beabadoobee(ビーバドゥービー)
CHATTING MUSIC おしゃべりしたい音楽のこと vol.07

Photograph: Erika Kamano / Text: Miho Takahashi

Z世代を代表するシンガーソングライター・beabadoobeeが、2ndフルアルバム『ビートピア』を7 月15日にリリースした。デビュー以来、90年代のグランジを現代にアップデートしたようなギターロックを鳴らしてきた彼女。リアルタイム世代にはうれしい、若い世代には新鮮なスタイルで、世界中を魅了してきた。今回の『ビートピア』は、よりナチュラルになった印象を受ける。8月のサマーソニックで初来日も決定している彼女に、オンラインで話を聞いた。

“ビートピア”は、フィジカルな世界というよりはフィーリングなの。

――2ndアルバムのタイトル『ビートピア』は、あなたが7歳の頃から抱き続けている想像の世界だそうですが、これを名前に掲げた理由を教えてください。 

7歳の時の”ビートピア”というアイディアを受け入れるのに、今が完璧なタイミングだと思ったから。ある時、学校の先生とクラスメイトたちに“ビートピア”のことをからかわれた時があって、それ以来“ビートピア”は私の中で封印していたんだけど、何年もかけて21歳になり、私は再び自分自身とは何かを見つけることができて、それを受け入れられるようになったの。6月3日が誕生日だったから、今は22歳になったけどね。 

――おめでとうございます! “ビートピア”は、今作の中で音楽で表現されていると思いますが、今、あえて言葉で、それがどんな世界なのかを教えていただけますか。 

“ビートピア”は、こういう世界、というコンセプトがあるわけではないの。私が7歳の時に作り上げていた“ビートピア”は、もっとフィジカルなものだった。でも今の私にとっての“ビートピア”は、フィジカルな世界というよりはフィーリングなの。ずっと隠していて、見つけるためには掘り起こさないといけないようなもの。みんな、そういうものを自分の中に必ず持っていると思うんだよね。たとえば、すごく落ち込んだ出来事や気持ちだったり。今の私は、そういった面も含め、自分の全てを受け入れられるようになった。それが“ビートピア”なの。 

――7歳の頃から、そういった想像を巡らせているような子どもだったのでしょうか。そして、 それを形にしたいと思ったのが、音楽をはじめた動機なのでしょうか。

そうね。たくさん想像してた。7歳の時の“ビートピア”は、動物とか妖精とかいろいろな生き物がいたり、皆がいろいろなファッションをしていたり、そのすべてが共存する世界だったの。国や街の名前を考えたりもしてたし、もっとフィジカルなものだったんだよね。でも、その時から今まで“ビートピア”のことを考えたことはなかったから、音楽をはじめたきっかけとは関係ない。音楽は、何か表現したい世界があったから書き始めたんじゃなくて、ただ曲を書きたいから書いていた感じ。自分の日記を書くみたいな感覚でね。

――なお、ジャケットもご自身で描かれたものですか? 

ジャケットは、タトゥーアーティストのDashaが書いてくれたの。私の胸元に入ったタトゥーも彼女の作品。 

――彼女を選んだ理由は? 

私にとっては、彼女のアートが、まさに“ビートピア”をカプセルに入れたような作品に感じられたの。私は、子どもが描いたような絵を求めていたから。『ビートピア』のクリエイティブ ディレクターがDashaを見つけてくれて、共通の友達もたくさんいたし、彼女は素晴らしいタトゥーアーティストだし、すごくクールな人だから、彼女にお願いすることにした。配色も含め、彼女とは細かい部分までアートワークについてたくさん話し合ったの。 

――過去の作品『Fake It Flowers』『Our Extended Play』も大好きで聴かせていただいていましたが、今作は、より鮮やかになったような印象を受けました。それは“ビートビア”の世界を表現したからなのでしょうか。それとも、成長の証なのでしょうか。 

その両方だと思う。アーティストとしても進化したと思うし、人として成長もしたと思うから。 “ビートピア”の世界を表現するために、今回はいろいろなことができるようになっていたと思う。だから、そのすべてが作用して、自然とそうなったんじゃないかな。 

――ロックナンバーもありますが、囁くような歌声や、ヴァイオリン、フルート、ピアノなどを活かした、生っぽい楽曲が印象的でした。これは、最近の趣向なのでしょうか。 

それも、さっきと同じで自然とそうなったの。どうしてそうなったのかは、私にも説明できないくらい。いつ何があってそういう楽器を使おうと思ったのは、自分にもわからないんだよね。 

――今回そういった楽器をより取り入れるようになったインスピレーションの、もとになったものはあると思いますか? 

明らかなものはないと思う。私にはたくさんインスピレーションがあって、曲の中ではそのたくさんのインスピレーションが混ざり合ってひとつになっている感じなの。いろいろなものからインスパイアされて曲を作っていく中で、そういう楽器を使ってみたくなったんだと思う。

――たとえば、そのたくさんのインスピレーションの中にはどんなものがありますか? 

