ターク(TAAKK)2026-’27年秋冬のショーで、その世界観を静かに支えていたのは、資生堂ヘアメイクアップアーティスト、新城輝昌の緻密な仕事だった。今シーズン、デザイナーの森川拓野が掲げたテーマは「湧き上がる衝動」。その内なるエネルギーに、新城は“引き出す”ヘアメイクで応答した。

ショーのリハーサルで、ヘアメイクを確認する新城さん。
服とモデルを完全に一体化させる
ショー当日、リハーサル会場に足を踏み入れると、研ぎ澄まされた空気のなか、ランウェイをまっすぐに見つめる新城の姿があった。タークのヘアメイクを担当するのは今回で4回目。デザイナーの森川との対話は、昨年10月からすでに始まっていたという。
「実は、今までで一番苦労しました」と新城は振り返る。森川の着想源となったのは、縄文時代の造形に刻まれたエネルギー、そして日本人の根底に流れる “作らずにはいられない”という衝動だった。

ショーのラストに登場したデザイナーの森川さん。
「森川さんは、タークの根源を徹底して追求していました。ものを作る欲求が人間にはあるんじゃないか、という話もされていて。そこからヘアメイクは、プリミティブな要素を大切にしようと思ったんです。原始的というと、素野な印象に寄りがちですが、洗練されたイメージを掛け合わせることで、タークらしさを引き出そうと考えました。奇をてらうのではなく、洋服とモデルが完全に一体化するかたちで」
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緊張が走るショー本番前。
“変える”ではなく“引き出す”
派手な創作は行わず、見た目はあくまで自然。モデル自身が持つ本来の髪型や癖を生かし、質感には徹底してこだわった。
「モデルたちが本来持っているものを“変える”のではなく“引き出す”というヘアメイクのプランを組み立てました。例えばショートヘアの彼は、髪に自然な揺らぎがあります。そのニュアンスを消さずに、いかに表面をクリーンに仕上げるか、ということです。スタイリング剤はかなりライトなものだけに絞り、髪質を人工的に見せないように整えています。素材を“ナチュラル”の中で、最高のレベルにもっていく。それを狙っています」

ヘアメイクのキャビンより。
「メイクも同じで、肌の色ムラやノイズを一切感じさせないようなパーフェクトスキンを目指しました。モデルたちはハードワークの時期なので、肌のトラブルがあったり、寒さで鼻の周りが赤くなったりしています。そのような気になるポイントをすべてなくし、まずは本人のベストな肌を作ることが大前提でした」

ショーの4時間前に会場入りしたヘアメイクチーム。部屋の中は穏やかな雰囲気で、皆が着々と仕事をこなす。
「肌の質感はテカリ過ぎず、マット過ぎず。モイスチャライザーでしっかり保湿して、内側からうるおいを満たし整えたうえで、ファンデーションを密着させています。時間が経ってもスキンケア直後のような、ネガティブな印象を与えない肌です。首との色の差にも細心の注意を払いながら仕上げることで、厚塗り感が一切なくなります」


新城さんのメイクに欠かせない「SHISEIDO MEN」のスキンケア製品。
格調を引き上げるヘアメイク
リハーサルでは、ヘアメイク全体の統一感をチェック。健康的なパーフェクトスキンに仕上げるために、緻密な調整が加えられた。ミニマルなメイクだからこそ、印象を左右する周到な仕込みが不可欠なのだ。
「実は、チークで少し血色を足したり、骨格をきれいに見せるためにシェーディングを入れたりしています。リップスティックではなく、チークを唇に乗せることで、顔全体の色味に統一感を与え、生っぽいツヤをシルキーな質感に変えています」



メイクを仕上げる新城さん。チークとシャドーはパーフェクトスキンの要。
「ストロングな印象のモデル、可愛らしく見えるモデルなど、彼らも色々な個性を持っているので、統一感を出すために、瞳がきれいに見えるくらいの感覚で、アイカラーを入れています」


透明感ある美しい肌は、メイクによって作られている。
「僕が仕事でいつも思っているのが、ヘアメイクの力で服の格を上げたい、ということです。今回はスタイリストが『Expensive(高価な、上質な)』というキーワードを挙げていて、人物像の品や格を一段引き上げたいと話していました。それが自分の中で合致したんですよね」


リハーサルより。
ショーにおけるヘアメイクは脇役
さらに新城は、ヘアメイクの役割についてこう語る。
「一般のお客様に向けた仕事では、“使いやすさ”や“その人の日常に役立つこと”などを意識しています。ショーや撮影では、ヘアメイクは主役ではなく脇役です。重要なのは、メインの洋服をどれだけ魅力的に見せられるか。そのための手段として、時にはアーティスティックなことや奇抜なことをしますし、あえて汚すようなヘアメイクもします。大切なのはその現場で、“クライアントが何を伝えたいのか”ということです」

いよいよショー本番。
「森川さんは具体像を言わないので、その意図を引き出すために、あえて的外れな提案をすることもあります。そうすると『やっぱり違う、こっちだよね』ってなる。そんなふうに互いが目指す着地点を確かめています。今回は早い段階でお話をいただいたぶん、それがずっと頭のどこかにあって、熟成させていく感じがありました。ただ、なかなか答えに辿り着けなくて」


コレクションに盛り込まれた縄文土器のような刺繍がすばらしい。
高揚感とともに、導き出された答え
ヘアメイクの最終テストはショーの二日前。10月から続いた対話と試行錯誤の末、パリ到着後に結実したのが今回の表現である。
「もっと大胆なアプローチも含めて、いくつかのアイデアは用意していました。でもそれ以前に、4℃さんとコラボした指輪を見せていただいたとき、自分の中で一気に方向性が定まった感じがありました。プリミティブなものと洗練されたものが完全に融合していて、すごいなって思ったんですよね」


タークは「4℃ HOMME+」と初コラボジュエリーをショーで披露。
Photos : Courtesy of @taakk_official
ショーにおいてヘアメイクは、デザイナーの意図を観客へと橋渡しする最前線でもある。現場で12人のヘアメークチームを率いた新城は、ひたすら任務に徹した。ランウェイ直前のバックステージに、過剰な高揚はない。あるのは、見えない仕事の積み重ねがもたらした確かな結果だ。それこそが、ショーという一瞬の輝きを支えているのである。


フィナーレより。最後にモデルが静止するのがターク流の演出。観客はじっくり見て回ることができる。
新城 輝昌(しんじょう・てるあき)
資生堂ヘアメイクアップアーティスト。国内外のファッションショーや広告、メディアで活躍し、パリメンズコレクションではリードアーティストを務める。ファッションと調和するモード感ある表現を得意とし、クライアントのイメージを的確に捉えながら、自身の解釈を加えて新たな魅力を引き出すことを信条としている。2018年より「SHISEIDO MEN」を担当。宣伝広告のヘアメイクに加え、商品開発や市場トレンド分析にも携わり、メンズ美容分野を牽引。「伝える力」にも定評があり、メンズ美容の基礎から応用まで分かりやすく解説するセミナーも好評。
WEB:https://hma.shiseido.com/jp/member/shinjyo/
Instagram:@teruaki_shinjo_official
Photos : Courtesy of SHISEIDO / @yasphotographe_33_
Text:Mariko Mito(B.P.B. Paris)

