正しく自分に自信を持つために
澤田:いくつか枝さんに聞きたいことがあって。まず、創作をはじめたときってどんな感覚でした?
枝:いまと変わらないんです。「映画監督になりたい」とは一度も思ったことがなくて、「映画が撮りたい」だけで突っ走ってきて、いまもそうって感じです。よく「映画監督になるにはどうしたらいい?」って聞かれることがあるけど、あんまりその悩みに寄り添いきれないんですよね。映画監督になりたいなら、撮ってみればいいだけ。撮りたいものがないと、この仕事はただきついだけだから。「映画監督になりたい」、「人からこう見られたい」が先に来ちゃう人が、最近は多い気がするんです。みんな他人に興味を向けすぎていて、自分自身のことを聞くと、答えられない人が多い印象。「いいね」の数でしか自分を評価できなくなっているんですよね。そうじゃなくて、自分自身に正しく向き合って欲しいなと思う。
澤田:そうですよね。
枝:まぁ、「自分はこう見られたい」って思うときが、誰にでもあるとは思うんですけどね。映画監督の現場で知り合った大人たちは、みんなかっこよくて。私の提案にも全力で答えてくれるし、対等に向き合ってくれる。それって、自分はプロだっていう自負があるから、偉そうに見せたり、自分自身をデザインする必要がないからだと思う。そんな大人を見て、私も正しく自分に自信を持つ経験をしないといけないなと思って。
澤田:確かにそうですよね。ありがとうございます。もうひとつ聞いてみたかったことが。
枝:はい!なんでも聞いてください。
澤田:『少女邂逅』を最初に観て、作品について調べたときに「若干23歳の映画監督」というキャッチコピーが目立って。僕はそのラベリングがいらない作品だなと思いましたし、きっと枝さんは、それ以外にもいろんなラベリングをされてきたと思うんです。ご本人はそれに対して、どういうふうに受け取られているのか、聞いてみたかったんです。
枝:ご本人は気にしてないです(笑)。『少女邂逅』の公開当時、「女性ならではの」みたいな切り口で女性監督が集まる企画などがあって、それらの文言に対して様々な意見が出ていましたが、当時私自身はそこまで何かを強く感じるということはなかったです。今まで女性として生きてきて、得られた経験もあるし、私が女性であるということは事実なので。一方で世間が何を言おうが、自分のやりたいことをやっている自信があったので、お好きにどうぞと言いますか。なんだろう、ある種ドラえもんとかキティちゃんのような気分です。メディアに載った自分の名前を見ても、自分であって自分ではない感覚。時代の流れによって生まれた客観意見ぐらいで。なので、正直そんなに気にしたことはないですね。
澤田:枝さんの中には一本筋が通っているんでしょうね。やっぱり枝さんは、ずっと僕の先にいるな。
言葉を生業にしている二人が、言葉を選ぶとき
枝:私、実は小学生への演技レッスンを、いまも週1で10年間やっているんです。元々、私は芝居をやっていて、そこから映画を作りたいと思うようになったんですが、演出と芝居とでは、全然違うってことに気づいて。18歳で師匠に弟子入りして、20歳のときに、事務所に所属している子どもたちの演技指導の先生を務めることになったんです。先生と言っても、私自身が大人になったばっかりですし、どうすればいいのかわからなくて、“先生っぽいこと”を言ってみたんです。そしたら、子供達が言うことを聞かなくなってしまって。子供達には見透かされるんですよね。この先生の言葉は芯が通っているものなのか、倣っているだけなのか。自分の言葉で、一生懸命伝える努力をすると、子供たちはちゃんと聞いてくれるんです。大人は建前があるから、借りてきた言葉って分かっているのに、納得したフリをするのが怖いところ(笑)。いかにピュアで正直であるのか。言葉を選ぶときには、そこを大切にしようと思うきっかけになりました。
澤田:そうですよね。さっきの話じゃないですけど、僕自身も、「どう見られたいか」を考えちゃっていた時期があって。頑張っていましたね、どうにか文学少年だと思われるために、言葉遣いを意識して。ミュージックビデオを公開したときのYouTubeのコメント欄に、たまに、クリエイター的な視点から感想を書いている方がいて、同族嫌悪というか、昔の自分を見ているみたいで、その背伸びは本当にやめた方がいいよって思います。それって続かないし、誰も幸せにならない。いまの自分のやっていることや発している言葉、見ている先っていうのは、等身大の僕自身なので、みんなに信頼してもらいやすいかなと思います。
枝:いまの等身大の澤田さんから脱して、規模を拡大させたいみたいなことは考えていますか?
澤田:それができたら一番ですよね。すごく本音を言えば、べつに目指さなくていいだろうし、やりたいことがやれたらいい。でも、お仕事として人と一緒にやっていく以上は、そういうところを目指すべきじゃないかなと思います。規模が拡大しても、作る音楽は変わらないアーティストもいるので、例えばBUMP OF CHIKENさん。藤原さんが語りかける言葉は変わらないし、憧れます。大学まで野球をやっていたので、甲子園でライブをしてみたい。少しワクワクしてみたいんです。
枝:意外!
