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上白石萌歌の
ぐるぐるまわる、ときめきめぐり
Vol.6 デザイナー 小髙真理

『強さと柔らかさを併せもつ現代女性のためのデイリーウェア』をコンセプトにしたブランド「マラミュート」。今回、上白石萌歌さんが訪れたのは、「マラミュート」のデザイナーの小髙真理さんです。日常に活躍するのに非日常も味わえる魔法のようなニットウェア。その服の魅力に迫ります。そして「マラミュート」は2023年秋冬コレクションより、そのフィロソフィーを受け継ぎながらブランド名を「ODAKHA」に変更。そこに至る経緯も上白石さんがお聞きします。

ブランド再スタート第一弾は、サイ・トゥオンブリーが描く深い赤で

小髙真理(以下 小髙)実はこの秋冬からブランド名が「マラミュート」から「ODAKHA」(オダカ)に変わりました。今回はサイ・トゥオンブリーというアーティストの赤がキーカラーになっています。

上白石萌歌(以下 上白石)「マラミュート」のイメージは青だと思っていて、展示会で「ODAKHA」の服を拝見したときに、新しいブランドは赤なんだなって感じました。

小髙 「ODAKHA」になって1シーズン目なのですが、気になっているモチーフを選んで集めていたら、エネルギッシュな赤が集まって。特に1950年ぐらいに活躍していたサイ・トゥオンブリーの赤の絵が印象に残りました。最初花だと思っていたらそれは影で、赤に黒が混ざった独特な色。他にも紫と黒、水色と黒などを使っているんです。

上白石 血を思わせるような赤ですね。

小髙 この赤の陰影を服の上に表現しました。

サイ・トゥオンブリーの画集

ニッターさんの職人技で生まれる唯一無二のテクスチャー

小髙 この赤いニット、触ってみてください。この不思議な感触は、ナイロンのチューブヤーンとモヘアの異素材で表現しているんです。

上白石 このふんわりした感触にビックリしまた。服全体を見て、同じ色でも編み方が違うだけで色の見え方が違うんですね。同じ赤は一つもないです。

小髙 この赤いワンピース(2ページ目で上白石さん着用)はクレージーニットシリーズと言って、編んだ後に肌なじみをよくするように洗いをかけています。柄が神殿の壁画見たいでしょ。ニッターさんが複雑な柄を組むのが得意としている方なんです。

上白石 この表現をニッターさんに具体的に提案するんですか?

小髙 そのニッターさんとはシーズンのイメージとか、気になっていることなどを話して、たたき台として試しに編地を作っていただきます。そこからアップデートしていくのですが、服によってニッターさんが違うので、さまざまな表現ができるんです。そこがブランドらしさだと思っています。

 ナイロンのチューブヤーンとモヘアを使った異素材のセーター

上白石 「マラミュート」よりもお姉さんみたいな感じがしますね。新しいブランド名は、どのようなことから思いついたのですか?

小髙 2022年度の東京ファッションアワードを受賞して、はじめてパリで展示会をしました。海外の取引先も増えて、より日本ブランドとして認識してもうために、苗字をブランド名にしたんです。さらに“MADE IN JAPAN”とタグに入れて。
ブランド名の「ODAKHA」は、読まないHが入っているんですけど、フランス語で服を着るという意味の“habillè”という単語があって、あえて読まないHが入っています。そこから着想しました。日本のニットの技術やユーモアを感じてくれて、それをこの先もグローバルに展開していけるブランドになったらという願いも込めて。

従来のニットの印象を覆すニット

上白石 初めて「マラミュート」の服を、店頭で見た時は、芸術だと思いました。試着したときも自分の体になじんで、服として日常に溶け込むのに芸術的。そのバランスが素敵で私もたくさん着ています。気に入ったデザインでも日常では着られない服がありますが、小髙さんの服は唯一無二だけど日常にも溶け込むところが素晴らしいです。それまでニットはごわごわしてちくちくするというイメージだったのに、こんなに可愛くて、軽くて、心地いいなんて!

小髙 クリエイションする上で大切にしている部分が、萌歌ちゃんに伝わっているのがとても嬉しいです。

上白石 展示会に伺った時も、ワクワクして心が動きました。とても愛を感じました。

小髙 嬉しいです。ありがとうございます。

上白石 そもそもニットに興味を持ったのは、どのようなことがきっかけだったのですか?

小髙 文化ファッション大学院大学(BFGU)に通っていた時、島精機のコンピューター編み機を使ったニットCADという授業があって、それは自分でデザインをCADで組んで編地を作るものだったんです。今、萌歌ちゃんが着ている花のニットは、まるで絵を描くようにニットが作れるんですよ。それが本当に楽しいと思って。布は裁断をしてフォルムを作るけど、ニットは組織の違いでフリルやフレアが作れます。ユーモラスなデザインも出来て肌になじむ。柔らかくも固くもできるんです。私自身、子供の頃にアトピーだったので、肌に触れる感覚は特にこだわっています。

上白石 学生時代の授業でニットの方向性を見つけたんですね。

色に対してのこだわり

上白石 小髙さんはアートからインスピレーションすることが多いですか?最初にマラミュートの服を見た時に、点描画みたいだと思ったんです。絵画とかアート作品を見るのと同じような感覚で。

小髙 「マラミュート」の1シーズン目では花柄を提案しました。よく祖母がもっているフェイラーの花柄のハンカチがインスピレーション源でした。なんで持っているのかなって、不思議に思ったことがあって。その時はアートというよりも、身近なものに興味がありました。今はアートからもインスピレーションすることもあって、ここ最近ではニキ・ド・サン・ファルがちょっと気になっています。萌歌ちゃんはアート好きなんですか?現代アートとか?

