2023年に創立100周年を迎えた文化服装学院。文化の100歳をお祝いした好評連載の7回目では、文化服装学院で服作りの技術を身につけ、現在はパタンナーとして活躍する卒業生にフォーカス。特に多くの卒業生が在籍している三陽商会とゴールドウインの2社に着目し、技術職のやりがいや、文化で学んだことを尋ねました。
photographs: Jun Tsuchiya (B.P.B.)
三陽商会(SANYO SHOKAI)
1943年、吉原信之が東京に設立。戦後の物資不足の中で入手可能な原材料から様々なものを生み出し、ʼ46年、防空暗幕を用いて紳士用の黒いレインコートを制作。これが三陽商会のコート第1号となった。その後、レインコート製造販売業からʼ50年代には総合的なコートメーカーに、ʼ70年代には総合アパレルメーカーとなる。技術開発部や国内自社工場を有し、デザインから設計、試作までを社内で一貫して行うことが特徴。2023年5月には設立80周年を迎えた。
技術開発部 技術開発課長
西岡宏和
パタンナーは、型紙を作るのみでなく、ものづくりの“行間”を埋め、“時系列”を大事にする仕事
私は、パタンナーやグレーダー、縫製ラボチームなど、三陽商会の服作りの技術的な部分を担う人々が約75名所属する「技術開発部」のマネジメント職に就いています。人材育成を含めた部署の運営・管理を行いつつ、青森と福島にある自社工場の品質向上や効率化のための改善にも携わっています。また、2021年に発足した全社横断プロジェクト「商品開発委員会」では、事務局の運営を担当。三陽商会には、社内にデザイナー、パタンナー、生産管理者もいて自社工場もあるため、社内でものづくりを完結できることが強みですが、商品開発委員会ではその技術力を生かし、さらに「世の中に一石を投じるようなものを開発する」というミッションを掲げています。0→1を考えるという、悩ましくもやりがいのある仕事ですね。
西岡さんのお仕事
「商品開発委員会」
技術力・開発力を生かしたものづくりを
2021年発足。三陽商会の全ブランドと技術開発部門をはじめとする諸部門の責任者、二つの自社工場の工場長が参加し、社内で一気通貫のものづくりができる強みを生かした商品開発を行う委員会。西岡さんはこの事務局として重要な役割を担う。商品開発委員会から生まれたポール・スチュアートのシーリングクリフォードコート(2022年秋冬商品)。
三陽商会では、パタンナーは型紙を作るだけでなく、最初の絵型出しから製品になるまでを一貫して担当します。ものづくりに重要なのは、一つの製品ができるまでの多くのプロセスの「行間」を埋め、時系列を作り上げること。社内にいる約60名のパタンナーは、工場とともにものを作る過程を管理しています。それによって、保てる品質があるのです。
文化服装学院のⅡ部服装科時代は、OEMの会社で生産管理のアルバイトをしていました。学校で服作りの基礎を学び、バイト先ではプロのパターンに触れる日々。入学初日からパタンナー志望でしたが、就職氷河期だったこともあり、何か武器を作らなければと思っていたんです。就職試験の面接では「パタンナーも生産管理もクリエイティブな仕事」と生意気にも言っていました(笑)。当時から変わらず、技術者にはサプライチェーン全体を見通す力が必要だと思っています。
三陽商会のものづくりの根幹「サンヨーソーイング 青森/福島ファクトリー」
R&D機能もある二つの国内工場は、技術開発部の所管部署。品質向上のため、西岡さんはこの工場の様々な改善にも尽力。青森では祖業アイテムのコート、福島ではジャケット、スーツやジャージーのセットアップなどを制作。
Hirokazu Nishioka
2002年、文化服装学院Ⅱ部(夜間部)服装科卒業。卒業後、三陽商会に入社し、レディスの数ブランドのパタンナーを経て青森の自社工場「サンヨーソーイング」へ。4年間の赴任後、技術開発課長に。
技術開発部 マッキントッシュ ロンドンマッキントッシュ フィロソフィー
田中裕美
デザイン画を形にするために、最も重要なのはコミュニケーション
パタンナーだった母親が自宅で仕事をしている姿を見たり、仕事場に遊びに行ったりしているうちに、小学生頃からパタンナーの仕事に就きたいと思うようになりました。そこで、ファッションの学校で最も有名な文化服装学院に入学したんです。基礎科の1年次には、デザイナーやマーチャンダイザーなど様々な夢を持った友達の存在が刺激に。進級してアパレル技術科に行くと、また雰囲気が異なり、職人気質の同級生がじっくり作業をしているという環境でした。3年次の卒業制作では、没頭するあまり、3か月間、明け方まで作品作りをしていたことも。その間、友人たちとLINEでやりとりしながら励まし合ったり、分からないところがあればそれも聞いたりして、楽しみながら乗り越えることができました。一人では決してそんなふうに制作できなかったと思います。その友人たちも、皆、それぞれパタンナーとして活躍しています。
田中さんのお仕事
マッキントッシュ ロンドンのコート
新たな定番として人気の“ロズリー”のエコペル素材のコート。Aラインのショート丈がかわいい。通常のロズリーよりも身幅を広めにとり、蹴回しをカット。ドットボタンが抜けないよう、スレーキを挟んだ仕様にも工夫が。
ショート丈コート“ロズリー”¥110,000 マッキントッシュ ロンドン(SANYO SHOKAI)
(左)マッキントッシュ フィロソフィーのワンピース
上品なリボンつきワンピースは、田中さんがピンタックとその位置バランスにこだわったもの。かしこまったお出かけのシーンでの着用を想定し、美しさを保ちつつ控えめなボリューム感になるよう配慮。
ダイヤドットフロントリボンワンピース¥35,200 マッキントッシュ フィロソフィー(SANYO SHOKAI)
(右)マッキントッシュ ロンドンのスカート
オリジナルの花柄プリントのスカートは、裾にかけて消えていくプリーツがポイント。田中さんと加工工場の緻密なやり取りで実現した。また、生地に無駄が出ないよう、生地幅に対して裾回りの寸法を決定。
ラインバイブリースカート¥47,300 マッキントッシュロンドン(SANYO SHOKAI)
三陽商会に入社した当初は、社内に文化卒の先輩がいらっしゃることで、安心感がありました。パタンナーとしてはブラウスやスカートなどの軽衣料から始めて、現在は、コートやジャケットなどの重衣料を任せていただける機会が増えています。マッキントッシュはアウターウエアから始まったブランドですから、コートを手がけるのは嬉しさと緊張感の両方があります。担当した服を着ている方を街で見ると、つい声をかけたくなってしまいますね(笑)。私は、デザイナーの意図をうまくくみ取れるパタンナーでありたいと思っています。同じデザイン画でも、パタンナーの技量によってその仕上がりは異なります。ウエストに描かれた線をギャザーにするのか、プレスでつぶしてみるのかでも違うものになりますよね。デザイナーの理想の形を実現できるようコミュニケーションを大切に、これからも仕事をしていきたいです。
Yumi Tanaka
神奈川県出身。2018年、文化服装学院アパレル技術科卒業。卒業後、三陽商会に入社しマッキントッシュ フィロソフィーとマッキントッシュ ロンドンを担当。
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