Moka Kamishiraishi
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Daisuke Nakagawa
初めて会ったのに、初めましてという感じじゃなかった
上白石萌歌(以下 上白石) 今日はいつもと違う空気が流れてますね。中川のおかげでフレッシュな空気が流れて、スタッフみんな嬉しそう!
中川大輔(以下 中川) いつもデザイナーさんとか、クリエーターさんが登場しているんですよね。
上白石 そう。緊張感あるときの方が多いかな。さっき私のマネージャーに挨拶していたけど初対面だった?初対面の人への飛び込み方がこんなに上手な人には会ったことがない。
中川 いや、お会いしたの初めてではなくて・・・。萌歌さんがスタジオにはいってすぐに、僕のスタッフの方々にも挨拶されていたから。僕も!と思って。
上白石 まずこの対談に中川を呼んだことにびっくりされている方がいらっしゃると思うんですけど・・・。あ、私は普段から中川と呼ばせていただいているのでここでもあえてそう呼ばせていただきますね。
中川 関係性がよくわからないですよね、きっと。今までに2回共演しているんです。
上白石 2022年に私が出演したドラマ「金田一少年の事件簿」に中川がゲストで来てくれたのと、中川が出演したドラマ「モアザンワーズ」に私がゲストで出演したとき。お互いの作品にゲストで出演して、そのタイミングでご縁が出来て。
中川 萌歌さんがNHKの「ちむどんどん」に出演していたときで、歌がすごく上手だったから“歌、めっちゃうまいですね!”と話しかけたのを覚えています。
上白石 出会い頭に、急に屈託なく飛び込んでくる人だなっていう印象があった。だから初めて会った時も、“はじめまして”っていう感じがしなかったな。
中川 でも僕のことは知らないだろうなって。
上白石 いやいや、知ってたよ。でも最初に共演したドラマでは撮影日数も少なくてあまり話せなくて。そう思っていたら、1か月後くらいに、「モアザンワーズ」で共演が決まって。京都で1カットだけのシーンのために私がお邪魔して、そこでやっと話せたという感じ。あの時はすごく緊張した。
中川 後から緊張してたって聞いたんだけど、このキャリアでも緊張するんだなって。
上白石 やっぱりチームで出来上がっている空気もあったし。ほぼ1シーン1カット。それって結構難しくて、ちょっとした動きが気になるともう一回撮り直しになって。各部署が納得いく1テイクを狙っていくから、かなり緊張した。しかも京都弁だったし。
中川 それだけ作品に正面から向き合っているから緊張もするんですね。
上白石 主にその2作品がきっかけ。「モアザンワーズ」に出演した青木柚くんと中川が仲良くて、私も柚くんとは共演したことがあったからなんとなく3人で仲良くなった。
中川 その時の京都の撮影場所近くにおいしい塩大福のお店があって、行きたいけど撮影が忙しくて行けない。そしたら、萌歌さんが撮影の合間に買って来てくれたんですよね。すごく嬉しかった!
上白石 そう、ちょっと時間があったし、私も食べたかったから。
中川 それを柚と3人で鴨川の河原で座って食べて。あー、京都だねって。
距離を縮めるのは時間だけじゃない
上白石 何回も共演したから距離が縮まるというわけでもないんだよね。人との関係が深まるのは時間だけではなく、お互いのもっている空気とか状況とか言葉の選び方とか、たまたま一緒に過ごすのが心地良かったからとか。
中川 言葉の選びかたとかで距離が縮まるのは、納得できますね。
上白石 今年の4月、ヨーロッパ企画さんのプロデュースする舞台「鴨川ホルモー、ワンスモア」で中川が主演をやっていて。私も10代の時にヨーロッパ企画さんとご一緒したから、そこからのご縁でトークショーに呼んでもらったんだよね。
中川 トークショーには、萌歌さんのお母さんもいらしてくれて。お母さん、ものすごく堂々としていらっしゃるんですよね。萌歌さんがいつも凛としているのがすごくわかる。楽屋に挨拶に行ったらお母さんしかいなくて、2人でしばらく話してました。
上白石 わたしの母とものすごく自然に話していたね。(笑)
一緒に体験したお芝居のワークショップ
中川 今年の初めに萌歌さんの展示「かぜとわたしはうつろう」に、大学時代の友達とお邪魔させていただきました。何の連絡もしないで行ったのに、普通に在廊していて。あの時はびっくりした。
上白石 連絡しないで突然来たよね。(笑) あの展示は結構特殊で、あんまり自分のことを知ってくれている人と会う機会ってそんなにないじゃない。それができてすごく楽しかった。私、毎日会場にいたからね。在廊ってたまに来ているからかっこいいのにね。 (笑)
