バンドでの活動からボカロPを経て、シンガーソングライターに転じたキタニタツヤ。ヨルシカのサポートベースとしての活動をはじめ、Ado、まふまふ、TK from 凜として時雨の楽曲制作などで活躍するベースプレイヤーにして、ソングライター/プロデューサーとしてもジャニーズWESTや私立恵比寿中学、星街すいせいらの楽曲制作を行う彼が、TVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」のオープニングテーマに起用されたシングル「青のすみか」を完成させた。その多面的な音楽世界に投影されたキタニタツヤの現在の音楽観について話を訊いた。
interview & text: Yu Onoda / photographs: Jun Tsuchiya(B.P.B.)
──今回のシングル「青のすみか」は、TVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」のオープニングテーマに起用された作品です。キタニさんはアニメから何を読み取り、それを曲にどう反映させたのでしょうか?
「『呪術廻戦』「懐玉・玉折』で描かれていることの根幹には、2人の仲がどれだけ良くても、お互いの主義、信条が違えば、どうしようもない破局がある。それはすごく壮大なダークファンタジーでありつつも、普遍的なものとして受け取ることができる要素が沢山散らばっていて、似たような話が現実世界にもある。例えば、僕の中学・高校時代の仲が良かった友達には、今も会う人もいるんですけど、なんとなくバイバイになっちゃった人もいて。でも、それは仲が悪くなったからではなく、各々が自分のことを頑張っていたら、自然とそうなっていくもので、仕方がなかったりする。だから、作品から自分なりに受け取った普遍的なものを僕の歌詞に落とし込んで、最終的に別れのさびしさを読み解いていただけるように仕上げました」
──キタニさんの楽曲は多彩なアプローチに織り込むオルタナティブな感覚が大きな特徴ですが、アニメから得たインスピレーションをサウンドに変換するにあたって、どのように考えられましたか?
「一番最初のデモは、ビートがもっと打ち込みっぽくて、そこにちょっとギターとシンセサイザーが乗っているくらいで、ロックバンドがEDMに影響を受けて書いたような、爽やかな曲をイメージして作っていたんです。でも、別のアレンジ案として、歌詞とメロディは全く同じで、もうちょっとダークで疾走感のあるギターロックも作って、どっちにしようと考えた時、どっちもにしようと。だから、奇妙なバランスではあるんですけど、打ち込みのリズムとギターロックの間というか、爽やかであり、疾走感もある曲になりました」
──キタニさんはこうして話している印象として、明るい方なんですけど、書く曲はダークなものが多かったりして、個人的にギャップや二面性があるように感じるんです。「青のすみか」も同じように、爽やかでありつつ、ダークでもある曲ですよね。
「ギャップがあるとよく言われるんですけど、「青のすみか」では、明るい皮を被って、よく見たら明るくない曲を意識したんですよ。青春時代もそうじゃないですか。遠目では美しい記憶に見えるし、当事者の目線では苦しんだり、悩むことが多かったりする。そういう対比をそのまま曲に落とし込んで、ぱっと聴いた感じ爽やかに思えるけど、よく聴くと、悩みやさびしさが感じられるものになっていると思います。まぁ、でも、自分は逆張りの発想というか、ひねくれた人間なので、暗いことがやりたくなるんでしょうね(笑)。でも、その一方で暗い曲を歌ってるやつが暗いキャラクターだったらつまらないでしょ?っていうのもひねくれた発想というか、自分はひねくれているからこそ、明るい人間なのかもしれない(笑)」
──2曲目の「素敵なしゅうまつを!」は、楽しい週末について歌っているかと思いきや、実は終末について皮肉交じりに歌っていて、キタニさんのひねくれたパーソナリティに見事合致しています。
「はははは。ちょっと小馬鹿にしたような曲ですけど、確かにその通りです。しかも、「青のすみか」の次にこういう曲を置くのもひねくれていますよね。」
──「素敵なしゅうまつを!」は、キタニさんがベースのみ演奏している曲ですが、ヨルシカをはじめ、AdoさんやTK from 凛として時雨だったり、ベースプレイヤーとしても活躍されているキタニさんにとって、ベーシストとしてのアイデンティティとは?
