フランスの地方には、意外と知られていないステキなミュージアムがいっぱい。その土地に根づいた伝統工芸、アート、モードの魅力を発見してみて。

ジアン陶器博物館より。ジアン「ランブイエ」シリーズの野菜鉢(1955年)。狩猟の地として知られるランブイエ城のためにデザインされたもので、野生のキジが描かれている。
ロワール川沿いに広がる小さな町ジアン(Gien)。パリから南へ約150km、この町はフランスを代表するファイアンスの産地として200年以上の歴史を刻んできました。
その象徴ともいえる「ジアン陶器工房(Faïencerie de Gien)」は、1821年に創業。現在も工房が稼働し続ける一方、敷地内にはミュージアムが併設され、陶器づくりの歴史と職人技を間近に体感することができます。
19世紀から受け継がれる伝統と、現代のデザインがどのようにつながっているのか。その舞台裏を訪ねました。

陶器博物館、ファクトリーショップを併設する「ジアン陶器工房」。
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ロワール川が育んだファイアンスの町
ジアンの歴史は、イギリス人の実業家トーマス・ホールがこの地に窯を開いたことから始まります。
ロワール川沿いに、粘土や砂などの豊富な原材料があり、周辺の森林からは窯を焚くための薪が手に入ったここは、水運によって製品を各地へ運ぶこともできました。こうした恵まれた環境が、フランス有数の陶器産地を育てたのです。

ロワール川とジアン旧橋。13世紀に起源を持つ橋の向こうには、ジアン城と教会の鐘楼が並ぶ。
19世紀にはヨーロッパの王侯貴族や名家の食器を数多く手がけ、パリ万国博覧会などでも高い評価を獲得。1906年にはパリ・メトロの駅タイル、1930年代にはオリエント急行の食器も製作しました。現在では、フランス政府の国家ラベル「Entreprise du Patrimoine Vivant(EPV/無形文化財企業)」にも認定され、卓越した職人技と伝統技術を受け継ぐ企業として高く評価されています。

19世紀の陶器工房の様子が描かれたタイル(1991年)。
工房の歴史を語る博物館
2021年にリニューアルした博物館は、工房と同じ敷地内にあります。
ジアンで製造しているのは、ファイアンス焼きの陶器。その中でも、白く緻密な素地を持つ「ファイアンス・フィンヌ(faïence fine)」と呼ばれるもので、砂や粘土に加え、磁器にも用いられるカオリンを配合しています。そのため、美しい白さを備えながらも、磁器のような透明感はなく、オフホワイトがかった素朴な風合いが特徴です。


左:ジアンの代表的な陶器が並ぶ展示室。右:初期のファイアンス・フィンヌ(1825〜1839年)。
二つのフロアに広がる展示では、このジアン陶器の製造工程と絵柄をテーマ別に紹介。続いて、創業から現在までの歴史をたどります。
館内には歴代の代表作をはじめ、実際に使われてきた石膏型や制作道具、図案なども展示され、なかでも約1万点に及ぶデザインアーカイブは圧巻。19世紀のイタリア・ルネサンス様式やジャポニスムの影響を受けた装飾、植物や狩猟をモチーフにした絵柄など、時代ごとの美意識の変遷を学ぶことができます。




上左:19世紀の装飾皿。ジアンは1865年頃から家紋やイニシャル入りの特注品を展開し、貴族やブルジョワ階級に人気を博した。上右:19世紀後半には、イタリア・ファエンツァの陶芸やルネサンス美術に着想を得たデザインも。下左:アール・ヌーヴォー様式のプランター「ベルナール」(1900年)。下右:「ローズ・ド・サックス」シリーズ(1871年・1900年)。ベルギー・モダーヴ城のための特注品で、1,000点を超える食器で構成された。
アーカイブが生み出す新しいデザイン
ジアン陶器の魅力は、このように脈々と受け継がれてきた豊かなデザインにあります。館内に収蔵されるアーカイブは、単なる歴史資料ではありません。現在のデザインチームが新作を生み出す際の着想源として活用され、伝統を受け継ぎながら新たなデザインへと発展させているのです。

