――お二人が普段、創作活動や表現活動で大切にされていることが、今回のドクターマーチンのお仕事にどのように結びついたか、もう少し詳しく聞かせていただけたら嬉しいです。
TAIKI:OfficeBrillerにはクリエイターやモデル、歌手が所属しているのですが、みんなには、人に勇気を与えられる人になってほしいと思っているんです。それがクリエイターでも表に出る人でも変わらなくて、誰かに「自分もこうなりたいな」と思える影響を与えられる人になってもらえたら、と。
なので、今回、所属クリエイターがこうした社会的意義の深いキャンペーンの話を持ってきてくれて、自分でフォトグラファーとしても仕事をしたというのは素晴らしいことでしたね。
カナイ:今回のお仕事は僕にとって本当に挑戦だったんです。というのも、僕はこれまでアンダーグラウンドな、あまり多くの注目を浴びない場所で好きなことをやってきていました。先ほども話に出た、キラキラの逆をいきたいと思いながら活動をしていたのですが、そのことをドクターマーチンに注目していただき、お仕事をいただいて。それで「運命を受け入れた」みたいなところがあったんです。
注目されることって、ありがたい反面、大変な面がどうしても出てきます。これまではそういうことを避けてきたけれど、今回はやってみてもいいかな、と思えたのはドクターマーチンだったから。そして最後まで心折れずにできたのは、無理に美しい面を見せるのではなく自然体を大切に、そのままのカナイフユキでよいと言ってもらえたからだと思います。アンダーグラウンドでやってきた自分と地続きで世界的な仕事をできるようにしていただけて、とてもいい経験になりました。
僕は、暗い部分を積極的に表現していきたいと思っているんです。カナイフユキ
――ドクターマーチンがLGBTQIA+コミュニティに継続的にコミットし続けていること※は本当に素晴らしいことです。法整備の面も含め、人権に対する取り組みや意識についてはまだまだ後進国と言わざるを得ない日本国内において、今、お二人が、LGBTQIA+権利の向上のために必要だと思うことはなんでしょうか?
※ドクターマーチンとLGBTQIA+コミュニティ
ドクターマーチンでは、LGBTQIA+のサポートをアクションとドネーションで行ってきた。これまでにドクターマーチン全体で20 万ポンド(約3740万円)以上を、ドクターマーチン基金からは10 万8000 ポンド(約1,792万円)以上を、OutRight Action やakt を含む世界中のLGBTQIA+を支援する慈善団体に寄付。ドクターマーチン基金は2021 年ドクターマーチンが設立した独立したイギリスの登録慈善団体であり、ドクターマーチン・エアウエア社とは別で慈善事業、支援を行なっている。
TAIKI:まずは、知ることではないでしょうか。それは特別なことではなくてーーあえてこの言葉を使うとすれば、ゲイも「普通」なんですよ。僕たちは、ストレートの方に何か違う生き物のように扱われることがあるのですが、全然普通だよって。例えば公衆浴場に行ったらゲイはどう思うのか、みたいに聞かれても「別に何も思いませんし、ただお風呂を楽しんでいます」と。そんなことを疑問に思うなんて、想像力が豊かすぎるなあ、とは思いますが(笑)。ただこちら側も、どうしても理解してもらいたくて、いい部分を見てもらおうとしちゃうところもあるんですよね。そうじゃなくて、実は何気ない人たちなんだっていうことを知ってもらったほうが、話が早いんじゃないかなと思うことがあります。
カナイ:今の話に100%共感します。いろんな人がいることを知るのはやはりすごく大事で、自分は表現を通じて、メインストリームに足りていないものを補いたいと思っているんです。ゲイだってだらしない部分も情けない部分もあるし、喧嘩もすれば浮気もします。僕はどちらかというと、そういう暗い部分を積極的に表現していきたいと思っているんです。当事者の方にはそれで勇気を持ってもらえて、そうでない方には知識をつけてもらえるように。自分より若い世代の間では意識が変わっていることを感じることが多いので、それを希望だと思っています。
