
10月10日(金)~13日(月)、東京・天王洲運河一帯で開催された国内最大級のアートイベント「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」。俳優・パフォーマーの森山未來さんがアーティスティックディレクターを務め、吉田山さんや渡邊賢太郎さんらがキュレーションを担当。Chim↑Pom from Smappa!Group×小室哲哉さんによるコラボレーションをはじめ、折元立身さんなど名だたるアーティストから新進気鋭のクリエイターまで、総勢150組以上が参加した。
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左・Chim↑Pom from Smappa!Group×小室哲哉さんによるインスタレーション。
右・手塚愛子さんの作品《親愛なる忘却へ(美子皇后について) 》/《Dear Oblivion (A Study of Empress Haruko) 》 2019年


左・折元立身さんの作品《パン人間 》2025年 右・松岡正剛×森山未來さんによる写真作品《湖独の舞》2023年、撮影:濱田祐史、©︎近江ARS
4つのエリアに分かれた個性豊かな展示を通じて、現代アートの最先端を体感できる本イベント。ここでは、会場でひときわ存在感を放っていた、今注目の現代アーティストとクリエイター10人をピックアップして紹介する。
70組以上の気鋭アーティストが出展した「MEET YOUR ARTISTS」ブースでは、絵画から立体作品まで多彩な作品が並んだ。同ブース内に設けられた「MEET YOUR ARTISTS -CROSSOVER-」エリアでは、MISATO ANDOさん、河村康輔さん、pillings(ピリングス)をはじめ、40組以上のアーティストやブランドが参加。


左・会場にて、自身の出展ブースに登壇していたMISATO ANDOさん。右・MISATOさんの新作展示。

河村康輔さんの展示

pillingsの展示

大阪府のMarco Galleryによる気鋭クリエイター7名による展示「Know-mad Toy」
1.二次元と三次元の狭間にある表現を突き詰めて。
彫刻家・本岡景太
昨年、東京藝術大学大学院・美術研究科彫刻専攻修士課程を修了し、彫刻家として活動する本岡景太さんは、同ブースにて、高さ2メートルにおよぶ大作1点と壁面作品2点を展示。絵具で染色した障子紙を用い、絵画と彫刻の中間の領域をテーマに立体作品を制作している。
「彫刻は形がはっきりしているものですが、平面的な表現を交えて作ることでその境界線が揺らいでくいくのが面白いんです。見る角度や光によって、手前に見えたり奥に見えたりする。平面なのか立体なのか錯覚を起こすような感覚が好きで、その表現を追及し続けています」と語る本岡さん。

迫力あふれる大スケールの作品ながら、実は内部が空洞になった構造になっており、見た目以上に軽やかさがあるという。近くで見ると、色の濃淡や紙の重なりが織りなす繊細な構造が際立ち、思わず目を奪われる。



左・鬼ごっこをする少年をモチーフにした作品。中央・10冊以上の週刊漫画雑誌から抜粋したページを組み合わせて構築した作品。
右・自室の風景を描いた作品。凹凸のある背景から浮かび上がるスプレーボトルが、曖昧な奥行きと歪んだ空間認識を際立たせている。
2.AIと人間の価値観が融合する、新たな女性像の模索。
現代アーティスト・Lea Emblis
セルビア出身の画家・Lea Emblis(リア・エンベリ)さんは、今年3月に東京藝術大学を卒業。手描きとAIを組み合わせたコラージュ技法で、デジタル化が進む現代社会における女性像やジェンダーバイアスをテーマにした絵画作品を制作している。

会場では、“ヴィーナス”を題材にした作品3点を展示。ボッティチェリやティツィアーノら古典的なヴィーナス像をAIに学習させ、生成されたイメージに自身の発想を重ねて再構築している。
美術史においても現代でも、女性に対する偏見は根強く残っており、昔の画家も現代のAIを開発するIT企業も、多くを男性が占められている。今も昔も変わらず「男性の目線」による表現が主流であることに疑念を抱き、女性である自身の立場から現代の女性像を再解釈して描き出すリアさん。
AIと彼女の解釈が混在して描かれるヴィーナスは、現代における女性の立場や美の価値観、フェミニズムについて深く考えさせられる。