いろいろなバンドやアーティスト。今思いつくのは、サイモン&ガーファンクルやノラ・ジョーンズとかかな。それ以外にも、私は本当に様々な種類の音楽を聴くから、『ビートピア』にはそれが反映されているの。

――聴き手としては、生っぽいサウンドのほうが温度を伝えやすいからなのかな、と。たとえば、「the perfect pair」は、温かいというよりはクールに感じられます。楽曲に温度感を宿すということは、制作する上で考えますか? 

温度感というよりは、曲を書き終えてプロデュースの段階に入った時に、他の曲とは違うヴァイブをもたせてみよう、とは思うかな。曲を作る時はそれは考えない。最初からどういう感じの曲にする、というハッキリとしたプランを立ててしまうと、せっかく何かよいものが自然に生まれようとした時に、それを妨げてしまうから。もちろん、自分が悲しい時は悲しい曲を書くし、それによって温度感というものができあがるかもしれない。でも、自分で敢えてそれを考えたり意識するんじゃなくて、その温度感は自然と作られるものなの。 

――「10:36」など、シンガロングしたくなる楽曲も多いように感じました。ライブをイメージして楽曲を作っているところもあるのでしょうか。 

それは100%考えてる。ライブで演奏したらどんな感じだろうとか、オーディエンスの皆へ、 音でどう答えるかをイメージしたり。例えば「Talk」なんかは、生演奏をそのままレコーディングしたしね。あのライブの感じを捉えたかったの。 

――すでにコーチェラなどに出演されていますが、ステージに立った印象や、観客の様子はいかがでしたか。 

時間が経つにつれて、ステージに立つのにはだんだん慣れてきたし、より心地よさを感じられるようになってきたと思う。前よりも盛り上がってるんじゃないかな。パンデミックもあったし、皆が私のことを知ってくれているのもあるから。 

自分が何か強い気持ちを感じている時とか、つかえているものを胸から降ろしたいとき、吐き出したい時にアイディアが降りてくるの。

――歌詞の表現も秀逸で、「Talk」の〈We go together like the gum on my shoes〉というフレー ズや、「thinkerbell is overrated」という曲名には、特に惹き付けられました。こういった表現は、どういった時に思い付くものなのでしょうか。 

自分が何か強い気持ちを感じている時とか、つかえているものを胸から降ろしたいとき、吐き出したい時にアイディアが降りてくるの。ぶわーっと吐き出すように言葉が出てくる感じ。 あとは、何か面白い表現を思いついた時にメモしておいて、それを歌詞に使ったりもする。 そういった表現を思いつく時は、映画や自分の周りの出来事だったり、人から話してもらったことなんかがインスピレーションになっている時が多いわね。 

――「broken cd」は、歌詞も含めてそぎ落とされているからこそ伝わるものがあると思いました。歌詞に関しては「Lovesong」「fairy song」も、特に思い入れがあるように聴き取れました。これらの歌詞について、語れる思い出があれば、教えていただけますでしょうか。 

「broken cd」を書いたのは、私が17歳の時だった。だからあの曲は、すごく古い作品なの。 だからあの曲の歌詞では、まだ過去にとらわれている私が表現されている。過去がトラウマになって、まだ前進できていない私ね。「Lovesong」は、私が恋をしている時に書いた曲。その恋に、全身全霊を捧げていた時の自分について書かれているの。恋って、人をクレイジーにさせるよね。それから「fairy song」は、”十戒”の私ヴァージョンのような曲。私自身が大人になるために覚えておくべきこと、より良い人間になるために必要なことを思い出すためにこの曲を書いた。3曲とも、すごくパーソナルな内容なの。 

――「broken cd」は、今回リリースするために書き換えたりはしたんですか? 

歌詞は変えなかった。新しく加えたのは、中間のインストの部分だけかな。その部分の後にくる曲の後半は、前半と歌詞は同じだけど、フィーリングが全然違うの。その中間のインスト部分のギャップがあることで、印象が変わるんだよね。あのインストの部分で、私の成長や変化を表現できていると思う。あの部分があるから、同じ歌詞でも感じ方が変わってくるの。 

――17歳に書いた曲を、今になってリリースしようと思った理由は? 

あの時の気持ちを、今やっと受け入れて、外に出せるようになったから。その気持ちを持っていた自分、そしてそれをどうやって積み重ね、整理してきたかを忘れなくなかったし、それを表現して、残しておきたいなと思って。 

――「thinkerbell is overrated」には、同世代のピンクパンサレスが参加しています。ホットな共演だと思うのですが、どんなふうに出会ったのでしょうか。制作の現場はいかがでしたか? 

彼女と最初に出会ったのは、ソングライティングのセッション。彼女とは年も近いし、二人ともロンドン出身だし、すぐに仲良くなった。だから今回のコラボも、すごく自然な流れで実現したの。現場はすごく楽しかった。彼女が作る音楽は興味深いし、書くメロディも素晴らしい。彼女は本当にクールな女の子よ。 

――あなたから見た、アーティストとしての彼女の魅力とは? 

