
2025年9月20日(土)、北青山エリアにあるヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westood)のフラッグシップストアが、南青山エリアに新たに移転オープンした。
同店舗では日本初となるカフェも開業して更なる進化と飛躍を遂げる今、ブランドで長年CEOを務めるカルロ・ダマリオ(Carlo D’Amario)さんと、グローバル ブランド ディレクターのクリストファー・ディ・ピエトロ(Christopher Di Pietro)さんが文化学園に来校。カルロさんが抱くフラッグシップストアに込めた思いと今後のファッション業界を生きる若者に求められる視点を、特別講義として語っていただいた。
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「常に顧客が何を求めているかを理解することが重要」

ファッションとの出会い
世界中を渡り歩いて学んだこと
カルロ「私がファッションに興味を持ったきっかけは、’70年代後半にミラノで出会ったエリオ・フィオルッチやジョルジオ・アルマーニ、ヴェルサーチェなどの存在です。彼らの素晴らしいショーと素敵なモデルの方々に魅了され、ファッションの道に進むことを決意しました。その後はフィオルッチのもとで5年程インドで働き、その後、香港、アフガニスタンなどでも仕事をしました。その時、ヨーロッパの外で何が起こっているのかを学んだことが非常に貴重な経験になったと感じています。
これらの経験で学んだことは、どのように創造性の中にインフラを組み込むかという点です。正しいインフラや健全な組織がなくてはクリエイティビティは成り立たず、それらは常に一緒であるべきだと考えています。そのため、新しいデザインを作る際も、決してトップダウンで決めることはなく、常に現場で顧客が何を求めているかを知ることが重要です。そしてそれらを適した場所で販売することも不可欠ですね」
実店舗を持つ意義と
ヴィヴィアン・ウエストウッド カフェに込めた思い
カルロ「近年ではオンラインストアをはじめとした様々な販売方法が広く普及してきましたが、私は実店舗がなければブランドは存在しないと考えています。もちろんオンラインで洋服を買うことは早くそして便利だと思いますが、やはり洋服は直接着ることが非常に大切だと思います。また、ブランドとしては直接顧客と接することで、その国や場所でどんなアイテムが求められているかも明確にわかってくるでしょう。
東京・青山のヴィヴィアン ウエストウッド カフェ開業の背景には、人々のライフスタイルの変化が大きく関わっています。近年世界では働き方が多様化し、スマートワークや週4勤務で働く人々が増えていますよね。この流れは今後さらに広がっていくと考えており、若者が気軽に集まることができる場所ももっと求められていくと思いました。ヴィヴィアン・ウエストウッドは創業当初から常に自分たちでブランドの世界観を積極的に発信し、熱狂的なファンやコミュニティを作り出して発展してきたので、新旗艦店のカフェが新たなコミュニティ創出の場になってくれればと考えています」
学生とのQ&A「ファッション業界は大きく変化した。未来へ踏み出して」

——私たちが学生の内にやっておくべき経験・挑戦は何でしょう?
カルロ「過去を振り返り、その視点を未来に活かすことです。将来あなた方がどんな道に進むにしろ、読書や芸術鑑賞を通して過去の歴史を学ぶことがあなた方の感性を育んでくれます。例えば博物館に行けば、1万年前の人々の暮らしの姿を通して、人間とは何かを理解できるでしょう。過去があるからこそ今があります。自分が何者であるかに気づくためにも、過去を学ぶことは最も肝心なことだと思います。数えきれない、真の価値あるものに出会うため、ぜひとも美術館や博物館に行ってください」
——カルロさんにとっての、ヴィヴィアン・ウエストウッドらしさとは?
カルロ「タイムレスなデザインと適正な価格、そして顧客をリスペクトすることです。デザインの観点で言うと(司会の方が着用するヴィヴィアン・ウエストウッドのタータンチェックのジャケットを見て)、タータンチェック自体は500年以上前から存在する柄ですが、このジャケットは今見ても非常に洗練されて見えますよね。それは私たちがトレンドを追いかけているのではなく、クラシックで豊かな伝統を受け継ぎ、そして普遍的な美しさを持つものに常に焦点を当てているからです」
——学生が持つべき視点を教えてください。
カルロ「私は50年ほど前からファッション業界に携わっていますが、プレタポルテの黎明期から現在まで、ファッションの世界は大きく変わりました。どんどん変化していく時代に適応し続けることが大切であり、それまでの方法や見方に固執するのではなく、常に新しい感覚を持たなければいけません。
また、あなた方は本当にデザインやカルチャーが好きでファッションスクールに入学しましたね。誰も義務的に通っているのではなく、多くを投資してファッションに対する理解を深めて真剣に学んでいます。だからこそ、そのエネルギーを将来ファッションビジネスに携わる時も忘れないでください。
常に顧客に誠実であることを忘れず、彼らが何を求めているかを理解してそこに正直であることが大切です。そしてその上で、自分たちの世界観や文化、価値のあるものを伝えていくという努力が必要だと思います」
講演会後のカルロさんにインタビュー。「ラグジュアリーは転換期にある。真の“クラシック”へ立ち返って」

——今回、文化服装学院で講演会を開催した背景を教えてください。
カルロ「スマートフォンなどデジタル技術の革新によって多様化する流行や、それによるプレタポルテの影響力の衰退、さらにはジョルジオ・アルマーニの訃報など、ファッション業界は現在、非常に重要なタイミングを迎えていると感じています。
私はこれまで多くの偉大なデザイナーたちからファッションの強さを学びましたが、今や彼らの存在も人々から忘れかけられつつあります。そこで、今こそ私の培ってきた経験を、これからの未来を担う若い世代に語り継ぐことが大切だと考え、講演を行うことを決意しました。
私たちはファッションショーを開催することや美しいものを見せるばかりではなく、歴史やカルチャー、ノウハウを語り継ぐことが使命だと考えています。今回の講演会は、学生の方々が非常に強い興味を持って私の話を聞いてくださったので嬉しかったです」
——改めて、現代の服飾学生が考えるべきことはなんだと思われますか?
カルロ「消費者と生産者の関係性を理解することです。ブランドやファッションの方向性を決めるのは常に消費者です。例えばイタリアが大きな生産国となったのは、1950年代にアメリカ人がローマに来て、高品質の製品を買い求めたことがきっかけでした。その需要があったからこそ、生産が広がり、現在の強さにつながっています。そうしたグローバルな構造をきちんと把握することがこれからの若者に必要だと思います」
——今の学生にあえて厳しくも愛のあるメッセージを送るとしたら?
カルロ「私は今こそクラシックに大きな魅力と価値を感じています。クラシックとは古いという意味ではなく、普遍的な価値や魅力を持つということです。それは新しいものがない今のファッション業界では最も重要であり、流行を作るという考え自体がすでに古い発想だと考えています。
もしあなたが美しいものだけを好きなのであれば、他の仕事へ進むことをおすすめします。ファッション業界ではホスピタリティや教育、カルチャーや食への視点など、広い視野が必要とされます。ただ美しいものを作るだけでは、もう十分なのです」
カルロ・ダマリオ(Carlo D’Amario)
イタリア出身。ヴィヴィアン・ウエストウッド共同創設者兼CEO。1970年代にエリオ・フィオルッチと協業し、ミラノの百貨店事業を通じた新たな文化・芸術の発信拠点を創出する。‘70年代後半からはヴィヴィアン・ウエストウッドのビジネスパートナーを務め、その後はCEOとして、ブランドをグローバルファッションハウスへと成長させる。
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