tamashige / photographs : Norifumi Fukuda(B.P.B.)
株式会社トータルメディア開発研究所提供
今改修での最大の呼び物は、建物の3階部分に当たる「江戸東京ひろば」の約4,000㎡の天井面と柱面を使った映像による空間演出だろう。日没後、暗くなった天井に黄金の映像が輝き始め、東海道五拾三次や冨嶽三十六景、江戸の人々が愛した風景や暮らしの浮世絵の映像が、グリッドからあふれ出してくる。ダイナミックな力士の対戦や北斎の荒れ狂う波といった大迫力の映像は、まるで江戸博が誇る収蔵品が息を吹き返したようだ。

東京都提供東京都江戸東京博物館の外観
江戸博はどうしてリニューアルしたの?
江戸博は、「江戸東京の歴史と文化を振り返り、未来の都市と生活を考える場」として、1993年3月に開館。両国の国技館に隣接し、JR両国駅のプラットホームからも一望できる巨大な建物は、付近の景色を一変してしまうような圧倒的なインパクトがあり、話題に。開館当初の設計を手がけたのは世界的建築家の菊竹清訓氏(1928 – 2011年)。
注1 建築家・菊竹清訓(1928-2011年)
1960年代後期から70年代にかけ、『代謝建築論 か・かた・かたち』を掲げ、黒川紀章らとともに建築と都市のメタボリズムを提唱する。1970年の日本万国博覧会(大阪万博)では『エキスポタワー』を設計するほか、愛知万博マスタープランなど、国際博覧会にも深く関わった。
主な建築作品として、スカイハウス、出雲大社庁の舎、福岡市庁舎、東京都江戸博物館、島根県立美術館、九州国立博物館、北九州メディアドーム、愛知万博マスタープランなど、海上都市(プロジェクト)。ユーゴスラヴィア・ビエンナーレで「今世紀を創った世界建築家100人」の一人に選出された。
建物は、菊竹建築のポストモダン時代の一例として、また、両国のランドマークとして長く親しまれてきたが、老朽化に伴い、初の大規模な改修工事が必要となった。江戸博は、4 年間の休館を経て、このたび建築の外観の原形を留めたまま、デジタル技術と革新的な空間演出で、新たな命を吹き込まれ、再オープンした。
大規模改修に際し抜擢されたのが、世界的建築事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)のパートナーでニューヨーク事務所代表の日本人建築家、重松象平氏(1973年-)だ。東京都現代美術館の「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展の空間演出で観客を圧倒した実績を持つ重松氏が、江戸博の改修プロジェクトに、空間デザインを監修する形で参加、30余年を経た菊竹建築のレガシーを生かしながらアップグレードした江戸博を実現させた。
注2 「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展
メゾン ディオールの75年以上に及ぶオートクチュールの世界を、1100点以上のオートクチュールコレクションおよびアーカイブ資料を通して伝えた展覧会で、2023年、東京都現代美術館で開催された。
Design Features That Bridge Two Eras.
現代の東京から江戸へと誘う仕掛け


JR両国駅からのアプローチに設置された「鳥居」のような工作物
JR両国駅西口を出てすぐの建物に入る前の西アプローチの仕掛けも見逃せない。「江戸東京ひろば」に向かう大階段(現在は閉鎖中)の左脇に、赤い鳥居のように並んだ24本の逆さL字の柱のトンネル。柱の内側には、現代の東京と江戸の道ゆく人々の姿が映像で映し出され、現代から江戸に向かう時空トンネルのように来場者の館内へ向かう気持ちを高めていく。

ロゴマークの「目」をあしらったモニュメント
また、大江戸線の駅近くには、江戸博でお馴染みの「目」のロゴマークを使ったモニュメントが来場者を迎えてくれる。
注3 「目」のロゴマーク
江戸博の「目」のロゴマークは、東洲斎写楽が描いた、有名な役者絵「市川鰕蔵の竹村定之進」の左目をもとにデザインされた。見得をきった瞬間の力のこもった目の表情は、博物館を訪れる人びとの驚きや好奇心を表現している。

