
かつてCMで一世を風靡するも、その後は鳴かず飛ばずの日本在住・アメリカ人俳優フィリップ。約7年の歳月を費やしても日本に馴染み切れない彼は、ひょんなことから依頼主の家族を演じる「レンタル家族業」に挑戦することになり、人生の輝きを知る――。アカデミー賞®俳優ブレンダン・フレイザーが、『37セカンズ』のHIKARI監督と組んだ『レンタル・ファミリー』(2月27日から全国公開)は、異国で感じる“孤独”をテーマにしつつも、心温まるヒューマンドラマだ。来日した 2 人に、作品に込めた人生観を語っていただきました。
photographs : Norifumi Fukuda (B.P.B.) / interview & text : SYO
映画『レンタル・ファミリー』とは?

東京で暮らす落ちぶれた俳優のフィリップ(ブレンダン・フレイザー)は、日本での生活に居心地の良さを感じながらも、本来の自分自身を見失いかけていた。そんな中、“レンタル家族”として他人の人生の中で仮の役割を演じる仕事に出会い、想像もしなかった人生の一部を体験する……という物語。米国アカデミー賞®主演男優賞受賞歴を持つ世界的俳優、ブレンダン・フレイザーが、アメリカを拠点に活躍する日本人、HIKARI監督のもと、日本を舞台にした物語をオール日本ロケで撮影したこの冬の注目作。

「一人だけど独りじゃない」現代の孤独を救うレンタル家族という選択
――HIKARI監督は着想について「孤独を感じる一人ひとりがつながっていく様々な経験を描きたかった」、ブレンダンさんは「孤独を感じながら生きている世界中の人々に向けた映画」と評されていましたね。
HIKARI:私は常々、表現を通じて人々と繋がり、貢献したいという想いを持っています。その手段が、私にとっては映画やドラマを作ることなのです。そうした想いがあるなかで『レンタル・ファミリー』の着想に至った経緯ですが、「人々がインターネットで常に情報を探しているいま、ふと、孤独に感じている自分に気づく若者が多い」という話を以前からよく耳にしていました。
映画監督として、作品を通じてどうそのギャップを埋められるのか、「一人だけど独りじゃない」と伝えたいと考えていくなかで最終的にこのストーリーが生まれていきました。
本作でフィリップは、彼にとっての外国である東京で孤独に暮らしていますが、国や人種が違ってもその地で生まれる愛や友情は本物です。これは私自身が実際に経験してきたことでもあるため「この関係性はリアルに存在する。だからシャイにならないで」というメッセージを込めました。

映画『レンタル・ファミリー』より
――なるほど。レンタル家族の設定はその先にあったのですね。
HIKARI:レンタル彼女や添い寝リフレの話を聞いたときもすごいなと思いましたが、誰かのために家族を演じるサービスがあると聞いたときは、さらにびっくりしました。
その中で作品のヒントになったのは「死ぬ直前の父親がどうしても疎遠になった娘に謝りたい。しかし実の娘は絶縁状態のため、役者さんを雇って娘を演じてもらった」という話です。それで一瞬でも幸せになったのならレンタル家族も素敵じゃない、人のために役立つサービスなのかもしれないと思い、興味を持って調べ始めたのです。
ブレンダン・フレイザー(以下、フレイザー):フィリップはアメリカを出て日本に移住した人物です。なぜその決断に至ったのか明確には描かれませんが、故郷と距離を取りたかった事情もあったでしょうし、置いていくものより自分が向かう先により興味を抱く人物なのだと思います。そして彼は、新天地である日本で自分の居場所を見つけたいと感じています。
役者であることはあくまで副次的な側面であり、彼が孤独から解放されて人とつながり、自己アイデンティティの確立に至る部分が最も重要と捉えていました。ちなみにフィリップは最近よく(移民の取り締まりなどで)ニュースで取り上げられるミネソタ州出身という設定ですが、いまの情勢ではアメリカの観客にことさら切実に響くかもしれません。
――レンタルファミリーという題材はある種現代的なものかと思いますが、作品には懐かしさや人情感が漂っていました。久々にこうしたテイストの作品を見た気持ちです。
HIKARI:「こうしたい」と意図していたというより、感覚的なものでした。私が昭和に生まれ育ったこともあるのかもしれませんね。考えていたことがあるとしたら「人生において完璧なものなんてない。その不完全さも含めて楽しんで観てもらえたら」くらいでしょうか。作品のメッセージはラストシーンに集約させましたが、「わかってほしい」というような気持ちではなく、あくまで「気づいてもらえたら嬉しいな」くらいの距離感です。まずは面白がって観ていただけたらと思います。

