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マルタン・マルジェラが
ファッションに残したもの

2023.08.17

“マルタンがファッションに持ち込んだものの、最も端っこに自分がいるような気持ちで制作している”――小林裕翔(yushokobayashi)

マルジェラの作るビジュアルクリエイションに惹かれるそう。ブランドに関する書籍もたくさん集めている。

 最初、マルタン・マルジェラに少し苦手な印象を持っていたという小林裕翔さん。彼と同じファッションデザイナーになった今、彼が残したものの、最も端っこにいるような気持ちでものづくりをしていると話してくれた。

「日本にいる頃はマルタンに小難しいイメージがあってちょっと苦手で。でも、セント・マーチンズに入ってファッションを学ぶうち、逆にめちゃくちゃ抜けているというか、周りの人たちの解釈で小難しく感じさせていただけで、本人はただ、実験的にものづくりを楽しんでいた人だったのかなって思えて、好きになっていきました。アイテムにはどこかに温かみや、物を作る人の指の動きが感じられて、それをメジャーブランドとして表現しているところもすごいと思います。映画の中でも『何ができないのか』というところから始まって、その中でポジティブに物を作っていた姿が印象的で。マイナスをプラスに変えるポジティブさと、同時に表現している時に残っている暗いオーラのバランス感覚が面白いなって思ったんです」

 お気に入りのマルジェラアイテム 

(左)キラキラが好きと話す小林さん。コレクションで見て一目ぼれしたバッグと、同じくキラキラの財布。(右)ロンドンで購入したメンズライン⑩のニット。編み地が詰まっているところと緩いところが柄のようにデザインされている。

「パリでの展覧会も実際に見たのですが、本で憧れて見ていた綺麗で洗練されている部分が、間近でアイテムを見るとめっちゃ雑やん!って(笑)。そこにキュンときて、僕もこれでいいんだっていう自信につながりました。彼の完璧ではない、完全にゴールを定めないものづくりは僕の中にもあって、自分でゴールを決めないぶん、余白を残せたり、作りすぎる必要はないなって思えるんです」

ブレスのファーストコレクション(左)で作られたウイッグは、マルジェラのコレクション(右)でも使用されている。そういったつながりもあり、小林さんは学生時代にブレスの門をたたきインターンを経験。

「彼がファッションに残したものって、日常をドリーミーにしたことだと思います。日常をこんなふうに見ていいんだって、それも全部じゃなくてちょっとだけ視点を変えることで感じさせてくれる。僕自身も日常はクリエイションにおいて一番大事な部分で、そういう面で影響を受けていると思います。まだ始めたばかりのブランドですが、彼が残したファッションの歴史の一番端っこで、ものづくりを続けていきたいと思います」

2021年春夏コレクションでは、小林さんが大切にしている日常の動作をショーの演出に取り入れた。コーヒーを丁寧に入れ、絵を描き、物を運ぶ。その日常の風景の中に、yushokobayashiのファッションはある。

 マルジェライズムを感じる 
 マイクリエイション 

(左)手を動かせば動かしたぶんだけ形になる手編みのニットは絵を描く作業に似ているそう。(中央)リメイクアイテムを初めてコレクションで発表。日常を象徴するリーバイス501とニットモチーフをミックス。日常からファッションの世界へ入る導入的な意味合いを持たせている。(右)実際に使われていた絵筆をペンダントに。ロマンティックな一面を垣間見せる。

Yusho Kobayashi 立命館大学を卒業後、セントラル・セント・マーチンズに留学。在学中よりユウショウ コバヤシを開始し、2018年に同校卒業。東京をベースにブランドを展開する。『装苑』巻末JAMにて、小林さんとアートとの関係性をつづったコラム「記憶の中の美術館」を連載中。

“僕らが持っている常識的な洋服の形を違う方向で切り刻んでいく、そういう方法論を彼が始めたんだなって”――工藤 司(kudos)

アントワープ受験のために制作したブック。幼少期に初めて作ったシーツの洋服を、大人になって再現している。架空の友達のためのデザインをテーマに、家にあるものや拾ってきたごみなどで、デザイン画や洋服を表現した。

 繊細な思想と型破りなクリエイションで人気のkudosとsodukを手がける工藤司さん。自身の中に感じるマルタン・マルジェラ的な方法論とは?

「ファッションを志した頃にはすでに好きで、アントワープ王立芸術アカデミーに入ったのも、マルタンが通っていた学校ということは大きな理由の一つだったと思います。アントワープでは、いくつかのテーマにどういう共通点を持たせ、さらに、そこにどのように自分との関わりを持たせるのか、それを言語化してきちっと説明しなければいけない課題が多くて大変でした。1年しか通わずパリに移ってしまったのですが、マルタンのように、洋服の中にいかに言語を持ち合わせることができるか。その重要性を教えられました」

 お気に入りのマルジェラアイテム 

リサーチとして古着などを集めていて、マルジェラやヘルムート ラングなどの本人がデザインしていた時期のものを見つけたら購入するようにしています。マルジェラチームの白衣のようなデザインと、縫い代を表に出しているところがブランドらしいと思い、買いました。

「今でもたくさんのデザイナーの中に彼の言語がちりばめられていて、それってどういうことなんだろうと考えたんですが、僕らの思っている常識的な洋服の形で遊ぶことで、1を10にも20にもするという方法論を彼が定番にしたということなのかなって。僕もメンズのパターンをずっとやってきて、基本は肩の位置や丈の長さなど少しずつアップデートさせる作業なのですが、それだけじゃつまらないと思って、これだ!っていう案を考えるけど、マルタンがすでにやっていたことも多くて(笑)」

 マルジェライズムを感じる 
 マイクリエイション 

マインドセットされた価値観を一度フラットにし、そこから新たなクリエイションを試みた2020-’21年秋冬。それまでのコレクションで見られたkudos的ともいえるカラフルなテイストは廃され、クールでアバンギャルドなモノトーンのコレクションとなった。

過去のシーズンで作られたアイテムのパターンなどを使用し、アイテムをたたんだその上からラバープリントを塗り重ねることで、ユニークな柄を生み出した。kudos2020-’21年秋冬「mindset」コレクションのアイテム。

「僕自身も0から1を作るタイプのデザイナーではないし、マインドセットというコレクションでは前シーズンに作ったアイテムをフラットにたたんで、上からラバープリントを施すなど、マルタン的な方法論を取り入れたりもしていました。この時、kudosってこうだよねというブランドのスタイルを一度払拭したくなり、全部を塗り替えてフラットにしたいという気持ちもあって、あえて誰も求めていない真っ黒なコレクションを作ったのですが、同時にコロナ禍になり社会も停滞してしまって。結局そのことがブランドを俯瞰で見るきっかけとなって、今また自分がやりたいことが、少しずつわかってきたような気がしています」

Tsukasa Kudo 早稲田大学を卒業後、アントワープ王立芸術アカデミーに進学。翌年中退し渡仏後、ジャックムスやJWアンダーソン、Y/プロジェクトで経験を積み、2017年に帰国。同年クードスを立ち上げ、’18年にスドークをスタート。’20年、TSUKASA KUDO PUBLISHINGを始動し、『TANG TAO by Fish Zhang』を出版。

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