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自分らしくファッションの仕事を行う先輩たちの学生時代と仕事術
【文化服装学院100周年記念連載vol.11】

2024.10.13

2023年、創立100周年を迎えた文化服装学院。文化の100歳をお祝いした好評連載の11回目は、文化服装学院を卒業し、ファッション業界のあらゆる分野で活躍する方々の仕事内容と、その仕事に就くまでを尋ねるインタビュー集。ファッションにまつわる多様な仕事の世界を紹介します。

photographs: Jun Tsuchiya (B.P.B.)

Natsuko Okita 2000年生まれ、東京都出身。文化服装学院ファッション流通専攻科卒業。在学中は、東京・渋谷のMIYASHITA PARKでの卒業ショーの企画を担当。在学中のM(エム)でのインターンを経て、同社に入社。WEB:https://mincnim.com

学生時代から目指していたPRの仕事は、誰かの役に立てることが醍醐味

 国内外のブランドのPRやマーケティングを行う会社、M(エム)で、PRとして活躍する沖田夏子さん。文化服装学院に入学したのは、ウェブで公開されている「お仕事ブック」でPRの仕事を知り魅力を感じたから。

「昔から人の間に立って行事を進めたり、部活でマネージャーをしたりすることが好きで、高校生の頃には、ファッションで誰かを支える仕事がしたいと思っていました。だからお仕事ブックでPRの仕事を見つけた時は、これは私がしたいことかもって。3年生の時、担任の先生の紹介で、平日週に1回、夏休みは週に3回、フルタイムでMのインターンシップに行けることになり、PRの仕事を経験しました。そのまま働かせてくださいと自分からお話しして、就職しました。今は、ウジョー、そしてマーク ジェイコブスとビルケンシュトック 1774を担当しています。やりがいは小さなことから大きなことまですべて。スタイリストさんやブランドの悩みをヒアリングして一緒に取り組めた時、自分がアプローチしたものが媒体の掲載につながった時──」

「特にウジョーでは、ブランドイメージを大切に、デザイナーと相談して、毎シーズン、スタイリストさんや媒体にアプローチします。前のシーズンで得た気づきが、次のシーズンの広がりにつながっていくのも醍醐味です。ショーやイベントで文化で出会った友達と仕事をすることがあり、それも心強いですね。学生時代は、様々な行事やイベントにも関わっていました。そこでたくさんの人に出会ったことも、今の仕事に本当に生きています」

Akira Kuboshita 文化服装学院スタイリスト科(現・ファッション流通科スタイリストコース)卒業。ファーストリテイリングでUT、ユニクロのデザイナーを経て、2020年にTANAKAに参画。ʼ23-ʼ24年秋冬には東京で初ショーを開催。WEB:https://www.tanakanytyo.com/ja

デニムを主軸に、世界で戦えるブランドに。その目標の原点にある経験

 2017年、ニューヨークを拠点にタナカサヨリが立ち上げたブランド、TANAKA。デニムを核とした力強いデザインは、年齢、性別問わず幅広いファッション好きに支持されている。クボシタアキラさんは、ユニクロを経て、2020年にクリエイティブディレクターとしてTANAKAに参画した。

「社会に出て揉まれたことが、自分自身の糧になっています。文化にはスタイリスト志望で入学したのですが、入学後にアートやグラフィックデザインに興味を持ち、この道に行きたいなと。就活して、唯一受かったのがユニクロでした。面接に持っていったのは、文化祭のショーでデザインした絵ハガキ1枚。あとで人事の人に『ずいぶん肝が据わってると思った』と言われましたね(笑)。グラフィックチームから異動したメンズカットソーのデザインチームでは糸の番手選びから行うものづくりを経験。ニューヨーク・オフィスでの仕事も、大変でしたが得難いものでした」

「いつかと思っていた独立の機会は、2020年の春に。同じニューヨークのユニクロで働いていたタナカが、『リーバイスやヘインズのように、デニムやTシャツといった服装史、カルチャー史に残るフォーマットを生み出し、世に広め、続いていく会社を作りたい』と言って自分のブランドを立ち上げた。その理念がとてもいいなと思ったんです。タナカと僕は、性格も好きなものも異なりますが、二人とも『いいね』と思えるポイントが必ずある。僕らは二人が合意しなければ物事を進めません。過去2回、ショーを行ってきた中で、もっと服をよくすることができると二人で話しています。’90年代にはヘルムート ラング、’00年代にはアクネやディーゼルがデニムで世界を席巻したように、日本人デザイナーのブランドとしてデニムを主軸に世界で戦えるブランドにしたい。それを一過性のムーブメントにせず、100年続けることが目標です」