ジアンを代表するシリーズ「オワゾー・ド・パラディ」。1945年に誕生し、復刻や再解釈を重ねながら、現在まで受け継がれている。
近年はジャン=シャルル・ド・カステルバジャックやクロード・ブシャールなど、個性あふれるデザイナーたちとのコラボレーションも積極的に展開。200年の歴史を持つ老舗でありながら、現代のクリエイションを取り込み続けている姿勢も印象的でした。

工業デザイナー、クロード・ブシャールによるコーヒーサービスセット「タラ」(1998年)。ユニークなフォルムが、ジアンの現代デザインへの挑戦を物語っている。。
一枚の皿に宿る職人たちの技
ミュージアムを見学した後は、いよいよ工場へ。
約16,000㎡という広大な工場では、陶土づくりから成形、焼成、絵付けまで、すべての工程が一貫して行われています。

広大な工房の倉庫。
最初に案内されたのは原材料の展示。ジアンの陶土は砂、粘土、カオリンを中心に、およそ15種類もの土を独自の配合で混ぜ合わせて作られます。原材料の8割以上はフランス産で、残りもイギリス産の粘土などヨーロッパ産のみ。200年以上受け継がれてきた配合は、現在も工場内の研究所で管理されています。

原材料のストックルーム。
材料は水と混ぜられ、液状の陶土になります。それを石膏型へ流し込む鋳込み成形や、型を使った成形など、器の形状に応じて製法を使い分けています。




上:円筒状に整えた陶土。中:様々な形の石膏型。下:成形機に石膏型と陶土をセットし、皿の形にする工程。
三度の焼成を経て完成する器
成形された器は、まず約1,145℃で素焼きされ、“ビスク”と呼ばれる白く多孔質な状態になります。
その後、透明な釉薬に浸して再び焼成。さらに装飾を施したあと、三度目の焼成が行われます。ジアンの陶器は磁器よりも低い温度で焼かれ、素地に吸水性が残るため、表面をガラス質の釉薬で覆うことで水や汚れから守ります。焼成のたびに品質検査が行われ、完成するまでには、多くの職人の目による厳しい確認が重ねられます。

窯は年間を通してほぼ休むことなく稼働し、停止するのは夏の数週間だけ。

次の工程へ向けて並べられた器。



上左:型から外した取っ手を仕上げる工程。上右:取っ手を装着した水差しを乾燥させているところ。下:取っ手の見本。


左:素地に付着した粉やほこりを刷毛で取り除く職人。右:白い釉薬に浸し、表面をガラス質で覆う施釉(せゆ)の工程。この後、焼成することで、滑らかな光沢と耐水性が備わる。
機械では生み出せない、人の手のぬくもり
工房で最も興味深かったのは絵付けの工程でした。
ジアンの絵付け方法には、主にクロモリトグラフィー(転写)とハンドペイントがあります。
クロモリトグラフィーは、柄を印刷した装飾フィルムを一枚ずつ器に貼り転写する技法です。高い集中力を要する工程で、職人は模様の位置を正確に合わせながら、気泡が入らないように丁寧に密着させていきます。

クロモリトグラフィーの工程。
転写とハンドペイントを組み合わせた絵付けもあり、例えばプレステージコレクションの「ランブイエ」は、下絵を写したあとベテランの職人が筆で彩色。手仕事による繊細な色の重なりが、器に豊かな表情を与えています。


写真の絵付けをしている職人は、キャリア8年。コツは筆先を器に押し付けるのではなく、顔料をそっと置くように伸ばしていくことなのだとか。
また、多くのシリーズに欠かせない手描きのカラーラインは、器をのせた台を回転させながら、色を載せていきます。職人の手のわずかな動きが線の表情を左右するため、高い技術と長年の経験が求められます。


手描きで器の縁にカラーラインを施す工程。筆先を固定したまま器を回転させ、均一な線を引いていく。
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