写真の中のいつもと違う表情
上白石萌歌(以下 上白石)今日はありがとうございました。こういう対談はよくやられますか?
松岡一哲(以下 松岡) いやいや、数少ないです。写真集を出したときにはやりましたが。
上白石 人の前で話をするのは、やっぱり緊張しますよね。
松岡 基本、話したりするのは得意ではないので・・・。
上白石 撮影で一度お会いしたことがありますが、ゆっくりお話しするのは初めてですね。
松岡 萌歌さんの写真展で少しお話ししたくらいで。写真展、すばらしかったです。
上白石 ありがとうございます!私が一哲さんの写真に初めて出会ったのは、今田美桜さんのフォトブックの写真をインスタで見た時です。今田さんとは面識があって、私の中には今田さんのイメージ像があったんですが、全然見たことがない今田さんで。フォトグラファーのクレジットを見たら“松岡一哲”と書いてあって、すごく気になってインスタをフォローしたのがきっかけです。
松岡 本当?もう7、8年前ですよね。
上白石 はい。今田さんもそうだったのですが、一哲さんの撮る方たちって写真の中で自然なふるまいをしているのに、ちゃんと一哲さんの世界に染まっていて、そのバランスが不思議だなって思うんです。そしてあらゆる人を一哲さんの写真の中で見てみたいなって。実は一哲さんが撮っていたから好きになった人たちがいっぱいいるんです。不思議な魔力です。
松岡 自分でも不思議。自分がそうしようと思っているわけじゃないのに、人からいつもと違う表情があるねって、よく言われることがあって。それはとても嬉しいですね。自分としては、その人の新しい魅力を、与えられた時間内でやっているだけなのですが。
1枚の写真であの時の自分がよみがえって
上白石 私もいろんな方に写真を撮っていただく機会があって、やっと去年一哲さんに撮っていただいたときに、こんなに物腰の柔らかい方なんだって、びくっくりしました。
松岡 怖いと思っている人もいるみたいなんですよね。あの撮影は嬉しかったですよ。僕も楽しみにしていました。
上白石 ドラマで金髪にしていた時で。あの瞬間を一哲さんに撮っていただいたのは、自分でも大きくて、その時期を思い出す時に、絶対にあの写真が一番先に出てくるんだろうなっていうくらい、メモリアルなものでした。
松岡 フォトグラファー冥利に尽きますね。
ゆっくり呼吸をするように1枚に納まる
上白石 いつも思うのですが、フォトグラファーの方と被写体って、あまり言葉を交わす前に撮り始めますよね。いつもレンズ越しにこのフォトグラファーはこういう方だろうなって、じんわり感じて。一哲さんとの初めての撮影は、その距離感がとても心地良かったんです。それって、会った瞬間からこの人とはこのぐらいの距離を取ったほうかいいなと考えるんですか。
松岡 あまり考えないようにはしているけど、勝手にやっているかもしれませんね。心地よくいてほしいというのはあります。被写体が自由に表現できる状況だけは作ろうと。人それぞれが魅力的を出せるように。
上白石 だから一哲さんの写真のなかにいる人たちって、ちゃんと呼吸しているんですね。レンズの向こうの人をすごく感じ取りながら撮ってくださっていて。だから撮られる側もちゃんと呼吸できるんです。
松岡 うれしい表現ですね。
上白石 それはすごく感じました。カメラを向けられると時々窮屈になることがあります。
松岡 カメラを向けるって、意外と暴力的な行為かもしれませんね。写真を撮られるのは怖いし、疲れるでしょう。だから、終わった時に“今日は楽しかった”って思える状況は作ります。自分としてはそれが重要で、そこに自分としての出したい側面や表現は入れて。キャリアを重ねていくといろんなバランスを考えます。でも、強く出たときにいい写真が撮れたりもするんですけどね。
上白石 決して心地よさだけが答えではないではないと?