オスカー俳優、ブレンダン・フレイザーが“大根役者”に!?演技を超えた「本物の感情」とは。
――ブレンダンさんにとってはフィリップという役者を演じ、また彼が劇中で別人を演じるというマトリョーシカのような構造ですね。
フレイザー:彼は大根役者のため、お芝居があまりうまくありません(笑)。その要素がとても効いており、レンタルファミリーの仕事中にしばしば演技ではない本物の感情が出てきてしまうんですよね。演技をやめたときにこそ価値ある関係性が築かれるのです。

映画『レンタル・ファミリー』より
――HIKARI監督はこれまでも『BEEF/ビーフ』など、異国でアイデンティティを獲得する人々の困難や葛藤を描かれてきましたね。
HIKARI:私自身がそうですからね。かれこれ30年、人生の半分以上をマイノリティとしてアメリカで過ごしてきたため、自分のどこかに根強くある感覚のような気がします。『BEEF/ビーフ』のエピソード監督のオファーをいただいた際には「わかる、この気持ち!」とスッと理解することができました。アジア系の移民が抱える葛藤を前面に出した作品を手掛けられたことを、非常に嬉しく思っています。
いまおっしゃった部分を自分が経験してきたからこそ「それってどうなん!?」という意味で作ってきた側面もあります。国籍がどうであろうと人間であることは一緒じゃないですか。例えば白人以外を差別する方々は、白人の中でしか生きられないわけですよね。それは非常に世界を狭くすることですし、数の上でマイノリティとされる我々よりも、よほど孤独に陥ってしまうのではないかと思います。世界中にはこんなに多種多様な人たちがいるのに、ほんの一部の人にしか目を向けられないわけですから。

――ご自身の人生に基づいた感情をブレンダンさんにどう伝えて、一緒にキャラクターやシーンを作っていかれたのでしょう。
HIKARI:ブレンダンは天才ですから、脚本を渡して彼の感性でやってもらうだけで見事に成立するんです。監督として一番有難いのは、才能ある役者さんとお仕事をできること。ブレンダンが感じたままに演じてくれることで、「自分はそう思っていなかったけどすごく良かった」となったり、あるいはお互いに発見しあうことがあったりと、非常にスムーズでした。
撮影に入る前段階で、ブレンダンが疑問に思うことを細やかに質問してくれて意見をすり合わせられたため、現場で議論するようなことは全然なかったように思います。
フレイザー:現場に入ったら演技をやめて、その瞬間を生きるしかありませんから。
HIKARI:まさに。現場では1テイク目は彼に任せて、私はその様子をキャプチャし、2テイク、3テイク目はまたそれぞれ違う感情を表現してもらう、そんな感覚で撮影しました。

映画『レンタル・ファミリー』より
――ブレンダンさんが現場に入る前、クリアにしておきたかったのはどんな部分でしょう?
フレイザー:とても良い質問ですね。僕にとってフィリップはわかる部分も多い反面、突然変異的に感じられるところもあったため、その辺りを監督に相談しました。そして、日本語です。フィリップは日本に長く滞在している設定のため、役者が一生懸命日本語を喋っているように聞こえないようにすることが大切でした。
HIKARI:ブレンダン自身は日本語を喋れなくても、意味を完全に理解したうえでセリフを発してくれるため、イントネーションが多少不自然でも、その瞬間の感情はしっかりと感じられるんです。彼が持ってきてくれた素晴らしい技でした。
フレイザー:ただ、あんまり僕の日本語には注目しないでください。柄本明さんは僕よりもずっとずっと頑張って英語を話されていましたから。それに、監督と話して言語(の精度)は関係ないとすぐに悟りました。重要なのは、先ほど話されたように気持ちの部分だなと。

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二人が抱く映画制作の希望、『レンタル・ファミリー』が未来のクリエイターに問いかけるものは。

