
ブルガリアの伝統と現代的なスポーツウェア、相反する要素を大胆に融合させ、パワフルで唯一無二のクリエイションを生み出すファッションブランド、チョポヴァ ロウェナ。デザイナーのエマ・チョポヴァとローラ・ロウェナの二人が生み出す服は、2017年の初コレクション以来、日本のファッションを愛する人たちからも熱烈な支持を集めている。
手仕事の愛らしさと歴史の重なりを感じさせる彼女たちの服は、なぜこれほどまでに私たちの心を惹きつけるのだろう?3月下旬、Dover Street Market Ginza(DSMG)のオープンハウスのために初来日した二人に行ったインタビューから、そのインスピレーションの源泉とクリエイションの哲学に迫ります。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / interview & text : SO-EN
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DSMGのチョポヴァ ロウェナインスタレーション。
「FRUiTS」からおぱんちゅうさぎまで、日本のカルチャーへのシンパシー
――初来日とのことですが、東京はいかがですか?
エマ:最高です!とても満喫しています。明後日には帰らなきゃいけないのが本当に寂しい。
――楽しんでいただけて嬉しいです。お二人のクリエイションに共鳴しているファンは、私を含め文化の学生など日本にたくさんいるのですが、日本のファッションやカルチャーにシンパシーを感じる部分はありますか?
チョポヴァ ロウェナを愛する人たちのスナップはこちらから!
エマ:とても強く(シンパシーを)感じています。私たちは日本のカルチャーが大好きです。私が若い頃、大きなインスピレーションを受けたものの一つが、日本のストリートスタイルを記録した雑誌「FRUiTS」でした。原宿の女の子たちが大好きだったんです。
ローラ:漫画も大好きだよね。
エマ:そう、漫画も、おもちゃも!日本には本当に素晴らしいキャラクターがたくさんいますよね。私は、おぱんちゅうさぎに夢中です(エマのスマホの裏にはおぱんちゅうさぎのステッカー)。アーティストの奈良美智さんも好き。多くのインスピレーションを受けますし、カルチャーとのつながりを強く感じる場所です。
ローラ:私はマイメロディが好き!
エマ:クロミも。
ローラ:「キデイランド」があなたのお気に入りだよね。
エマ:そう!キデイランドは地球上で最高の場所です。
――東京を大満喫されていますね!DSMGのインスタレーションで展示されているおもちゃは二人のもの?
エマ:はい。すべて私たちの私物で、1940年代〜’60年代頃の旧ソビエト時代のロシアや、私の出身地であるブルガリアなど、主に東ヨーロッパのおもちゃです。長年にわたってさまざまな理由で集めてきたもので、アメリカやイギリスのものもあります。私たちはいろんなものを集めているのですが、特に変わったものが好きで、そういうものを見つけると、ただランダムに買ってしまいます。
ローラ:何でも買っちゃうんだよね。
エマ:すべてのものがインスピレーションを与えてくれるから。



DSMGのチョポヴァ ロウェナインスタレーションには、二人がコレクションしてきたおもちゃが並ぶ。
「タフな女の子」のための、自分らしくいられる服を
――お二人のクリエイションには、いつもモダンな要素と歴史的な要素がミックスされているのが魅力です。どのような視点や基準で、それらの要素をピックアップしているのでしょう?
エマ:私たちは、古いものと新しいもののような「コントラスト」が大好きなんです。ブランドのインスピレーションの原点は、ブルガリアの民族的なお祭りに行ったことでした。そこでは人々が厳格な伝統衣装を着ているのに、足元はスニーカーだったり、キャラクターのTシャツや変わったバッグを合わせていたりするのです。伝統的な装いに西洋の今の文化が混ざり合っている様子を見たことが、私たちの始まりでした。
強靭なものは、良い緊張感と良いコントラストから生まれることに気づいたのです。ハードなものとソフトなもの、ハードコアなものと本当にフェミニンなもの。そういったものが好きです。
ローラ:「バランス」ですね。


――そのバランスで生まれた服からは、かつて/今の少女たちがハードな今の世界を生き抜くためのパワー、鎧のような側面を感じます。そういった部分は、お二人のどのような価値観から生まれているのでしょうか?