「自分のなかで曲作りが占める割合が大きいので、ベーシストとしてレコーディングやライブに参加する時もソングライターとしての視点で見てしまうというか。みんなの後ろに立って、俯瞰した視点で、みんながこういう動きをしているから、自分はその間のポジションにいようと考えることが多いかもしれないですね。まぁ、でも、ベースっていうのは、そう考えるのが正しい楽器であって、ベーシストとしてのアイデンティティは意外とないというか、ひっそりそこにいるのが自分ですね(笑)」
──ただ、「素敵なしゅうまつを!」とその次の「ラブソング(cover)」は、ベーシストとしての個性が打ち出されたファンクナンバーですよね。
「ああ。「青のすみか」のベースは目立たないようにしているし、カップリングの2曲は、自分のなかでは珍しいかもしれないです。「素敵なしゅうまつを!」の編曲は、Mizoreくんという僕より4、5歳年下の若いクリエイターが入ってくれたんですけど、その人がべらぼうにギターが上手くて、なんか悔しかったというか、ベーシストとして舐められないようにと考えて、ギターに張り合うように自分のエゴが出たんですよ。だから、その2曲は、自分としてはやりすぎた曲だったりするんですけど、カップリング曲だし、たまにはこういう曲もいいかなって」
──キタニさんの天邪鬼な性格が発動した曲でもあると。そして、もう1曲のカップリング曲「ラブソング(cover)」は、6月リリースのEP『LOVE:AMPLIFIED』収録曲で、プロデューサー/ソングライターとして、キタニさんがボーカリストであるEveさんに書いた曲をセルフカバーしたものです。キタニさんは、ジャニーズWESTや私立恵比寿中学、星街すいせいだったり、楽曲提供も多数手掛けられていますが、自分の作品として書く曲と人に提供する曲は、分け隔てなく考えているのか、それとも別ものなのか、どちらなんでしょうか?
「全然違うと思います。「ラブソング」は、Eveさんというボーカリストに対して、僕が曲を作る人間としてやりたい曲を詰め込んだものなんですよ。すごく起伏が激しかったり、言葉が細かくパパパパッっと出てくる歌詞だったり、普段、自分の曲ではやらないけど、やってみたいアイデアを具現化しつつ、こういう曲でこそEveさんは輝くだろうなと考えて作った曲でもあって。それを今回セルフカバーしたのは、ファンサービスというか、自分としてはおまけの曲のつもりですね。自分では歌いにくい曲かなと思っていたんですけど、トライしてみたら、意外に歌えるんだなという発見もありました」
──「ラブソング(cover)」はボーカリストにとって難曲だと思うんですけど、キタニさんは見事に乗りこなしていて、ボーカリスト、キタニタツヤの底力を感じました。
「はははは。乗りこなせているかどうかは分からないですけど、さらっと歌ったEveさんの歌唱が聴きやすさに繋がっている曲でもあるので、自分でもそういう曲になるよう必死で努力はしましたね。だから、乗りこなせているように聞こえたら、ああ、よかったという感じです」
──Eveさんのために書いた「ラブソング」を自分で歌ってみようという発想は、プロデューサーらしいアイデアだと思うんですけど、キタニさんが考えるプロデューサーとは?
「僕は一つのことを深く追求するより、色んな曲を器用貧乏にやるタイプの人間だったりしますし、そのアーティストが一番輝く形を目指すのが自分にとってのプロデュースですね。だから、「ラブソング」を含め、Eveさん、suisさんに書いた前作「LOVE:AMPLIFIED」の2曲は、プロデューサーとして考えて作りました。ただ、楽曲提供に関して、「キタニさんらしい曲をお願いします」と言われた時、自分らしい曲がどういうものなのか、よく分からないんですよ」
──自分らしさというのは自分では分からなかったりしますよね。
「そうなんですよ。「キタニさんらしい曲」というのは、どうやら、個性豊かな曲ということみたいなんですけど、自分としては自分らしさをぶつけることより、相手を輝かせることに喜びを感じる人間なので、その狭間で悩むことがよくありますね」
──そのお話にもリンクすると思うんですが、キタニさんはこれまで、自分のために作った作品である2020年のアルバム『DEMAGOG』、リスナーを意識した2022年のアルバム『BIPOLAR』を発表してきて、この先はどちらの方向に向かっていくんでしょうか?
