
あやひろは、決して時代の被害者にはならないし、もちろん加害者にもならず、明るく彼女たちとして生きている。
──枝さんは、今回初めてお二人とご一緒されて、さらにシーズン2からの「あやひろ」参加でしたが、「こういうふうにしよう」と演出面で事前に計画されていたことはありましたか?
枝:「シーズン1以上に可愛く撮れるよう頑張ります!!」ってずっと言っていました。
森、加藤:かっこいい〜〜〜!!
枝:今回のシーズン2では、1〜3話が<ハワイアン編>、4〜6話が<同棲編>で、前半と後半でパッキリ色が分かれているんです。私は、役割として「とにかく前半で祭りをぶち上げてくれ!」と言われていたので、それなら好き勝手やりますよという。
あとは、1が到達していたのは、ある種、他のドラマでも見てきた「くっつく・くっつかない」の部分ですよね。2ではその先を描くというところで、もっと弘子の弱さも、彩香ちゃんの強さも見せたかった。
だからカメラマンや照明技師には、ふざける時はふざけるし、祭りもぶち上げるけれど、光やアングルはとにかくきれいにしてほしい、と話していました。二人がきれいに映る角度をずっと探っていました。
──シーズン2の制作が発表された際、Xを中心にドラマのファンの方たちが歓喜して盛り上がっていたことが印象的で、こんなに待ち望まれていたシーズン2があるのか、と思ったんです。それこそ「祭り」状態でしたよね。先ほどの枝さんのお話にもあった通り、レズビアンカップルが付き合ったその後を描くドラマだというのが、私はものすごく得難いと思っているのですが、その部分、お二人の気持ちとしてはどのようなものだったのでしょう?
森:私自身、付き合った後のレズビアンカップルを描くドラマは今まで見たことがありませんでした。オフィスラブコメのGLの中で、「私たちのゴールって何?」といったことがしっかり描かれていて、本当になかなかないドラマだなと思っています。
これをドラマで描こうとする場合、現行の婚姻制度の話も関わってきて、つい真面目になりすぎてしまいそうなところを「あやひろ」はとことんコメディなんですよね。「祭りだ〜!!」とかやっていましたから(笑)。本当にすごいバランスでできていることをシーズン1の時にも思っていたのですが、シーズン2で、より作っている間から「これは他にはないぞ!」という手応えみたいなものがありました。
すごい泣きじゃくっている時もあれば、暴れている時もあるし、同じドラマの中で生きているとは思えないぐらいの振り幅で、「いま私、何やってるんだろう?」みたいな時もありました(笑)。そのぶん、みんな新しいものが見られるんだろうなって思います。こんなに映像作品が溢れているいま、さらに新しいものが見られるというのはなかなかないことだと思うので、私自身、毎回の放送がとっても楽しみです。
加藤:枝さんは「本読み」の時から隣に座って寄り添って、丁寧にお話ししてくれて。自分がよくわからないなと思っていることも、優しく、詳しく隣で話してくれて、すごく心を支えていただきました。
森:ものすごい包容力で役に寄り添ってくれるんだよね。役を絶対一人にしない感じ。こんなにぴったり寄り添って考えてくれる監督はなかなかいないなって思った。
加藤:はい、本当に感謝です。コメディだけじゃなくてシリアスなことも描かれているドラマなので、大事に演じなきゃなと思いつつ、わからないところも実際ありました。そういうところは監督がたくさんアドバイスをしてくださって……。そのおかげで、私も丁寧に彩香を演じられたかなと思います。
──よく覚えているアドバイスはありますか?
加藤:しょっぱなのところからなのですが、まず恋心を教えていただきました。人間の心をいっぱい教えてくださいました。
枝:そんな、人じゃないみたいに(笑)。
森:(枝監督は)人生、何周かしてるからね。
加藤:本当に。人の心をこんなに丁寧に教えてくださる方とは初めて出会いました。「彩香ちゃんはこんな気持ちになるのか、そっか?」みたいにふわふわしていた部分は全部説明してくださって、「はっ、なるほど!」となることが多かったです。ドラマを通じて、人間として成長できた気がします。
エンタメは力を持っているから、何かを変えられるはず。

──いま伺っている限りでは、いつもの枝さんの丁寧な演出スタイルだなと感じましたが、逆に「あやひろ2」だからこそいつもと演出の仕方を変えられた部分はあるのでしょうか?
