和田彩花×ゆっきゅん
私たちの「アイドル」論。
アイドルの主体と表象をめぐるダイアローグ

2025.05.29

アイドルであることと、主体的な表現をすることは両立できる

──お二人の表現には「私が私であることを大事にする」という主体性が感じられます。一時は相反していた、アイドルと主体性の両立について、どう考えられていますか?

ゆっきゅん 自分を大切にすること自体が私の活動なので、歌詞を書いて作曲を依頼して、MVも衣装も全部自分で決めています。自分で選び取るありさまをお見せすることで、力を受け取ってくれる方がいる気もして。

和田 初めから、自分で選んでいましたか?

ゆっきゅん そうですね。よく知らない大人の言うことを聞かされそうになったことがあって、「活動が危うくなる!」って思いました。自己決定しないと今までやってきたことが全部ウソになる、と。それからは、自分のわがままを大事にしなきゃいけないなと思うようになりました。

和田 わかります。私もプロデュースされることに美意識のズレを感じることがありました。美術を学んできたから、視覚的な好き嫌いがはっきりしていて表象への思いも強い。アーティスト写真一つとっても、その人が選んでいるかどうかで変わりますよね。私も一つ一つにこだわるようにしていて、それが自分を大切にすることにつながっているんだと思います。

ゆっきゅん グループアイドルで主体性を表現するって、難しいですよね。

和田 難しい。表象という面で、私がグループ活動中に主体性を発揮できた唯一の機会はライブでした。振り付けや立ち位置は決まっていても、どう表現するかはかなり自由なので。アイドルと主体性って両立しないように思われるけれど、表現したいことを持っている人もいますよね。多くの人に受け入れてもらおうとするとわかりやすさが大事になって、本人の個性は二の次になり、大切なものが見失われてしまう。けれど実はその人にしかないものこそ、他者の心をときめかせるって知ってほしいです。

ゆっきゅん 最近、いろんな曲を歌うために人の意見も取り入れようと、アルバム『生まれ変わらないあなたを』は対等に意見を言い合える同世代の友人と作ったんです。友達と最高の仕事をするっていうテーマで、作曲をお願いして。音楽の専門的なことはわからないし業界のルールも知らないけれど、やっぱり違うことはわかるじゃないですか。言わないと後悔するから言うんだけれど勇気が必要で、それを前向きにやれる人と作りたくて、いいチームでやれました。

和田 少し前なら大きな会社でアイドルをすることは憧れだったけれど、今は「知らない」と言えちゃうのがすごくいいですよね。つまり基準はそこにないということだから。

ゆっきゅん ずっといろいろなものが好きで、いろいろなものが嫌いだったんです。大学で映画を学んで、名作で素晴らしいものと、名作とされているけれど自分にとっては時代遅れな映画も、とにかくたくさん見て。音楽も本も、いろんなものを見て培われた審美眼みたいなものを信じているから、誰かに認めてもらわなくても信じられる価値があるんだと思います。

私たちが思い描く未来のアイドル像、アイドルとの関わり方

──アイドル活動が糧になっている部分は?

ゆっきゅん 歌うことが好きなので、ステージで見てもらえるだけで楽しい。あと、ファンの方ってすごく見てくれています。私のダメな部分も含めて好きでいてくれるので、アイドルって全部が魅力になる仕事だなって思います。

和田 私も音楽に出会えたことはすごく嬉しいですね。ライブハウスという場所が心地良いと感じられたのも、アイドル時代にいろんなステージに立たせてもらえたから。あとは、仲間ですよね。仲間にめちゃくちゃ恵まれたので、人を気遣ったり許したり、家族という関係性ではない形で信頼できる人と出会えたことは本当に感謝しています。喜怒哀楽120%だったあの時のことを、今でも思い出します。

──お二人は、今現在、どんな"アイドル"像を思い描いていますか?

和田 アイドル=偶像という言葉のとおり、ファンタジーが詰め込まれやすい場所。でも、私自身は現実をしっかり結びつけながら表現していきたいです。たとえば、恋愛する/しないにかかわらず、私生活を制限されるのは人として不自然だなと思います。地に足を着けて表現するひとりとして、できる限り表に出続けたいですし、こういう存在がいることによって下の世代の未来を明るくできたらと思います。

ゆっきゅん アイドルになりたくても、自分が入れる/入りたいグループがなかったんです。最近はNCT WISHとか出てきましたけど、田舎の10代の繊細な男の子のための芸術っていくら探してもなかった。自分自身たくさんの曲を歌って、1フレーズでも自分のために歌ってくれていると感じてほしいです。あとは、アイドルグループに作詞提供をして、革命を起こしたいですね。輝くための選択肢はもっとあると伝えたいです。


Yukkyun
1995年生まれ、岡山県出身。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット、電影と少年CQのメンバー。2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動、DIVA Projectを本格始動。でんぱ組.incやWEST.への作詞提供、コラム執筆や映画批評、TBS Podcast『Y2K新書』出演など、あふれるJ-POP歌姫愛と自由な審美眼で活躍の幅を広げている。’24年9月には2ndアルバム『生まれ変わらないあなたを』を発表した。

​​Ayaka Wada
1994年生まれ、群馬県出身。2019年、ハロー!プロジェクト、アンジュルムを卒業。アイドルグループでの活動経験を通して、フェミニズム、ジェンダーの視点からアイドルについて、アイドルの労働問題について発信する。音楽ではオルタナポップバンド、和田彩花とオムニバス、ダブ・アンビエンスのアブストラクトバンド、LOLOETにて作詞、歌、朗読などを担当する。実践女子大学大学院博士前期課程美術史学修了、美術館や展覧会についての執筆や、メディア出演する。

装苑2025年1月号掲載

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