エマ:パワーという点では、どうしてかは分かりませんが、私たちは「私たち対世界」というような、少しハードコアなところがあるかもしれません。私たちはタフな女の子が好きですし、私たち自身もタフな女の子だと思っています。
ローラ:そう、私たちはタフな女の子。私たちはお互いのためにデザインしているので、お互いが気分良く、強く、そして楽しく世界に立ち向かえるようにしたいのです。
エマ:だから、みんなにもそう感じてほしいという思いがあります。クールで、楽しく。最大の強さは、100%自分らしくいることから得られるのだと思います。
ローラ:私たちの服は、着る人にさまざまなことを感じさせ、その人の異なる側面を結びつけるのだと思います。例えばプリーツスカートは、スクールスカートのようにも見えるし、キルトのようにも見える。とても伝統的でありながら、同時に非常にフェミニンでもあります。人々がさまざまな理由で、これらの服とつながってくれるのだと思います。
エマ:それが彼女たちをパワフルにしてくれます。
ローラ:特別で、感情的につながることができて、自分らしくいられると感じさせてくれる服。それが人をパワフルにするのだと思います。
チョポヴァ ロウェナのデザインプロセス
――今シーズンの春夏、そして次の秋冬コレクションについてデザインのポイントをお聞かせいただけますか? この2シーズンでは、シルエットの変化が印象的でした。
ローラ:’26年春夏コレクションは、チアリーディングとフットボール、そしてブルガリア南部のギリシャに近い地域の伝統的なドレスからインスピレーションを得ています。特にギリシャの衣装に見られるレイヤードのシルエットがユニークで、タイトなものとロングなものを組み合わせるなど、下半身に少し変わったプロポーションを取り入れました。また、フットボールのショルダーパッドから着想を得て、ボーンを入れた立体的な肩のドレスや、ヒップパッド付きのドレスも作りました。
私たちはフェミニンでクラシックなシルエットが大好きで、毎日着られるけれどディテールが豊富で、着る人のアイデンティティを感じられるような、プロダクト志向のデザインを大切にしています。そのため、このシーズンは特に私たちにとっても興味深いものになっています。

エマ:一方で、’26年秋冬は英国の摂政時代(リージェンシー時代)のドレスから影響を受けています。より硬質で、ウエストよりも高い位置にボリュームを持たせたシルエットが特徴です。また、ゴルフもテーマの一つになっているので、ブルマーパンツにタイトで硬いコルセットを合わせるようなスタイルも取り入れました。
ローラ:袖に大きなバラの飾りをつけたり、フェイクファーのトリムを加えたりしています。
エマ:’26年秋冬のパネル柄のカーディガンは、エドワーディアン期、リージェンシー時代のストマッカー(stomacher)を参照しています。このパネルは私たちにとって非常に特別で、この形を取り入れたかったんです。高い位置のパフスリーブにタイトなウエストで。
それに、私たちは昔から、大きなスカートに大きなファーのブーツを合わせるような、どっしりとした下半身のプロポーションが好きなんです。「ストンピー(足を踏み鳴らすような)」なパンツとか。それが私たちにとってパワフルだと感じるんです。


Chopova Lowena ’26AW
https://chopovalowena.com/pages/aw26 より
――コレクションは、膨大な歴史的・カルチャー的リサーチと、とてつもない手仕事に支えられていますよね。普段のデザインプロセスや制作方法をお聞かせいただけますか。
ローラ:私たちのプロセスは、まず毎シーズン「スポーツ」と「民族衣装や伝統的なドレス」を一つずつ決めることから始まります。二人でリサーチを重ねてテーマをペアリングし、二つの世界観が対話するようにリサーチを進めます。
例えば、人々がブルガリアンドレスを着ている写真と、フットボールをしている様子の写真を横並びにします。するとスポーツをする少女と、伝統衣装を纏う少女が、実は同一人物かもしれないし、母と娘、あるいは親友かもしれない、というようなストーリーや、共通点が見えてくる。その2枚合わせの写真をたくさん用意し、そこから私が洋服の形にしたコラージュを作成します。そしてエマが何百枚ものドローイングを描いて、具体的なデザインに落とし込んでいきます。
エマ:ローラはかなり具体的なアイデアを持っているタイプで、それが実際の制作に一気に反映されていきます。レザージャケットやレザーベルト、バックルなどを工場に発注しなければならないタイミングになると、今度は別の工場で作るためのアイテムを、2週間ほどで大量にデザインしなければならなくなるんです。
だからその期間は、とにかくパーツや細かな要素をひたすらデザインし続けます。そうした細部は制作に時間がかかるのです。その後、プリントのデザインにも取りかかりますが、これも時間がかかる工程です。
さらに並行して、トワルを縫ったりパターンを作り始めたりもします。そんなふうに、リサーチの穏やかな時間が終わると、一気に制作がプレッシャーのかかるフェーズに入っていくんです。
ローラ:全てのサンプルは、ロンドンのスタジオにいる私たちのチームで制作します。様々な要素が組み合わさるので、自分たちで全てを確認する必要があるのです。
エマ:毎シーズン250から300ものプロダクトを作ります。
ローラ:もう少し絞ってもいいと思うんだけど、アイデアが多すぎて、なかなか減らすことができないんです(笑)。’26年秋冬ではショーでエネルギーを伝えるのとは別に、職人技やディテールを間近で見てもらうため、初めてマネキンを使ったプレゼンテーションを行いました。私たちにとって非常に重要なことでしたし、とても楽しかったです。
アイコン「カラビナスカート」の実験と進化
――服から伝わるパワーの源泉として、ブルガリアの職人技やヴィンテージファブリックといった、手仕事と歴史の重なりがあるように感じます。これらは、お二人にとってどのような意味を持っていますか?