中川 お客さんもそれに慣れて、萌歌さんに話しかけもしない。(笑)
上白石 無視?みたいな。(笑)
中川 不思議な空間で面白かったです。
上白石 私たち、お芝居のワークショップも行ったよね。何年前だったかな?私が行きたいワークショップがあって、だけど一人で行くのはちょっと・・と思った時に、中川のことが浮かんで、多分暇でしょって(笑)。連絡したらスケジュールあけてくれて、2人で履歴書を送ってね。
中川 その時に、すごい友達ができたなって思ったんです。一緒にお芝居のワークショップに行ける俳優の友達はいないから。
上白石 ワークショップに行ける友達って、ちゃんとそのひとの前で恥をかけるってことだと思う。恥を晒す場所に誘っていけるというのは、信頼がないとできないから、私は嬉しかった。
中川 貴重な体験でした。これから俳優を目指す人たちの中で、芝居をしたから。なんでこの人たちがここに?って思った人もいたはず。
上白石 みんな志のある人たちで熱意とかすごくて、純粋にお芝居に向き合えたのが良かったな。
中川 刺激を受けました。
上白石 このまえ一人で沖縄に行って栗山民也さんの演出を受けてたよね。
中川 栗山民也さんはすごく素敵な演出をするので一度受けてみたいと思って。例えば、その場から“はける”のではなくて“消えて”くださいとか、平和の風を感じて言ってくださいと指導する方で。栗山さんのことは萌歌さんから聞いていたので、役者として助けてもらっています!
異性だから心が開けることもある
上白石 私は同世代の役者が意外と少なくて、中川とは不思議なつながりだなって思う。同性の仲間とも違うし。
中川 同性、同年代だとライバル心が抜けきらないのかもしれない。
上白石 自分の見せたくないプライドとかが出ちゃったりする。それは結構辛い。
中川 異性だと、仕事の内容も違うことも多い気がして、プライドとか関係なく仕事の悩みとか話せると思います。
上白石 同性よりも本質的な部分で話せるというか。
中川 同性だと言いづらいこともあるかも。
上白石 それすらが嫌味に聞こえてしまったり。
中川 きちんと話し合える存在でいられてありがたいです。
その“変”な感じに救われる
上白石 中川って、なんか変な人なんだよね。
中川 それはよく言われる。(笑)
上白石 私の発言に対して、すごく変な角度で投げ返してくる不思議な感性をもった人。その変わり方は、決していやな変わり方じゃなくて、のんきなというか、人をいい気分にさせてくれる変人感。だからいろんな話もしたくなるし、そう返してくるかというのがあるから救われることもある。
中川 みんな変なところありますよ。萌歌さんだってこういう現場に入るとちゃんとした人に見えるけど・・・。プロフェッショナルだなと思います。ちゃんとわきまえているなって。
上白石 中川は、私の世間的なイメージと違う部分をちゃんと理解してくれていると思う。私の破天荒なところとか。(笑)
中川 破天荒なイメージ・・・。そう結構破天荒なところあると思います。だってこの立場でお芝居のワークショップ行くとか、展示をすればずっと在廊していますし。
上白石 中川もそうかもしれないけど、多かれ少なかれ表に立つ自分が本当の自分じゃないように捉えられたり、クリーンなイメージを持たれがちだけど、そうじゃない所を知ってくれる友達とか、自分に立ち返ることのできる存在は楽だなって。
中川 萌歌さんが「鴨川ホルモー、ワンスモア」のゲストに来たときに思ったんですけど、すごく気を使う人だなと感じたんです。
上白石 それはあるのよね。でもそれが中川の前だと気を使わないでいられるから楽なのよ。
中川 ありがとうございます!
大自然が作り上げた人格
上白石 現場でもそうだと思うけど、中川は自分が無自覚なうちに人を癒したりすることができるんだろうなって思う。昨日ちょっと調べたんだけど、3年間沖縄で過ごしていたってあったけど、それはどういうきっかけで?
中川 親の移住です・・・、え?そこ興味あります?
上白石 すごくある。この人の自由さは沖縄の気候とかに関係するのかなって思ったから。
中川 親が移住したので、高校の3年間ついていったんです。それまで住んでいたのは東京の23区内。多感な時期に沖縄で過ごしたので、そのまま東京にいたら全く違う人間になっていたんだろうなと思います。
上白石 東京出身と聞いた時、意外だった。沖縄のような雄大な場所で育った人だと思っていたから。
中川 沖縄の人たちってとってもおおらかなんです。本当に集合時間にみんな集まらないんですよ。萌歌さん、撮影で行ってましたよね?
