ファッションデザイナー・堀内太郎×音楽家・牛尾憲輔が語るメタ思考な創作論|ジャンルを越境するクリエイター

2026.09.17

『装苑』2026年9月号より掲載

デザイン、音楽、アート、テクノロジー、あらゆる分野の壁が融解しつつある現代において、時代のゲームチェンジャーとなるのは、軽快に「越境」を繰り返すクリエイターたち。異なる視点を掛け合わせることで生まれる、新しいクリエイティブの可能性とは?

堀内太郎

[ デ ザ イ ナ ー ]

牛尾憲輔

[ 音 楽 家 ]

photographs : Josui(B.P.B.)
hair & makeup : EBARA(W)
interview & text : SO-EN



音楽とファッション、
メタ思考な二人の創作論。

牛尾 太郎さんとの出会いは、MOT(東京都現代美術館)でやってた坂本龍一さんの個展がきっかけです。レセプションパーティで出会った方が、「すごい波長が合うと思うから会わせたい」と後日、紹介してくれました。

堀内 下北沢のご飯屋さんでね。

牛尾 そうそう(笑) 。小じゃれた感じじゃなくて、おばちゃんが焼き鳥を運んでくれるような、普通の飲み屋。

堀内 僕が初めて牛尾さんのことを知ったのは「ダンダダン」だな。あまりアニメは見ないんだけど、サントラのアレンジが面白いと思いました。ちょうどその頃、カラーでのファーストコレクションの音楽を誰にお願いしようかと考えていたんです。

アニメ「ダンダダン」。幽霊を信じる女子高生とオカルトマニアの同級生が織りなすアップテンポなオカルティックバトルラブコメ。2027年には第3期の放送が決定。

牛尾 最初に会った時にはもう、ショーの音楽をという感じでしたよね。

牛尾 「ダンダダン」の中で、運動会の曲として有名な「天国と地獄」と「ウィリアム・テル序曲」をミックスして、それをテクノにアレンジした曲があるんです。コレクションも「時の流れ」そのものがテーマで、過去・現在・未来を一つに集約するというコンセプトだったので、「クラシックをアレンジして何かできませんか」と提案していただきました。僕は劇伴を作る時はいつも、コンセプトワークから始めるのですが、根っこが定まっていたので迷わず作ることができました。

堀内 映画『2001年宇宙の旅』で使われた楽曲、ヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」をアレンジしてもらいました。こちらも時空を超える世界観を持っていて、レファレンスの一つだとお伝えしました。

牛尾 この作業が意外と大変だったんです。もともとが3拍子のワルツなので、4拍子が基本のダンスミュージックにすることができなかった。ススム・ヨコタさんというアーティストが’06 年に3拍子だけのテクノアルバムを作っていて、その印象をどうにか現代的に発展できないかなと思ったんです。結果的にうまくハマって、面白かったですね。

カラー 2026年春夏コレクション。
「time travel,chic hum or,the hours,the waves」をテーマに、創設者・阿部潤一さんのイズムを継承しつつも、アウトドアの要素を加えた。

堀内 実は僕、ショーをやったのがほぼ初めてなんですよ。

牛尾 え! そうなんですか。

堀内 ’12 年の毎日ファッション大賞新人賞の授賞式と、’14 年のVERSUS TOKYOというイベントでショーをやったんですが、あまりやりたいという欲求がなくて。どちらかというと、ものづくりや服作りそのもののほうに興味があった。だから初めての本格的なファッションショーがいきなりパリ。

牛尾 すごい。実際にやってどうでした?

カラー 2026年秋冬コレクション。テーマは「The Waves」。ダークスリラー映画『ライトハウス』に着想を得て、夜の荒波や恐れを表現。音楽にもおどろおどろしさを取り入れて世界観をいっそう引き立てた。

堀内 エキサイトメントは確かにありました。中毒性みたいなものがあるんだと思います。コレクション作りがアルバム制作だとしたら、ショーはライブに近いのでしょうか。半年間かけて作った服を、最後の1か月だけで集まったチームで再編集するという作業は面白かったです。

牛尾 僕はファッションに詳しくないので、太郎さんと知り合ってからいろいろ勉強したんです。太郎さんが元々手がけていたth productsは白黒でミニマルな印象でしたが、これまでのカラーのコレクションを見るとまったくそんなことはなくて驚きました。

堀内 主軸がほかにあるという意味では、牛尾さんと共通する部分があるかもしれない。例えば、作品のために依頼を受けた場合は、その作品自体が軸になりますよね。僕も過去にMUJI Laboのディレクションや航空会社のユニフォームを手がけましたが、そういう仕事は、その時代や社会に対して自分たちがどんな表現を加えられるか、という話だと思うんです。でも自分のブランドで発表するものって全然違うじゃないですか。

牛尾 全然違います。時代なんて関係ない。僕もアニメや映画、朝ドラの音楽を作る時は、やっぱりお客さんのことを考えます。でも自分のソロなら、メロディがなくてもいいし、踊れなくてもいい。感情に訴えかける必要だってない。2時間の作品をドーンと作りたければ、作ればいいんです。

