フランス映画界の鬼才、ギャスパー・ノエに
YOHEI OHNOの大野陽平がインタビュー!
最新映画『VORTEX ヴォルテックス』から始まる創作談義

『カルネ』、『カノン』、『エンター・ザ・ボイド』、『アレックス』――新作を発表するたびに、ラディカルな表現と過激な描写で観客を挑発してきたフランス映画界の鬼才、ギャスパー・ノエ。彼が作ってきた映画に魅了され、自らの創作の糧にもしてきたのが東京を拠点とする人気ブランド、YOHEI OHNO(ヨウヘイ ️オオノ)のデザイナー、大野陽平さんだ。新作『VORTEX ヴォルテックス』を引っ提げて来日したノエ監督に、大ファンを公言する大野さんがインタビュー!ヨウヘイ️オオノの2024年春夏最新コレクションをノエ監督が見たあと、インタビューがスタート。大野さんならではの切り口で、ノエ監督の創作に迫ります。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / text : SO-EN

『VORTEX ヴォルテックス』
映画評論家である夫と、元精神科医で認知症を患う妻。離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れて金を無心する。心臓疾患を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて日常生活に支障をきたすようになる。二人に人生最期の時が近づいていた。鬼才、ギャスパー・ノエが、その特徴であった過激な暴力描写もセックス描写も封印し、病と死をテーマに新たな映画を生み出した。『サスペリア』のダリオ・アルジェント監督が主演を飾っているサプライズも!
監督・脚本:ギャスパー・ノエ
出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ
12月8日(金)より、東京の「ヒューマントラストシネマ渋谷」ほかにて全国公開。シンカ配給。© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE – KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA

「誇りを持って世に出すフランスの映画」という言葉に込められた思いは?

大野陽平(以下、大野) 長年の監督のファンなので、今日は緊張しています……。僕は、2023年9月にRakuten Fashion Week Tokyoという東京のファッションウィークで、2024年春夏コレクションを発表しました。 そのショーの取材の際に、監督の映画『CLIMAX クライマックス』のオープニングに出ていた「誇りを持って世に出すフランスの映画」という字幕にすごく感化されたということをお話しし、それが今日の取材にもつながっています。’24年春夏では、日本や日本人に向けて発表するという思いを持っていたので、その字幕の言葉がすごく響いて。最新作『VORTEX ヴォルテックス』のお話を伺う前に、『CLIMAX クライマックス』の冒頭にあった「誇りを持って世に出すフランスの映画」という言葉の背景にある思いを教えていただいても良いでしょうか?

ギャスパー・ノエ(以下、ノエ)『CLIMAX クライマックス』 は多くのダンサーが出てくる映画ですが、ダンサーは多民族であることが多く、女性も男性もトランスジェンダーもいます。いろんな方たちのミックスでグループになっているんですよね。そのさまを見て、これこそがある意味、フランス的だと思ったんです。「これぞ明日のフランスの姿だ」と。国旗を映画の中に入れるというのは、日本でもそうだと思いますが――フランスでも、少し偏った印象になってしまうんです。けれど『CLIMAX クライマックス』では、フランスの旗はみんなのものだという思いから、入れることにしました。

面白い逸話があるんです。ちょうどあの映画が発表された2018年のカンヌ国際映画祭の頃にサッカーのワールドカップがあって、フランスが優勝しました。その代表選手の多くが、アフリカ系やアラブ系。これはちょうど映画とリンクした面白い現象だなと思いましたね。

映画は自分の子供と同じ。

大野  そんな経緯があったのですね。僕は、ある種の皮肉も少し含まれているんじゃ ないかなと思って見ていたんです。あの作品は、いわゆるフランス映画と聞いてイメージするような観念的なものでも、ちょっと眠たくなってしまうようなスローなものでもなかったので。 ギャスパー・ノエ監督なりのフランスの描き方で、汚い部分も含めたフランスを描いている、ということなのかなと。

ノエ  ジャン=リュック・ゴダールもフランス映画を代表する作家と言われつつ、彼はフランス人じゃなくスイス人だし、私自身も半分はアルゼンチンの血が混ざっています。けれど自分の息子のことを考えた際、彼が100%純粋なフランス人でなくても、フランス人としての誇りは持たせたいなと思うんです。さらに映画は自分の子供と同じようなものなので、やっぱり映画にも、フランス映画としての誇りを持たせてあげたいという気持ちがあります。

私のパリ在住の友人も多くが外国人ですし、映画だけでなく、絵画やファッションにしても皆そうだと思うのですが、今、フランスにいる純粋なフランス人アーティストは数少ないと思います。現在のサンローランのクリエイティブディレクター、アンソニー・バカレロもそうですよね編集部注 アンソニー・バカレロは、イタリア人の両親のもと、ベルギーで生まれた)。

さらにパリというのは、ドイツ、ロシア、イタリア、スペインなどの国の要素が混ざり合ってできていて、それらの主なものを象徴しているような場所であるような気がします。思えば、パリは昔から世界各国からアーティストが集まる場所でもありました。それが10年前や20年前に比べて、今はもっとさらにいろんな人たちが集まっている印象を受けています。 最近はカフェにいても、聞こえてくる会話は必ずしもフランス語ではなく、英語もドイツ語も、様々な言語が聞こえてくるんです。とてもインターナショナルになっています。