やっぱりメロディ。彼女が作るメロディはすごく特徴的。彼女の視点って、すごく新鮮なんだよね。『ビートピア』にも、それをもたらしてくれたと思う。 

――ジャック・ステッドマン(ボンベイ・バイシクル・クラブ)や、The1975のマシューとジョージ など、相変わらず参加メンバーが豪華です。このような仲間に恵まれていることを、どう思っていらっしゃいますか。 

すごくありがたく思ってる。彼らが私と一緒に作業したいと思ってくれているなんて、本当にクールだと思うし、彼らからは、常にインスパイアされているの。彼らのような人たちが私を信じてくれているなんて、すごくうれしいわ。 

――MVや写真のメイク、ファッションも素敵で、いつも注目しています。最近は黒髪ですが、どんな気分でスタイリングされているのでしょうか。 

自分のムードによるの。その時の気分によって変えてる。『Fake It Flowers』の時はブロンドだったけど、あの時はグランジ・ガールになりたい気分だったし、黒髪にしたのは、もっと自分自身でいたいと思うようになったから。ちょっと大人になったのかな(笑)。 

――次に髪色を変えるとしたら? 考えている色はありますか? 

今はずっと黒髪でいたいなって思ってる。 

――メイクについても教えてください。 

メイクは、自分を表現する手段のひとつ。自分自身のメイクの仕方を見つけるのって大切だと思うな。自分の顔に合うメイクを見つけることも大切。私は多分それを見つけたんだと思うんだよね。だから、もうずっと同じメイクをずっと続けているの。 

――ファッションはどうでしょう?

自分が着たいなと思うものを着てる(笑)。これはメイクも髪色も同じ。本当に気分なの (笑)。 

――じゃあ、あんまり変えたりはしないんですね? 

15歳くらいの時はコロコロ変えてたけどね。でも今は、それを経て逆にすごくミニマルになったし、好きなものがハッキリして、定着したと思う。 

――ファッションやヘアメイクでインスピレーションを得るとしたら、それはどこから? 

自分が好きなミュージシャンのMVとか映画からはたくさんインスピレーションをもらってる。 アートからもインパイアされるかな。そういったものを見て、色やヴァイブのアイディアをもらうの。 

――まさにイギリスは今グラストンベリー真っ最中であり、日本にも8月のサマーソニックで初来日が予定されています。日本に対して、どんなことが楽しみですか?  

ジブリの森美術館に行きたいのと、レッサーパンダを見たいな。あとはカラオケに行ったり、 たくさん日本食を食べたい。いろんな人たちに会って、とにかく楽しみたいの。日本にいくのが待ちきれない! 

――日本のファンにメッセージをいただけるとうれしいです! 

皆が遠い日本で私の音楽を聴いてくれて本当にうれしいし、皆に会うのがすごく楽しみ!  ファン全員に会いたいな。すごく興奮してる。日本に行くのを心待ちにしているわ。 

――ありがとうございました! 

ありがとう!


beabadoobee●フィリピンのイロイロ市生まれロンドン育ちのビー・クリスティによるソロ・プロジェクト。2017年から本格的に音楽活動を開始し、ティーンエイジャーの持つ不安定さを上手く捉えた楽曲がZ世代の若者を中心に人気を集める。デビュー・シングル「Coffee」が数日で30万回以上ストリーミングされる。2019年には「Loveworm」と「Space Cadet」の2枚のEPをリリースしNMEアワード「Radar Award(新人賞)」を受賞。 BBCが有力新人を選出する名物企画「Sound of 2020」にノミネート、2020年にはThe 1975のUKアリーナ・ツアーのサポートアクトを務める。Powfu(パウフー)のヒット・シングル「death bed」にフィーチャーされ、米Billboard”Hot Rock & Alternative Songs”チャート1位を獲得、TikTokで41億回、Spotifyで5億回の再生を記録し全世界の配信チャートを席巻。2020年10月にデビュー・アルバム『Fake It Flowers』をリリースし英NMEで5点満点を獲得、UKアルバム・チャート初登場8位を記録した。アルバムはCDショップ大賞「洋楽賞」を受賞するなど日本でも高評価を得た。2021年には5枚目となるEP「Our Extended Play」をリリース。2022年8月に行われるサマーソニックにて初来日を予定している。
オフィシャルサイト:https://beabadoobee.com/
Instagram:@radvxz
Twitter:@beabad00bee
YouTube:@beabadoobee

beabadoobee(ビーバドゥービー)
『Beatopia』(ビートピア)
/¥2,750 Dirty Hit

ブロンド・ヘアでギターをかき鳴らすグランジ・ガールとして颯爽と現れたbeabadoobeeにノックアウトされて、はや数年。黒髪となったビジュアルを含め、より自然体になったような印象を受ける。ザックザクのロックもあるものの、ストリングスやピアノなどを活かした楽曲も多く、彼女の今の温度が伝わってくる。歌詞の表現も秀逸で《気が合う二人、靴にくっ付いたガムみたい》(「Talk」和訳)なんて、彼女の引き出しからしか生まれ得ないと思う。
配信リスト:https://smarturl.it/5hd5rv

1st Single「Talk」

2nd Single「See You Soon」

3rd Single「Lovesong」