「ああ。むしろ、その2つを交互にやっていきたいですね。どういう風になっていくかを自分で規定したくないので、ポップスをやっていたかと思えば、急に内省的な曲を出し始めたり、常にフラフラしていたい。自分はいち音楽ファンとして、アーティストに振り回されるのが好きだったりするので、その場の思いつきでリスナーの方々を振り回すことになると思います(笑)」
──一貫して天邪鬼なムーブこそがキタニタツヤの世界というわけですね。2020年以降はコロナ禍で社会が大きく変化した時期でもありますが、音楽活動を続けてきて、キタニさんのなかで何か変化はありますか?
「コロナだったからどうという変化は特になく、ただ、活動を続けてきた時間分の変化というか、ちゃんとアラサーになりつつあるなって(笑)。それとともに、年下のすごいクリエイターがどんどん出てきて、焦りがありますね。そして、逆に先輩の背中を追いかける感覚がどんどんなくなっているし、年下に負けないように、ちゃんと努力をしようと思っていますね。それから自分の作品を作るためのインプットを音楽に限定しないようにしようという習慣がようやく身についてきて、映画を見たり、本を読んだり、外に出かけるようになりました。最近、僕は車やバイクに乗るようになったんですけど、インディーズ時代は車なんて買えませんでしたから、今は少しお金を持って、ジジイの趣味に片足を突っ込めるようになったことで、見える世界が拡がって、創作活動にポジティブなフィードバックがあります。一言でいえば、大人になったんでしょうね」
──その話を作品に無理矢理つなげるわけではないんですけど、「青のすみか」は思春期の若者には書けない曲ですよね。
「絶対にそうですね。当事者である若者にとって起こること全てが大事件だし、渦中にいたら、大人みたいにあの頃は良かったねとは言えないですからね。うれしかったことはそのままずっと覚えているだろうし、大人になるとうれしかったことなんて、明日には忘れちゃうじゃないですか。そして、その一つ一つがかけがえのないものなんだよという話も若い時は「そんなの綺麗事だよ」って思っていたんですけど、大人になった今は恥ずかしげもなく言えるし、だからこそ、「青のすみか」が生まれたんですよね。そういう意味で、大人になってよかったなと思いますね」
キタニタツヤ
2014年ころからネット上に楽曲を公開し始め、ボカロP“こんにちは谷田さん”として活動をスタート。2017年より、高い楽曲センスが買われ作家として楽曲提供をしながらソロ活動も行う。シンガーソングライター以外にも、ヨルシカのサポートメンバー(ベース)としての活動や、Ado、まふまふ、TK from 凛として時雨の音源制作への参加、ジャニーズWEST、私立恵比寿中学など多くのアーティストへの楽曲提供など、ジャンルを超境した活動を行っている。
■オフィシャルサイト:https://tatsuyakitani.com/
■Instagram:@inunohome
■Twitter:@TatsuyaKitani
■Youtube:@TatsuyaKitani_official
■TikTok:@inunohone
初回生産限定盤(表)
初回生産限定盤(裏)
通常盤
キタニタツヤ
SG「青のすみか」
〇初回生産限定盤 CD+BD(アナログJK仕様)¥5,500
封入特典:アニメ書下ろしジャケットサイズカード
〇通常盤:CD ¥1,980
Sony Music Labels
特設ページ:https://lit.link/WhereOurBlueIs
CD予約:https://tatsuyakitani.lnk.to/WhereOurBlueIs
配信リスト:https://KITANITATSUYA.lnk.to/4rOMBXSW
2022年にTVアニメ『BLEACH 千年血戦篇オープニングテーマ曲「スカー」が幅広い支持を集めたキタニタツヤが手掛けたTVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折』のオープニングテーマ曲。思春期の喪失感とそれをポジティブに捉える大人の視点が交錯した歌詞世界、そして爽やかな疾走感が彩るタイトル曲に加え、カップリングの「素敵なしゅうまつを!」、「ラブソング (cover)」にはキタニタツヤの多面性が凝縮されている。
MV「青のすみか」
MV「ラブソング feat. Eve」
TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」ノンクレジットOPムービー/OPテーマ:キタニタツヤ「青のすみか」
【おしゃべりしたい音楽のこと CHATTING MUSIC】
Vol.01 さとうもか
Vol.02 Maika Loubté
Vol.03 水曜日のカンパネラ
Vol.04 ELAIZA
Vol.05 長屋晴子(緑黄色社会)
Vol.06 塩塚モエカ(羊文学)
Vol.07 beabdobee
Vol.08 DYGL
Vol.09 カメレオン・ライム・ウーピーパイ
Vol.10 奇妙礼太郎