平安時代中期に生きた実在の陰陽師、安倍晴明(あべの・せいめい)が、雅楽家として才能を発揮した貴族、源博雅(みなもとの・ひろまさ)とともに怪奇事件を解決する小説シリーズ「陰陽師」。この人気シリーズが、安倍晴明生誕1100年の今年、新たな実写映画として令和に誕生した。令和版の晴明に命を吹き込んだのは、現代日本を代表する俳優・山﨑賢人さん。監督・脚本を務めたのは、原作を愛し、作者の夢枕獏さんとの親交も深い佐藤嗣麻子さんで、照明や美術、衣装、VFXにこだわり抜いた映像美の中で、青春期の安倍晴明の魅力的な物語を生み出した。
「戦争や貧困、自然災害にウイルス禍。目に見えないものの恐怖に苛まれているのは、平安中期の人も現代の人も同じです」と語る佐藤監督と、新たな晴明を作り出すことは「必死でした」と語る山﨑さんに、対談でこの『陰陽師0』の創作の舞台裏を存分に語っていただいた。
photographs : Yudai Kusano / styling : Shogo Ito (sitor, Kento Yamazaki) / hair & make up : Koichi Takahashi(Nestation, Kento Yamazaki) / interview & text : SO-EN
こういう話、現場では全然してくれないんですよ! 内緒にしているんです(笑)。——佐藤嗣麻子
その時は言葉にできなくて(笑)。——山﨑賢人
——『陰陽師0』では、陰陽寮の学生(がくしょう)である27歳の安倍晴明が描かれていることで、これまでのどの安倍晴明とも違う晴明像を見ることができました。この新たな晴明がつくられた過程からお伺いしたいのですが、佐藤監督が夢枕獏さんの原作から感じられた魅力を、今回、どのように映画に落とし込まれたのでしょうか?
佐藤嗣麻子(以下、佐藤):(夢枕)獏さんが、もともと安倍晴明と源博雅の関係を「平安時代のシャーロック・ホームズと、ジョン・ワトソンだ」と言っているんです。そうすると、晴明はきっとホームズ。私は、シャーロック・ホームズシリーズも愛読していたので、あの理知的で無愛想なホームズが若かったら、どんな感じになるのかな?と思って晴明をつくりました。
この映画はいわば「バディもの」で、晴明と博雅が出会う話なんです。原作小説の2人は40代なので、すでに長い年月を経た友情関係が出来上がっていますが、『陰陽師0』は、そこにつながる物語なんです。あと、映画には立場の逆転がすごく大切なので、どこでひっくり返すかとか、そういうことをずっと考えて作っていましたね。
映画『陰陽師0』より
——シャーロック・ホームズみたいな晴明、というのは山﨑さんは聞いていらっしゃいましたか?
山﨑賢人(以下、山﨑):はい、聞いていました。
佐藤:それでちょっとだけ晴明を嫌な感じにしたんです。でも山﨑さんはすごく気を遣ってくださって、あまり嫌味に見えないようにしてくれました。
山﨑:晴明と博雅のやりとりが、可愛らしく見えたらいいなと思っていました。それに今回の晴明には、過去を乗り越えられていないという設定があります。だからあまりにも性格が悪く見えてしまうと、それを乗り越えるシーンで、見ている人が「でもこいつ、性格悪いからな」みたいになって感情移入できなくなっちゃうんじゃないかと思ったんですよね。そうならないようなバランスを考えて、微調整しました。必死でした(笑)。
佐藤:たくさん考えていてくれたんですよね。ありがたいことです。でもこういう話、現場では全然してくれないんですよ! 内緒にしているんです(笑)。
山﨑:その時は言葉にできなくて(笑)。
佐藤:インタビューの時にそうなんだ!と知ることも多いんですよね。
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