展示された作品は一貫して「新しいヴィーナスの誕生」がテーマにある。印刷物のコラージュを部分的に取り入れながら、エアブラシやローラーなど手作業による様々な技法を用いてAIと手描きの境界が曖昧になる表現を突き詰めている。
3.独自のコラージュ技法で生み出す、境界があいまいな世界。
現代アーティスト・寺尾瑠生
寺尾瑠生さんは、西洋の古典絵画や浮世絵をモチーフに、印刷した和紙を手作業で数ミリほどに細かく裁断し、編み込むという独自の技法で制作。幼少期にセラピーとして行っていたというコラージュを基盤に、過去と現在、西洋と日本の文化が交錯する新たな造形を生み出している。

60〜70年代のアメリカのポートレートや浮世絵を題材に、和紙を編み込むことで、浮世絵の平面的な表情は曖昧に、ポートレートは立体的に浮かび上がる。コラージュとしてその表情が混ざり合うことで、人や物の境界が揺らぐような世界を映し出す。
鳥取県で生まれ育ち、上京後にお花見で見た、人が波のようにあふれかえる光景に衝撃を受けた寺尾さん。その体験をきっかけに、人と人との境界が溶け合う瞬間を、現代人のメタファーとして作品に落とし込んでいる。


遠目で見るとデジタル処理されたコラージュのようにも見えるが、近くで見ると、手織りで表現された緻密なディテールに驚かされる。印刷された紙を時間をかけて手作業で織り込むことで、その時間の蓄積も作品に内在している。
4.少女アニメと花に、現代社会の歪みを投影する。
現代アーティスト・山本れいら
東京都で生まれ育ち、十代で渡米しシカゴ美術館附属美術大学に進学した山本れいらさん。現在は東京を拠点に、少女アニメーションの表象を用いながら、自身の体験をもとに日米の政治関係やフェミニズムなどの社会問題をテーマにした作品を手がけている。

山本さんは、女性が生み出した作品や女性を描いた作品が、性的に消費されたり、芸術や商業の文脈で一方的な視点から扱われてきたことへの問題提起として、アメリカの画家ジョージア・オキーフの花のシリーズと、90〜2000年代の少女アニメの表象を重ね合わせて描く。
オキーフの花は発表当初、女性器の隠喩として誤読され、商業的に成功した経緯があるが、本人は性的な解釈に反対していた。一方、日本の少女アニメも商業主義の中でセクシャライズされて受容されてきた歴史がある。山本さんは両者に共通する文脈を見出し、二つのモチーフを融合させることで、鑑賞者にその背景について問いかける意図を込めている。
少女の大きな瞳と優美な花は、現代を生きる私たちに、社会に潜む問題や危機を訴えかけてくる。


漫画やアニメに強い関心を抱いてきたという山本さん。なかでも、90年代の少女漫画に見られるクィアやフェミニズム的な視点を備えた実験的な作品群に影響を受け、自身の表現にもそのイメージを取り入れるようになったという。
5.植物×ネオン——植物の視点から人間社会を描く。
現代アーティスト・長谷川由貴
花とネオンライト。自然物と人工物を融合させて、「人間と植物の関係性」に着目しながら、“植物側”から見た社会を描き出す長谷川由貴さん。

「人間にとっては文字として、記号的な意味を捉えられるネオンライトも植物にとっては栄養分となるただの光でしかない。意味を当てはめているのは人間であり、植物としてはただ生きているだけに過ぎない。植物とネオンをモチーフにすることで、人間社会における認識の相違や勝手なエゴイズムを浮き彫りにする表現を試みています。同時に世の中のLGBTQ2+に対する勝手な基準に違和感を持っていて、植物における品種改良も同じく、『良い』と定義されるものがある一方で、人間が決めつけた基準から外れたものが『悪い』とされる優生思想に対する批判も作品に込めています(長谷川さん)」
有機的な花に重ねて描かれる無機質な光。強く映し出される光とその背後に美しく咲き誇る花の対比が、人間の価値観や社会の在り方を映し出している。

植物を見つめるときに社会的なスイッチが切れ、純粋な感覚に立ち返る瞬間をテーマにした作品「深い眠りから目覚める音を聞かせて」。

スクエア型のネオン光線を花に重ねることで、スマートフォンで花を撮影する人間の行為と、その視線を受ける花との関係性を描き出している。
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