東京都提供

江戸から続く左官の技術を活かしたエントランス
そして、一階のエントランスも一変。小ホール脇には、東京マイスターの久住有生(くすみ なおき)氏による左官仕上げの壁面が壁画のように出現。左官は江戸時代には三大花形職業といわれた伝統技術。素材の質感と手仕事の温もりを間近に感じられる、伝統とモダンが融合した空間で、落ち着いた心持ちでチケット購入の列に並べる。
チケットを入手したらエレベーターで常設展のある6階へ。
注4 東京マイスター・久住有生
兵庫県淡路島出身。祖父の代から続く左官の家に生まれる。江戸時代には、三大花形職業とも言われた伝統的な左官の技術により、歴史的建造物の修復から民家、商業空間、個人邸まで幅広く手掛ける。
From Observation to Immersion: Evolving the Permanent Collection.
常設展示の見どころ
「見る」展示が、より「体験する」ものへと進化
常設展示は今回のリニューアルで「歴史を学ぶ場」から「歴史を身体で感じる場」へと鮮やかにアップデートされた。

常設展示の天井部には、空の映像を投影
エレベーターを降りると目の前に飛び込んでくるのは日本橋と眼下に広がる街の風景。9,000㎡もの広大な空間を生かした 5 階・ 6 階の吹き抜けの常設展示室。6 階の日本橋を渡って、展示室に入場するスタイルは以前と変わらない。橋を挟んで左側に江戸ゾーンの歌舞伎の芝居小屋の「中村座」、右側に東京ゾーンの服部時計店の原寸大模型が来場者を迎えてくれる。
リニューアル前と大きく変わったのは、日本橋の上空に、高い天井を活用した三面からなる大型スクリーンが設置され、現代の東京と江戸の空、四季のアニメーション映像がループで投影されていることだ。30分で 1 日の光と風景の移ろいが映し出され、来場者の情感に寄り添う。各々の時代の模型やジオラマ展示を見ながら、本当にその時代の時が流れているように感じさせる。かつては、設備の鉄骨が剥き出しで黒く塗られているだけだった無機質な暗い天井に、このように江戸と東京の空を持ち込むことで、博物館の閉塞感を解き放ち、没入感ある鑑賞体験を高める演出が施されていることも、今回の改修の大きな成果だ。
EDO
日本橋の橋幅は原寸大、原寸の半分の長さの橋を渡ると、そこは江戸ゾーン。白い暖簾をくぐり抜けると、同館が所蔵する11領の甲冑がコンテンポラリーな雰囲気で展示されている。(展示終了)このフロアでは、徳川幕府政権についてや、城下町としての江戸のジオラマ模型なども展示されている。


東京都提供左 甲冑の展示風景、右 江戸のジオラマ模型
エスカレーターで 5 階へ。このフロアは江戸と東京の 2 つのゾーンに分かれている。江戸ゾーンでは、江戸の町の暮らしが再現されている。江戸指物師など職人の仕事風景や寺子屋の様子、お産の様子などが実物大の模型の中の人形で展示されている。その他、火消しの纏、行商人の棒手振りの天秤棒、蕎麦屋の屋台、千両箱(14kg)など、来場者が実際に振ったり、担いだりと体験できる体験型展示も盛りだくさんだ。江戸の街並みと暮らしの再現 も「見る」展示が、より「体験する」ものへと進化している。


東京都提供江戸の街並みを再現。
左 棟割長屋「お産の風俗」、右 天ぷらの屋台


東京都提供芝居小屋「中村座」へ入れるように!
右 芝居小屋の中のお囃子など鳴り物(音響効果に使う道具)の一式。
TOKYO
東京ゾーンでも、かつての東京の面影を体感できる大型模型が新設・増設されている。明治前期の銀座の「朝野新聞社」に代わり、明治後期の「服部時計店(現・和光)」が新しく登場。天井高26メートルの巨大な建築模型は、圧倒的な迫力だ。その入り口から建物内に入る導線によって、明治の銀座の華やぎも体感できる。浅草の凌雲閣の模型と映像も臨場感があり、 明治30年代の「浅草花屋敷(現・浅草花やしき)」正門も新たに大型模型で復元され、当時の賑わいを追体験することができる。昭和初期の「同潤会代官山アパートメント」や戦後の「ひばりが丘団地」の模型では、室内の家具や生活用品がリアルに再現されていて、近代や戦後の庶民が憧れた都市生活の有様や息遣いを間近に感じることができる。

東京都提供服部時計店(現・和光)

東京都提供浅草花屋敷(現・浅草花やしき)正門

東京都提供1890年、浅草に開業した高層展望台「凌雲閣」の模型と映像

東京都提供ひばりが丘団地
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