上白石 沖縄はご縁があって、撮影でトータル半年ぐらいはいたかな。
中川 そこに3年間いたとしたら、想像できると思います。“なんくるないさー精神”が生まれるんです。
上白石 海も広くて穏やか。そういうのが今の人格を作っているんだと思う。こういう業界にいると、どこまでもシャープな思考になっていく人もいるし、そうならざるを得ないところもあるでしょ。肩の力を抜いてのびのびとお芝居ができるのは本当に難しい。初めてお芝居を一緒にしたときに思ったけど、そういうことが自然にできるのは、育ってきた環境にあるんじゃないのかなって。
中川 沖縄で過ごしていた時は目の前が海で、“今日は満潮だなぁ”とか、“今日は引き潮だなぁ”とか思って毎日過ごしていて。壮大なものに囲まれると悩みとかなくなるんです。海見ると忘れる。今も気持ちがすっきりしないときはレンタカーを借りて一人で海に行くんですけど、満潮の海がすごく好き。
上白石 自然の力ってすごいよね。がんじがらめになったものをスーッと解いてくれて。“あれ、何を悩んでいたんだろう?”ってなるから。私も鹿児島で育ったからわかる。そういう場所で育った人なりの解決方法というか、そういうことを体が求めているんだろうな。
中川 鹿児島も行ったことあるんですけど、桜島が見える所で育ったんですよね。桜島が常に見えることが性格に影響が出てると思う。ものすごい景色じゃないですか?
上白石 毎日見ていたからあんまり感じていなかったかも。でも、桜島の見え方でその日の天気がわかるんだよね。今日は向こうまで見えるから晴れるとか。
中川 僕の“満潮だなぁ”というのに似ている気がする。(笑)
上白石 似てる! 物理的なこと以外で、自分の見たものでその日を計るというのは確かに共通してる。
中川 鹿児島、沖縄!南国で共通。
建築から絵画に転身⁈
上白石 絵を描くんですよね。武蔵野美術大学の建築学科なのに?
中川 建築学科だったんですけど、途中で建築は違うかもしれないって。
上白石 どうして?
中川 図面とか引いてトイレとかを書くのが面倒くさくなってしまって・・・。
上白石 え!変だっていうのはさ、そういうとこだよね(笑)
中川 建築ってアートなんですけど、日常に必要なものを入れ込まないといけない。うまく現実とのバランスが取れる人が建築家に向いているんだと思ったんです。絵はそういうこと関係なく、描きたいものを100パーセント表現できると思って。
上白石 それで絵の方が向いているって思ったの?
中川 そう。今でも絵は描いたりするけど、図面書いているより楽しいんです。普段は役のイメージで描いたりしています。
上白石 私はプロフィール帳を買って、その役になって書いている。ダイレクトに役作りに繋がっているかわからないけど。将来の夢とか、好きな色とか、人格の基本が詰まっているから。最近のプロフィール帳ってアカウントのIDとか書く欄もあるの!この登場人物のアカウントはとか、ディテールを想像するには役立つ。自分の楽しみとしてやっているけど。それが中川は絵なんだね。
中川 そのプロフィール帳、実際に役立ったなっていう瞬間があるの?
上白石 ないけど。(笑)
中川 でも、きっとどこかで役立っているはず。
上白石 どこかでね。でも役作りって自分のためじゃない。だから自分がいかにその役に対して解像度を鮮明にするというのはできると思う。
中川 自動書記的にその時その時のことを書きとめるというやりかたがあるらしく、そういう方法もあるみたいです。
すんなり役に入るためにすること
上白石 絵は具体的にどういうものを描くの?
中川 役のイメージで抽象画を描くんですけど、芝居をするときの“用意スタート!”でその絵を浮かべる。そうすると感覚的にすんなり役に入れるんです。
上白石 それすごくかっこいい!
中川 このエピソード、天才っぽいでしょ⁉(笑)
上白石 お芝居ってやればやるほど難しくって、歌もそうだけど。何も知らなかった時の方が、不思議と堂々と出来たような気がする。
中川 経験がないだけ自由にやれたというか。
上白石 いろいろ理解してくるから難しくなるんだろうね。怖さもどんどん出てくるし。
中川 “今役に入れた”っていう瞬間はある?
上白石 それこそ、栗山さんの「ゲルニカ」っていう舞台をやった時、その2年後にあるテレビ番組でピカソの「ゲルニカ」の絵を8Kで撮影して東京のある場所に映して鑑賞しようという会があって、その絵を題材にした作品だったから、それを見た時に泣き崩れちゃって。ちゃんと自分の心に役がコネクトしていたんだなって。今はその頃の気持ちにもっと寄り添いたいなって思う。
中川 それ嬉しいですよね。自分の中にその役があったということだから。満足できた?