映画『VORTEX ヴォルテックス』より

事前に決め切ることには、リスクがある

大野『VORTEX ヴォルテックス』のお話もぜひお伺いさせてください。映画を見る前、老夫婦の最期までを描いた話ということだけを聞いて、見るのに気合いが必要そうだ思っていました。おそらく、本作を語る際によく引き合いに出されるであろう映画にミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』があると思うのですが、僕は『愛、アムール』を映画館で見た時に、動きが少なかったからか途中で寝てしまって……。ところが今作はスプリットスクリーン(2画面分割)で、常にどちらかが動いていたので、ずっと画面に釘付けでした。もちろん寝ることもなかったです(笑)。物語は決して美談ではなくドライで、ちょっと殺伐としているのに、全体を通じてとても美しかったことも印象的でした。 私自身は、今 、37歳なのですが、子供時代に祖父母が認知症を発症して両親が疲弊していた記憶がよみがえったり、映画の中に出てくる息子のステファンが、そう遠くない未来の自分にも見えてきて二重の苦しみがありました。

映画『VORTEX ヴォルテックス』より

ノエ  美しいとおっしゃっていただき、ありがとうございます。私の祖母が認知症を患った時は、何もわからなくなってしまっても、どこか可愛い部分が残っているように感じたんです。祖母ということで、孫の私とは少し距離感もありましたからね。けれど母の時には、もう直接、非常に間近でその病気の人と接するという体験になり、大きなショックがありました。『愛、アムール』を私は母の他界の前に見たので、自分の体験と重ねていました。『愛、アムール』もオスカーのパルム・ドールをはじめ様々な映画賞を受賞していますが、この「老い」と「死」というテーマは、映画にとって非常に親近感があるのでしょう。ほぼ皆さんの人生に何らかの形で共通するテーマだからこそ、感動する部分も大きいのではないかなと。映画のテーマとしては、非常にいいものだと思っています。

ヨウヘイ️ オオノの2024年春夏コレクションと、ギャスパー・ノエ監督。

大野  撮影が始まってからスプリットスクリーンにすることに決めた、と手元の資料のインタビューで拝読したのですが、監督は映画を作る際に、コントロールする部分としない部分をどこまで決めているのでしょうか?事前に決めることと偶然性を生かすこと、その両方が作品制作にとって重要なのかを教えていただけますか?

映画『VORTEX ヴォルテックス』より

ノエ  そうですね。事前に全てきっちり決めてしまうと、映画が出来上がった時に、結局、会話が長すぎたり硬すぎたりしてつまらなかった、ということが起こりやすいんです。事前に決めきるというのはリスクがあると思っていますね。

私の場合は、コンセプトのみを事前に決めるので、劇中の会話はほとんど全部アドリブです。シナリオには本当に必要最小限のことしか書かれていません。そして、ご質問いただいたスプリットスクリーンも、当初シナリオには書かれていませんでした。 撮影初日に2台のカメラでそれぞれ別のものを撮ったり、同じものを別アングルで撮ったりしていたのですが、2日目になったら、1日目に撮った映像とセットでスプリットスクリーンにできたらいいなと思ったんです。そこで2日目から、映像が対になるよう考慮しながら撮り始めました。 スプリットスクリーンにしたことで、仕事自体はすごく複雑になって大変だったのですが……(笑)。コンセプトとしては非常に面白いのではないかと思いました。 アパルトマンの中で夫妻それぞれを追いかけていくようなショットも、 2台のカメラ同士がぶつからないよう工夫して撮っていたんですよ。

大野  そうだったんですね。今日は、作品を追いかけていた監督に創作のお話を伺えてとても嬉しかったです。もっと聞きたいことはたくさんあるのですが、今日はこのあたりで。本当にありがとうございました。

ノエ  ありがとう!


Yohei Ohno   2011年、文化服装学院を卒業後、文化ファッション大学院大学へ進学。ノッティンガム・トレント大学の奨学金を得て渡英し、’14年、ロンドンにて卒業コレクションを発表。帰国後、’15年にYOHEI OHNOを立ち上げ、’15-’16年秋冬にデビュー。「独自性のあるフォルムづくりと実用性」をコンセプトに、古今東西のアート、建築、彫刻やプロダクトをインスピレーションとし、伝統にとらわれない自由な素材使いやフォルムアプローチを通じて新しい人間像や生活観を探究する。’16年、TOKYO FASHION AWARD 2017受賞。’18年、International Woolmark Prizeファイナリストに選出。’19年より「DRESS LINE」、’21年に着物の中古反物を利用した「3711 project」も始動。
Instagram @yohei_ohno
WEB : https://yoheiohno-shop.com/

Gaspar Noé   1963年12月27日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで父である画家のルイス・フェリペ・ノエとソーシャルワーカーで英語教師の母の間に生まれる。5歳の時、ニューヨークへ渡り、再び、6歳でブエノスアイレスへ戻る。’76年、13歳の時にフランスへと移住。パリのルイ・リュミエールで映画を学ぶ。短編映画『Tintarella di luna』(’85年)で映画監督デビューし、「Pulpe amère」(’87年)を経て、’91年に中編映画『カルネ』で、カンヌ国際映画祭の批評家週間賞を受賞。その続編となる初長編映画『カノン』(’98年)をアニエス・ベーからの資金援助で完成させ、再びカンヌ国際映画祭で話題を巻き起こし、同賞(批評家週間賞)を受賞。2大スターを起用した『アレックス』(2002年)では熾烈な暴力描写で賛否を呼び起こし、拡大公開された本国フランスではスマッシュヒットを記録。その後、東京を舞台にしたサイケデリックな輪廻転生物語『エンター・ザ・ボイド』(’09年)を発表。『LOVE 3D』(’15年)では、メランコリックなラブストーリーとハードな性描写を自身初の3D映像で描き出し、賛否両論を再び巻き起こす。『CLIMAX クライマックス』(’18年)では、誤ってLSDを摂取してしまったダンサーたちの精神が次第に崩壊していくさまを描いた。本作『VORTEX ヴォルテックス』は、第74回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映された。
Instagram @gasparnoeofficial

『VORTEX ヴォルテックス』
WEB : https://synca.jp/vortex-movie/

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