デザイナー舟山瑛美さんがデザインした、2025年春夏の「フェティコ」には新しい風が吹き込まれていた。いつになく優雅に身体にまとわる布。激しさよりもふんわりとしたイメージが印象に残るアイテム。メンズライクなテーラードとの融合。そしてフラットでスポーティな足もと。毎シーズン重ねてきたコレクションに、自身の中にある女性像を反映させそして進化させる。常に自身の視点で追求する美がそこに存在していた。
デザイナー舟山瑛美さん
——次のコレクションに向けて、今はどういう時期ですか?
デザインをしてパターン出しというタイミングです。本当にやることがない時ってないですね。
——インスピレーションを得るためにどのようなことをしてらっしゃいますか?
どこかに出向くこともありますし、記憶の中から引き出してみたり。“そういえばあれ気になっていたな”みたいなことからリサーチを始めることもあります。
——アイディアの詰まった引き出しをいっぱい持っているんですね。でもビジネスとして成立させるための葛藤はありますか?
わりとビジネス思考が強いので、売らなきゃいけないっていう責任みたいなところは常にあります。逆にそこを外した物作りをもっとやっていいよっていう方が今は難しいんですが、あえてそこをやりたいというのもあります。
——違いがあって面白いかもしれないですね。
そうですね。でも、やっぱり衣装はすでに役が出来上がっている人に対してデザインしますよね。ブランドだと、自分がやりたいものを優先するので、優先するものが変わってくるから結構難しいです。でもそこが面白いところでもあるんですけどね。
——そもそも舟山さんは幼少期からファッションを意識し始めたようですが。
5歳上の姉がいて、小さい頃はなんでも姉の真似をしていました。姉が高校生ぐらいの時には一緒に原宿とかに行っていたんです。
——その頃から服が好きでデザイナーになりたいという夢があったんですか?
すでにミシンを使ってエプロンワンピースみたいなものを見様見真似で作ったりしていました。あと絵を描くことも子供の頃から好きで、それぞれの延長線でぶつかったんだろうなっていうのはあります。
——高校もデザインの高校に通って、その頃からきちんと目標をもって進んでいたんですね。
思い込みが激しかったんです。(笑)それに嫌なことしたくない子供だったんです。好きなことしかしないという。それもあって。
——高校卒業後ロンドンに行かれたんですね。ロンドンを選んだ理由は?
「ヴィヴィアン・ウエストウッド」や「アレキサンダー・マックイーン」が大好きで、ちょうどその頃ロンドンブランドの勢いがすごかった!「クリストファー ケイン」のデビューも確かその頃。なので興味を持ったのは必然でした。
——その頃に着ていた服もそういうイメージのものを?
パンキッシュでしたね。1960年代の古着とか。
——どんな古着屋さんに行ってましたか?
「ドッグ」とか「ヌードトランプ」。あと「シカゴ」も行きましたね。リサイクルショップとかも行ったし。ちょうどファストファッションが流行り始めた頃で、そこに行けば安くてトレンドのものはあったんですが、大量生産されている服を着て人とかぶるのがすごく嫌で。
——たくさんのビンテージの服を見て、それを今のクリエーションに生かすこともありますか?
はい。莫大な量の服を見て、その中から自分が好きなものを選んで、それが積み重なってきている気がします。自分が好きなものを広げて、そしてしぼめるみたいな作業。
——2020年秋冬からブランドをスタートしてとてもイメージが一貫してますね。好きなものがぶれないというか。
でもうちは定番アイテムが全然ないんです。ほとんどが新型で。同じテクニックを使うのは結構あるんですけど。もともと最初は型数が少なかったというのもあるんですが、型数増えた今でも、まだそのやり方をやっていて。新しいものを作りたくなっちゃうんですよね。でも、セールスチームからはもう定番品をもっと作ってほしいと言われていて・・・。
——肌の見せ方など大胆なのに品が感じられますが、そのこだわりは?
体にフィットしてるものとか肌を露出するものが多い分、そこの見せ方はかなり気を使います。
——「フェティコ」というブランド名はフェティッシュからですか?
それもありますが、学生時代のニックネームでもありました。
——ヴィヴィ子(「ヴィヴィアン・ウエストウッド」の服を好んで着ていた女の子の呼称)のような?
そうですね。ヴィヴィ子が流行ってた頃、私がフェティ子って言われていて。フェティッシュっぽいファッションが好きだったんですよね。エナメルとかレザーとか。
——今シーズンのミューズがモデルのヴェロニカ・ウェブでしたが、ミューズは毎シーズン変わりますか?
