

左:Luchiaさん 右:G3Pさん
アニメとファッション、壁があるからこそおもしろい
──具体的に、それはどんな「溝」なのでしょうか?
Luchia:近年、ファッション側の方はオタクカルチャーを好きだと言ってくれることが増えた気がしますが、どうしてもオタク側に、ファッションの人がアニメやゲームを扱うことへの抵抗感があることは否めません。私自身、長年、その溝を面白がりながら苦しみも感じています。
今、いろいろな人が推し文化によってオタクカルチャーに普通に触れられるようになっているので、壁は薄くなっているのですが、まだ(壁は)あるんです。特に、「古参文化」的な、昔からのファンかどうかをはかるような風潮は根強く残っているので。そうじゃなくて、ニュートラルに面白いねと言ってもらえるような場所で見せることは、とても大事だと思います。
末安:ビューティビーストで、山下(隆生)さんやLuchiaさんが何十年も前に、ラムちゃんやセーラームーンをファッションに取り入れていた頃は、正直、理解が追いついていなくて僕も「ちょっとダサいな」っていう感覚があったんですよ。
ファッションとアニメや漫画、ゲームが交わることはないなという感覚でいたのが、最近ではおしゃれな人たちが、アニメのヴィンテージTシャツを大枚はたいて買ってたりする。ファッション側には壁がなくなっているというか、むしろオタクカルチャーはおしゃれだと捉えられるようになってきていて。ビューティビーストの頃から考えるとようやくっていう感じはあるのですが、Luchiaさんが言うようにいまだに壁はあるんですね。
G3P:そうですね。キャラクターやアニメーションを好きな人の中に、ファッションにも興味があるという人がほとんどいないのは事実ですね。ファッションを好きな人がアニメなどを取り入れることを許容していても、アニメやゲームが好きな人はファッションを許容していないことで生まれる、歴然とした壁がまだあって。でもその壁はなくならないほうが、多分面白いんです。永遠に分断されているほうが。
Luchia:そうなんですよね。隔たりがないと文化は壊れてしまう。
古式ゆかしきオタク文化を守る人たちがいないと、やっぱりダメだとも感じます。だからそこは守ってくれている人たちに守ってもらいながら、私たちは、それを別の視点で捉えて、みんなが好きな新しい落とし込みを考えることをずっとやりたいと思っています。

──実際、パリでバイヤーやジャーナリストの反応はいかがでしたか?
末安:バイヤーさんからは面白がられました。皆さん割と秋葉原にも遊びに来ていたことがあって、「これをやったんだ!」みたいな面白がり方をしてくれましたね。あとは、うさ耳が並んでいるとシンプルにみんな被りたがります(笑)。
Luchia:嬉しい!ところで、このバニーガールの耳の形、どこかで見たことがありませんか?
末安:見たことありますね。昔、アニメや漫画で見たバニーガールの耳感。
Luchia:そうなんです。このうさ耳の形って、よくアニメに出てくる、バニーガールの恰好をした女の子がつけているうさ耳の形をモチーフにしているんです。アニメやゲームなどを通して、刷り込みのようにして知らず知らずのうちに記憶されている形をあえて引用することは、私たちがよくやる手法です。
G3P:斬新な形なんだけど見覚えがあって、突飛なんだけど突飛じゃないという。3次元のバニーガールの耳のシルエットではないのがポイントです。
Luchia:アニメのキャラがつけている、耳が折れた状態で止まっているときの形ですね。

アクリル樹脂に熱加工し、ジョイントで繋げて形を作るという作り方自体、社内で開発したものですが、この素材と制作方法だからこそ実現できたものです。
末安:確かに。パリで、バイヤーさんたちがボディアーマーを見て「攻殻機動隊や、AKIRAっぽい」としきりに言っていましたね。日本のアニメは世界の共通言語になりつつあるので、そこで使われたデザインや形はみんなの中に記憶されているんだと思います。


左:猫耳がついたヘルメットとバングル 右:クロスのバレッタ


左:猫耳モチーフのヘッドピース 右:うさ耳モチーフのヘッドピース
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抗い続けるパンクスピリットを持つこと
──今回のコレクションで、日本のアニメやゲームカルチャー、秋葉原のメイド喫茶などの文化に接続する試みをされているのであえてお伺いしたいのですが、末安さんが思う「パンク」とは、一体、なんでしょうか?
末安:原宿カルチャーを取り入れたコレクションを発表した先シーズンの反応として、「今までキディルがやってきたパンクの表現のほうが好きだった」というものも、やっぱりあるんです。でも、僕にとってパンクは「気持ち」。自分としては今回のコレクションもパンクなんです。自分の価値観と中央町さんの価値観が混ざり合うことで新しいものが生まれる。今まで通りではなく、自分も見たことないものをやらないといけない、その姿勢こそがパンクだと思っています。
Luchia:パンクは、状態じゃなくてスピリットなんですよね。すべてに抗って、違うんだよと言い続ける態度のことで、固定された状態を指すものではないと、私も捉えています。
お客さんの気持ちも大切ですが、そこにすら抗っていかないと、それはもはやお客さんが好きなパンクではなく、形骸化したパンクになってしまう。進化や裏切りがなければパンクではないですよね。
末安:とても共感します。自分自身、パンクの王道を作ってきた方々と一緒に仕事をして感じたことも、まさにそういうことでした。だから変化球を加えても、大切なことを失わないまま、伝わる人には伝わると信じています。




KIDILL 2026年春夏コレクションより
──では、最後に2026年春夏コレクションを総括していただいても良いでしょうか。
末安:新しい取り組みを行うことを特に最近、意識しているので、そうした意味でとてもいいシーズンだったと思います。中央町さん然り、違う畑の人たちと一緒に取り組むことで、ブランドも自分自身も進化することができます。今後も、その部分は強化したいところです。
Luchia:次、またコラボレーションできる機会があったら、KIDILLモデルを作りたいです!
末安:本当ですか。実は、コレクションを作り終わった後で「なんでも作れます」と言ってもらったんだから、次回にコラボするときは、さらにオリジナリティー溢れるようなアイテムを作りたいですね。ぜひ、やりましょう!

Hiroaki Sueyasu
2014年にKIDILLをスタート。’17年にTOKYO新人デザイナーファッション大賞プロ部門で受賞し、’21年1月にはパリ・メンズファッションウィークの公式カレンダーに迎えられるが、コロナ禍によりオンラインで参加。同年、TOKYO FASHION AWARDを獲得し、’23年春夏よりパリでコレクションを発表する。
Chuocho Senjyutsu Kogei
2019年に創立した、テクノロジーとキャラクターデザインをベースにしたアクセサリーブランド。アクリル樹脂を用い、独自の加工技術で「誰も見たことのないスタイル」を提案。コミック・ブック・コンベンション(通称コミコン)を始めとして、国内外で活動している。2023年にはラフォーレ原宿にフラッグシップストアをオープン。
KIDILL
WEB:http://www.kidill.jp/
Instagram:@kidill
中央町戦術工芸
WEB:https://ctctyo.com/
Instagram:@ctctyo
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