
隣に自分がいたら思わず話しかけちゃう気がします。まずはリハビリから始めろと。くるま
松居:奥山は最初の合コンに遅れてきたから由嘉里が腐女子であることを知りませんが、特にレッテルを貼ることはなかったのではないでしょうか。だからこそ由嘉里もアドレスを交換したり、ご飯に行ったりライに相談したりしていたはずだと思いたい部分はあります。
くるま:僕は、(奥山は)誰に対しても深く理解せず介入していない人間なんじゃないかと解釈しています。最近思いついた悪口で「抽象っていうのは具体をかみ砕く歯がない奴のための流動食だ」というものがあるのですが、奥山はまさにそんな感じだなと。
別に嫌な奴じゃないんだけど「僕大丈夫だよ、全然偏見ないよ」といいながら「何が好き」という具体を聞かないようにしている気がします。具体を聞いたらクラッシュしちゃうから。でも倒れたくはないから「僕も!」と元カノの話をするんですよね。ぶつけ合うことが善だと思ってるんですよコイツは。
松居:あはは(笑)。
くるま:そこに俺はイライラしますね。焼肉屋の隣の席に自分がいたら思わず話しかけちゃう気がします。まずはリハビリから始めろと。
――くるまさんのお話を聞いて一気に解像度が上がりました。先ほど「一人称が東京だった」とおっしゃっていましたが、これまでに出会われた人々の中にも奥山に近い人物はいたのでしょうか。
くるま:そうですね。友だちも多いほうなので、生態を知っている部分はありました。
松居:友だちとは一人ひとり深い関係なんですか? ちょっと他人に興味がなさそうなところもあるような気がして。
くるま:頻繁に会うわけじゃないけど、僕の中では深いと思っています。「人に興味なさそう」ともよく言われるのですが、実は逆で興味がありすぎるんです。ただ、僕がデカすぎて達観しすぎて見えるのかもしれませんね。何せ土地なんで。
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ジャンルを疑っているというか、あまり捉われたくないところがある。松居
――松居監督は冒頭で、くるまさんの間(ま)に惹かれたとおっしゃっていましたよね。演劇的な目線でご覧になっているように感じました。
松居:お芝居や発声の仕方、台本の読み方などは教えられますが、『間』だけは感覚的なもので教えられるものではないため、大事にしているポイントです。僕はジャンルを疑っているというか、あまり捉われたくないところがあって、分野に限らず好きな間を持つ人を観ると、一緒に仕事したくなってしまうんですよね。こう言うと語弊があるかもしれませんが、僕は映画だけが至高とは思っていません。演劇もお笑いも写真も文学も全部素晴らしいから、一つに絞りたくないんです。尾崎世界観くんのように他の芸術を取り込んで狭(せば)めないようにしている人が好きですね。
くるま:間かぁ。自分は練馬生まれだから会話のリズムが表なんですよね。ダウナーというか、世田谷あたりの裏拍ノリとは違う気がします。どうしても前のめりで話しちゃうから、裏の人とはタイミングが合わなくて会話がよくぶつかってますね。
松居:でも、令和ロマンさんの漫才を観て役者業をお願いしたい人はいっぱいいるんじゃないですか?
くるま:そうでもないと思います。『ミーツ・ザ・ワールド』以前に来ていたのは縦型ショートドラマばかりで映画はなかった気がする。みんな憑りつかれたかのように「縦、縦……」状態だったので、そんなに縦が好きなら熱量の高い皆さんでやった方が良いんじゃないかと思って、それは避けてきました。
松居:なるほど(笑)。その他に受ける基準はありますか?
くるま:僕が補完できるものがあれば、という感じでしょうか。もう出来上がっているものにプラスするのであればキリがないから、欠けている場所があってそれを埋められるならぜひ、と思っています。
Kuruma
1994年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学のお笑いサークルで相方の松井ケムリと出会い、令和ロマンを結成。M-1グランプリ2023・2024において、史上初の2連覇を達成する。映画『笑いのカイブツ』で漫才指導を担当した。著書に『漫才過剰考察』(辰巳出版)がある。本作が映画初出演。
Daigo Matsui
1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2012年『アフロ田中』で長編初監督。『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品。その後、映画『私たちのハァハァ』『アズミ・ハルコは行方不明』『アイスと雨音』『くれなずめ』『リライト』、「バイプレイヤーズ」シリーズなどを監督。’22年の『ちょっと思い出しただけ』で東京国際映画祭にて観客賞・スペシャルメンション受賞。

映画『ミーツ・ザ・ワールド』
擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に熱中しながら、自分のことは好きになれない由嘉里。結婚や出産でオタ活を離脱する腐女子仲間を見て不安と焦りを覚え、合コンに参加するも歌舞伎町で酔いつぶれてしまう。そこを希死念慮を抱えるキャバ嬢・ライに助けられ、二人はルームシェアを始める。No.1ホストのアサヒや毒舌作家のユキ、バーを営むオシンにも出会い、由嘉里は歌舞伎町での生活に安らぎを覚えていくが……。
監督:松居大悟、出演:杉咲 花、南 琴奈、板垣李光人、渋川清彦、筒井真理子、くるま(令和ロマン)、加藤千尋、和田光沙、安藤裕子、中山祐一朗、佐藤寛太 / 蒼井優
10月24日(金)より全国公開。クロックワークス配給。
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会