松岡 そう。でも楽しさとか、心地よさとか、優しさとか、そういう感情の方が重要だと信じています。すごくいい写真でも、辛い雰囲気で作られるものもあるでしょう。もちろんそれも尊いし、大変だけど美しいものを作るんだという一体感はあるけどね。
少しの緊張は写真をより素敵に
上白石 私は、写真を撮られることって呼吸をすることだなって思っているんです。去年撮っていただいた時も、ずっとドラマが続いて役の中にいるときだったんですが、鎧をはずして人間対人間として望めた撮影でした。そうやって本来の自分を確認できるから、私にとって写真を撮ってもらうのは大事な時間なんです。一哲さんに撮ってもらって、そこにはちゃんと呼吸できている私がいました。
松岡 みんながそうあってくれるといいなっていつも思います。萌歌さんのような状況下で撮影させてもらっている人が多いから、この時間ぐらいは本人のやりたいことを表現してもらって、素敵な部分を自分がスーッとすくい取るようにしてあげたい。だからそう思っていただけるのは嬉しいです。
上白石 こちらがどういう気持ちでいるかとか、撮影現場の空気感とかって写真に写りますよね?
松岡 そう、その人とか関係性とか。嘘つけない。でも写真は嘘もつくんだよね。ちゃんとしなきゃバレる(笑)。
上白石 こっちもバレちゃいけないと思って緊張感もってやってます(笑)。
松岡 緊張感はいいよね。特に初対面に人と撮影するのは緊張します。
上白石 親しいからいいものが撮れるわけでもないですしね。
松岡 近しい距離の人は絶対にいいものを撮る自身があるんだけど、ちょっとした緊張感を持って撮影するのが写真の面白さかな。
レンズを通して見えるもの
上白石 私も趣味で写真を撮ったりするんですけど・・・。
松岡 趣味?本職でしょう⁉
上白石 写真とお芝居は似ているところがあるなって思うんです。1対1のシーンでは相手がどうくるかわからなくて、でも相手の目を見るとこの人とちゃんと通じ合えるかどうかがわかるんです。写真もきっとそうですよね?
松岡 そうかもしれませんね。僕は昔から人とコミュニケーションをとるのがそんなに得意ではないけれど、カメラがあれば大丈夫。わかるんですよね、どういうこと考えているかとか、どうしたいのかとか。
上白石 見透かされてる⁉
映画がきっかけで写真へ
上白石 そもそも一哲さんが写真と出会ったのはどんなことがきっかけだったのですか?
松岡 僕の実家は岐阜で映画館をやっていたんです。だから昔から映画は大好きでした。高校の時、アメリカに留学したんですが、美術の先生がとても素敵で、その影響もあってゆくゆくは表現することをしたいなと思ったんです。一人でやるほうが自分の性格に向いていると思って、写真を。映画の中の絵を切りとって見ているのは好きでした。映画は写真の連続でしょう。写真をちゃんと勉強したのは大学の写真学科に通うようになってからですね。
上白石 その頃から将来のビジョンに対して揺らぎはなかったんですか?
松岡 どういうものを撮るのが好きかというのは、人や物などいろいろ撮っているうちに。大学を出てからスタジオに入っていろんな現場を見て、その後独立しました。
上白石 師匠はいないのですか?
松岡 いないんです。
上白石 珍しいですよね。
松岡 そう。だから独立してから結構時間がかかりました。スタジオを卒業しても仕事がないし。でも、ゆっくりだけど背伸びせずにきたからそれは良かったかな。
子供を撮って見えてきたもの
上白石 ずっと撮り続けているモチーフはありますか?
