世界中にコアなファンを持つリック・オウエンスの回顧展「Rick Owens, Temple of Love(リック・オウエンス、愛の神殿)」が、パリ市立モード美術館「ガリエラ宮(Palais Galliera)」で開催されている。

「Rick Owens, Temple of Love」展より。
芸術監督を務めたのはリック自身。ロサンゼルス時代から現在に至るまでのコレクションを中心に、100点以上の作品が展示され、プライベートアーカイブやビデオ作品、未発表のインスタレーションも公開されている。



写真上:スパンコールが鈍く輝く作品群。下左:チューブビーズが波のようにうねるトップスは、2018年春夏の作品。下右:手前のマスクとコートの作品は2019年春夏より。コートは、三角形にカットしたデニムなどを繋ぎ合わせている。
さらに、インスピレーションを受けてきたアーティストの作品や映画の数々を紹介。アトリエで立体裁断をするデザイナー本人の映像も興味深く、唯一無二のクリエイションの源に迫る内容となっているのだ。



写真上:中央に展示されるのは、パフォーマンスアートの先駆者であるヨーゼフ・ボイスが1969年の舞台で使用したシンバル。中・下:ギュスターヴ・モローの聖書に基づいた絵画『ヘロデの前で踊るサロメ』(1876年頃)を囲んで。
リック・オウエンスは1961年カリフォルニア生まれ。ロサンゼルスでパターンカッターとしてキャリアをスタートし、’89年に後に妻となるミシェル・ラミーが立ち上げたブランド「ラミー・メン(LAMY MEN)」に合流。’92年には、自身の名を冠した最初の製品が、伝説的な前衛ファッションのセレクトショップ「チャールズ・ギャレイ(Charles Gallay)」で販売され、評判を呼んだ。

1974年にリリースされたデヴィッド・ボウイのアルバム『ダイアモンドの犬(Diamond Dogs)』。若き日のリックは、神話に登場しそうな半人半犬のボウイに、強烈に惹きつけられたという。


写真左:リックの手をかたどった石膏。右:コリーヌ・デイ撮影、リック・オウエンスのジャケットを着たケイト・モス。『ヴォーグ・パリ(Vogue Paris)』2001年4月号より。
’97年、初のシーズンコレクションを発表し、メディアに大きく取り上げられるなど、支持を拡大。2003年にフランスの毛皮ブランドであるレヴィヨン(RÉVILLON)のアーティスティックディレクターに就任したことを機に、拠点をパリに移した。以降、家具、香水、舞台衣装も手がけるなど、多岐にわたる創作活動を展開している。

中央の写真は、スイス・アルプスでリックが撮影したミシェル。左2点は、リックに影響を与えたマリアーノ・フォルチュニのプリント柄を再構築した2019-2020年秋冬の作品。これらのドレープは丸めて保管されていたフォルチュニのドレスを想起させるもの。右2点は、リックによるレヴィヨンの作品。
今展では、長年のパートナーであるミシェルの存在にも光を当て、二人の寝室の再現など、極めて私的な側面も披露。庭園には、特別に作られた巨大彫刻が並び、ロサンゼルス時代のアトリエの裏庭から着想を得た花壇が広がっている。
まるで美術館が丸ごとリックの“愛の神殿”と化したような展覧会である。


リックとミシェルのロサンゼルス時代の寝室とクローゼットの再現。リックは、コンクリートのバンカーに軍用毛布を敷き詰めたような寝室を“ヨーゼフ・ボイス風アール・デコ”と表現。



写真上:大ホールには、行進をするように作品が並ぶ。下:“ドーナツ”ストールを用いた作品。左は2024-’25年秋冬より。膨らんだラテックス製ブーツは、若手クリエイターのStraytukayとのコラボ。右は2023-’24年秋冬より。

中央に鎮座するルックは、2017年春夏の“セイウチ”コレクションより。デザイナーは、気候危機でファッションの役割が明らかになるにつれ、野生生物の絶滅、進化、生命のサイクルについて考察し始めたのだとか。


写真上:スパンコールで覆われた巨大彫刻。下:暗い葉と青い朝顔で構成された花壇。青い朝顔は、リックが幼少期に好んでいた花なのだそう。

Rick Owens, Temple of Love
10, avenue Pierre Ier de Serbie 75116 Paris
2026年1月4日まで。
事前予約を推奨。
Photographs : Chieko Hama
Text:B.P.B. Paris