アメリカ南東部、ノースカロライナ州アシュビルから最新アルバム『Rat Saw God』を携えて来日を果たした5人組ロックバンド、ウェンズデイ。折しもビヨンセの最新作『COWBOY CARTER』をきっかけにカントリーミュージックが注目されるなか、彼らは2017年の結成以来、アメリカのトラディショナルな音楽であるカントリーミュージックとシューゲイズの融合を実践。さらにカントリーミュージックの伝統である秀逸なストーリーテリングと南部文学のアメリカンゴシックテイストの影響が色濃いボーカリストのカーリーによる歌詞世界も相まって、バンドに対する評価は高まり続けている。そんなウェンズデイにとってカントリーとはどんな音楽なのか。そして、カーリーがバンド活動の合間に没頭しているという裁縫や服作りについて、お話をうかがいました。
Interview & text: Yu Onoda / photographs: Norifumi Fukuda (B.P.B.)
──カントリーミュージックとシューゲイズを融合したウェンズデイの音楽性は「カントリーゲイズ」と形容されたりもしています。カントリーは、ビヨンセの最新作『COWBOY CARTER』のテーマでもあり、ここに来て、広く注目されている音楽でもありますが、ウェンズデイにとってカントリーミュージックとは?
カーリー(Vo)「カントリーと一言で言っても、ウィルコに代表されるオルタナティブカントリーやアウトローカントリー、ポップカントリーだったり、色んな種類のカントリーミュージックがあって、アメリカの文化において連綿と受け継がれてきた音楽でもあるし、私たちはカントリーミュージックを聴きながら育ったといっていいと思う」
アラン(Dr)「僕はカントリーミュージックをがっつり聴いてきたわけではないんだけど、(バンドの拠点であるアメリカ南東部)ノースカロライナという田舎での生活ではカントリーが自然に溶け込んでいるんだ」
MJ レンダーマン(G)「自分にとってカントリーミュージックの入口はニール・ヤングだった。でも、彼はアメリカ人ではなく、カナダ人だったりするんだけどね(笑)」
──もし、ウェンズデイの音楽を通じて、カントリーに興味を持ったリスナーがいたら、どんなアーティスト、作品をおすすめしますか?
カーリー「その答えはカントリーミュージックに何を求めるかによるんじゃないかな。歌詞やストーリー性を求めるなら、私たちが影響を受けたドライブ・バイ・トラッカーズをおすすめするし、タウンズ・ヴァン・ザント、ドリー・パートン ジョージ・ジョーンズ ルシンダ・ウィリアムスをはじめ、70年代、80年代の定番と呼ばれているアーティストは間違いないかな」
MJ レンダーマン「それこそビヨンセの新しいアルバムもいいんじゃない?あれだけ影響力を持ってるアーティストがカントリーミュージックを紹介したということは、間口としてはいいことだと思うよ」
ザンディ(G)「でも、彼女はカントリーに特化したアーティストじゃないから、カントリーのおすすめで真っ先に彼女のアルバムを薦めたりはしないかな。一番分かりやすいのはさっきカーリーが挙げたアーティストの作品に触れながら、時代をさかのぼってみるのがいいと思う」
──シューゲイズのモダンな要素を加えることで、伝統的なカントリーミュージックを現代的にアップデートしているウェンズデイは伝統と革新についてどうお考えですか?