映画『レンタル・ファミリー』より
――ブレンダンさんはアカデミー賞®主演男優賞を受賞された『ザ・ホエール』、『キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン』、そして本作と作品選びが非常にユニークです。何かポイントがあるのでしょうか。
フレイザー:僕は多様性を強く信じており、前にやったことと違うものに取り組みたいとは常に意識しています。自分が望むリストがあるとしたら、『レンタル・ファミリー』はそのすべてにチェックが付く企画でした。
――おふたりのお話を伺って、創作に対する希望と誠実さを感じました。創作が現実世界に与える影響力について、お考えを教えて下さい。
HIKARI:これだけ情報に溢れている時代で、 1 年間に何千本も公開される映画のたった 1 本が与えられるパワーなんてたかが知れているとは思います。ただ、たとえ母数が少なかったとしても私が作った作品を観てくれた方々が「こういう生き方が理想だ」「こういう人生の友だちの作り方があるんだ」などと感じ、それぞれの意識がポジティブに変わっていくことで、世界が少しずつ愛に溢れていくようになればと、意識して作品に取り込んでいます。
何十年かかったとしても、平和な世の中にたどり着くための何かになれればと。「映画で世界を変える」と言ったらどういう意味!? と思われるかもしれませんが、受け取ってくれた方々が各々の中に生まれた感情を持って、前進していってくれる、という希望を持って映画づくりをしています。それが自分の天命という想いはあります。
フレイザー:フィリップの旅路は、これからクリエイターを目指していく方々の助けになるのではないでしょうか。自分が誰であるかを知り、気づき、疑いを捨てること。心の内に本当の己を見つめる目を持つことは、きっとこの先の人生に役立ってくれるはずです。

HIKARI
大阪出身。ダンサー、ミュージカルパフォーマー、画家、写真家としての経歴も持つ脚本家、監督、プロデューサー。デビュー作『37 セカンズ』は第69回ベルリン国際映画祭でプレミア上映され、パノラマ観客賞、CICAE アートシネマ賞の歴代初の W 受賞の快挙を成し遂げ、最優秀新人監督賞にもノミネートされた。エミー賞® 受賞シリーズ「BEEF/ビーフ」の第一話監督、アンセル・エルゴートと渡辺謙主演、マイケル・マンがエグゼクティブプロデューサーを務めた「TOKYO VICE」なども手がけた。また、数々の受賞歴を持つ短編映画も執筆・監督している。戦後日本を舞台にしたヒューマンドラマ「TSUYAKO」(USC 卒業制作作品)は、DGA 学生賞最優秀女性監督賞を含む50以上の賞を受賞。実写とアニメーションを融合したファンタジー短編「A Better Tomorrow(原題)」、東京在住のインド人科学者が自動販売機に恋をするコメディ作品「Can & Sulochan(原題)」、トライベッカ映画祭最優秀国際短編映画賞にノミネートされたノンバーバルのダンス短編フィルム「Where We Begin(原題)」などがある。
Brendan Fraser
1968年生まれ、アメリカ・インディアナポリス出身。12歳から演技の研鑽を積み、1990年代に『原始のマン』『青春の輝き』などで注目を集める。1999年からの『ハムナプトラ』シリーズのリック・オコーネル役で世界的なスターダムを駆け上がった。2022年、ダーレン・アロノフスキー監督作『ザ・ホエール』で圧巻の演技を披露。初のアカデミー賞主演男優賞をはじめ、数々の映画賞を総なめにする劇的な復活を遂げた。近作に、マーティン・スコセッシ監督作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』、ドラマシリーズ『ドゥーム・パトロール』など。2026年にはアニメコメディ『Breaking Bear(原題)』の公開も控える。アクションから繊細な人間ドラマまで型にはまらない役柄選びで知られ、本作『レンタル・ファミリー』では、日本に暮らす孤独なアメリカ人俳優フィリップを演じ、演技と本物の感情の狭間で揺れ動く機微を見事に体現している。
映画『レンタル・ファミリー』
監督・共同脚本・プロデュース:HIKARI
出演:ブレンダン・フレイザー、平 岳大、山本 真理、柄本 明 ほか
2月27日(金)全国公開。ウォルト・ディズニー・ジャパン配給。
WEB:https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily
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