エマ:ローラと出会ったとき、私たちはお互いに民族衣装が好きだということで意気投合しました。チョポヴァ ロウェナのアイコンであるカラビナスカートは、ブルガリアの伝統的な衣装の一部である「バックエプロン」と、私たちが愛するスポーツやロッククライミングの要素を組み合わせることから着想を得ています。バックエプロンは何百年も前に、野良仕事をする際に背中を温めるために使われていたものです。当時は、木の棒の間に布を挟んで、高密度のアコーディオンプリーツを作っていたそうです。
――そのプリーツの作り方は、初めて知りました。
エマ:面白いですよね。私たちはそうした古い技法や昔のテキスタイルが大好きで、そこにはたくさんの愛と努力が込められていると感じます。もともと、それらは嫁入り道具として作られたものでした。家族に女の子が生まれると、その家族は彼女が結婚する日のためにエプロンやテキスタイルを織り始め、村の皆に配ったのです。
だからこそ、私たちは完璧な状態で保存された多くのテキスタイルを手に入れることができるのです。
――なるほど、大切に受け継がれてきたものなのですね。
エマ:はい。人々にとって非常に意味のあるものですが、現代では使われなくなってしまいました。だから、私たちがそれに再び命を吹き込み、お客様に本当に特別でユニークなものを提供できることを、とても幸運なことだと感じています。特別な服を作ることはとても重要です。
ローラ:感情的につながれる服を、ですね。


――「カラビナスカート」(写真上左)は非常に独特な作りになっていますが、現在の形になるまでに、どのような実験や試行錯誤があったのでしょうか?
エマ:このスカートは、私たちがまだ学生だった修士課程の時に作り始めました。最初は伝統的な生地が厚すぎたり、そもそもそれを手に入れられるか分からなかったのでスキャンしてプリントにしようとしたりしましたが、うまくいきませんでした。
その後、オークションサイトで調達できることが分かり、制作が本格化しました。初期のものはカラビナがスチール製ですごく重くて、ベルトもレザーではなくロッククライミングのハーネスのようなナイロン製でした。弾力性のある素材を使ってみたり、調節可能なスカートにしようとしたり、チャンスがあるたびに色々な実験を試みました。そして、ある工場と4〜5年前に出会い、それからクオリティが格段に向上しました。
今はスカートの穴の一つ一つに刺繍を施し、縁は極細のロックミシンで仕上げ、民族衣装のテキスタイルはステッチで繋ぎ合わせています。そのステッチも装飾的なもので、どうしても時間がかかるのですが……。以前は、私たちが床に座って縫っていました(笑)。
ベルトはイタリアのデッドストックのレザーを使っています。私たちは常に「どうすれば良くなるか」を考えていて、どうすればより機能的になるのか、どうすればより長く着られるのか、ということを話しています。ウール製のスカートを虫から守るための保管用バッグや、吊るして保管できるクリップも付けました。
ローラ:最近では、アジャスター付きのベルトも開発しました。3つのバックルで2サイズから10サイズまでに対応できるので、姉妹やお母さんと共有したり、自分のサイズが変わってもお気に入りの一枚を長く着続けることができます。
’26年春夏コレクションには、DSMGにまだ並んでいないものも含めて、モジュラー的な構造を持つピースが多くあります。DSMGで展開されるアイテムの中には、上下をジッパーで分けることができて、下半分を単体のスカートとして着ることができるものや、ベルトのみ別で使えるものもあります。また、バッグにも、ジッパーによって上下で取り外し可能にし、それぞれ異なるバッグとしても使えるようにしたものがあります。
こうしたモジュラーなデザインがとても好きなんです。着る人それぞれが、自分なりのユニークな着方を楽しめるようにしたいと思っています。

――モジュラー的なデザインは、今言ってくださったように体型や年齢にかかわらず服を長く着られるアイデアとして、とても素晴らしいと感じます。もう一つお聞きしたいのが、ヴィンテージの生地は、現在どのように集められているのでしょうか? ’21年の他媒体のインタビューで、エマさんのお母様がブルガリアで集めていると拝読しました。
