ラフ・シモンズとは?
1968年、ベルギー生まれ。出身地はアントワープから100㎞ほど離れたニールペルト。学校では家具デザイナーになるべく工業デザインや写真を学んだ。ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクのもとで働きファッションデザイナーを志すが、服飾は独学で習得。’95年にブランドを設立し、ミラノで展示会形式の初コレクションを発表。’97-’98AW、初めてパリ・コレクションの公式スケジュールでコレクションを発表。この時のスクールボーイ風のパンクファッションが好評を呼び注目を浴びる。スキニーシルエットのテーラードジャケットやコート、超タイトフィットのTシャツやスーパーワイドパンツ、スリーブレスのトップ、パッチを縫いつけたパーカやスウェットなどが代表的なアイテム。’21SSでラフ・シモンズ名義では初のレディスを発表。
ストリートモードの先駆的手腕を裏付けるモッズコート
Archive Store蔵
2003-’04AW PARIS
New Order ジャケットプリントモッズコート
M-51フィッシュテールパーカ(モッズコート、以下M-51)は、2003-’04AWコレクション「Closer」で発表された伝説的なアイテム。このテーマはイギリスのロックバンド、ジョイ・ディヴィジョンのアルバム名に由来する。同バンドや、その後ニューオーダーのCDジャケットを多く手がけたグラフィックデザイナー、ピーター・サヴィルのアートワークをコレクションの随所に盛り込み、音楽や、その音楽が内包する文化的背景をストレートにファッションへ還元。ラフ・シモンズは、1990年代より継続的にコレクションに音楽の要素を取り込んでおり、ジョイ・ディヴィジョンは’99-’00AWにもテーマとなった。
上のM-51は、ニューオーダーのセカンドアルバム『Power,Corruption & Lies』のジャケットのアートワークを、手描き風のバックプリントにしたもの。造形的な新しさは、素材による制限から生まれている。皮革は生地裁断の大きさが限られているため、本来のM-51のパターンよりも細分化された構成なのだ。ウエストの切り替え、スプリットスリーブ、センターまち入りのフードなどが、その際立った点。また、素材が皮革であることは、プリントにかすれの効果を生み出し、グラフィックの油彩風表現にも一役買っている。
(左)コートの裏地部分。ライナーを取りつけるためか、内側にはスナップがついている。(右)ジッパーはドイツのOPTI製。
Archive Store蔵
フロントのあきはジップを閉め、ジップ部分を覆う比翼をさらにスナップでとめるというM-51の仕様を採用。フロントの二つのポケット、重ね玉縁ポケットとフラップつきのパッチポケットは、ミリタリーの要素を混ぜて取り入れた形である。長く燕尾状に先割れした後ろ裾の、左右裾周りに縫い込まれたドローコードは、本来、M-51の機能性ディテール。ここではデザインとしてつけられている。大胆なプリントと素材の選択をし、特有のディテールに敬意を払いつつモードとしてアレンジする。デザイナーとしての手腕がうかがえる。
(左)『RAF SIMONS 2003-2004 AW Look Book』表紙 資料提供:Archive Store(右)’03-’04AW パリ・メンズコレクション
解説:太田るみ子(文化服装学院ファッション高度専門士科教諭)
2005-’06AW PARIS
パッチつきモッズコート
Archive Store蔵
’05-’06AW「History of My World」の代表的なアイテム。ラフ・シモンズの象徴的なパッチつきデザインで、パッチは四方1周分のステッチで縫い止められている。バックスタイルは切り替えやスリットもないミニマルなデザイン。ただし、フードは縦方向に生地が切り替えられており立体的。ジッパーはOPTI製。
コレクションテーマを表現するデザインと造形力
Archive Store蔵
2002-’03AW PARIS
ミリタリー×ボンデージジャケット
2002-’03AW「Virginia Creeper」コレクションのオーバーサイズジャケット。Virginia Creeperとはアメリカヅタを意味し、ショーは森の中のようなセットで行われた。このジャケットは、ヴィヴィアン・ウエストウッドなどによるショップ、セディショナリーズ(1976〜’79年)のボンデージコートや、パラシュートシャツのようにも見えるが、単にそのアレンジというわけではなくコレクションテーマであるツタのイメージが重ねられているのだろう。パンク(音楽的な要素)、ミリタリー、コレクションテーマというトリプルミーニングで「らしさ」を作り上げていると想像できる。
BACK
ジャケット全体を縦横にわたる共布ハーネスの交差部分にドットボタンを施し、ボディにジョイントする仕様。そのためハーネスは一部分だけが固定されている状態でゆるみがあり、このまま着用すればハーネスは体の動きを制限したり、肉体を締め上げるといった効果を持たない。しかし、着方次第ではハーネスをずらしてボンデッジすることもできる。それはデザイナーの意図ではないかもしれないが、着る人次第でデザインにバリエーションをもたせることが可能ということだ。手袋をはめたままでも開け閉めできるフロントの比翼仕立て、後ろ衿部分の補強布、袖口のガゼットなど、随所にミリタリーウエアのディテールが採用され、機能的な作りになっている。
