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世界三大映画祭の一つカンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに輝き、間近に迫った第97回 アカデミー賞でも作品、監督、主演女優、助演男優、脚本、編集の6部門にノミネートされた最有力候補のひとつ『ANORA アノーラ』(2月28日公開)。マイノリティの生活を生き生きと描き続けてきたショーン・ベイカー監督の最新作だ。
ニューヨークで暮らすストリップダンサーのアノーラ(マイキー・マディソン)は、職場でロシアの御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)に見初められ、彼の“契約彼女”になる。夢のような時間の果てに勢いで結婚する二人だったが、イヴァンの両親は激怒。婚姻関係を解消するべくあの手この手を使い――。
喜劇性の中に経済格差や人間の愚かさや愛おしさを詰め込んだ本作。ベイカー監督のファンという玉城ティナさんに、その魅力を語っていただいた。
photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Ruri Matsui / hair & make up : Aiko Okazawa/ interview & text : SYO
『ANORA アノーラ』
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ニューヨークでストリップダンサーとして働く、アニーことアノーラは、ある日職場でロシアの新興財閥の息子、イヴァンと出会う。彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5千ドルで“契約彼女”になったアニー。パーティーやショッピングと贅沢三昧の日々を過ごした二人は、ラスベガスの教会で衝動的に結婚!幸せの絶頂ーーと思いきや、娼婦と結婚したと聞いたロシアの両親が猛反対し、離婚させるため最強の男たちを息子が滞在する邸宅に送り込み、大騒動に発展!
第77回カンヌ国際映画祭で、最高賞「パルムドール」を受賞したほか、本年度アカデミー賞の作品賞をはじめ、主演女優賞や脚本賞など多くの賞にノミネートされている。
ショーン・ベイカーは女性の人間的な美しさを魅力的に撮る監督
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――ショーン・ベイカー監督の作品に興味を持たれたきっかけや、最初にご覧になった作品について教えて下さい。
玉城ティナ(以下、玉城):全部の作品を観ているわけではありませんが、最初に観たのは『タンジェリン』(’15年)だったかと思います。その後、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(’17年)や『レッド・ロケット』(’21年)と、新作が発表されるたびに観てきました。
『レッド・ロケット』のスザンナ・サンがとても可愛かったことも印象に残っていますが、ショーン・ベイカーは女性を造形的に綺麗に撮るのではなく人間的な中身の美しさを魅力的に撮る監督だと捉えています。
また、徹底して階級をテーマに掲げていて、特に生活苦にある人々にフォーカスしているのも特徴ですよね。あからさまな問題提起をするわけではなく、コメディ要素を混ぜながら私たちが「面白いな」と観終わった後に感じるものがある、押しつけがましくない映画を作るイメージがあります。
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――いま挙げてくださった特長は、そのまま『ANORA アノーラ』に通じますね。
玉城:そう思います。お金持ちをバカにするわけではないけれど、立場的には徹底的にアノーラに寄り添った描き方をしている映画だと感じました。本作はこれまで撮ってきたものの流れがよりしっかりとまとまった内容になっているように思います。
監督はインタビューで「やっていることは変わらない」と話していましたが、例えばセックスワーカーの描写はこれまでの作品でも見られたものです。悲観的ではなく自分に自信を持っていて、この状況から脱却したいと思っているわけではないフラットな人物造形もそう。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や『レッド・ロケット』の登場人物たちはある程度自分たちの生活に満足しているところがあると個人的には感じています。
その中で、今回の主人公、アノーラに関しては共通する部分がありつつ、より上昇志向を感じられたのが新鮮ではありました。さらにアノーラに「この御曹司をものにして金を奪い取ってやろう」という腹黒い雰囲気はなく、ただただ一人の女の子として描かれていたのが印象に残りました。
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映画『ANORA アノーラ』より
従来の、いわゆるシンデレラストーリーは、裕福な男性が自分の知らない世界を見せてくれるという憧れやときめきを描いていたかと思います。それが悪いわけではないけれど、いまの時代に照らし合わせたときに感覚的にどうしてもマッチしない部分はありますよね。
『ANORA アノーラ』はシンデレラストーリーの“その先”を描くことで現実的なお話にしていると感じました。そのなかにしっちゃかめっちゃかなコメディも入れて楽しませてくれるし、従来のシンデレラストーリーを否定するわけでもない展開が絶妙でした。ロシア、アメリカ、アルメニアといった様々な国の文化の違いがミックスされているところも面白かったですし、おとぎ話のフォーマットの中で観客が「ありそうだよね」と思える違和感のない話に落とし込んでいるのがさすがでした。
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映画『ANORA アノーラ』より
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――ちなみに、『ANORA アノーラ』をご覧になる前に惹かれたポイントはやはり「ショーン・ベイカー監督の新作」でしょうか。
玉城:今回のマイキー・マディソンもそうですが、ベイカー監督の作品には好きなタイプの女優さんが出ていることが多くて、キャスティング面でもチェックしたい監督の一人です。本作においてはカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞していたことも「観てみたい」と興味を抱いた理由でした。
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映画『ANORA アノーラ』より、主役のアノーラを演じたマイキー・マディソン。
先ほど「まとまっている」とお話ししましたが、『ANORA アノーラ』は『TITANE/チタン』や『逆転のトライアングル』といった過去のパルムドール受賞作に比べると丸みがあるといいますか、ぶっ飛んでおらず現代的でみんながわかる作品だと思います。ひょっとしたら「洋画って難しい」「映画賞を獲った作品って硬そう」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、むしろ起承転結がはっきりとしていて爽快感のある作品だと私は感じました。
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ファッションやメイクのいまっぽさがキャラクターにぴったり
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映画『ANORA アノーラ』より
――おっしゃる通り非常に見やすく、ノイズを感じさせない作品ですよね。ただ一方、日本国内の洋画興行は依然として苦戦しているのが実情です。玉城さんだったら、本作を薦める際にどんな言葉を掛けますか?