昔からずっと好きな人がたくさんいるのですが、その中から今期はヴェロニカをイメージしながら描きました。他には荒木経惟さんのミューズだった舞踊家で元モデルのKaoRiさんや、ウォン・カーウァイの映画にいつも出てくるフェイ・ウォン。ビジュアル的には湿度を感じる少しアンニュイな女性が好きですね。
——今回のコレクションで足もとにスニーカーを合わせていましたがどのような理由で?
今回は全員スニーカーでした。今までのイメージを少し外したかったんです。’80Sのスタイルをいろいろとリサーチしている時に、ヒールを合わせて決めちゃうよりもフラットシューズとかで抜け感ある方が可愛いなって思って、思い切ってスニーカーにしてみました。
——実際に’80年代に生まれてらっしゃるので、その年代のファッションは肌では感じてないと思いますが、’80Sは好きですか?
好きですね。10代の頃ちょっと’80Sブームみたいなのがありました。ワンショルダーとかオフショルダーが流行って、髪の毛をサイドに結んだり。
——次のコレクションにも’80Sの要素が?少しだけヒントを
もうすこしだけ遡ります。若い人には新鮮に見えて、ちょっとお姉さんには着やすい感じになるかな。
——クリエーションをするうえでインプットはどうされますか?
本も見ますし、映画とかに答えを求めることもあります。あと古着も重要。ありとあらゆるものからインプットします。音楽とかも影響されたりしますね。それをまとめ上げるのが大変です。
——人生でのターニングポイントは?
以前、企業でデザイナーをしてたんですが、その時に人のためにではなく自分のためだけにウェディングドレスを作ったんです。自分が好きな形を突き詰めて自由にデザインして。学生の時以来でした。それがすごく楽しくて、自分のブランドやろうというきっかけになりました。ブランドを始めてからはターニングポイントがありすぎて。セールスと契約したこともそうでした。自分たち以外がブランドを広めてくれて、パートナーができた感じでした。それからランウェイでコレクションを発表できたのも。
自身のためにデザインしたウェディングドレス2点
——ブランドを立ち上げてから順風満帆に進んでいますね。
スタートが遅かった分でしょうか、勢いがついてきました。まわりに同年代のデザイナーも多く、とてもいい刺激になります。青木明子さん(アキコアオキ)、ヴィヴィアーノ・スーさん(ヴィヴィアーノ)、大野陽平さん(ヨウヘイ オオノ)、小髙真理さん(オダカ)、砂川卓也さん(ミスターイット)。その年なんかあったのかな?みたいな感じですよね。みんな「TOKYO FASHION AWARD」を受賞していて繋がっているんです。それぞれクリエーションが違ってて面白いですよね。だから仲良くできるのかもしれないです。
——皆さんクチュールを意識されている方も多いようですね。
私もとても憧れます。こういうプレタポルテのブランドでは到達できない部分もあると思うんですが、そのエッセンスは取り入れたいです。人の手によって生み出されるもの、時間をかけて作られるものの素晴らしさ。図りきれない力をそこに感じます。ビンテージの服を見ていても、手の込んだ刺繍とか、手縫いのタックとか素晴らしいですよね。なかなか量産では難しいけれど、少しでもエッセンスとして取り入れられたらいいと思います。
——服が出来上がるまでの間で、どの部分が一番大変ですか。
意外と色決めです。素材ごとに色を決めていくんですが、素材をほとんど別注で作ってるので、この生地の色は何色にしようかといつも苦戦しています。別注だと自分が好きな色を作れるし、風合いまでこだわることもできます。生地作りは結構時間かかります。デザインも時間がかかるけれど、そこはずっと今までやってきたことだからできるんですが、素材作りはそこまで自分が主軸になってやってきたことがなかったので。
——今後の展望は?
目下の課題はよりブランドを強くしたいということです。納得できるいい服を作って、そしてそれをどう見せていくかということ。あとやはり旗艦店を作りたいです。最近、伊勢丹新宿店でポップアップストアがあって設営に行きました。クリスマスシーズンだったので、すごく大きな黒いリボンをツリーに見立ててディスプレイしました。最初可愛すぎるかなと思っていたんですが、ホリデームードの中で、逆にインパクトがあって良かったです。ディスプレイとか作り込んでいくのは楽しいこと。すごく大変だけど、お店があったらこれがゼロからできるんですね。
——どんな人に「フェティコ」の服を着てほしいですか?
もし気になって着たいと思ってくれたなら、すべての人に着てほしいです。簡単な服が多いわけではないけれど、是非挑戦してほしいです。
photographs: Josui Yasuda(B.P.B.)
Emi Funayama
高校卒業後に渡英、帰国後にエスモードジャポン東京校入学、2010年卒業。コレクションブランド等でデザイナーの経験を積み、2020年にフェティコを立ち上げる。2022年に「JFW NEXT BRAND AWARD 2023」「TOKYO FASHION AWARD 2023」を受賞。