袖口に三角布のマチをはめ込んだ、ミリタリーウエアのディテール。これは、防寒用手袋をしたままで手を出すための仕様だ。また、袖をめくった時は袖口のボタンで固定できるようにもなっている。
袖のサイドにジョイントしたハーネスのアップ。中央がドットボタンで固定している部分。細いハーネスのあしらい方は、ジャケットにツタがはうように見える。
ミリタリーウエアに見られる直線的な袖つけを採用。この袖つけは、本来、カーブをつけないことで直線縫いのみの効率的な服の生産を実現するためのもの。
’02-’03AW
解説:太田るみ子(文化服装学院ファッション高度専門士科教諭)
2001-’02AW
ボンバージャケット
Archive Store蔵
’01-’02AW「Riot! Riot! Riot!」のボンバージャケット。ボディはミリタリーウエアブランド、フォステックス ガーメンツのもので、そこにオリジナルのパッチを縫いつけている。パッチにプリントされているのは、ソニック・ユースやジョイ・ディヴィジョンのコンサートのためのちらし、’18年にコレクションテーマになった映画『クリスチーネ・F』のポスター、実際に起きたギタリストの失踪事件にまつわる警察の報道コメントなど。このパッチはすべて裁ちっぱなしで、やや内側に3重ステッチで縫い止められている。
BACK
2004SS PARIS
ボンバージャケット
Archive Store蔵
’04SS「May the Circle Be Unbroken」のボンバージャケット。素材は高密度ポリエチレンの不織布、タイベック®。フロントには、東洋の宗教画を思わせる左右対称の配置でモチーフ刺繍を施している。刺繍されているのは、天秤や手、人の横顔やドクロ、月などをサークルの中に収めたもので、スピリチュアルな雰囲気が漂う。背中部分は一枚布で、刺繍柄の全貌が分かる作り。ドロップした袖つけ、長めの袖丈が、着た時に独特のシルエットを生み出す。ポケットのフラップがややラウンドしていてかわいらしい印象。
〜裏起毛スウェットのバリエーション〜
2003SS PARIS
カットアウトパーカ
Archive Store蔵
春夏用の薄手パーカ。両袖と両脇がカットアウトされ、見たことのないデザインを生み出している。カット部分は、折り込んだ内側の端を巻きロックミシンで処理。ショーでは同様のデザインをモデルが素肌に着ており、奇抜な印象を受ける。しかしリアルクローズとしては、中にシャツなどを着てレイヤードし、魅力的なデザインアイテムとして着ることが可能。レイヤードを楽しめるデザインも、ラフ・シモンズにはよく見られる。
2004-’05AW PARIS
コラージュ手法
Archive Store蔵
カジュアルアイテムの代表格であり、ナイーブな少年期を想起させるスウェットシャツ。まるでそのボディをキャンバスに見立ててコラージュするようなDIY的デザインで、ラフ・シモンズはスウェットを特別なコレクションアイテムにする。上は、大小のパッチを縫い止め、ラグランスリーブのスウェット全体を装飾した’04-’05AWコレクションのもの。1枚の写真を長方形状に分割したバックスタイルのパッチが際立つ。
OR NOT蔵
’14-’15AW、ロサンゼルスの現代美術作家スターリング・ルビーとコラボレーションしたコレクションのもの。スウェットのボディは長め丈のAライン。脱色加工したブラックデニム、惑星モチーフやロゴのアイロンプリント、布片などがついている。
2003-’04AW PARIS
ビッグシルエットパーカ
Archive Store蔵
「Closer」コレクションのパーカ。象徴的なニューオーダーのCDジャケットプリントを、ビッグシルエットパーカのフロントにあしらった。これは直接プリントしているわけではなく、ラフ・シモンズ得意のパッチ。袖つけは曲線でかなりの幅広になっていてケープ袖のよう。フードも誇張された大きさ。
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アーカイブアイテム専門サイト「OR NOT(オアノット)」
日本から世界に発信されるデザイナーズ・アーカイブアイテムのサイト。信頼できる取扱店と提携してアーカイブアイテムを販売している。ECのみでなく、アーカイブにまつわるデザイナーやスタイリストなどのインタビュー記事、ファッションページも。
WEB:https://or-not.com/ja
ラフ・シモンズをはじめ貴重なコレクションに触れられる生きたファッションミュージアム
「Archive Store」
2018年オープン。ラフ・シモンズやメゾン マルタン マルジェラ、ヘルムート ラング、コム デ ギャルソン、ヨウジヤマモト プールオム、エディ・スリマン期のディオール オムなど数々のブランドの名品を取り扱う店。現在はメンズが中心のラインナップ。ミュージアム級のものが整然と並ぶ店内では、実際に服に触れられ、試着で袖を通すこともできるのがうれしい。オンラインショップには、店長の鈴木達之さんがつづるコレクションやアイテムにまつわる記事も少しずつアップされている。服への知的探究心を満たせる場所だ。
場所:東京都渋谷区神南1-12-16 和光ビル地下1階
TEL:03-5428-3787
時間:月〜金 15時〜20時/土〜日 13時〜20時
不定休
WEB:https://archivestore.jp
Instagram:@archivestore_official