枝:ベースは一緒ですね。ある役に対して自分が理解できるポイントを作らずに、こういう人かな?ってぼんやり演出をすると、見ている人にはすぐバレてしまいます。自分と弘子を重ねて見ている人なら、そんな状態の演出を見たら「弘子のことがわかってない!」ってなると思いますし。
弘子だったら、本当に好きになった人に対して自分の弱さを見せられない部分はわかるなぁとか、彩香ちゃんが自己完結しちゃう感じもわかるなとか、好きだからこそお互い気持ち悪くなっちゃう感じ、あるなぁとか。端から見たらそれが変だっていうのもわかるし、その部分こそ愛しく描きたかったんです。
レズビアンカップルの物語は、現代日本を舞台にした際に切り口によってはある種の悲劇性を持ち込みやすく、切なく描くこともできるかもしれませんが、あやひろはそうじゃない。決して時代の被害者にはならないし、もちろん加害者にもならずに、明るく彼女たちとして生きている。それが、エンパワーメントになるはずだと思っていました。
私は今のところ異性愛者なので、二人の恋愛の物語にどう誠実に向き合うかという部分を、上浦プロデューサーとたくさん話し合っていました。監督だからといって無理に背負わず、わからないことが出てきたらみんなに相談するようにしていましたし、二人にも相談したと思う。
だから、「あやひろ2」では、自分だけで抱え込まないことを大テーマにしていましたね。でも、二人が想像以上にコメディエンヌだったから助けられました!本当に、あえて言うけれど「俳優だな」って痛感しました。
普通に考えたら頭のおかしいことをたくさんやってもらっているのに、そこに対して照れも恥じらいも一切見せないばかりか、どうやったらもっと面白くできるか、裏で二人でこっそり打ち合わせしてましたからね。
森:見られてた!
枝:見てた、見てた。「『祭りだ!』の言い方もっとよくできるかな……」とか言って。作品のために、いかに面白くできるかを模索してくださっていたその姿勢そのものが、私の中の俳優のイメージなんです。きれいに撮ってほしいとかではなく、作品のためにとことんやりきれる人が、俳優。その部分に本当に救われていました。
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──枝さんはGLドラマ「コールミー・バイ・ノーネーム」(以下、「コルミノ」)も手がけられましたけど、当事者ではないという点で心を配るのは、やはり「わからないことをそのままにしない」姿勢だったのでしょうか?
枝:そうですね。「わかった気にならないこと」でしょうか。わかることには誠実に向き合いますが、わかり切れないなというところは、まず、それを自覚すること。自分のことを安易にわかったつもりになられた瞬間、人ってナメられたような気持ちになりますよね。何がわかるのって。
だからこそ、作ることも大事なのですが、作った後に自分が「これを作りました」と前に出て言わないといけないなとも思っています。私の肌感ですが、GLドラマは、視聴者の方がクレジットでスタッフ名までしっかりチェックしていて、誰が作ったのか、過去作も含めて調べてくださることが多いんです。責任を負って、腹をくくってやるというのはいつも以上にあるかもしれないですね。
──森さんは、演じられる上でわからなさに対峙することはありましたか?
森:不思議なもので、演じている最中は本当に弘子そのものという感じで、心の底からわからないことはなかったんです。その中でどうしてもやっぱり浅いかもしれない、自分はこうだと思っているけど考えが足りないかもしれないと感じた時に、神の声のように話をしてくれる、上浦プロデューサーと枝監督がいてくださって。いま悩んでるよね、こういうことだよってちゃんと二人が提示してくれたから、それを役に乗せることができました。
それからシーズン1の時もそうだったのですが、周りの声を役に乗せて、足して演じるような感覚もありました。以前、当事者の方からお手紙をもらったんです。女の子が好きだけど周りには話していなくて……と。そういう方からいただいた声の要素も足して演じていました。
──彩香ちゃんは弘子先輩への気持ちをまっすぐぶつける役柄ですが、今の森さんのお話のような「他者の声を役に乗せる」といった感覚はありましたか?
加藤:弘子先輩が魅力的すぎて、私はなんの違和感もなく己の心で挑めました!うーん?っていう時は皆さんがたくさんのヒントをくださったので、ナチュラルに本気で挑むことができました。
森:加藤さんは面白くて、「うーんどうなんだろう?」って思っている時、その気持ちが小さい声で漏れ出ているんです。「ここの彩香は母性だね」と演出の要素を足しにきてもらったとしたら、撮影が始まる前に「母性……親の……気持ち……」ってずっと言葉に出して、インストールしてた。
枝:確かに、ローディングしている時が多かった!