カーリー「そもそも、自分たちはカントリーに特化したバンドではないというか、これまで受けた様々な音楽の影響が勝手に出てきてしまっていて、その一つが伝統的な音楽であるカントリーだったりする。あと、サウンドに関しては、もし、歌詞がカントリーっぽい状況を求めていたら、伝統的なカントリーっぽい方向に向かうだろうし、その曲の歌詞によるところが大きいかもしれない」
MJ レンダーマン「それも意識してそうしているというより自分たちの出来る実力の範囲内で自然にやってるだけなんだ」
──そして、最新作『Raw Saw God』は、そのサウンドから豊かなランドスケープが浮かび上がってくる作品でもあって、それはバンドの活動拠点であるノースカロライナのアシュビルという街の環境も影響しているのかな、と。
カーリー「アシュビルは山に囲まれた田舎町で、病気の長期療養のために滞在する人がこぞってやって来るくらい空気と水がきれいで、観光客に人気の場所でもあったりする。私とジェイクはポーチから山がよく見える家に住んでいるし、ザンディはいままさに家を建てているところで、周りには山があり、農場がある、そんな環境かな」
アラン「俺だけ、アシュビルから車で3時間半のダーラムという街に住んでいて、そこはアシュビルと比べると文明的なところだけど、それでも15分も車を走らせると、山に行き当たる自然豊かな街だったりするね」
カーリー「だから、自分たちのサウンドや歌詞は周りの環境に少なからず影響を受けているんだと思う」
──カーリーさんが書かれる歌詞は短編小説的なストーリーテリングに大きな特徴がありますが、アメリカ南部の物語の語り口というと、小説家のフラナリー・オコナーに代表されるゴシック的な作風がよく知られています。カーリーさんが日常に根ざした物語を紡ぐ際にどういうところからインスピレーションを得ていますか?
カーリー「自分のなかでは、カントリーミュージックの歌詞が持つ叙情性をベースにしつつ、そこにフラナリー・オコナーに象徴されるサザンゴシックの伝統をミックスしようと考えていて。例えば、駐車場で酔い潰れた人の描写を加えることで、ちょっとダークな、ゴシック的な雰囲気を表現してみたり。あと、その語り口としては、リチャード・ブローティガンの簡潔な表現にも影響されている気がする。彼の表現が簡潔であると同時に、すごく豊かで複雑なエモーションを伝えているように、自分も簡潔であると同時に深みを感じられる歌詞を意識しているし、その題材は普段の日常からピックアップしているかな。何の変哲もない日常にあっても目の付け所によっては面白いことがそこら中に転がっているように感じられるはずだし、私はそれをドキュメント的に捉えて歌詞に落とし込んでいる」
──カーリーさんにとっての日常、そのほとんどの時間は音楽に費やされていると思うんですけど、それ以外の時間では裁縫や服作りがお好きだとか?
カーリー「そうそう。音楽漬けの日常はプレッシャーになったりもするから、家で裁縫や服作りに没頭する時間はそのプレッシャーを忘れられる時間でもあって。作った服を地元のお店で売ったり、バンドの物販用にリサイクルの素材を使ってリメイクしたバンドTシャツをこれまでに400着以上は作っていたりとか、もしかすると趣味というよりサイドジョブになっちゃってるかもしれない(笑)」
アラン「カーリーは時間が出来ると朝から服作りを始めるくらいガチなんだよな(笑)」
WEDNESDAY
ノースカロライナ州アシュビルのベッドルームで大半の曲を書いているKarly Hartzmanは、MitskiのNPR『Tiny Desk』をみて、ギターを始めた。アシュビルの大学に通い、Wednesdayという名義でアルバム『Yep Definitely』をリリース。その後、正式にバンド・メンバーを集め、2020年にセカンド・アルバム『I Was Trying to Describe You to Someone』、2021年にサード・アルバム『Twin Plagues』をリリースした。『Twin Plagues』は高い評価を獲得し、Pasteの年間ベスト・アルバム、Pitchforkの年間ベスト・ロック・アルバムの一枚に選ばれている。2022年9月、Dead Oceansと契約したWednesdayはシングル「Bull Believer」をリリース。Pitchforkは同曲をBest New Trackと2022年のBestSongsの1曲に選出。2023年4月にリリースされたニュー・アルバム『Rat Saw God』は、PitchforkでBest NewTrack(8.8/10)に選ばれ、Rolling Stoneで四つ星を獲得するなど、高い評価を博した。
公式サイト:https://www.wednesday.band/
YouTube:@wednesday-band
Instagram:@wednesday_gurl
X:@Wednesday_Band_
Bandcamp:https://wednesdayband.bandcamp.com/album/rat-saw-god
Facebook:@WednesdayTheBand
WEDNESDAY『RAT SAW GOD』¥2,500+税
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