上白石 私は印象派が好きです。現代アートは難しくて・・・。例えば印象派だとモネ。でも一番好きなのは、印象派ではないんですがマティスです。

小髙 わたしもマティスは大好きです。

マティスの画集

上白石 あの色彩が「マラミュート」の服から感じられたから好きになったんだと思います。小髙さんの本棚にはマティスの切り絵の本もありますね。色彩はこういうところからチョイスされますか?

小髙 色で思うのは、特に海外の絵画には日本にない色味がありますね。マティスの切り絵はとても面白いです。いろんな青を切り張りして、そしてそこから最終的に一つの青を選ぶという方法が。

上白石 色は星の数ほど無限にありますが、小髙さんは最終的にはどうやって決めていますか?

小髙 どうやって決めているかな・・・。うまく言えないけれど、“これは違う”というのだけはわかります。消去法とは少し違うけれど。でもマティスの色の実験は尊敬します。

上白石 服をデザインするときはたくさん絵を描くのですか?

小髙 アイパッドでたくさんデザイン画を描きます。女性活動家で今の時代の流れを表すニュートラルな人間性のある人がまわりにいて、そのような方たちから日々インスピレーションを受けています。

上白石 ニットを見た時に幾何学的な美しさを感じて、図形を3Dで作って描いているのかなと思ったんですが、手描きのデッサンからはじまるんですね。

小髙 平面で描いていますが、頭のなかでモデルを回転させて、3Dをイメージして描いているかもしれないですね。

インスピレーション源をどこに求めるのか

上白石 服を作っているときに、いちばん迷う工程はどういうところですか?

小髙 デザイン画の段階ですね。何をそのシーズンのいちばんのアイコンにしようとか。絞っていくのが大変。

上白石 今回の「ODAKHA」で言うと、赤ということですか?

小髙 そうですね。本当に赤にしていいのか悩みます。決めてからは早いですが。

上白石 ゼロから生み出す時って、いちばんしんどいですよね。

小髙 今その時期なんです。ずっとそわそわして、自分が伝えたいことが何なのかを自問自答して。

上白石 私は、ゼロからものを作り出す仕事じゃなくて、脚本があって、こうしてほしいということに答える仕事なので、ゼロから作り出す方のマインドがよくわからなくて。

小髙 インスピレーション源が、映画や本からの場合があります。映画で見た女優さんが気になって、他は何に出ているんだろうと、その女優さんを追いかけてイメージを広げてみたり。萌歌ちゃんは、私たちのインスピレーション源になるお仕事をされているから素晴らしいです。

上白石 私はエンタメが大好きだから、そこから吸収して女優として表現を頑張ろうと思うんですが、服を作る時もそうなんですね。

小髙 アートもそうだと思います。2016年に現代美術家の折本立身さんのアートパフォーマンスの衣装をやらせていただいて、アートってこういうことなんだと体感しました。お芝居とも演劇とも違う、身体全部を使って表現するのが面白くて、そこから現代アートをたくさん見る機会が増えました。最初は理解するのが大変で頭が痛くなりましたが。

上白石 服は衣食住の衣で、本来はとても重要な意味がありますが、着て嬉しいとか、楽しいとか、どこに行きたいとか、そういうことを思わせるのも大切ですよね。そういう意味では服もエンタメですよね。

小髙 好きな服を着て、好きな場所に行って、そこで疲れてしまわないように次のアクションが起こせる服を作りたいと思っているんです。内面的にも物理的にも、次の行動を起こしやすくなるような服を。海外に出るようになって、いろんな国のオケージョンを考えるようになりました。それをクリアにするのが今の課題です。いろんな国の伝統や衣装とか、そういうことをわかっていないとデザインできないこともあるんだなって。とりあえず世界中を周るのは難しいから、いろんな国の料理を食べることでそれを吸収しようとしています(笑)。

完成した服の表現方法

上白石 素朴な疑問なのですが・・・。他のブランドの服を見て、嫉妬することはありますか?

小髙 嫉妬するより“着てみたい”が先にあるかもしれないです。同年代のデザイナーさんが素敵なものを作っていると、もっと頑張らなければ!と思いますね。萌歌ちゃんはどうですか?

上白石 私はとっても思います。現場で間近でほかの方の演技をみて、あの人のようになりたいなと。だから小髙さんはどのように他の服を見ているのかなと思って。いろんなショップに行って、いろんなブランドの服を見ますか?

小髙 行きます。でもショップで見るより、ルックブックやカタログで見るほうが刺激を受けますね。コーディネートや写真の撮り方など、どのようなコンセプトでそのシーズンの服を作ったのか、いちばんブランドとしてイメージをつけるところなので。

上白石 ルックブックやカタログは上質な写真集ですよね。

小髙 私にとっては雑誌もとても大事で、その時代のテンションが分かるし、編集の方の思いもわかるし。今でも気になる雑誌は、過去の物でも買い集めたりしています。

上白石 「ODAKHA」の服はどのような人に着てもらいたいですか?

小髙 生きるうえで、そして行動するうえで、いろんなことを一つ一つきちんと選択できる方に着てほしいと思います。

上白石 私、はじめて「マラミュート」 のお洋服を買って身に纏ったとき、自分のいい選択が重なって巡り会えた一着だって感動したんです。人と人が出会うことと同じように、お洋服と人にも巡り合わせみたいなものがあるような気がしています。わたしたちは毎日小さな選択の繰り返しですが、ひとつひとつの選択を大切にしていきたいなって。

小髙 ありがとうございます。励みになります。物事を見極める力が必要ですね。私も頑張って鍛えます!

次のページでは「ODAKHA」の赤いワンピースを着た上白石萌歌さんのファッションシューティングをお届け!▼▼

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