澤田:高校球児に、どでかいメッセージを投げかけたい、みたいな気持ちはあるんです実は。あんな個人的なこと書いていたやつが、「お前ら頑張れよ〜」って(笑)。
枝:いいですね!私は、できるだけ多くの人に自分の作品を観てほしいし、できるだけいろんな人に届けたいから、いまはジャンル問わず仕事をしているってところもあります。日常生活で交わることのない人とも、作品一つで繋がれる面白さ。できるだけ多くの人と、作品を通して分かち合いたいと思う。あとはNHKの仕事とかして、おばあちゃんを喜ばせたいなとかね(笑)。わかりやすいことをして、親孝行することも大切。
澤田:大切ですよね。いつかNHKで会いましょう!(笑)
今日の撮影と対談を振りかえって
枝:不思議と自分にオファーをくださる人って、言葉を仕事にしている人が多いから、澤田さんもやっぱり言葉を大切にしている人でした。二年前は作品を作るためのお話しかできなかったので、今日初めて個人的なことを話せて、なんとなく自分と近しい感覚を持っているのかなと感じましたし、改めてお話ができてよかった。
澤田:僕は安心感が強いです。僕よりも全然、先に居てくれてよかったって思う。クリエイティブで殴り合うって大事だと思うんですけど、枝さんに関しては、僕はそう思わないというか、見てる視線や今日お話を聞いていて、まだ全然自分が届かないところにいるなと改めて思いました。早くそこに追いつきたいっていう気持ちと、いつまでも、追いかけさせてくれっていう気持ちが共存しています。本当にお会いできてよかったです。
photpgraphs: Jun Tsuchiya(B.P.B.)
styling: Akane Nishimura
hair & makeup: Hina Nagamoto
澤田 空海理さん着用
シャツ¥46,000 アントック (プレスルーム.アートス)/パンツ¥43,000 シューマン (シーイング)/スニーカー¥24,200 コンバース(コンバースインフォメーションセンター)
枝優花さん着用
半袖トップ¥42,900 アキコアオキ 、右手の指輪¥61,600 フレーク、靴¥15,950 ベジ /ミニドレス¥30,000 フミク(プレスルーム.アートス)/パンツ¥39,000 イン-プロセス トーキョー
、左手の指輪¥14,000 、イヤリング¥37,000 ラナスワンズ(ススプレス)
【ショップリスト】
アントック otn.ltotl@outlook.com
シューマン (シーイング) seeingstaff@gmail.com
コンバース(コンバースインフォメーションセンター) https://convers.co.jp/
アキコアオキ 03-5829-6188
フミク info@fumiku.tokyo
イン-プロセス トーキョー、ラナスワンズ (ススプレス) TEL.03-6821-7739
フレーク TEL.03-5833-0013
ベジ TEL.03-5829-6249
枝優花/Yuka Eda
1994年生まれ、群馬県出身。2017年に初長編作品『少女邂逅』を監督。主演に穂志もえかとモト―ラ世理奈を迎えMOOSICLAB2017では観客賞を受賞。劇場公開し、高い評価を得る。香港国際映画祭、上海国際映画祭正式招待、バルセロナアジア映画祭にて最優秀監督賞を受賞。2019年に日本映画批評家大賞の新人監督賞を受賞。
また写真家として、様々なアーティスト写真や広告を担当している。『装苑』にて、コラム連載「主人公になれないわたしたちへ」執筆中。
Instagram @edmm32
X @edmm32
澤田 空海理/Sori Sawada
1993年生まれ。プロデュースから編曲までを自身で手掛ける。作家とソロ活動を平行して行い、そのいずれにも自ら「人生の切り取り」と称す赤裸々な作詞への姿勢が垣間見える。代表曲の「またねがあれば」は、シンガーの當山みれいからバーチャルシンガーの花譜まで、幅広いジャンルの歌手たちがカバーしており、カバー動画の総再生回数は1000万回を超える。2022年2月に澤田空海理名義での初アルバム『振り返って』をリリース。‘23年12月6日にメジャー1stシングル「遺書」を、’24年2月14日に2ndシングル「己己己己」をリリース。そして4月3日にリリースした最新の3rdシングル「作曲」も好評発売中。
公式サイト sorisawada.com/
YouTube @SoriSawada
Instagram @sorisawada
X @No_More_Cat
澤田 空海理
メジャー3rdシングル「作曲」
デジタル配信 crown record
2024年4月3日発売
1.作曲
2.作曲 (instrumental)
配信リンク
https://sorisawada.lnk.to/sakkyoku
<澤田空海理のライナーノーツ>
私は春を食べたい
曲を作る、で作曲ですがその本質は何なのかと時に考えます。
日々の些事を音楽へと昇華することは容易ですが、果たしてそれだけが作曲なのでしょうか。
「生活」と「作曲」を切り離す方もいれば、その二つは地続きであると考える方もいらっしゃいます。
私は間違いなく後者です。裏返せば、「生活」が停滞した時、「作曲」は立ち行かなくなります。
では「生活」を「作曲」のための、いうなれば発生装置のようなものとして扱えば良いのでしょうか。
日録から歌詞を引っ張り出すのではなく、
歌詞にするに値する経験を自ら探し求める姿は求道者のそれに映るかもしれませんが、
言ってしまえば本末転倒です。曖昧な境界線の上を歩くことでしか書けない情景が在るはずで、
それこそ歌を歌たらしめるものだと私は信じます。
さくら味って実のところ何味なのか、私は知りたくありません。
私は春を食べたいのです。
MV「作曲」
MV「遺書」