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ヨルゴス・ランティモス
&エマ・ストーン最新作
ブゴニアの衣装

2026.02.16

Michelle 

ミシェル

大手製薬会社のCEOであるミシェル・フラーの仕事時の衣装は、仕立てのいい黒のジャケットとスカートのセットアップ、白シャツ、栗色のコート、サンローランのバッグに、クリスチャン ルブタンのハイヒール。「彼女には自分の個性やスタイルなどはなく、アシスタントにCEOらしい服装のためのリスト作りをさせていると想定していました」と、衣装担当のジェニファー。マックイーンのブレザージャケット以外はすべて制作されたもので、特に、劇中で多くの時間ミシェルが着ることになる栗色のトレンチ風のコート(上)は、同じデザインを10着ほど用意したという。衿や肩回りの構築的な造形が上半身のカットでもキャラクターを印象づけるデザイン。

Teddy & Don

テディ&ドン

宇宙人の地球侵略というパラノイア性質を持つテディ(左)と、そんなテディが自分の世界のすべてであるいとこのドン(右)。その二人の衣装で印象的なのは、二人が宇宙人と信じ込むミシェルが放射線物質を出すことを恐れて着用する、電磁波対策のシルバーのスーツだ。高価な電磁波防御(EMF)スーツを自分たちで制作したというイメージのもと、衣装チームは配管用テープとアルミホイルで、あえて手作り感満載のオールインワンを制作した。また、彼らの「正装」は父親のお下がり設定のスーツで、色合いや作り、素材の時代錯誤感、絶妙に体型に合っていないフィット感や、生地の汚れ、くたびれなどの細かな仕事がきき、観客が二人の姿に奇妙さと哀愁を抱く装置となる。

リアルかつ独自の世界を創出した
衣装を含むチームの仕事

 冷酷さ、ユーモア、皮肉、そして目を惹きつけてやまないビジュアルと世界観。これまでも観客を驚かせてきたヨルゴス・ランティモスと、クリエイティブパートナーであるエマ・ストーンは、最新作『ブゴニア』でも我々を魅了する。

 ファンタジーを大きく取り混ぜた『哀れなるものたち』などとは異なり、舞台は現代のアメリカ。ブルーカラーの男性テディ(ジェシー・プレモンス)は着古したカジュアルウエアや父親のお下がりだという時代遅れのスーツをまとい、住むのは人里離れた古い一軒家。一方で、彼に「他の星から来た危険な宇宙人」と決めつけられる大企業のCEOミシェル(エマ・ストーン)は、洗練されたモダンな豪邸を所有し、クリスチャン ルブタンのハイヒールとマックイーンの上質なブレザーでオフィスに通う。その対比が明確なだけではなく、どちらもリアリティがありつつ、独特なものも感じさせる。このルックを作る上では、衣装デザイナーをはじめ、ヘアスタイリスト、メイクアップアーティスト、撮影監督や美術監督など、多くの人々が貢献した。

 衣装は、前作『憐れみの3章』に続きランティモス作品に携わったジェニファー・ジョンソンが担当。彼女は「クライマックスをまず決めて、後戻りしつつデザインしていった」と語る。クライマックスではそれまでと状況が大きく変わり、衣装も急変するのだ。

Jennifer Johnson

雑誌のスタイリストとしてキャリアをスタート。映画『人生はビギナーズ』『20センチュリー・ウーマン』『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』などの衣装を手がける。ヨルゴス・ランティモスとは、本作が『憐れみの3章』に続く2作目のタッグとなる。

「ヨルゴス、そして美術監督のジェームズ・プライスと話し合い、まずはミシェルの『色』を決めていきました。クライマックスでエマと助演の役者たちが着る衣装は、すべて手編みです。素材は馬の毛で、クリノリン(19世紀中頃に流行したスカートを大きく膨らませるスタイル)がコンセプト。私たちはイギリスにある、あらゆる婦人帽子用の素材を買い占め、スイスの工場に持っていき、手編みをし、染めてもらいました。そういった手工芸的なアプローチが、あのシーンには非常に重要だったのです」

 また、衣装とともに人物像を形づくるヘアも今回は重要で、ミシェルの髪型は、最初のシーンの美しいロングの赤毛から、すぐさまスキンヘッドに変わる。

「冒頭に髪を剃られてしまったら誰しも不機嫌になるのではないかと不安でしたが、エマは髪を剃った直後に『すごく自由! なんて楽なの!』と言ったんですよ」と、ジェニファー。この件について、エマは「脚本にあったからわかっていたこと」と何でもないことのように微笑む。だが、冗談まじりでヨルゴスに「取引きとして私にあなたの頭を剃らせて」と言ったのだとも告白した。一方、テディはラフな長髪のポニーテールで、それは、彼のいとこのドンを演じるエイダン・デルビスがインスピレーションだ。

「ジェシーは撮影前、きっちりとしたショートヘアでしたが、エイダンが長い癖毛なので、いとことして同じようにしたらどうかと思って。それでエクステンションを使ってみたら、ヨルゴスが気に入り『もっと長くして』とのことで、あの形ができたんです。スタイルの維持には苦労しました」と、ヘアスタイリストのトルステン・ウィッテは述懐する。

 それらを効果的にとらえたのは、撮影監督のロビー・ライアン。この映画では、ハリウッド黄金時代に使われたビスタビジョンのカメラが使用されている。

「『哀れなるものたち』でほんの少しビスタビジョンを使ってみたらすばらしかったんです。問題は、せりふが聞こえなくなるほど機材音がうるさいことですが、サウンドデザインのジョニー・バーンのアイデアでカメラに毛布を被せたら、うまくいったんですよ」(ロビー)

 そんな才能とセンスの結晶を、ぜひビッグスクリーンで体感してほしい。

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