1月9日(木)よりスタートするドラマ「コールミー・バイ・ノーネーム」の監督、枝優花さんと主演の工藤美桜さん、尾碕真花さんをお迎えして、枝監督が二人のかけがえのない一瞬を切り取るシューティングと、3人の鼎談をお届け。「自分自身に徹底的に対峙した」という3人が、このドラマで過ごした時間について胸のうちを語り合う。
photographs : Yuuka Eda / styling : Miku Ishikawa (Mio Kudo), Kanna Muramatsu (Ichika Osaki) / hair & make up : Yumika Sawanishi (Mio Kudo),Otama (Ichika Osaki) / interview & text : SO-EN
出会うべくして出会った作品
——以前、枝さんと『装苑』の連載コラムのことでやりとりをしていた際に「今準備しているドラマはすごく覚悟がいる作品だ」とおっしゃっていたことが忘れられなくて。そのことも後でぜひ詳しくうかがいたいのですが、先日クランクアップを迎えたばかりということで、まず工藤さんと尾碕さんにとって、この作品が今どんな存在なのかということから聞かせていただけたら嬉しいです。
工藤美桜(以下、工藤):この作品に出会えて良かったって心から思っています。私は今まで、自分の内面にガッツリ向き合うようなことがなかったのですが、この作品では自分のダメなところに改めてちゃんと対峙して。今の自分が出会うべくして出会ったような気がしました。
それから、初めて挑戦するような役柄だったことも大きかったです。監督が一つ一つ全力で向き合ってくださったので、私も覚悟を持って挑むことができました。毎日学びが多すぎて、その時は一瞬苦しいなと感じてもやっぱり幸せで。こんなにお芝居に向き合えることがなかったから……。すごく大切な宝物みたいな作品になったと実感しています。
尾碕真花(以下、尾碕):私も、圧倒的に自分の弱点がわかった作品になったなと思っています…。
枝優花(以下、枝):あはは。
——それは演技面で?
尾碕:お芝居もそうですし、人間的にもです。私は基本的に「器用貧乏」だと言われることが多いんです。器用がゆえにもったいないよねとよく言われてきたのですが、今回は、みごとにそれにぶち当たりましたし、自分が今まで意識してこなかったことまで見えて、向き合わなきゃいけないんだなと思いましたね。
私は、自分の弱さを人に見せるのが嫌いです(笑)。それが、演じた役の琴葉の中にもあったんです。琴葉が弱さを見せるお芝居の時に、「こんなに私ってできなかったっけ!?」って思うくらい抵抗を感じてしまって……。それは琴葉としてもそうですけど、私自身としてもできなかったのでびっくりしました。こんなにお芝居って自分が出てしまうものなんだな、と改めて実感したというか。苦手なことは本当に苦手で、自分ができないことはお芝居でも嘘をつけないんだなと感じましたね。
枝:だから苦しかったんですよね、この二人と向き合うのが。鏡のように自分の至らなさが出てきて、逃げさせてもらえなくて。撮影前は、役の魅力とそれぞれの個性をどうリンクできるかなと思っていたのですが、読み合わせをしてみたら意外と二人が持っているものが役のままだということがわかって。本人たちにとっては人に見せたくない弱さかもしれないけど、実はそれが魅力的で。工藤ちゃんの場合は戦うべきフィールドが明快で、自信がないとか、水が苦手なのに海で告白するシーンがあるとか……でも、本人を前にして言うのもはばかられますですけど、この子(尾碕さん)は〜〜〜(苦笑)。
尾碕:わ〜〜〜。
枝:最後まで弱いところを見せないで、自分が把握できる自分で戦おうとしてた。それを撮影期間中のどこでぶっ壊せるかなってずーっと見ていたんです。そしたら、さっきも言っていた「弱い部分が出せない」っていうところにハマった時があって、ここがチャンスだ!と。むしろ、ここでぶっ壊せなかったら尾碕真花がこの作品に関わっている意味がないと思った。一緒にやったからには「人生のマスターピースでした」と言ってほしいという作り手としてのエゴがあるんですよね。戦うべきものが明快な工藤ちゃんは、それに向き合う中で日に日に目に見えて強くなっていったんです。だからこそ、尾碕が課題だぞ〜!と思っていて。そろそろ本人もわかってきてるかなという矢先、あれは最終日の前々日だったかな。
尾碕:そうですね、12月2日だったから。誕生日だったんですよ!
枝:最終回、琴葉として腹をくくらなきゃいけない場面で、一度、尾碕が感情を逃して戻ってこられなくなってしまって。ここがチャンスだし、ここを逃したらこのまま尾碕真花も逃してしまう!と思って、寒空の下、申し訳ないけどスタッフの皆さんに15分くらい待ってもらって話したよね。自分としては、どこに尾碕の弱い小さな子供がいるのか探していて。すごく隠れちゃってたし隠れるのがうまかったから。…ってこんなことベラベラ言ってごめんね……。
尾碕:全然です!
枝:尾碕本人は見せたくない、だけどこっちからしたら超魅力的なままならない部分っていうのを最後まで人に見せられない弱さが尾碕にある。でもそれはきっと今まで生き抜くために必要だった尾碕を守ってくれていた鎧だとも思ってもいて。だけど、もうそれはいらないと思いました。だからこそ今、それを脱ぎ捨てて私を信じて新しい世界に飛び込んできて欲しかった。寒空の下、隠れてしまった子供の尾碕を必死に探しました。ただ撮影時間にも限りがあったので結局見つかりきれなくて。それでカメラを回すギリギリ、一か八か予感と可能性にかけて、尾碕にある言葉を声をかけました。もうこれしかないと思って。まあ…そしたらバチッとスイッチが入って…賭けに勝ちました(笑)。一番いい顔が撮れました。これで最終回を終われるって思ったよ。
尾碕:カットがかかった後、あんなに泣いたのは初めてでした。
枝:工藤ちゃんのほうは泣き虫で、自分と他者の境界線が曖昧だからすぐに感情が入ってくる。主人公として最初はそれがいいのだけど、物語が進むにつれて彼女のほうが凛としてないといけなくなるから、そのままじゃダメだよって言ってたら、海のシーンを経たあたりからどんどん強くなっていって、クランクイン前だったら泣く尾碕を見てつられて絶対に泣いていたと思うのに、一個も泣かずしっかり立っていました。
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