松岡 子供!一時期悩んで写真が撮れなかったんですが、子供だけは撮れたんです。町にいる子供たちを撮っていたのだけど、今はなかなか勝手に子供を撮れる状況じゃなくなってきて。そんなとき、許可をもらって一人の人をずっと撮り続けてみたらって、助言をもらって。一人の人をちゃんと撮ったんです。それが今の、人をきちんと撮るということに繋がりました。その時撮っていた少女が、長い時間撮っていても嫌がらず喜んでいてくれた。その体験が今活かされているんですね。とても感謝してます。
上白石 子供って予測不能ですよね。どっち向くかわからないし、こう見られたいというものもないから。
松岡 難しいですね。でもその自由さがいい。ふつう大人になってくると、動きが限定されるから。自分はずっと子供を追いかけられるんですよね。あと目がきれいでしょ。手もきれい。今の仕事は、被写体にとても感謝してます。自分の撮影に付き合ってくれる嬉しさもある。だからその人のプラスになるように考えます。
必ず見えてくる美しい瞬間
上白石 一哲さんは被写体にリスペクトするだけじゃなく、まわりのスタッフへの感謝の言葉も欠かさない。それが心地よさなのではないかと思います。
松岡 本当に思っていることだから。現場はいろんな人がいて成り立っていますし。
上白石 写真家のかたって、指揮者みたいに全部を動かしていく人。その人がその場をどういう空気にしていくかによって全く違ってきます。私は指揮者の前にいる楽器の一つ。奏でる音を、どうすくい取るかも写真家しだいですね。毎日どういう状態で人がくるかわからないし、どんなメークでどんな衣装になるかわからない中で、ベストを尽くす。ある種サバイバルです。
松岡 毎回どうなるかわからないという怖さはありますね。でも、どんな人でも美しい瞬間や美しい角度があるからね、絶対。昔、新しい駐車場ができたらそれを撮るという仕事をしていたんだけど、駐車場でさえ角度によって見え方が違うからね。
上白石 個人的には、一哲さんは今いちばん女性を美しく撮る人というイメージがあるので、撮ってほしい人はたくさんいるはず。おもてに出ない人でも、今の自分を残したいと思う人はいるから。それに今って今しかないし。
写真は無限の広がりがあるから楽しい
松岡 写真ってやればやるほど面白くなる。写真には説明がないけど、1枚で物語が成立するんです。想像で撮るほうも見るほうもどこまでもつき進める。そして可能性が広がります。役者さんとか表現する人は写真が好きでしょう?写し出されたものの曖昧さや優しさも、きっとみんな好きですよね。
上白石 一哲さんはこれからどういう瞬間を切り取ってみたいですか?
松岡 作品としては、抽象度の高い物。例えば色だけとか、光だけとか。物に寄ったもの。そして花。花の色だけとか。具象的なものから解放されていきたい気持ちはあります。もっと曖昧になって、見る人が自由に解釈できる作品を撮りたいですね。萌歌さんは何を撮りたいですか?
上白石 自由がきくなら子供を撮ってみたいですね。
松岡 こっそり撮っていると怪しまれるし、なかなか難しい被写体です。でも写真は撮り続けてくださいね。
上白石 一哲さんも素晴らしい写真を私たちにたくさん見せてください。今日は素敵な時間をありがとうございました。
――撮影を終えて――
撮影・上白石萌歌
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)
hair & makeup : Tomomi Shibusawa(beauty direction)
styling:hao
上白石萌歌着用
【花柄ドレスのルック】
ジャケット ¥330,000、ドレス ¥198,000 ロルフ エクロス(バウ インク)
【ピンクのロングジャケットのルック】
ジャケット 参考商品、パンツ ¥82,500、レーストップ 参考商品、ニットキャミソール ¥22000、ブーツ 参考商品 すべて カナコ サカイ
【SHOPLIST】
バウ インク
MAIL:press@bow-inc.com
パープレッド
WEB:https://purpred.com/
カナコ サカイ
MAIL:info@kanakosakai.com
Kamishiraishi Moka
2000年2月28日生まれ。鹿児島県出身。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞し、デビュー。2019年、映画『羊と鋼の森』で第42回 日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞。adieu名義で音楽活動を行う。数多くのドラマ、映画に出演する傍ら、「The Covers」(NHKBSプレミアム)のMCも務める。2024年3月、東京から開幕する舞台「リア王」にコーディリア役で出演。▶︎https://stage.parco.jp/program/kinglear
Ittetsu Matsuoka
1978年生まれ。岐阜県出身。日本大学芸術学部写真学科卒業後、スタジオフォボスに勤務し、独立。フリーランスの写真家として活動するかたわら、2008 年 6 月よりテルメギャラリーを立ち上げ、運営。主にポートレートやファッション、広告などコマーシャルフィルムを中心に活躍する一方、日常の身辺を写真に収め、等価な眼差しで世界を捉え撮影を続ける。主な個展に「やさしいだけ」(タカ・イシイギャラリーフォトグラフィー/フィルム)、「マリイ」(Bookmarc)、「マリイ」(森岡書店)、「Purple Matter」(ダイトカイ)、「やさしいだけ」(流浪堂)、「東京 μ粒子」(テルメギャラリー)など。現在は東京を拠点に活動。
WEB:https://ittetsumatsuoka.com/
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