NHK連続テレビ小説「ばけばけ」。激動の明治時代を生きた文豪、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻、小泉セツをモデルにしたフィクション。劇伴では、「気配」や「古いレンズ」のような質感を音として立ち上げている。

堀内 与えられたタスクに対して自分なりの回答を考えるのが好きなのかもしれません。だから、依頼を受けて「これはできないな」と思うことはあまりない。プロジェクトごとに切り取られる自分の側面も違うし、自分では気づいていなかった一面が引き出されることもある。だから、新しいことに挑戦するのが好きなんです。

牛尾 それはすごく分かります。

堀内 牛尾さんの最初の劇伴仕事はなんだったんですか?

牛尾 松本大洋さん原作のアニメ「ピンポン ANIMATION」です。僕のソロユニットである、agraphを聴いてくださっていたアニメプロデューサーの方に、「サントラをやってみませんか?」と言われてそこからいろいろ。

牛尾 歴史ものをやる時に、いわゆるクラシックやオーケストラのような音楽を使うと、年表を覚えるみたいな感覚で物語を見てしまう気がして、僕はそれがすごく嫌なんです。10代の子が作品の中の同世代のキャラクターを見た時に、「歴史上の人物」ではなく、クラスメイトのように身近に感じてほしい。そう考えると、音楽も今の子たちが普段聴いているものに近いほうがいいんですよね。

古川日出男原作の「平家物語」を、「けいおん!」の山田尚子監督がアニメ化。劇伴では物語のキーとなる琵琶と現代的なサウンドが印象的に混ざり合う。FODほか各種配信プラットフォームで好評配信中。

牛尾 同年に参加したアニメ「チェンソーマン」では、制作のためにAI(ChainsawGAN)を開発していただいて。聴いたことがないようなドラムの音を生成できる技術を、チェンソーの音で応用して楽曲に取り入れました。

藤本タツキ原作の大人気アニメシリーズ「チェンソーマン」。2022年のテレビシリーズから最新作の劇場版「レゼ篇」まで、全作品の劇中音楽を手がける。TVアニメ『チェンソーマン』配信中。

堀内 今の時代っぽいですね。

牛尾 僕の楽曲再生情報を解析すると、今、全世界のリスナーのうち日本は4位とか5位で、ほとんどが北米、南米とヨーロッパ。オファーも国内だけではないですし、特に僕の曲は歌詞がないので国境という意味でのボーダーもなくなっていました。

堀内 僕も15歳からイギリス、23歳でベルギー、28歳をフランスで過ごしました。イギリス人の友達と雑誌を読みあさって、(ア ベイシング )エイプのTシャツ買ってきてくれって言われたりしてたから、自分が何人という意識があまりない。だからパリへの憧れもなかったのかもしれません。ファッションもECができたり、SNSで情報を得られるという意味では、越境も何もない時代だから。

牛尾 僕は音楽ってどこにあるんだろうとずっと考えているんです。譜面に書かれた時なのか、録音された時なのか、人の耳に入って認識された時なのか。そういう意味では、誰にも聴かれずに保存されている音楽にすごく魅力を感じるんです。それを人類が唯一作れたのがボイジャー(*)のゴールデンレコード。今はもう、太陽圏の外にいっちゃってるから、物理的に聴くことができない。そういうイデアルな音楽というか、聴く必要のないソリッドなものを死ぬまでに自分の作品として作れたらいいなと思います。

堀内 面白いですね。ボイジャーはビジュアルもカッコいいんですよね。

牛尾 堀内さんは、今後やりたいことは?

堀内 まだ(カラーが)始まったばかりなので。まずはいいコレクションを作りたい。音楽も芸術も、受け取る人をどう豊かにできるかだと僕は思うので、それをどういう形で提供できればいいんだろうかといつも考えています。

注(*)1977年にNASAが打ち上げた2機の無人宇宙探査機「ボイジャー1号・2号」。

Taro Horiuchi

1982年生まれ。東京を拠点に活動するファッションデザイナー。自身のブランド、タロウホリウチ、th productsを主宰し、2026年よりカラーのクリエイティブディレクターを務める。英国で写真を学んだ後、アントワープ王立芸術アカデミー ファッション科修士課程を修了。テーラリングを基盤に、スポーツ、ワーク、ミリタリーなど異なる要素を組み合わせたデザインを特徴とする。

Kensuke Ushio

1983年生まれ、東京都出身。2008年に電子音楽アーティスト、agraphとしてデビュー。電気グルーヴのライブサポートメンバーとして活動しながら、アニメーション、映画、ドラマなど数多くの作品の音楽を担当。主な参加作品に、劇伴デビュー作となったテレビアニメ「ピンポン ANIMATION」、映画『聲の形』『子供はわかってあげない』、Netflixオリジナル『日本沈没2020』などがある。

(牛尾さん着用) トップ ¥33,000 カラー

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