玉城:でも単純に「この映画、気にならない?」と薦めるかと思います。ラスベガスという街の強さを前面に押し出したポスターもそうですが、社会的な作品として観るよりは、ある女性と男性が出会って恋に落ちたけどどうなるか――という恋愛目線で受け取った方がとっつきやすいかと思いますし、ファッションやメイクも本当に可愛くていまっぽい作品ですよね。
例えばファッションだったら、アノーラのオンのときのボディラインに合わせた服装と、オフのときのダボダボなスウェットの対比が印象に残りました。また、イヴァンに抱かれているときも彼女はずっとメイクをしていますよね。心を完全に許す前に結婚している感じが出ていて、キャラクターにファッションやメイクがぴったりハマっている作品でもありました。
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映画『ANORA アノーラ』より
こういった部分を怠らずにやっている映画は日本だとまだ少ないですし、「いまっぽいものを作ろう」として空回りしている作品の方が多いと感じるぶん、観れば心に残るはずだと感じます。
本作は主人公であるアノーラにフィーチャーした作品ではあるかと思いますが、イヴァンも彼女に出会ったことで、変わった部分や自分を見つめ直したところはあるんじゃないかと私は感じています。
だからこそ、若い女性に限らず、様々な方に観てほしいなと思います。R-18+指定の作品のため未成年の方は観られないのですが、おひとりでも成人した家族同士やカップルなどみんなに観てほしいですし、監督のファンがコアに観ることも、さらりとライトに観て楽しむこともできるかと思います。
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――ラストシーンも余韻を残すものでしたが、いかがでしたか?
玉城:ものすごく多くの経験をしたアノーラが初めて涙を流したとき、彼女の一番の素の部分を見た気がしました。一気に雰囲気も変わってセリフもなく、想像することしかできませんが、それまでの積み重ねも含めて心に残りました。花火がパッと上がって消えてゆく余韻のような、映画の最後を締めくくるのにふさわしいラストでした。
個人的に、アノーラの本音が見えないと映画が気持ちよく終われない気がしていて「どこで来るかな」とは思っていました。
もちろん怒鳴ったり、身体を使って拒否したりはしていましたが、彼女一人のシーン自体が少なくて「イヴァンのことが好き」と恋に舞い上がる様子もあまりありませんでしたから。そんななか、素を出せる存在が出てきたことで未来を感じられたし、ここからまた違う物語が始まるんじゃないかとワクワクできました。
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――本作に限らず、玉城さんが作品を選ぶときに重視しているポイントはありますか?
玉城:雰囲気や勘で選ぶことが多いですが、一つ挙げるなら映画のサイトなどであらすじをチェックして「これは面白そう」と思えるかどうかです。もちろん本作のように映画賞の受賞作は素晴らしいことですから加味しますし、「この監督の作品は絶対観る」と思える人に出会えたらそれも選ぶ理由になるかと思います。この作品のファッションやメイクが好きとか、観るとなんとなく気分が上がりそう、という基準もありますし、本当に人それぞれですよね。ただ、自分の好みがわかってくると映画選びがしやすいぶん、逆に偏る懸念も生まれてきます。そう考えると、最初は友だちが面白いと言っている作品を観てみるのも良いですし、いまは映画館以外でも昔の映画をたくさん観られる時代ですから、いわゆる名作を観始めるのもアリかな、と思います。
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Tina Tamashiro 1997年生まれ、沖縄県出身。講談社主催のオーディションで初代グランプリに輝き、14で講談社「ViVi」の 最年少専属モデルとなる。2014年に俳優デビュー。近年の主な出演作品に、TVドラマ「君が獣になる前に」「鉄オタ道子、2万キロ~秩父編~」(ともに’24年)「地球の歩き方inベトナム」(’25年)、映画『#ミトヤマネ』(’23年)『366日』(’25年)など。代表作に、映画『貞子vs伽椰子』(’16年)『暗黒女子』(’18年)『Diner ダイナー』『惡の華』『地獄少女』(すべて’19年)、『窓辺にて』(’22年)など。待機作に『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(5月23日公開予定)。
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『ANORA アノーラ』
監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー 製作:ショーン・ベイカー、アレックス・ココ、サマンサ・クァン
出演:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン
2025年2月28日(金)より全国公開中。
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
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玉城さん着用:ドレス ¥132,000 フェティコ(ザ・ウォールショールーム TEL 050-3802-5577)