Michio Hoshina 文化服装学院ファッション流通専攻科ファッションディレクター専攻(現・ファッション流通専攻科)卒業。イベントプロダクションに在籍後、2021年に独立し、PLANKTON(プランクトン)を設立。ファッションショーのみならず、海外ブランドやアーティストのイベントなど、空間を使い、記憶に残る現象を生み出す。WEB:https://plankton.tokyo

100点も答えもないファッションショーの面白さに気づいた、文化生時代

 数々のファッションショーやイベントの演出を手がける保科路夫さんは、文化服装学院の学生時代にショー演出の面白さに目覚める。

「学生時代にスタイリストのアシスタントを経験し、すてきな職業だと思う半面、僕は違う仕事でファッションにコネクトしたいと感じました。その中で学内の様々なショーに関わり、向いているかもしれないなと思ったんです。デザイナーが作った服やテーマをひもとき、会場や音楽、ヘア&メイクなどの要素にフィットさせ、空間を作り上げる。それが面白かったんですよね。学年やクラスを超えていろんな人と関われるのも楽しかった。誰かの家や公園に集まって、ご飯を食べながら話したり。学生時代に知り合い、今、一緒に仕事をしている仲間もいます。仕事を始めたきっかけは専攻科3年生の時。特別講義に来た演出家の谷岡万城男さんに、授業後、『何かあれば手伝わせてください』と伝えたことでアルバイトに呼ばれ、その後、アシスタントになりました。卒業後、20代の頃は、プレスやスタイリスト、フォトグラファーなどのアシスタントをしている同級生とよく会っていました。今思えば、25歳までにどれだけやれるか、という気持ちが皆の中にあったのかもしれない。将来の話もたくさんしました。その時間は、一つの原動力になったと思います」

「ファッションショーの仕事では、デザイナー自身を知ることを大切にします。それからブランドを客観視することも意識します。ブランドが注目されると嬉しいものですが、ショーには答えがないことも面白い。ポジティブな意味で、100点というものがないんです。刹那的なところもいいのでしょうね。誰も1秒前の時間を生きることはできない。それをショーの時間に痛切に感じるんです」

ショーを手がけたブランド(一部)
ピリングス、ケイスケヨシダ、ミキオサカベ、アキコアオキ、FAF、KAMIYA、キディル、メゾン ミハラヤスヒロ、ミスターイット、ヴェイン

エマ 文化服装学院ファッション流通科ファッションモデルコース卒業。2012年に『装苑』のカバーを飾りプロモデルデビュー。『装苑』「ViVi」の専属モデルを経て、現在は多くのファッション誌でモデル活動を行う。ファッションショーやテレビ、イベントなどでも活躍。ʼ22年、中村璃乃さんとともにER(イーアール)を立ち上げる。WEB:https://er-sis.com Instagram:@_er_offi Instagram:@okss2121

hair & makeup: Akiko Hachinohe

信頼できるビジネスパートナーとの文化での出会いや、人とのつながりは奇跡

『装苑』「ViVi」で専属を務めた人気モデルのemma(エマ)さんが、文化服装学院の同級生だった中村璃乃さんとファッションブランド、ERを立ち上げたのは、2022年のこと。「誰にも頼らず、まずは経営も全部自分でやってみたかった」と語るemmaさんは、文字どおり中村さんと二人三脚で歩を進めている。

「モデルのお仕事では現場の瞬発力が大切ですが、ブランド経営に必要なのは持続力や判断力。使う能力が違いますし、メールの打ち方も会社を立ち上げるのに必要なものも、その都度、やりながら学んでいきました。最初のポップアップでは商品が届かないかもしれないというトラブルも。初めはすべてが“壁”でしたが、璃乃とだから乗り越えられたんです。璃乃とは、文化の2年生の時に仲よくなりました。彼女がスタイリストのアシスタントをしていた頃も、年に1、2回は会って近況報告をしたり、励まし合うような仲。それが今はビジネスパートナーなので、彼女との文化での出会いは奇跡だった!と思います。私たちは好きなものが限りなく近くて、そこが一緒にブランドをする上で、いちばん大事。クリエイティブは必ず二人で進めるようにしていますね」

「10年間、モデルの仕事を続けてきたことは、ブランドのビジュアルディレクションを行う時に生きています。特に、モデルとして最初に『装苑』の現場で、本当のクリエイションを見られたことは大きかった。私は、文化に通っていたことで璃乃に出会い、装苑モデルにもなったので、学生時代の人とのつながりは本当に大切だと思っています。文化で学業を続けるのは決してたやすいことではないけれど、続けた先には絶対にいいことがある。私自身、嘘のないものづくりをしてERを続けていくことが今の目標です」

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