上白石 ものすごく充実してたんだと思う。でもまだまだ。満足できたら終わりの職業だから。
いずれは、ずっと語り継がれるような作品で共演を
中川 舞台でも、スタンディングオベーションがあると、純粋に嬉しいですよね。「リア王」も見せていただきました。萌歌さんの歌は、空気が変わるような歌声だなって。
上白石 ちゃんとしなきゃ!いい自分を見せたい!というのがあった。今後もお互い作品は見るだろうし、こうだったよってちゃんと感想を言えると思うし。逆にどうだったって聞ける存在でいたいな。
中川 今後の展望はなんですか?
上白石 ものすごく大きな夢だけど、自分より長生きする作品を作りたい。歌でも映画でも。作品に出るって自分よりも長く続くものになる可能性があるでしょう。人はいつか死ぬけど作品は残っていく。そういう作品に一つでも出会えたらいいなって思う。世間的に素晴らしい作品ということだけではなくて、誰かにとってその人の中で生き続けていく作品。例えばその人に子供ができて語り継いでくれたらいいなって。そういうことでもいいから、そういう作品に出られたらいいな。
中川 一緒に出られるように頑張ります!
――撮影を終えて――
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
hair & makeup :Tomomi Shibusawa(beauty direction)
styling:hao
上白石萌歌着用
ニットトップ ¥22,000 テーロプラン(テーロプランカスタマーセンター)/デニムスカート ¥73,700 シー ニューヨーク(ブランドニュース)/シューズ ¥55,000 ラインヴァンド(ラインヴァンド カスタマーサポート)/リング ¥20,900 ミラ(スタジオ ファブワーク)/その他 スタイリスト私物
中川大輔着用
シャツ ¥30,800 ファウンド(コンクリート)/パンツ ¥46,200 コグノーメン(サカス ピーアール)/シューズ ¥31,900 リプロダクション オブ ファウンド(アイファウンド)/ソックス スタイリスト私物
【SHOPLIST】
アイファウンド
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コンクリート
070-9199-0913
テーロプランカスタマーセンター
customer@teloplan.co
バウ インク
070-9199-0913
ブランドニュース
03-6421-0870
ラインヴァンド カスタマーサポート
customer@leinwande.com
Kamishiraishi Moka
2000年2月28日生まれ。鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞し、デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で第42回 日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。25年1月10日公開予定の映画『366日』に出演決定。数多くのドラマ、映画に出演する傍ら、『The Covers』(NHKBSプレミアム)のMCも務める。adieu名義で音楽活動も行い、2024年7月、約2年ぶりとなる新曲「背中」を配信リリース。8月「SUMMER SONIC 2024」に出演。12月22日には約1年半ぶりにワンマンライブを行う。
Nakagawa Daisuke
1998年1月5日生まれ。東京都出身。2016年、大学1年で、第31回メンズノンノ専属モデルオーディションに合格。2019年4月、ドラマ『俺のスカート、どこ行った?』で初めてレギュラー出演を果たす。同年9月より『仮面ライダーゼロワン』に出演。その他、映画『極主夫道 ザ・シネマ』、ドラマ『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』、ドラマ「モアザンワーズ/More Than Words」など、モデルからキャリアをスタートし、現在は俳優としても活躍中。2025年2月7日公開の映画「大きな玉ねぎの下で」に出演。また2025年3月1日からは主演舞台「きたやじオン・ザ・ロード~いざ、出立‼篇~」がスタートする。
【上白石萌歌のぐるぐるまわる、ときめきめぐり】
Vol. 1 デザイナー 藤澤ゆき
Vol. 2 ブックデザイナー 名久井直子
Vol. 3 アーティスト 長坂真護
vol. 4 ミュージシャン 奇妙礼太郎
vol. 5 アーティスト 長坂真護 パート2
vol. 6 デザイナー 小髙真理
vol. 7 写真家 石田真澄
vol. 8 歌人 木下龍也
Vol. 9 コラージュ アーティスト M!DOR!
Vol.10 デザイナー 田中文江
Vol.11 ミュージシャン 吉澤嘉代子
Vol.12 デザイナー 竹内美彩
Vol.13 デザイナー フィリス・チャン&スージー・チュン
Vol.14 写真家 松岡一哲
Vol.15 菓子研究家 福田里香
Vol.16 歌人 伊藤 紺
Vol.17 デザイナー 熊切秀典
Vol.18 俳優 長濱ねる
Vol.19 音楽プロデューサー Yaffle
Vol.20 写真家 野口花梨
Vol.21 俳優、文筆家、イラストレーター、カメラマン、ミュージシャン リリー・フランキー
Vol.22 ポンティデザイナー 平田信絵