エマ:今も母がブルガリアで生地の調達を担当してくれています。昔は私が自ら調達していましたが、母が携わってくれるようになりました。私たちの家族両方がブランドのために働いてくれていて、父はブランドのマネージャーをしています。ローラのお母さんも働いてくれています。
母は、より良い生地を手に入れるためにオークションサイトを駆使したり、人々とつながりを作ったりと本当に大変な作業を担当してくれています。そうやって築いたネットワークを通じて、「タータンチェックのエプロンが50枚見つかったけど、いる?」といった電話がかかってくることもありますし、工場の前にトランクいっぱいの生地を持って現れる人もいるそうです。母は生地の修復も担当していて、刺繍のほつれを直すなど、一枚一枚とても丁寧に生地を扱ってくれます。私たちのブランドは家族経営なんです。
音楽、映画、香り――尽きることのないインスピレーションの源
――先ほど日本の好きなカルチャーをたくさんあげてくださいましたが、それ以外に、今、お二人が刺激を受けるカルチャーがあれば教えてください。
エマ:私たちはあらゆるカルチャーが大好きです!音楽、映画、テレビ、本、すべて。特に音楽は、私にとって最大のインスピレーション源です。とても強いムードを作り出してくれるし、感情に訴えかけてくるので。私の好きな音楽はブルーグラス(アコースティック音楽の一ジャンル)ですが、本当に何でも聴きます。香水や香りも大好きです。そのような様々なものから吸収しています。
――もしよければ、今朝のプレイリストを教えていただけますか?
エマ:本当にたくさんあるの!最近聴いているのは、シエラ・フェレル、ティベリウス・B、ウォーター・フロム・ユア・アイズ、ココロージー、マッシヴ・アタック、ビキニ・キルとか。2000年代初頭のエモ、例えばブライト・アイズやシステム・オブ・ア・ダウンも好きです。私たちの興味は本当に多岐にわたるんです。
ファッション業界でタフであり続けるために
――たくさんの貴重なお話、ありがとうございます。最後にお聞きします。厳しいファッション業界でタフでい続けるために必要なものは何でしょうか?
エマ:ブランドを続けていくことは、本当にすべてが大変です。特に、私たちのようなインディペンデントな小規模ブランドにとっては。
ローラ:私たちのチームは、現在、正社員が9人です。
エマ:ええ、それに両親も手伝ってくれています。それでもやるべきことはたくさんあります。
ローラ:生産も大変ですし、資金繰りも大変です。お金をどう使うか、使わないかを知ること。
エマ:私たちはデザインをして服を作るのが大好きですが、ブランドを運営する上でのそれ以外の側面は、本当に挑戦的です。
ローラ:人をマネジメントするのも本当に難しいです。私たちは皆のために最善を尽くしたいと常に思っていますが、それは簡単なことではありません。この仕事はとてもパーソナルでありながら、同時にとても商業的でもあるので、本当に大変な仕事だと思います。常に自分自身をさらけ出さなければなりませんし。
でも、私たちは自分たちの仕事が大好きです。一緒に服や製品を作り、人々がそれを着て愛してくれるのを見るのが、私たちの何よりの喜びです。
誰かが私たちのデザインしたものを着ているのを見るたびに、いつも本当に驚き、そして幸せな気持ちになります。他の誰かが私たちと同じように服とつながってくれること、そして他の人々もそれを楽しんでくれることが、とても嬉しいのです。その喜びが必要なものだと思います。そのために頑張る価値があると思えるから。
チョポヴァ ロウェナ
エマ・チョポヴァとローラ・ロウェナがセントラル・セント・マーチンズで学士号取得を目指していた学生時代に出会い、2017年にブランド設立。ヴィンテージのエプロンや枕カバー、民族衣装などのリサイクル生地やデッドストックのテキスタイルを用い、彼女たち自身と熟練した職人たちの手仕事によって、工芸的価値を持った服を生み出してきた。’24年、ブリティッシュ・ファッション・カウンシル/ヴォーグ・デザイナー・ファッション・ファンドを受賞。
WEB:https://chopovalowena.com
Instagram:@chopovalowena





