「Alaïa / Grès. Au-delà de la mode」より。
パリのアズディン・アライア財団で、ふたりの偉大なクチュリエにフォーカスした展覧会が始まった。ひとりはマダム・グレ、もうひとりはアズディン・アライアである。
タイトルは「Alaïa / Grès. Au-delà de la mode(アライア/グレ。モードの彼方に)」。
アズディン・アライア財団のギャラリー。かつて、ここではアライアのファッションショーが行われていた。
もの静かでアトリエに閉じこもる日々を過ごしていたマダム・グレ(1903-1993)は、彫刻家になることを望んでいた。アズディン・アライア(1935-2017)もチュニスの美術学校で彫刻を学んだ。同じ夢を持ったふたりが行き着いたのは、モードの世界。のちにグレはドレープで、アライアはカッティングで、ファッション史に名を残す。
写真上:左はグレの1952年春夏オートクチュール。右はアライアの2014年秋冬プレタポルテ。下:左はグレのオートクチュール(1960年代)。右はアライアの2014年秋冬オートクチュール。
彼らが残した言葉が印象深い。
「彫刻家になりたかった。私にとっては、布と石を扱うのは同じことなのです」とグレ。
「美術学校に通っていたとき、彫刻をしたかった。体のカーブに興味を持つようになったのは、それからです」とアライア。
左はグレの1975年春夏オーチクチュール。右はアライアの1991年春夏オートクチュール。
ふたりの共通点は作品にも見て取れる。たとえば、計算され尽くしたプロポーションと厳格なカット、素材を最大限に活かした技巧である。入念に作り込まれたドレスは、美しい体のラインを浮き上がらせ、一見シンプルだが極めて複雑なテクニックが隠されているのだ。
グレのオートクチュール(1970年代)。
展示ギャラリーは、アライアが生前に築いたメゾンの一角にある。ブティック、仕事場、居住空間までもを集めたここは、彼の生活拠点であり、クリエイションの中核を担う場所だった。
写真上:赤のドレス群。下:左はグレのオートクチュール(1950年代)。右はアライアの2011年春夏プレタポルテ。
写真上:ブルーのドレス群。下:グレのオートクチュール(1979年頃)。
展示が続く上階では、この地ならではの貴重な空間を目にすることができる。彼の死後、5年以上閉ざされ、針一本、動かすことはなかったというステュディオ(デザインスタジオ)が、今年2月に初公開されたのだ。
丸いガラス窓の向こうに見えるステュディオ。この秘密めいた部屋を覗くと、明け方まで仕事に没頭していたというアライアの姿を想像せずにはいられない。
モードの領域を超え、ドレスと彫刻に類似性を見出したグレとアライアは、自身の創作を芸術的なビジョンで追求した。両者の作品が対話するように並ぶ今展は、創造物のプロセスや形式が違っても、表現者の本質は同じであることを雄弁に語っているのだ。
二階の展示。写真上:左はアライアの2004年秋冬プレタポルテ。右はグレのオートクチュール(1973年頃)。下:赤と黒のドレス群。中央のフード付きコートドレスは『フィガロの結婚』のために製作された舞台衣装。
●Alaïa / Grès. Au-delà de la mode
アライア / グレ。モードの彼方に
2024年2月11日まで。
Fondation Azzedine Alaïa(アズディン・アライア財団)
18, rue de la Verrerie, 75004 Paris
11時〜19時 / 定休日なし
一般入館料10ユーロ
Photographs:濱 千恵子 Chieko Hama
Text:B.P.B. Paris