――フラットに知ることが大切であるということと、まだ不平等であることのほうが多い社会で機能するレインボーフラッグのような「象徴」や、社会運動がメッセージとして伝える特別性は、相反するものですよね……。先ほどから話題にもあがっていますが、そのジレンマはどのように消化すればよいのでしょうか。
TAIKI:そこは難しいですよね。日本の場合、フェーズがまだまだ下にあるので、そういう象徴が必要になる場面や、当事者としてどうしても戦わなければいけない時があります。中にはキラキラしたい人もいますし、そのことも尊重されるべきだと思っています。やっぱりゲイという属性の中にも「いろんな人がいる」ということを知ってもらうことが重要かもしれませんね。それをどのように知ってもらうのか、ということが大切なのだろうと思います。
カナイ:一つは、生身のコミュニケーションをもっとできたらいいのかなと思います。SNSやネットの情報は、情報を得ているようでやはり一面的なんですよね。いろんなものが抜け落ちて伝わったり、そもそもどんな人が発言しているのかもあまりわからなかったりする。それが、一度会って、身振り手振りを含めた熱量みたいなものと一緒になると伝わることがあって。トランスジェンダーをめぐる議論がSNSですごく過激なものになっていると思うのですが、生身のコミュニケーションでそこまで攻撃的にはなれないものじゃないですか。情報を得るときに、もう少しオフラインやオフラインに近い形を取れると、今よりも互いに理解が深まったり、矛盾に対して優しくなれるんじゃないかと思っています。
TAIKI:オフライン、大事ですよね。僕は、昔から「ゲイ嫌いなんだよ」っていう人を好きにさせるのが大好きなんです(笑)。ゲイってなんか気持ち悪い、みたいな人たちのところにあえて行って、まず自分のことを知ってもらう。そうして一緒に過ごすうちに、TAIKIに出会ってから考え方が変わったわ、みたいに言われるのがすごく好きなんですよね。僕らはなんのこっちゃない生き物だよっていうのを示したくても、カナイさんが言うように、SNSだと難しくて。
カナイ:ええっ、すごい……。僕はゲイなんか嫌いなんだよねみたいな人がいたら逃げて、作品のネタにします。
TAIKI:それがクリエイターですよね(笑)。
カナイ:コロナ禍でオフラインの場を作るのが難しい時期が長かったですけど、今後はそういう場が増えていくといいですよね。
――ファッションとアート、社会活動が結びついた今回の取り組みを通して、お二人は、今、ファッションやアート、表現が持つ可能性をどのように考えていますか?
TAIKI:ファッションやアートは、その人自身を表す一つの武器だと思います。受け取る側だとしても制作側だとしても、それは楽しむことが大前提にあるもので、人種もセクシュアリティも関係ない。そこにインクルーシブなメッセージを伝えられる可能性があると感じています。
カナイ:僕は、ファッションやアートなどのポップカルチャーが持つ「伝播力」をすごく信じているんです。TAIKIさんがおっしゃっていたように、それは楽しいとか好きだとか、本能的な刺激を受けとることができるもの。さらにそこを入り口としていろんなメッセージを受けとれる力があって、それを信じて続けていきたいと思っています。
Fuyuki Kanai
長野県出身。2011年、多摩美術大学映像演劇学科卒業。個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーターやコミック作家として活動。エッセイなどのテキスト作品やそれらをまとめたzineの創作も行う。個展に『ゆっくりと届く祈り』(渋谷PARCO GALLERY X BY PARCO)など。Instagram @fuyuki_kanai
タイキ
パリ、ミラノ、ニューヨーク、東京などのコレクションで活躍するモデルであり、自身も所属するOfficeBriller(オフィスブリエ)の代表を務め、キャスティングやプロデュースも行う。韓国人モデルのノアとのカップル、Taiki&NOAHとしてYouTubeチャンネルでの発信も行い、注目を浴びている。Youtube @TAIKINOAH Instagram @taiki_jp
ドクターマーチン PRIDEコレクション
WEB : https://jp.drmartens.com/always-proud/