加藤:わ、その通りです!考えている時、いったん視界の一点に集中して、頭で考えて納得するみたいな作業をすることが多かったです。
──そうすると腹落ちできるんですね。
加藤:はい、なるほどなるほどってわかってくる。今回、ベッドで寝てるシーンが多くて距離が近かったから、全部聞こえちゃってたんだ。

──では最後に、このシーズン2で、どんな広がりがあることを願ったり、期待されたりしていますか?
森:「あやひろ」って総じて強い作品だなと思うんです。私たち制作側の思いも、ファンの方の思いも強い。見てくださっている方にはレズビアンの方も多いので、その視線もいい意味で感じています。
この作品に携わっている上浦プロデューサーや枝監督、スタッフの皆さんや私たちも、エンタメで何かを変えていきたいという思いが根底にあります。
まず、世の中にこれほど映像作品があるのに、どうしてGLがこんなに少ないんだっていう思いとか。エンタメは力を持っているから、何かを変えられるはず。あやひろがその立役者になるんだという思いは、携わった皆の中にあるものです。
このシーズン2では、レズビアンカップルが付き合った後はどうなる?セックスは?日本でレズビアンカップルのゴールはどこにある?家族へのカミングアウトはどうする?ということが描かれています。そして、自分たちのゴールでいいんだよねということを、迷子になっている人たちに向けても提示できる強い作品になっているだろうと思います。現実に与える気づきや、力があることを期待しています。
加藤:私は、神作品だと思っています。こんなに面白いGLはないです。
前作で自分のことを知ってくださった方もいて、「あやひろ」のファンの方がたくさんいるからこそ、シーズン2ができたことを噛み締めています。2もとんでもない面白さですし、寄り添える部分がたくさんあると思います。
海外から見てくださっている方もいらっしゃるので、もっともっと広がって、たくさん愛される作品になればいいなって強く願っています。
枝:情報解禁の時、こんなに女が女に沸いている状態ってあまり見なかったなと思いました。これは、シーズン1が成功したからこそのお祭り感で、「コルミノ」の時は、みんなひっそり楽しみにしているような感じだったんですよね。女たちが女たちを応援する様子、これが放送されたらもっと面白く広がっていくんだろうなとワクワクしています。
「コルミノ」の時、日本国内だけでなく中国の方もよく見てくださっていて、その流れでこの作品も見ます!と言ってくれている方がいるので、海外からももっと見ていただけたら嬉しいです。
また、異性愛者の方にも見ていただきたいです。異性愛者は、結婚という制度があるからこそ信頼関係を築くことをちょっと怠けちゃう部分があると思っていて。本当に大事なのは、ゴールとして「結婚」があるのではなく、互いに信頼関係を築いた果てに「結婚」という制度があるということですから。いろんな人に見ていただき、考えたり話したりしていただけたら嬉しいです。
Shiho Kato
日向坂46のメンバーとして活動し、’24年に同グループを卒業。演技の仕事でも活躍し、ドラマ「DASADA」(日本テレビ系)、「これから配信はじめます」(テレビ東京)などに出演。
Kanna Mori
「仮面ライダーディケイド」で大きな人気を集め、近年は、映画『湯道』、ドラマ「風間公親ー教場0-」(フジテレビ系)、「時をかけるな、恋人たち」(カンテレ・フジテレビ系)、「マイ・セカンド・アオハル」(TBS)、「まどか26歳、研修医やってます!」(TBS)、「波うららかに、めおと日和」(フジテレビ系)など話題作に数多く出演する実力派
Yuuka Eda
2017年に初長編映画『少女邂逅』を監督し、高い評価を得る。主な監督作にドラマ「神木隆之介の撮休」「墜落JKと廃人教師 Lesson2」「コールミー・バイ・ノーネーム」など。『装苑』本誌で、コラム「主人公になれないわたしたちへ」を連載中。
「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる2nd Stage」
放送中。MBS(毎日放送)毎週木曜 深夜1:29〜
原作:Sal Jiang「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる」
出演:加藤史帆、森カンナ
本田響矢、優希美青、山下永玖(ONE N’ ONLY)、染谷有香、平美乃理
小島梨里杏、那須ほほみ、倉田瑛茉/ 松村沙友理(友情出演)/
瀬戸かずや 七海ひろき 監督:枝優花(1〜3話)、石橋夕帆(4〜6話)
脚本:下亜友美
企画・プロデュース:上浦侑奈(MBS)、大杉真美、鈴木藍(ホリプロ)